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8話 ピエトロ宮殿 その2

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 ユリカお姉さまは先に、ピエトロ宮殿に出かけられた。私は準備は済ませていたけれど、流石に同時に出ていくわけにはいかないので、少しだけ時間をずらすことにした。


「はあ~~、カンザスとも出会うかもしれないのよね……」


 お姉さまに会うのは仕方ないとしても、元婚約者と会わなければならないとか……流石に気まず過ぎる。玄関先で黄昏れている私を見たお母さまが声を掛けて来た。


「あらあら、マリア。どうかしたの? カンザス令息との婚約破棄を悔やんでいるのかしら?」

「いえ、お母さま……決してそういうわけでは……」


「無理をする必要はないわよ? まさか、ユリカが奪う結末になるとは思わなかったけれど……姉妹同士で争うのは、将来に活きて来ると思うわ。今は厳しいかもしれないけれど、乗り越えなさい」


「は、はい、お母さま……」


 お母さまはユリカお姉さまにも必要以上の叱責をしなかった。それはお父様も同じだけれど。お母さまは、テオドア家の将来を見据えつつ話しているのだと思う。私もお姉さまも平等に評価をしているというか……しっかりとした人間に育つことを願っているというか……。


 私のことも可愛がってくれているけれど、ユリカお姉さまの行為は相当行き過ぎていると思うんだけれど……。その件について、お母さまと話したいけれど、今日は時間がない。私はすぐに御者の待機している馬車に乗ることにした。


「お母さま、私も今日は遅くなるかもしれませんので……」

「一体、どちらへ向かうの? そういえば、聞いていなかったけれど……」

「えへへ。ピエトロ宮殿です」

「……えっ?」


 今まで隠していたけれど、ここに来て、お母さまにカミングアウトをしてみせる。お母さまの放心したような表情を見れて気持ちよかった。帰って来たら色々と聞かれるだろうけど、それも楽しみだわ。



----------------------------------------



 ピエトロ宮殿は、アールド王国の首都、カバネリの最北端に位置している。貴族街からも離れており、北から攻められると危険な立地をしているんだけれど、ピエトロ宮殿の北は広大な海だから大丈夫らしい。

 つまり、ピエトロ宮殿からは美しい海が見放題というわけ。貴族街も丘の上に建てるとか工夫してほしかったとは思う。


「マリア様、ピエトロ宮殿が見えてまいりました」

「あれが……」


 ステンドグラスが美しい様式を誇るピエトロ宮殿……あそこにヨハン国王陛下がいらっしゃるのね。それから正室にあらせられるマリアンヌ様も……。あ、ラウド大臣も居るのよね……また、運が良いって言ってくれるのかしら?


 私はヨハン様にお会いできるのがとても楽しみになっていた。この胸の高鳴りは、それだけではなさそうだけれど……。
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