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幼なじみたち4
しおりを挟む『僕は、王子と恋するんだ』
胸の奥がチリ……っと痛んで、そしていつもなら絶対にローラントに対して感じない苛立ちを、初めて感じた。
「ちょ、ルーファス!?」
「何してるんだっ!」
「早く、離さないと! そろそろ侍従が呼びに来るんだよ!」
ルーファスの手はローラントの顔に伸びていて、指でその頬を摘んでいた。
「な、なんで?」
そんな扱いをルーファスはもとより誰にもされたことのなかったローラントは、驚きに動けない。
「なんとなく」
「なんとなくで王族の頬を摘むな!」
「他の人に見られる前に手を離して!」
「ローラントだから一回は許してくれると思う。でも、今すぐ離さないと!」
ルーファスは幼なじみたちに言われるまま手を離す。ローラントの頬にはうっすらと赤い跡がついていて、滑らかな肌が痛々しく見える。
「ルーファス、わたし何か……気に触ることをしたかい?」
「してない」
それは本当だった。
ローラントに悪い所なんてない。ただ、頭の中でサッシャの声が響いた途端、手が伸びてローラントの頬を抓っていた。
「すまない」
なぜこんなことをしてしまったのか、それすらわからなかったが、悪いことをしてしまったことはルーファスにだって理解出来た。
「いや、いいんだ。ルーファスの情緒が育っている所為かもしれない。第二次性徴期だね」
「四、五年前には始まってるだろ」
「それは体だけだからね」
「……まあ、こんなに体はでっかいけど、恋心がまだ理解出来ないくらい情緒は幼いから……」
「俺に恋心を理解する調薬が出来ればいーんだけどねぇ」
しみじみとした雰囲気になったところで、ドアがノックされる。アンドリューが立ち上がって誰何すれば、侍従が準備が出来たと呼びに来ていた。ローラントは立ち上がりながら、幼なじみたちとルーファスに向かって問いかける。
「そういえば、学園長には誰か許可貰った?」
「私が話を通しておきました」
ローラントの疑問に優秀なタルベットが答え、一緒に歩き出す。
「サッシャ君と、ついでに寮生の美味しい食事の為に、さあ、行こうか」
ローラントの言葉に、ルーファスは俄然やる気を出したように先を歩き始める。サッシャが食べていたサンドウィッチは、素材も悪く、はっきり言ってこの学園の寮で出されるレベルをかなり下回っていた。回して食べたので王子も幼なじみたちもその味はわかっている。
「こんなに早く証拠を掴むなんて、王家の影でも使ったのか?」
「キンケイド家が動いたんだよ」
「ひぇっ……ルーファス、サッシャ君が絡むと、かなりなりふり構わない感じ?」
「恋って人を変えるんだなー」
「偉大だな。恋は」
王子と幼なじみたちは好き勝手に話しながら、生徒会室を出ていく。
「あの、第三王子殿下、キンケイド侯爵令息様は先に行かれましたが……」
生徒会室の中に入った侍従が、出入り口で止まっている王子と幼なじみたちにおずおずと声を掛けた。気がついた四人が廊下を見れば、遠くにルーファスの後ろ姿が見える。
「置いてきぼりにするなんて……」
「俺たちの友情はどこに行ったんだ?」
「それだけ相手が大切ってことなのかなー」
「……そうだね。わたしたちも急ごう! ルーファスに置いていかれるよ」
廊下を走ってはなりません、という侍従の叫びを後ろに聞きながら、ローラントと幼なじみたちは駆け出す。
校舎を出る前に追いついた四人は、ルーファスに飛び掛かり置いていくなと注意をし、一緒に目的に向かって歩き始めるのだった。
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