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2話 屋敷にて その1
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悔しい……そして、とても悲しかった。私は屋敷に入ると、お父様やお母様、お姉さまの顔も見ずして、自らの部屋に閉じこもってしまった。
私のせいで賠償金すら無くなってしまった……いえ、元々、デミル公爵がお父様の要求に従って、素直に支払っていたかは微妙だけれど。あの様子だとむしろ、素直に支払う可能性の方が低いでしょうね……。
「はあ、憂鬱だわ……」
私はメイドが綺麗にしてくれているベッドに寝転がって枕に顔を埋めた。今はなにもやる気が起きない……お父様たちや姉さまにも顔を会わせたくはない……なんて言えばいいのかわからないから。でも、ずっと黙っているわけではいかない。私がデミル・ウィリー公爵と婚約破棄になったことは、絶対に知られてしまうことだから……。
それならせめて、自分の口から言った方が断然良い。
「ユリアーナ、帰っているのでしょう?」
「シヴィル姉さま……!?」
そんな時、私の部屋をノックする音が聞こえてきた。私の屋敷に戻ったことに気付いた、シヴィル姉さまが部屋を訪ねて来たのね。
どうしよう……普段なら大好きな姉さまの顔は、一刻も早く見たいのだけど、今回は違った。私の恥部を知られてしまう……その恐怖が、シヴィル姉さまと会うのを、無意識の内に拒絶したのだ。
「ユリアーナ……入ってもいいかしら?」
「姉さま……?」
返事をしない私の様子が変なことに、姉さまは気付いたのかもしれない。とても聡明で洞察力に優れる、私の自慢の姉さまだから、それくらいの芸当をしても、特に驚かない。普段の姉さまなら、ノックの後には気兼ねなく入って来るけれど……今はそれがない。私の返答を待っている。
私はそれがたまらなく嬉しかった。シヴィル姉さまなりの気遣い……いえ、姉さまからすれば、そこまでのものではないのかもしれないけれど、婚約破棄をされた直後の私には再び涙が流れるくらいの感動だった。
-------------------------------------------------
私はその後、シヴィル姉さまを私室に迎え入れた。普段はメイドが行っているけれど、今は人払いをさせていたので、自分で二人分の紅茶を用意して。
「姉さま、紅茶になります。メイドが煎じて淹れてくれた物よりは、味が落ちてしまうかもしれませんが」
そう、私達貴族は、身の回りのことを誰かにやってもらうことに慣れている。それは、私だって例外ではない。婚約破棄をされ、自分を完全否定された直後だと、そういう些細な事柄が情けなく感じてしまう。
「ふふ、心配の必要はないわ、ユリアーナ。とても美味しいわよ」
「そうですか、安心しました」
確実に普段のメイドが淹れてくれる紅茶に比べると、味は落ちるはずだけど……いけない、ここでも私は、シヴィル姉さまに気を遣わせてしまったみたい。
紅茶を少しだけ飲むと、姉さまは私の目をじっと見つめていた。姉さまは全てを知っているのではないか……そう、確信できる程に強い瞳だった。
「デミル・ウィリー公爵に呼ばれていることは知っているわ。何があったのか、良ければ話してくれない?」
「シヴィル姉さま……それは……」
「大丈夫よ、あなたの意志を覆すつもりはないから。私はただお願いしているだけ」
とても優しい姉さまの言葉……決して、私に強要せずに、待ってくれている。おそらくは聡明な姉さまのことだから、何が起きたのかは、想像できていると思うけど。
いずれは、話さないといけないことは分かっている……ここで、姉さまに隠すのは意味がない。私はそう考えると、デミル公爵の元で起こった出来事を全て話すことにした……。
私のせいで賠償金すら無くなってしまった……いえ、元々、デミル公爵がお父様の要求に従って、素直に支払っていたかは微妙だけれど。あの様子だとむしろ、素直に支払う可能性の方が低いでしょうね……。
「はあ、憂鬱だわ……」
私はメイドが綺麗にしてくれているベッドに寝転がって枕に顔を埋めた。今はなにもやる気が起きない……お父様たちや姉さまにも顔を会わせたくはない……なんて言えばいいのかわからないから。でも、ずっと黙っているわけではいかない。私がデミル・ウィリー公爵と婚約破棄になったことは、絶対に知られてしまうことだから……。
それならせめて、自分の口から言った方が断然良い。
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「姉さま……?」
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私はそれがたまらなく嬉しかった。シヴィル姉さまなりの気遣い……いえ、姉さまからすれば、そこまでのものではないのかもしれないけれど、婚約破棄をされた直後の私には再び涙が流れるくらいの感動だった。
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「姉さま、紅茶になります。メイドが煎じて淹れてくれた物よりは、味が落ちてしまうかもしれませんが」
そう、私達貴族は、身の回りのことを誰かにやってもらうことに慣れている。それは、私だって例外ではない。婚約破棄をされ、自分を完全否定された直後だと、そういう些細な事柄が情けなく感じてしまう。
「ふふ、心配の必要はないわ、ユリアーナ。とても美味しいわよ」
「そうですか、安心しました」
確実に普段のメイドが淹れてくれる紅茶に比べると、味は落ちるはずだけど……いけない、ここでも私は、シヴィル姉さまに気を遣わせてしまったみたい。
紅茶を少しだけ飲むと、姉さまは私の目をじっと見つめていた。姉さまは全てを知っているのではないか……そう、確信できる程に強い瞳だった。
「デミル・ウィリー公爵に呼ばれていることは知っているわ。何があったのか、良ければ話してくれない?」
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「大丈夫よ、あなたの意志を覆すつもりはないから。私はただお願いしているだけ」
とても優しい姉さまの言葉……決して、私に強要せずに、待ってくれている。おそらくは聡明な姉さまのことだから、何が起きたのかは、想像できていると思うけど。
いずれは、話さないといけないことは分かっている……ここで、姉さまに隠すのは意味がない。私はそう考えると、デミル公爵の元で起こった出来事を全て話すことにした……。
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