単純に婚約破棄されました~でも王子殿下が救済してくれました~

安奈

文字の大きさ
上 下
8 / 11

8話 サルデリア家へ向かう公爵 (デミル公爵視点)

しおりを挟む

「言っておくけど、私は将校オフィシエ57人から推薦されて、将校オフィシエになったからね」

「「なっ!57人!!」」

 まぁ、驚くことも仕方がない。普通はそのようなことは無いらしいから。

「おい、何をした!俺たちですら、2ヶ月かかってやっと騎士シュヴァリエになったんだぞ!」

「ゼクトデュナミス。ここで騒ぐのはよくない」

 そうだね。ザインの言うとおりだ。ザインは何かと突っ走るゼクトの諌め役だ。恐らく神父様がゼクトを一人にしておくと問題を起こそうとするので、ザインをつけたのだろう。

「だが、あの弱いアンジュだぞ!訓練もサボって最低限しか参加しなかったアンジュだぞ」

 あ、それはバイトしていたから朝の聖水の作成作業と教会の清掃以外の訓練の免除を神父様から許可をもぎ取っていたし、どうしても出ろと言われた時の戦闘訓練は面倒だから手を抜いていたからね。

「リュミエール神父に色目使っていたアンジュだぞ」

「恐ろしいこと言わないでもらえる?」

 なぜ、私が神父様に色目を使わなければならないのか。当たり障りなく接することに苦心しても、決して媚を売った覚えはない!

「だったらなんで、リュミエール神父の部屋によく出入りしていたんだ!」

「それはお説教と反省文という名の経済学の論文を書かされていたから」

「リュミエール神父とよく出掛けていたよな!」

「ボードゲームで神父様に勝てばケーキを奢ってくれるという報奨物のため」

 ん?今思えば、何かと神父様に課題を出されていたな。

 ゼクトは私が将校オフィシエになることが気にいらないらしい。いつもながら、よくわからないことで、突っかかってくる。私が決めたことじゃないのに、ここで騒がないでほしい。

「ねぇ。これ以上騒ぐと、神父様に説教してもらうよ。ここに神父様が来ているからね」

 すると、ゼクトはピタリと文句を言うのを止め、ザインのところまで戻っていき私に背を向けた。
 やはり、神父様が怖いのは皆同じらしい。だけど、私を後ろ目で睨んでくることに変わりはなかった。


 その時、この聖堂の鐘が鳴り響いた。音楽でもかなでるように音階が違う鐘が鳴り響く。聖典に書かれている聖女の祈りの一節の音階だ。儀式が始まるのだろう。

「ザインメディル・フラヴァール!」

 ザインの名が一番初めに呼ばれた。
 一人一人名を呼ばれ、聖女の石像に誓いの言葉を言うだけの儀式だ。

 普通の騎士団なら王から剣を承り、剣を捧げる儀式もするそうだが、いない人物が騎士に向けて剣を掲げるわけにはいかないので、言葉だけを捧げるだけだ。

「ゼクトデュナミス・エヴォリュシオン!」

 5分ぐらいの間隔を開けてゼクトの名が呼ばれた。
 何度かゼクトの名を聞いたことがあるけど、いつもながら全く聞き取れない。私の病気は成長しても治ることはなかった。

「アンジュ!」

 なんだか家名がないと味気ないな。そう思いながら、金の装飾がされた扉の前に行き、祭壇側から開けられた扉をくぐって、進んでいく。そこは、人、人、人に埋め尽くされた空間だった。その視線が一斉に突き刺さる。そして、ざわざわとざわめきが沸き起こる。

 聖女至上主義の狂信者共め。黙っていろ。全身を嘗めるような気持ち悪い視線を向けてくるな。

 私は祭壇の中央上部に設置してある。手を組んで天を見上げている女性の像の前に立つ。どこの聖女像も同じ姿をしている。決して剣を捧げる騎士を見ることはない。

 その前に跪く。そして、飾りである腰の剣を抜き、目の前に掲げ、左手を剣身に添える。息を吸い、決まりきった文言を言う。

「我が剣は魔を払い。我が盾は闇を払い。我が身は天使の聖痕を化現されし、聖なる者を命をかけて守らん」

 心にもないことを誓わされるつまらない儀式だ。そして、私の名を呼んだ同じ声で階級の授与の言葉が示される。

「この者に将校オフィシエの階級を与える」

 この言葉に合わせて拍手がされ、私は立ち上がり、踵を返して狂信者共がいる方に向けて一礼する。

 これで終わり。顔を上げると私の正面上段から見下ろす白い王と視線が合った。ああ、彼の周りのモノたちは聖堂の中でも顕在なのか。

「この場を借りて皆に報告がある」

 いつの間にか私の隣にはルディが立っていた。え?気配を感じなかったのだけど?

「私、シュレイン・ルディウス・レイグラーシアとアンジュは一年後に婚姻することとなった。これは国王陛下に許可をいただいた婚姻だ」

 ザワザワとざわめきが大きくなる。所々から『あの虐殺の王弟が』とか『死神が』とか聞こえてくる。ルディの痛い二つ名は貴族の間でも有名なようだ。

「王家に白銀の色を入れる婚姻だ。この場では婚約をしたという報告をさせてもらう」

 ん?その言い方だと悪いように捉えられないだろうか。私の疑問は拍手の海にかき消されてしまった。


 私はルディに手を引かれ、祭壇前から連れ出された。待ち時間が長いわりには、誓いの儀式は直ぐに終わってしまった。まぁ、長々と説法を解かれても耳から耳へ通り抜けていくだけだから、これで良かったと思おう。

 無言で長い廊下を歩いていると、私とルディの行く道を遮る者がいた。ゼクトなんたらかんたらだ。

「おい!やっぱり卑怯な方法で将校オフィシエになってるじゃないか!」

 何をいきなり言い出すのか。私は呆れた目をしてゼクトを見たのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

【完結】私のことが大好きな婚約者さま

咲雪
恋愛
 私は、リアーナ・ムスカ侯爵令嬢。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの? ・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。 ・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。 ※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。 ※ご都合展開ありです。

処理中です...