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3話 癒しの家族 その2

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「お、お姉さま! お姉さま~~~~!!」


 お父様の私室に入ってくるなり、リーリャは泣き叫びながら私に抱き着いてきた。いえ、とても嬉しいのだけれど……別にリーリャが泣く事態ではないと思う。いえ、感受性の強い彼女からすれば仕方ないのかもしれないけれど……まだ14歳だしね。


 それに、私の身に起きたことについてここまで悲しんでくれるのは素直に嬉しいと言える。逆に考えれば、大切な妹であるリーリャを悲しませてしまって申し訳ないのだけれど……。


「ごめんね、リーリャ……悲しませてしまって。私は……自分の不甲斐なさで婚約を破棄されてしまったのよ」

「ち、違いますよお姉さま! お姉さまが間違ってるなんてあり得ないです! これはきっと、相手方が悪いに決まってます!」

「あっ、そ、それは……」


 リーリャはまだ14歳で婚約者なども居ないのだけれど、妙に勘の鋭いところがあった。貴族としての立場を強調する場であるはずのパーティーでも彼女は人気者だったから。なんというか……リーリャは貴族としての才能があるのだと思える。貴族としての才能、という言葉自体がおかしなものだとは思うけれど……とにかく才能があるのだ。


「リーリャ……イービス・ラウドネス侯爵様はとても後悔しているようだったわ。幼馴染であるパメラ様のことが好きになってしまったと私におっしゃった時も非常に、後悔しているような表情だった。私はとても彼を責めることが出来なかったわ……」

「そんな……! それは結局のところ、ラウドネス侯爵の我が儘ではありませんか! 幼馴染を好きになったから婚約を破棄してくれって……そんなの勝手過ぎます!!」

「リーリャ……」

「うむ、まあ確かにその通りなのだがな……」


 リーリャの言っていることは間違っていない。むしろ完全な正論とも言えるだろう。お父様も彼女の意見には納得しているようだった。私も本音では二人の意見に賛同はしたいと思っている……でも、イービス様のあの謝罪の表情を思い出してしまうと、どうしても……。

 私も本音では悲しみに任せて泣き叫びたいのだ……でも、イービス様の気持ちが分からないわけでもない。私は非常に厳しいところに放り出されていた。

「イービス様は慰謝料などについても、私達の言い値で支払うと言ってくれました。その部分の誠意については、信じても良いと思っております」

「なるほど、そうだったか……。確かに、婚約破棄は貴族の間では時々、行われることではあるからな。正当な慰謝料を支払うというのであれば、それ以上は責められないか」

「そ、そんな……! それではお姉さまがあまりにも……!」

「リーリャ、そこまでにしておいて。あなたの気持ちはとても嬉しいけれど……これが大人の対応というものよ」

「そんな……アテナお姉さま……」


 私は苦渋の決断だったけれど、リーリャを黙らせる決断を下してしまった。私は家族に非常に恵まれている、そんな想いも抱きながら。大丈夫……今回の婚約は上手くいかなかったけれど、きっと私にも運命の人が現れるわ。そうやって前向きに生きて行こう。

 お父様と妹のリーリャの優しさを感じ、私は元気を取り戻していた。
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