上 下
9 / 10

9話 ラーデュイとの散歩 その2

しおりを挟む
「こ、今後も、このような関係をですか……?」

「ああ、その通りだ」


 いきなりのラーデュイ様からの発言に、私はどう答えたらいいのかわからなかった。公爵様からの誘いの言葉でもある……本来であれば、すぐにOKを出したいところだけれど。ラーデュイ様の表情はそういう階級のしがらみを無視してほしいという感情が込められているように見えた。


「もちろん、回答を急ぐつもりなど毛頭ない。今は、セリナ嬢の胸の内に留めていてくれれば嬉しい。ただ、否定を考えているのなら……出来れば聞いておきたい。貴殿に迷惑を掛けるのは、本意ではないのでな」


 ラーデュイ様は本心で気遣ってくれている。それは間違いないと、私の本能も告げていた。ラーデュイ様のお言葉の真相はどういうものだろう? 私に対しての気遣い、一目惚れ……婚約破棄を言われたばかりの私には、その真相まで辿り着くのは到底不可能だった。

 そうなれば、私の答えは一つしかない。


「保留……と、いうことでもよろしいでしょうか?」


「否定ではない、か……ああ、私としては十分だよ。ありがとう」


「いえ……とんでもないことでございます、ラーデュイ様。しかし……私程度の者が、このようなことを申し上げて、本当によろしいのでしょうか?」


 私程度、と言えば語弊があるかもしれないけれど、私は伯爵令嬢でしかない。公爵であるラーデュイ様に気に入られるとなれば、少し物足りない家系だ。それを承知でラーデュイ様がおっしゃっているのだとすれば、それは……。


「当たり前だろう? 確かに、我がケネス家は王国内でも古豪であり、影響力の強い家系だ。パイプラインという意味合いで、貴殿の家系と親密になる意味合いは薄いと言えるだろう」


「はい」


 ラーデュイ様は事実を話しているだけ。確かに公爵様が、一介の伯爵令嬢と恋仲になるなんてことは……ほとんどないと思うけど。


「この出会いは運命ではないかと思っている。セリナ……貴殿との仲を今後とも深めて行ければと思うよ」

「は、はい……ありがとうございます、ラーデュイ様……」


 う、うわ……顔が真っ赤になってしまって、まともにラーデュイ様に視線を合わせられない……。シャルカは窓からイタズラ小僧のような表情で私を見ていた……。も、もう! いい加減にしてよね!


 私は顔を赤くしながら、ラーデュイ様に感謝する以外にはなかった。この感情はどのように持って行けばいいのかしら……? アルトファ様に婚約破棄をされたばかりなのに……私はこの時、まともな思考を巡らせることは出来ないでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

婚約破棄されました。あとは知りません

天羽 尤
恋愛
聖ラクレット皇国は1000年の建国の時を迎えていた。 皇国はユーロ教という宗教を国教としており、ユーロ教は魔力含有量を特に秀でた者を巫女として、唯一神であるユーロの従者として大切に扱っていた。 聖ラクレット王国 第一子 クズレットは婚約発表の席でとんでもない事を告げたのだった。 「ラクレット王国 王太子 クズレットの名の下に 巫女:アコク レイン を国外追放とし、婚約を破棄する」 その時… ---------------------- 初めての婚約破棄ざまぁものです。 --------------------------- お気に入り登録200突破ありがとうございます。 ------------------------------- 【著作者:天羽尤】【無断転載禁止】【以下のサイトでのみ掲載を認めます。これ以外は無断転載です〔小説家になろう/カクヨム/アルファポリス/マグネット〕】

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

処理中です...