上 下
6 / 86

カードマスターの力

しおりを挟む
「パワーブースター!」

 俺がカードを手に取り宣言すると、自分の身体能力が劇的に上がったのがわかった。

「これは予想以上だな」

 俺は今まで感じたことのない風圧を受けながら、疾風のように駆け走る。

「ちくしょう⋯⋯もうダメか」

 だけどカードの能力に浮かれている暇はない。ドイズはハーピーの攻撃で剣を失い、地面に膝をついている。
 このままだとどうなるか想像に容易い。

 だが魔物の思い通りにはさせないぞ。

 俺は背後から二匹のハーピーを剣で切り裂く。
 するとハーピーは頭から真っ二つに身体が分かれ、地面に落ちる。

「なっ!」

 ドイズが驚きの声をあげた。
 だがその気持ちはわかる。自分が苦戦していた魔物が一瞬で消えてなくなったのだ。

「お、お前は⋯⋯没落貴族!」

 この後に及んでこいつは⋯⋯
 一瞬俺の中で見捨てるという選択肢が浮かんできた。

「い、今のはお前が倒したのか?」

 俺は頷く。

「ありがとう。まじで助かった」

 なんだ。ちゃんと礼を言うことは出来るのか。それなら助けてやってもいい。

「後は僕がやるから君達は東側に逃げて」
「お前一人で? それは無茶だ! あのデカイ化物が見えないのか?」

 ドイズがいうデカイ化物はグリフォンのことだろう。
 グリフォンはハーピーが殺られたというのに、変わらずこちらの様子を窺っていた。
 だがそれはこちらにとっては好都合だ。今のうちにハーピーを倒す。
 だからここでドイズと問答している暇はない。

「不遇職のお前に何が出来る。俺も戦う」
「その怪我で? 僕は君が苦戦したハーピーを二匹倒している。それに君にとって一番大切なことはなに?」
「そ、それは⋯⋯」

 俺の言葉にドイズはネネちゃんに視線を向ける。
 誰も頼る人がいない状況ならわかるが、今は生き残る方法を取るのが最善だ。
 命を失ったら何もならないからな。

「くっ! 屈辱だがここは任せていいのか」
「もちろん。君はネネちゃんとおじいさんを連れて東側に逃げて下さい」
「わかった。じいさんもいいか!」
「わ、わかった」

 幸いなことにハーピーは仲間が殺られて戸惑っているのか、こちらに攻撃をして来なかった。
 俺は剣をハーピーに向けて、三人が退避出来るよう牽制する。

「ユートくん⋯⋯ありがとう」

 ネネちゃんの声が聞こえた後、程なくして背後から三人の気配が消えた。
 さて、後はこの魔物達を倒すだけだ。
 それにしてもハーピーは何故攻撃をして来なかったのだろう。
 その答えはすぐにわかった。
 手元をよく見るとハーピーは震えていた。
 おそらく仲間が瞬時に殺され、俺に恐れをなしているのだろう。

 俺は一歩前に出ると、二匹のハーピーは飛び上がり西側へと逃げていく。

「命拾いしたな」

 あのまま向かってきたら、叩き斬る自信はあった。
 本能で悟ったのかわからないけど、逃げたのは正解だと思う。
 しかし未だに逃げない魔物もいる。
 それは先程からこちらの様子を窺っているグリフォンだ。
 これだけ大きな魔物は今まで見たことがない。
 確か冒険者ギルドでは、Bランクのパーティーでやっと倒せるレベルの魔物だと聞いたことがある。
 だがパワーブースターで強化された俺なら、倒せない相手ではないはず。

 俺はグリフォンに向かって殺気を放つ。
 するとグリフォンは翼を使って、ゆっくりと上空へ飛び上がり始めた。

「逃げるのか?」

 しかし俺の予想とは違い、グリフォンは上空五メートル付近でホバリングをしていた。
 何だ? 何をするつもりだ?

 俺はグリフォンの動きを警戒し、身構える。
 するとグリフォンは口を大きく開けてきた。

「まさか俺を食うつもりなのか? だが近づいた時がお前の最後。先程のハーピーのように、真っ二つに切り裂いてやる」 

 パワーブースターの恩恵が大きいため、どんな攻撃が来ようと、降りてくれば倒せる自信があった。
 しかしグリフォンは、俺の予想に反した行動を取ってくる。
 大きく開けた口から炎を放ってきたのだ。

「くっ!」

 俺は向かってきた炎をひらりとかわす。
 だがグリフォンは次々と炎を放ってきたため、防戦一方になってしまう。

「厄介なことを」

 パワーブースターで力や素早さが増しているから、ジャンプして届かない距離ではない。だけど宙に浮いている最中は無防備なため、軽々しく行動に移ることは出来ない。
 そしてそれがわかっているから、グリフォンは宙に浮いたまま俺に攻撃を仕掛けて来ているのだ。

 グリフォンの炎は家屋を焼き払い、ドイズが持っていた鉄の槍を容易に溶かしている。

「これは一撃でも食らえば、俺もただじゃ済まないな」
「キェェッ!」

 グリフォンは、一方的に攻撃することが出来て気分がいいのか、けたたましい声で雄叫びを上げる。

 俺が魔法の一つでも使えれば、グリフォンを宙から叩き落としてやるのに。だけど残念ながら俺は魔法は使えない。
 だけど俺にはカードマスターのジョブがある。
 調子に乗っているグリフォンに、目に物を見せてやる。

 俺は古文書から一枚のカードを引く。
 そしてそのカードをグリフォンの上空へと、投げるのであった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

処理中です...