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8話
しおりを挟む「僕はやったことないから攻略サイト見ただけなんだけど、あんたの幼なじみたちって仲良さそうに見えて、幼なじみに対してものすごく嫉妬したり敵愾心持ってたりする? 仕事は出来るけど、家庭内では失言の嵐で家庭内不和の宰相の次男タベルット・カーヤは自分の言動に似たところがあると落ち込んじゃったり、騎士団長の末っ子、リース・ハルベリーは兄たちにものすごいコンプレックス持ってたり、法務大臣の甥であるアンドリュー・ダンカンは本当は甥じゃなくて息子だったり、学園のきょ……いや、えっと、もしかしてそれ全部解決済みだったりする?」
学園の教師であるラツェリ・デューダーは担任ではあるが、個人情報などいくらルーファスでも知らないと思い、僕は口を噤む。話してしまった情報だけでも結構まずいものがあったからだ。
けれどゲームとは違う行動を取るルーファスならヒロインと出会って解決するはずの悩みも全てその手で解決済みなのではないかと思った。
「……その情報は全てサッシャ・ガードナーの前世……、生まれる前にやったゲームというもので知ったということか」
「そう! そうなんだ。僕が知ってるのは前世でゲームの中で見たことで、実際どこかで聞いたり見たりしたことじゃないんだ!」
流石、頭のいい人間は理解が早い。
「そうか。解決済みではないが三人とも悩みを持っていても、それで潰れてしまう程ではない」
「そっか、良かった」
本当に心からそう思う。始める前に攻略サイトを見ていた時、攻略対象者を王子に決めたのは三人の悩みが自分と似ていたからだ。
「サッシャ・ガードナー?」
「あー……、なんでもない。三人にヒロインが必要なさそうでホッとしたっていうか」
「ローラントの悩みも知っているのか?」
「……幼い頃から決められたキンケイド侯爵令息様との婚約に、その、疑問と劣等感を持ってる、みたいな」
兄二人は国外から伴侶を選び、第三王子のローラントは王家と貴族の橋渡しの為に、侯爵家であるルーファスとの婚姻を結ばれた。
自分の意思など一切無視した、生まれた時からの契約である。
異性ならばそれも仕方ないと諦められただろう。でも好きでもない相手であり、自分より能力が上の同性の相手に劣等感を持つのは当たり前だ。
そして無邪気で無垢なヒロイン(♂)が学園に入学してきて、自由に生きているのを身近で見て、自分もそんなふうに生きてみたいと思い、そして心惹かれていくのだ。
そんな王子とヒロイン(♂)の間に立ち塞がるのが、悪役令息たるルーファスだった。
「悪役令息とは、どんな存在なんだ?」
「悪役令息っていうのは、その……ヒロインの恋のライバルだよ」
「恋のライバル……」
「うん。ゲームの中では愛し合ってるふたりの間を引き裂こうとする、悪いやつって認識だった……けど」
今ルーファスを目の前にして、こんなに綺麗で心も優しい相手から、婚約者を奪うことが正しいと思えなくなった。
どちらかといえば僕の方が浮気相手ではないのだろうか。自分がとても汚い人間に思えて、俯いてしまった。
「愛し合ってなどいないが……」
「え?」
ルーファスの言葉に僕は顔をあげて見れば、麗しい顔が見えた。
「先ほども言ったように、この婚約は契約であり、そこに個人的な感情が入り込む隙はない」
ルーファスの言葉に僕はなんだかホッとする。だって、王子に対して恋心を持っているようには思えないからだ。僕も恋なんてしたことなかったが、それでもいっぱい読んだ物語と比べて、ルーファスの行動が側近や幼なじみ以外の気持ちを持っているとは思えなかった。
これまで感じても考えないようにしていた、罪悪感に潰れそうな心が軽くなっていく。
「あんたさ、本当に前世の記憶とかないの?」
こんなにゲームと違う行動を取っているのだから、もしかしたら……と思い再度聞いてみるが答えは肩の力が抜けるようなものだった。
「すまない。三歳くらいからの記憶しかない」
「そっか⋯⋯なら、……その、あんたさ、王子のこと本当に好きじゃないの?」
「……ローラントと俺は幼なじみだ。大事とは思うが、サッシャ・ガードナーの言うような気持ちはない。私たちの婚約は王家と議会、そしてキンケイド家当主で決められたことだ」
その言葉を聞いた僕は、希望が心にともる。
「なら僕が王子に恋しても良いの?」
僕はこの世界で初めての恋をしたい。ゲームの中で、王子はヒロイン(♂)に恋をしていた。同じようにとはいかないかもしれないが、悪役令息であるルーファスの協力があれば、ゲームとは少し違うこの世界でも上手くいくんじゃないかと思う。
「僕、王子に恋したいんだ。だから協力して欲しい!」
「それが悪役令息というわけか」
「うん!」
「わかった。その悪役令息を教えてくれ」
「ありがとう! 僕、キンケイド侯爵令息様に酷いこといっぱいしたのに」
僕はルーファスが悪役令息だからと睨んだし、邪魔に思ったし、思うように行動しないので怒鳴ったりした。それなのにルーファスは気にした様子もなく、協力してくれるという。
「気にしてない」
ルーファスは本当に凄く良い人だ。
容姿だって極上で、身分だって雲の上の人なのに、それを鼻にかけてもいない。平民で孤児の自分の作った拙いクッキーだって美味しいと言って食べてくれた。
自分の婚約者である王子に近づく自分だって許してくれる。
「もしかしてキンケイド侯爵令息様も王子と婚約破棄したいの?」
協力してくれる理由なんてそれ以外思いつかない。
「……ローラントが婚約破棄したいというならそれに従う」
「違うよ。僕が聞きたいのは、キンケイド侯爵令息様がどうしたいかってこと」
もしルーファスが婚約破棄したくないと言うなら、この恋は諦める。今は健康な体が手に入ったのだ。学園だって通えている。
王子とは違うかもしれないが、いつか別の人と恋も出来るかもしれない。ルーファスを悲しませてまで貫くようなものではないと思う。
「俺が……? サッシャ・ガードナーが泣かなければ良い」
「え?」
座っている僕の頬を、ルーファスは大きな手のひらで撫でてくれた。とても優しく、労りを持って。
「キンケイド侯爵令息様、優しすぎない?」
こんなに優しくて魑魅魍魎が跋扈するって言われてる貴族なんてやってけるのだろうか。
「サッシャ・ガードナー、俺のことはルーファスでいい。家名も様付けはいらない」
「んー……でも、あんたはお貴族様だから、人前では様付けにすんね。今はルーファスって呼ぶけど。僕のこともフルネームじゃなくて、サッシャで良いよ」
「わかった。サッシャ」
その言葉はまるでこの世で一番大切にされているように優しくて、恥ずかしさとくすぐったいような温かい気持ちになる。
「ありがとう。ルーファス」
穏やかな微笑みを見て、こんなに綺麗な人が自分の味方だと思うと嬉しくなる。
世界にひとりぼっちだと思っていた僕はこの世界に転生して初めて、心からほっとしたのだった。
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