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7話 忘れられない その1
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(イービス視点)
「やはり……これは……」
「イービス? どうかしたの?」
「ああ、パメラ……なんでもないよ」
「そう、なら良いんだけれど……なんだか、思い詰めているように見えたから」
私は現在、新しい婚約者のパメラと一緒に居た。新しい婚約者といっても、まだ、正式に婚約をしているわけではない。アテナとのことがまだ、完了していないからだ。彼女との縁談が破断になって1か月近くが経過していたが、まだ事後処理が完璧には終わっていなかった。
今はまだ、婚約候補の可愛い幼馴染といったところか。そう、彼女は私にとって、本当に勿体ないレベルの女性なのだ。
「色々あったわね、この1か月の間に……私もあなたから話を聞いて本当に驚いたわ」
「ああ……」
彼女は嬉しそうに私にもたれかかっている。彼女に掛けられているのであろう香水の匂いが本当に心地よかった。以前から嗅いだことのある匂いで私を癒してくれるものだ。
「アテナ様には本当に申し訳ないことをしてしまったわね……」
「そ、そうだな……本当に申し訳ないことをしてしまった。この罪は決してなくなることはないだろう、慰謝料を支払ったとしてもな……対外的にも、私の心の中にも残っていくものだと確信している」
「イービス……そんなに自分を思い詰めないで。あなたが悪いわけじゃないもの。悪いのはおそらく私の方よ」
パメラは自分が悪いのだとして、この数日思い悩んでいるようだった。
「違う……それだけは絶対に違うパメラ。例え、誰に責められたとしても、パメラが悪いということは絶対にないさ
そうだ……私はまだ彼女を抱いてはいない。彼女の誘惑に溺れたといった、そういう話では決してないのだ。そう……決して。
「君が悪いわけじゃない……悪いのは私だ。確実に私が悪なのだ」
「イービス……婚約破棄自体はそこまで珍しいものではないわ。何をそんなに思い詰めているの?」
パメラは不思議そうに私を見ている。ここは話さないと駄目だろう……決して許されない私の内心を。こんな酷い考えを持っている私の内心を……。パメラは大切な幼馴染だ、嘘を吐くことだけはしたくなかった。
「私は……パメラ」
「どうしたの? イービス?」
「君と……婚約は出来ない」
「イービス……それって……」
私はいつの間にか歯を食いしばっていた。これは自分に対する怒りだろう……本当ならこのまま舌を噛みちぎってしまいたいくらいだったが、そんな勇気は私は持ち合わせてはいなかった。私はこれから、最低の最低を上回る言葉を口にすることになる。
「私は……やはり、アテナのことが好きだ……!」
彼女にあんな酷い別れを言ってから気付いてしまった……私はあの晩、涙が止まらなかったのだから。この1か月程の期間を経て、アテナへの想いを再確認させられてしまったというわけだ……。
私が言った言葉は最悪にもほどがあるだろう……二人の大切な女性をあまりにも侮辱してしまった。
だが……パメラは笑っている……? 目からは涙が溢れているようだが。
「信じられないくらい最低……最低よ、イービス」
「ああ……済まない……」
いや、笑っていたのは気のせいだったようだ。パメラはやはり泣いていた。私を「最低」と罵りながら。私はそれを受け入れなければならないだろう。
「でも、それがあなたの……偽りのない本心なのだとしたら、それを責めるつもりはないわ。私はそんな最低なところも全て愛してしまっているから……」
「パメラ……ありがとう……!」
彼女を抱きしめる資格などあるはずはない。それどころか、近づく権利すら今の私は喪失しているだろう。ならば出来ることはただ1つだけだ。
私はパメラから離れ一人、歩き出した。彼女に……アテナに自らの本当の想いを告げる為に。
「やはり……これは……」
「イービス? どうかしたの?」
「ああ、パメラ……なんでもないよ」
「そう、なら良いんだけれど……なんだか、思い詰めているように見えたから」
私は現在、新しい婚約者のパメラと一緒に居た。新しい婚約者といっても、まだ、正式に婚約をしているわけではない。アテナとのことがまだ、完了していないからだ。彼女との縁談が破断になって1か月近くが経過していたが、まだ事後処理が完璧には終わっていなかった。
今はまだ、婚約候補の可愛い幼馴染といったところか。そう、彼女は私にとって、本当に勿体ないレベルの女性なのだ。
「色々あったわね、この1か月の間に……私もあなたから話を聞いて本当に驚いたわ」
「ああ……」
彼女は嬉しそうに私にもたれかかっている。彼女に掛けられているのであろう香水の匂いが本当に心地よかった。以前から嗅いだことのある匂いで私を癒してくれるものだ。
「アテナ様には本当に申し訳ないことをしてしまったわね……」
「そ、そうだな……本当に申し訳ないことをしてしまった。この罪は決してなくなることはないだろう、慰謝料を支払ったとしてもな……対外的にも、私の心の中にも残っていくものだと確信している」
「イービス……そんなに自分を思い詰めないで。あなたが悪いわけじゃないもの。悪いのはおそらく私の方よ」
パメラは自分が悪いのだとして、この数日思い悩んでいるようだった。
「違う……それだけは絶対に違うパメラ。例え、誰に責められたとしても、パメラが悪いということは絶対にないさ
そうだ……私はまだ彼女を抱いてはいない。彼女の誘惑に溺れたといった、そういう話では決してないのだ。そう……決して。
「君が悪いわけじゃない……悪いのは私だ。確実に私が悪なのだ」
「イービス……婚約破棄自体はそこまで珍しいものではないわ。何をそんなに思い詰めているの?」
パメラは不思議そうに私を見ている。ここは話さないと駄目だろう……決して許されない私の内心を。こんな酷い考えを持っている私の内心を……。パメラは大切な幼馴染だ、嘘を吐くことだけはしたくなかった。
「私は……パメラ」
「どうしたの? イービス?」
「君と……婚約は出来ない」
「イービス……それって……」
私はいつの間にか歯を食いしばっていた。これは自分に対する怒りだろう……本当ならこのまま舌を噛みちぎってしまいたいくらいだったが、そんな勇気は私は持ち合わせてはいなかった。私はこれから、最低の最低を上回る言葉を口にすることになる。
「私は……やはり、アテナのことが好きだ……!」
彼女にあんな酷い別れを言ってから気付いてしまった……私はあの晩、涙が止まらなかったのだから。この1か月程の期間を経て、アテナへの想いを再確認させられてしまったというわけだ……。
私が言った言葉は最悪にもほどがあるだろう……二人の大切な女性をあまりにも侮辱してしまった。
だが……パメラは笑っている……? 目からは涙が溢れているようだが。
「信じられないくらい最低……最低よ、イービス」
「ああ……済まない……」
いや、笑っていたのは気のせいだったようだ。パメラはやはり泣いていた。私を「最低」と罵りながら。私はそれを受け入れなければならないだろう。
「でも、それがあなたの……偽りのない本心なのだとしたら、それを責めるつもりはないわ。私はそんな最低なところも全て愛してしまっているから……」
「パメラ……ありがとう……!」
彼女を抱きしめる資格などあるはずはない。それどころか、近づく権利すら今の私は喪失しているだろう。ならば出来ることはただ1つだけだ。
私はパメラから離れ一人、歩き出した。彼女に……アテナに自らの本当の想いを告げる為に。
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