没落貴族のやりすぎ異世界転生者は妹の病を治すため奔走する~しかし僕は知らなかった。どうやらこの世界はショタ好きが多いようです~

マーラッシュ

文字の大きさ
上 下
9 / 86

神獣キュアキャット

しおりを挟む
「ただいま」

 俺は逸る気持ちで自宅へと戻った。
 早く街を襲った魔物を倒したことを、Bランクの冒険者になったことをトアに話したい。
 トアは喜んでくれるだろうか? トアならきっと喜んでくれるはず。
 俺はトアの笑顔を見れることを期待して、部屋のドアを開ける。

「トア、セリカさん、ソルトさん⋯⋯」

 俺は今日あったことを報告しようとするが⋯⋯

「トアちゃんこれを飲んで!」

 部屋の中ではセリカさんが叫び声を上げ、トアは苦しそうにしていた。

「ソルトさんこれはいったい!」
「先程からトア様の容態が悪化してしまい、今セリカがポーションを飲ませているのですが⋯⋯既にトア様に飲み込む力がなく⋯⋯」

 この世界のポーションは身体の体力を戻したり、傷を治す効果がある。トアの身体はそんなに弱っていたのか。せっかくジョブを手に淹れたのにこれでは⋯⋯ 

「トア! トア! お兄ちゃんが絶対にトアの身体を良くする方法を探して見せる! だからかんばるんだ!」

 しかしトアは視線をこちらに向けるが、既にその目には力がなく、今にも閉じてしまいそうだった。

「トア! トア!」

 俺はトアに触れるため側に近寄ろうとする。

「ユート様ダメです! もしトア様がウイルスや細菌に感染してしまったら、それこそ⋯⋯」

 ソルトさんの言葉が止まる。その先の言葉は一番考えたくないことだ。

「俺は妹が苦しんでいるのに⋯⋯何も出来ないのか。トアはまだ九歳だよ⋯⋯幼い頃から外で遊ぶことも出来ず⋯⋯ずっと身体を治すために頑張ってたのに⋯⋯こんなのあんまりだ」
「ユート様⋯⋯」

 俺は絶望に打ちひしがれ、床に膝をつき俯く。
 女神様はトアを見捨てたのか!
 カードマスターなんてジョブをもらっても、結局トアの役に立たなかった。
 こんなものがあっても何も⋯⋯

「ユ、ユート様!」

 普段冷静沈着なソルトが、突然慌てたような声を出す。
 俺は何があったのか顔を上げると、そこには宙に浮いた古文書があった。

「僕は何もしてないよ」

 古文書は俺がアーカイブと口にするか、皇帝時間インペリアルタイム中にしか出てこないはず。
 何故今出てきたんだ。
 俺は古文書に目を向けると、以前と一つだけ違うことがわかった。

「表紙の数字が前回はⅠだったのにⅤになってる」

 恐る恐る古文書を開くと、最初のページの枠が五枚から六枚に変わっていた。

「もしかしてグリフォンを倒したから、レベルが上がったのかな」
「「グ、グリフォン!」」

 セリカさんとソルトさんの声が部屋に響くが、今は気にしている暇はない。
 そして二枚目のページを捲る。
 すると先日見ることが出来なかったページが開いた。
 この瞬間、突如頭の中に情報が入ってきて、俺はこの二枚目のページの意味を理解する。

「ここは常時発動型のカードを入れることができるみたいだ」

 このページにセットしたカードは常に発動状態になり、戦闘中でも通常時でも効果が現れるらしい。
 二枚目のページにある枠は一つ。
 ここにもしパワーブースターのカードをセットすれば、常に身体強化がされた状態になるというわけか。
 だけどこれは俺が今望むものではない。
 俺は再びページを捲るが、捲れる所は最後のページしかなかった。

 ここにセットされているのはパワーブースター、フォースブースター、真実の目、それと大岩⋯⋯だけのはず。しかしそこにはもう一枚のカードがセットされていた。

「もしかしてジョブレベルが上がったことで、手に入れたカードなのかな?」

 俺はそのカードを手に取り、記載されている内容を見てみる。

「これならもしかして⋯⋯神獣キュアキャットを古文書にセット!」

 俺は神獣キュアキャットを二枚目のページの枠に収めた。
 すると一匹の可愛らしい白猫がこの場に召喚される。

「そして神獣キュアキャットの効果発動! 癒しの波動により、周囲にいる者の体力や傷を治すことができる」

 トアにはもうポーションを飲む気力がない。
 この神獣キュアキャットの効果でなんとかなってくれ! 
 俺は祈る気持ちでトアへと視線を向ける。

「お兄⋯⋯ちゃん⋯⋯」

 するとトアは癒しの波動の効果があったのか、閉じそうだった目を開き、俺の名前を呼んでくれた。

「よ、良かったあ」

 俺は安堵の息をつき、その場に座り込む。

「どどど、どういうことですか! この可愛い猫ちゃんはなんですか。トアちゃんの容態が良くなっていますけど」
「もしかしてユート様が使ったカードが関係しているのですか?」
「ソルトさんの言う通りです」

 神獣キュアキャット⭐3⋯⋯効果は小さいが、召喚することで側にいる者を癒す効果がある。

 これはポーションのような物のようだ。
 効果が小さいというのは気になったけど、これならもしかしてと使ってみた。
 このカードに一縷の望みをかけてみたが、何とかなって本当に良かった。

「このカードを使うことで、トアには常に回復の効果が得られるようになったんだ」
「そんなんですか。何とかなって本当に良かったです。でもこのもふもふ猫ちゃんがいないと、トアちゃんへの回復効果が切れてしまうってことになりますよね。もうユート様は外に行くことが出来ないことに⋯⋯」

 セリカさんが現実を口にすることで、この部屋にいる者達の表情が暗くなる。

「そんなことないよ」
「本当ですか!」
「うん。これは常時発動することができるから、僕が離れてもキュアキャットはここに置いておけるよ」
「そうですか⋯⋯良かった。本当に良かったです」

 セリカさんの目から涙がこぼれ落ちる。そしてよく見るとソルトさんの目からも光るものが見えた。
 二人共本当にトアのことを心配してくれたんだな。
 俺が生まれた時から二人は仕えてくれているけど、俺にとってはセリカさんとソルトさんは家族のようなものだ。
 改めて二人がこの屋敷にいてくれることに感謝する。

「ミャーミャー」
「お前もありがとう。そしてトアのことをよろしく頼むな」
「ミャー」

 キュアキャットは返事をすると大人しくトアの側に座り、眠りについた。

「ありが⋯⋯とう⋯⋯」

 トアは声を絞りだし、キュアキャットに礼を言う。

「お兄ちゃん⋯⋯も⋯⋯ありが⋯⋯とう⋯⋯」
「必ず僕がトアの病を治してみせるから。だからもう少しだけ我慢して」
「うん⋯⋯」

 そうだ。トアの病はまだ治った訳じゃない。このまま良くなるかもしれないけど、俺には病の進行を食い止めているだけに見える。
 だからトアの身体を完全に治す方法を探すんだ。

 俺は改めて決意し、自室へと戻るのだった。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話

湯島二雨
恋愛
彼女いない歴イコール年齢、アラサー平社員の『俺』はとあるラブコメ漫画のお色気担当ヒロインにガチ恋していた。とても可愛くて優しくて巨乳の年上お姉さんだ。 しかしそのヒロインはあくまでただの『お色気要員』。扱いも悪い上にあっさりと負けヒロインになってしまい、俺は大ダメージを受ける。 その後俺はしょうもない理由で死んでしまい、そのラブコメの主人公に転生していた。 俺はこの漫画の主人公になって報われない運命のお色気担当負けヒロインを絶対に幸せにしてみせると誓った。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しております。

処理中です...