没落貴族のやりすぎ異世界転生者は妹の病を治すため奔走する~しかし僕は知らなかった。どうやらこの世界はショタ好きが多いようです~

マーラッシュ

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神獣キュアキャット

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「ただいま」

 俺は逸る気持ちで自宅へと戻った。
 早く街を襲った魔物を倒したことを、Bランクの冒険者になったことをトアに話したい。
 トアは喜んでくれるだろうか? トアならきっと喜んでくれるはず。
 俺はトアの笑顔を見れることを期待して、部屋のドアを開ける。

「トア、セリカさん、ソルトさん⋯⋯」

 俺は今日あったことを報告しようとするが⋯⋯

「トアちゃんこれを飲んで!」

 部屋の中ではセリカさんが叫び声を上げ、トアは苦しそうにしていた。

「ソルトさんこれはいったい!」
「先程からトア様の容態が悪化してしまい、今セリカがポーションを飲ませているのですが⋯⋯既にトア様に飲み込む力がなく⋯⋯」

 この世界のポーションは身体の体力を戻したり、傷を治す効果がある。トアの身体はそんなに弱っていたのか。せっかくジョブを手に淹れたのにこれでは⋯⋯ 

「トア! トア! お兄ちゃんが絶対にトアの身体を良くする方法を探して見せる! だからかんばるんだ!」

 しかしトアは視線をこちらに向けるが、既にその目には力がなく、今にも閉じてしまいそうだった。

「トア! トア!」

 俺はトアに触れるため側に近寄ろうとする。

「ユート様ダメです! もしトア様がウイルスや細菌に感染してしまったら、それこそ⋯⋯」

 ソルトさんの言葉が止まる。その先の言葉は一番考えたくないことだ。

「俺は妹が苦しんでいるのに⋯⋯何も出来ないのか。トアはまだ九歳だよ⋯⋯幼い頃から外で遊ぶことも出来ず⋯⋯ずっと身体を治すために頑張ってたのに⋯⋯こんなのあんまりだ」
「ユート様⋯⋯」

 俺は絶望に打ちひしがれ、床に膝をつき俯く。
 女神様はトアを見捨てたのか!
 カードマスターなんてジョブをもらっても、結局トアの役に立たなかった。
 こんなものがあっても何も⋯⋯

「ユ、ユート様!」

 普段冷静沈着なソルトが、突然慌てたような声を出す。
 俺は何があったのか顔を上げると、そこには宙に浮いた古文書があった。

「僕は何もしてないよ」

 古文書は俺がアーカイブと口にするか、皇帝時間インペリアルタイム中にしか出てこないはず。
 何故今出てきたんだ。
 俺は古文書に目を向けると、以前と一つだけ違うことがわかった。

「表紙の数字が前回はⅠだったのにⅤになってる」

 恐る恐る古文書を開くと、最初のページの枠が五枚から六枚に変わっていた。

「もしかしてグリフォンを倒したから、レベルが上がったのかな」
「「グ、グリフォン!」」

 セリカさんとソルトさんの声が部屋に響くが、今は気にしている暇はない。
 そして二枚目のページを捲る。
 すると先日見ることが出来なかったページが開いた。
 この瞬間、突如頭の中に情報が入ってきて、俺はこの二枚目のページの意味を理解する。

「ここは常時発動型のカードを入れることができるみたいだ」

 このページにセットしたカードは常に発動状態になり、戦闘中でも通常時でも効果が現れるらしい。
 二枚目のページにある枠は一つ。
 ここにもしパワーブースターのカードをセットすれば、常に身体強化がされた状態になるというわけか。
 だけどこれは俺が今望むものではない。
 俺は再びページを捲るが、捲れる所は最後のページしかなかった。

 ここにセットされているのはパワーブースター、フォースブースター、真実の目、それと大岩⋯⋯だけのはず。しかしそこにはもう一枚のカードがセットされていた。

「もしかしてジョブレベルが上がったことで、手に入れたカードなのかな?」

 俺はそのカードを手に取り、記載されている内容を見てみる。

「これならもしかして⋯⋯神獣キュアキャットを古文書にセット!」

 俺は神獣キュアキャットを二枚目のページの枠に収めた。
 すると一匹の可愛らしい白猫がこの場に召喚される。

「そして神獣キュアキャットの効果発動! 癒しの波動により、周囲にいる者の体力や傷を治すことができる」

 トアにはもうポーションを飲む気力がない。
 この神獣キュアキャットの効果でなんとかなってくれ! 
 俺は祈る気持ちでトアへと視線を向ける。

「お兄⋯⋯ちゃん⋯⋯」

 するとトアは癒しの波動の効果があったのか、閉じそうだった目を開き、俺の名前を呼んでくれた。

「よ、良かったあ」

 俺は安堵の息をつき、その場に座り込む。

「どどど、どういうことですか! この可愛い猫ちゃんはなんですか。トアちゃんの容態が良くなっていますけど」
「もしかしてユート様が使ったカードが関係しているのですか?」
「ソルトさんの言う通りです」

 神獣キュアキャット⭐3⋯⋯効果は小さいが、召喚することで側にいる者を癒す効果がある。

 これはポーションのような物のようだ。
 効果が小さいというのは気になったけど、これならもしかしてと使ってみた。
 このカードに一縷の望みをかけてみたが、何とかなって本当に良かった。

「このカードを使うことで、トアには常に回復の効果が得られるようになったんだ」
「そんなんですか。何とかなって本当に良かったです。でもこのもふもふ猫ちゃんがいないと、トアちゃんへの回復効果が切れてしまうってことになりますよね。もうユート様は外に行くことが出来ないことに⋯⋯」

 セリカさんが現実を口にすることで、この部屋にいる者達の表情が暗くなる。

「そんなことないよ」
「本当ですか!」
「うん。これは常時発動することができるから、僕が離れてもキュアキャットはここに置いておけるよ」
「そうですか⋯⋯良かった。本当に良かったです」

 セリカさんの目から涙がこぼれ落ちる。そしてよく見るとソルトさんの目からも光るものが見えた。
 二人共本当にトアのことを心配してくれたんだな。
 俺が生まれた時から二人は仕えてくれているけど、俺にとってはセリカさんとソルトさんは家族のようなものだ。
 改めて二人がこの屋敷にいてくれることに感謝する。

「ミャーミャー」
「お前もありがとう。そしてトアのことをよろしく頼むな」
「ミャー」

 キュアキャットは返事をすると大人しくトアの側に座り、眠りについた。

「ありが⋯⋯とう⋯⋯」

 トアは声を絞りだし、キュアキャットに礼を言う。

「お兄ちゃん⋯⋯も⋯⋯ありが⋯⋯とう⋯⋯」
「必ず僕がトアの病を治してみせるから。だからもう少しだけ我慢して」
「うん⋯⋯」

 そうだ。トアの病はまだ治った訳じゃない。このまま良くなるかもしれないけど、俺には病の進行を食い止めているだけに見える。
 だからトアの身体を完全に治す方法を探すんだ。

 俺は改めて決意し、自室へと戻るのだった。


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