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1話 婚約破棄の理由は幼馴染
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「アテナ……申し訳ないが、私との婚約はなかったことにしてもらいたいのだ……」
「イービス様、そ、そんな……そんなことって、あんまりです……」
私は婚約関係にあったイービス・ラウドネス侯爵様に呼び出されており、彼の私室にて婚約破棄を言い渡されていた。あまりの言葉に取り乱してしまっている。
私はアテナ・メンフィス伯爵令嬢。年齢は17歳になる。イービス様との婚約は4か月くらい前に決まったことだけれど、お父様やお母様はとても喜んでいた。侯爵家系と伯爵家系の婚約ということもあり、立場的にも矛盾しないと言えるだろう。
イービス様はお父様やお母様だけでなく、私の目から見ても尊敬に値するお方だった。24歳という若さで侯爵家を継いだだけあり、精神面でもしっかりとなさっている。まだ17歳の私は何度もイービス様に助けてもらった。この4か月を見ても何度彼のお世話になったか、見当も付かないレベルだ。
私はそんな頼れるイービス様に一生を捧げたいと心の底から思っていた。もちろん、貴族である為に、婚約には政略的なものが皆無というわけではない。それでも……私はイービス様を本気で愛していたのだ。
それだけに……イービス様からの婚約破棄という言葉は私の心臓を別の意味で打ち抜いていた。
「アテナ、本当に申し訳ない……慰謝料はメンフィス家が望む金額を支払うつもりだ。それでなんとか……許してもらいたい」
「慰謝料だなんて……そんな悲しいことは言わないでください……!」
「す、済まない……」
イービス様は私への後ろめたさからか、とても弱気になっている様子だ。こんなイービス様を見たのは初めてかもしれない。
「理由を……理由を聞かせていただけませんか?」
「理由か……」
「はい。そうでなければ、納得が出来そうにないので……」
例えどんな理由があろうとも納得できる自信はなかった。でも、それでも理由を聞かなければならない。そうでなければ、私の気持ちが絶対に許さないと思ったからだ。
「私にはパメラ・フォルトという幼馴染が居る。私は彼女と一緒になりたいと心から思ってしまったのだ」
「それが理由でございますか……?」
「ああ、その通りだ。がっかりする内容かもしれないが……これが私の紛れもない本音なのだ」
パメラ・フォルト様……確か私と同じ身分の伯爵令嬢だったはず。あまり面識はないけれど、イービス様の幼馴染だったのね。別に好きな人が出来た……見方を変えれば浮気と取れるかもしれないけれど、イービス様が浮気をするとは考えられない。これは、どうしようもない気持ちの問題なのだろうと思う。
そっか……イービス様は私以上にパメラ様のことを好きになってしまったのね。彼女の家系が私と同じ立場である以上は政略的なものを優先した結果とは考えにくい。となると……やはり気持ちの問題か。
「アテナ……君への想いが決して嘘だったというわけではない。ただ、幼馴染のパメラをより愛してしまったというだけだ」
「左様でございますか……」
「本当に申し訳なかった……本当に……!」
「イービス様……」
イービス様は誠意を表そうとしたのか、私に対して深々と頭を下げていた。侯爵様にここまでのことをされては、私も納得せざるを得ないのかもしれない。
「畏まりました、イービス様。婚約破棄の件は了承いたします……パメラ様と末永くお幸せに……」
「アテナ……ありがとう! 君からの祝福の言葉は、誰よりも勇気に繋がるよ!」
「はい……」
本当は祝福なんてしたくはない……なぜ私では駄目なのか問いただしたい思いが非常に強かった。でも……私はそれをするべきではないと考え、敢えて祝福したのだ。ここで私が喚いたところで、結果は変わらないと思えたから。
私はその後、イービス様に礼をして彼の部屋から出て行った。零れ落ちる涙は決して彼には見せないようにして。
「イービス様、そ、そんな……そんなことって、あんまりです……」
私は婚約関係にあったイービス・ラウドネス侯爵様に呼び出されており、彼の私室にて婚約破棄を言い渡されていた。あまりの言葉に取り乱してしまっている。
私はアテナ・メンフィス伯爵令嬢。年齢は17歳になる。イービス様との婚約は4か月くらい前に決まったことだけれど、お父様やお母様はとても喜んでいた。侯爵家系と伯爵家系の婚約ということもあり、立場的にも矛盾しないと言えるだろう。
イービス様はお父様やお母様だけでなく、私の目から見ても尊敬に値するお方だった。24歳という若さで侯爵家を継いだだけあり、精神面でもしっかりとなさっている。まだ17歳の私は何度もイービス様に助けてもらった。この4か月を見ても何度彼のお世話になったか、見当も付かないレベルだ。
私はそんな頼れるイービス様に一生を捧げたいと心の底から思っていた。もちろん、貴族である為に、婚約には政略的なものが皆無というわけではない。それでも……私はイービス様を本気で愛していたのだ。
それだけに……イービス様からの婚約破棄という言葉は私の心臓を別の意味で打ち抜いていた。
「アテナ、本当に申し訳ない……慰謝料はメンフィス家が望む金額を支払うつもりだ。それでなんとか……許してもらいたい」
「慰謝料だなんて……そんな悲しいことは言わないでください……!」
「す、済まない……」
イービス様は私への後ろめたさからか、とても弱気になっている様子だ。こんなイービス様を見たのは初めてかもしれない。
「理由を……理由を聞かせていただけませんか?」
「理由か……」
「はい。そうでなければ、納得が出来そうにないので……」
例えどんな理由があろうとも納得できる自信はなかった。でも、それでも理由を聞かなければならない。そうでなければ、私の気持ちが絶対に許さないと思ったからだ。
「私にはパメラ・フォルトという幼馴染が居る。私は彼女と一緒になりたいと心から思ってしまったのだ」
「それが理由でございますか……?」
「ああ、その通りだ。がっかりする内容かもしれないが……これが私の紛れもない本音なのだ」
パメラ・フォルト様……確か私と同じ身分の伯爵令嬢だったはず。あまり面識はないけれど、イービス様の幼馴染だったのね。別に好きな人が出来た……見方を変えれば浮気と取れるかもしれないけれど、イービス様が浮気をするとは考えられない。これは、どうしようもない気持ちの問題なのだろうと思う。
そっか……イービス様は私以上にパメラ様のことを好きになってしまったのね。彼女の家系が私と同じ立場である以上は政略的なものを優先した結果とは考えにくい。となると……やはり気持ちの問題か。
「アテナ……君への想いが決して嘘だったというわけではない。ただ、幼馴染のパメラをより愛してしまったというだけだ」
「左様でございますか……」
「本当に申し訳なかった……本当に……!」
「イービス様……」
イービス様は誠意を表そうとしたのか、私に対して深々と頭を下げていた。侯爵様にここまでのことをされては、私も納得せざるを得ないのかもしれない。
「畏まりました、イービス様。婚約破棄の件は了承いたします……パメラ様と末永くお幸せに……」
「アテナ……ありがとう! 君からの祝福の言葉は、誰よりも勇気に繋がるよ!」
「はい……」
本当は祝福なんてしたくはない……なぜ私では駄目なのか問いただしたい思いが非常に強かった。でも……私はそれをするべきではないと考え、敢えて祝福したのだ。ここで私が喚いたところで、結果は変わらないと思えたから。
私はその後、イービス様に礼をして彼の部屋から出て行った。零れ落ちる涙は決して彼には見せないようにして。
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