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Episode6 「統率者」

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天空の城 ディユ
「なぜ逃がしたァ!?」
玉座に堂々と座るアーロが右目に眼帯をつけているブラストに怒鳴り散らす。
「片目だろうと奴らを追えたはず!しくじりやがってぇ!!」
暴走しそうになるアーロを従者が抑え、ブラストは観音開きの扉を開けた。
「悪いが休暇を貰う。用心棒は他を当たれ。」

世界の中心に存在する城下町 アンジュ。幾つもの家屋が連なる中、その奥に堂々と城を構えて君臨するハワード家がそびえ立っていた。
城の一角にハワード直属精鋭部隊 グロウのアジトが設置されており、そのアジトの隊長室にてエレンとシュウが話し合っていた。
「なんの用?」
エレンは目の前の紅色のオフィスデスクのような机にSIG SAUER P226に似た銃 〝フォンス〟を二丁置いた。
「これって…。」
「落札者がいなくなってしまってね。昨日の現場では君がこれを使って犯人を封じたらしいじゃないか。犯人の手元だけを撃ち抜いたと聞くと、この武器は君と相性がいいみたいだ。というわけで、この〝フォンス〟を君の就任祝いと称してプレゼントしよう。」
微笑むエレンに対して、シュウは無愛想な顔でフォンスをひったくるように取った。
「それだけ?」
「まだある。今からハワードに行くんだが、君にもついてきてほしい。あちら側からの要望でね。」

「なんでコレ着なくちゃいけないの…。」
シュウはグロウの軍服を嫌々着させられ、ある部屋の前までエレンと共に来ていた。
「君もグロウに入ったのならルールには従ってもらわなくちゃ。それにグロウの隊員なのに制服を着ていないっていうのもおかしいだろう?」
エレンが部屋の扉をノックすると、執事風の男が扉から顔を出してきた。
「エレン様、来てくれましたか。そちらは…。」
「グロウの新人だよ。お姫様を救った例のね。」
「ああ。彼が…。」
執事は会釈をするが、シュウは彼から視線を逸らす。
「どうぞ。」
扉を開けてエレンとシュウを通した。部屋の中に薄青のドレスに身を包んだ金のハーフアップの王女 ティアラが立っており、シュウ達に気づくと駆け寄ってシュウの両手を握った。
「また会えましたね!よかった…!」
執事の男とエレンは空気を読んで退散し、部屋にはシュウとティアラだけとなった。
「ふーん。やっぱ、ここの王女様だったんだ。」
「はい!それにしても、グロウの方だったとは…。あの時は軍服を着ていなかったのでわかりませんでしたが、とても似合ってますよ!」
「これが似合ってるねぇ…。」
シュウは改めて軍服のデザインや内側などを見てみるが、気に入るものではなかった。
「確かに装飾などは多少、派手かもしれませんが、その軍服にはグロウの気高さや誇りが詰まっていると聞きます。それにあなたが転移者なら、とても相応しい服だと思いますよ。」
「へぇ。俺が転移者だって知ってんの?」
「エレン隊長から聞きました。私、この目で転移者を見るのは初めてなんです。この世界にいるとは何度か聞いたことはあるのですが、実際に会って話したのはあなたが初めてで…。よろしければ、あちらの世界の話などしてもらえないでしょうか?」
純粋な瞳を輝かせながら笑うティアラに、思わず笑みが零れるシュウだが、部屋の外に気配を感じた。
「また後でね。ちょっと用事ができたから。」
「なら明日、この時間に来てください。行きたい場所があるので!」
手に紙切れのようなものを渡されると、シュウはもう片方の手を振って部屋から出ていった。シュウは部屋の外で待機していたヨウを見つけてため息をついた。
「アンタも暇なの?」
「エレン隊長からここにいると聞いてさ。それより、今こっちで面白いことやってるよ。」
シュウはヨウについていくと、草木が焦がれて壁がボロボロになっている修練場のようなところに辿り着いた。その中央には白衣を着て寝癖をつけた低身長で白髪の男がおり、その周りを数百人の人々が囲っていた。
「あれがなんだって言うわけ?」
「まあ見てるといい。」

「えー、お集まり頂いた皆さん。今回、僕が紹介する商品はこちら。」
男が手元に忍ばせてあるリモコンを押すと、焦げた草木が茂る地面に亀裂が走り、スライドするように割れてその奥から台座に乗ったソードオフ・ショットガンが現れた。
「SEC-34。別名〝コンバー〟というECシリーズです。このコンバーは片手持ちが可能で、女性や力に自信がない方でも扱える撹乱用の武器となっております。別売りの閃光弾や煙幕弾を装填すれば瞬時に敵を撹乱させ、不意打ちを可能とすることができ、またスラッグ弾や通常の散弾も限られてはきますが、ほとんど装填できますので、実戦用としても取り扱うことができる代物です。」
コンバーを手に取って白衣のポケットからスラッグ弾を取り出し、コンバーに装填した。背後の崩れかけている壁に銃口を向けて、男はトリガーを引いた。
発射されたスラッグ弾は壁に命中して、亀裂ばかりだった壁ははいとも簡単に崩れ落ち、男はコンバーを台座の上に戻した。
「これはまだ試作段階ですので、完成次第オークションに出品させて頂きます。」
身なりのいい紳士風の男や淑女達が男に向かって拍手をし、男はボタンを押してコンバーを地下へと戻した。ハワードの使用人達が彼らを送っている最中、男は上から見下ろしているシュウとヨウに気づいて階段を登り、シュウと対面した。
「君がシュウ君だね。そしてヨウ君。君たちの活躍は聞いているよ。」
「この武器とか、アンタが作ってんだ?」
シュウはフォンスを見せて、ジッと目を見つめる。
「ああ。ECシリーズは驚異的な速度で日々、進化している。ただの小さな鉄の塊しか撃てなかったものが、数ヶ月後には鉄の壁を破壊する威力を持つ大砲にまで進化した。それは君が一番、痛感しているんじゃないか?君の持ってるECシリーズのシヴァ、強いだろう?」
「…なるほどね。アンタが…。」
「ここだと話しづらいかな。どうだい?僕の研究室まで来るか?」
「まあいいよ。アンタに聞きたいこと山ほどあるし。」

シュウはヨウを帰して、男の後についていった。なんの会話もなく階段を下って細い通路まできたところで男は口を開いた。
「そういえば名前も名乗ってなかったね。僕はエイジ。」
シュウは以前の任務でヨウが彼の話をしていたことを思い出した。
「じゃあアンタがECシリーズを作ってるんだ。」
「まあね。案外、こういうのも楽しいからさ。」
通路の曲がり角を曲がった瞬間、グロウ副隊長のチェスターと偶然遭遇した。
「エイジ…。それとシュウだったか。」
チェスターはシュウの横を通り過ぎる寸前に舌打ちをして睨みつけた。
「昨日の任務でティアラ・ハワードを助けたそうだが、そんなことでは俺は認めん。転移者など、どいつもロクでもない連中ばかりだからな。」
シュウは言い返そうとしたが、チェスターは早足で通路から立ち去っていっていた。
「なに?彼、なにかあったの?」
「チェスター君は今では隊長のエレン君の部隊に所属している。けど、1ヶ月前までは自分がリーダーを務めて部下を率いていたんだ。」
「それが今はどうして?」
エイジは扉の前で立ち止まると扉の横に設置にしてあるパスワード入力装置にコードを入力してロックを解除した。
「彼が部隊を率いて護衛任務を遂行していた時、突然チェーンソーのような武器を持って現れた何者かに襲われて部下は全滅し護衛対象も殺された。運良くチェスター君だけは生き残り、その犯人は彼に〝自分は転移者だ〟と名乗って去ったそうだ。」
エイジは様々なディスプレイが並んでいる前に置いてある椅子に腰掛けた。
「けどアンタなら知ってんでしょ?その転移者…。」
「やっぱり気づいてたか…。」
椅子のキャスターを転がしてエイジはシュウの方に顔を向けた。
「そう。僕が君たちをここに呼んでバトルをさせてる張本人。わかりやすく言えば、〝ゲームマスター〟ってところかな。」
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