【完結】この悪役令息は、僕が育てました!

きたさわ暁

文字の大きさ
上 下
5 / 66

3話

しおりを挟む



「王子、ちょっと、キンケイド侯爵令息様を、借りても、良いですかぁ?」

 ここでルーファス相手に怒鳴っては、今まで王子の前で可愛い子ぶりっこしていた演技がぶち壊しになる。けれど思わず区切って喋ってしまう程、怒りが込み上げていた。

(僕なんててんで相手にならないって思ってるわけ!?)

 僕の剣幕に押されたのか、王子はチラリとルーファスを見てから許可するように頷く。

「どうぞ?」
「ありがとうございまぁす。さ、キンケイド侯爵令息様、一緒に来てくださいますね?」

 嫌なんて言わせない勢いで腕を引けば、ルーファスは素直に僕の後を着いてくる。
 それがまた僕の怒りに火を注ぐ。

(僕なんて本当に相手にならないと思ってるんだ!)

 唇を引き結び、東屋を出て校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下まで到着した。この近くには周囲から見えない場所があり、僕はそこにルーファスを連れ込んだ。
 密集している木立のひとつに背中を押しつけて、キッと睨みつけてやるが全く気にされていなかった。それどころか名前をフルネームで呼ばれ、話しかけられる。

「サッシャ・ガードナー、先程の質問だが……」

 ルーファスが何か言う前に、僕はルーファスの胸に指を突きつけて怒鳴ってやる。

「あんたさあ、一体どーゆーつもり! 僕が王子奪っちゃってもいいの!?」
「奪う?」

 なんのことかわからないというように首を傾げる姿も様になる相手に、僕の怒りのボルテージもますます上がってしまう。

「そーだよ! 僕が王子の婚約者に成り代わってやるって言ってんの!」
「成り代わる……?」

 王子の婚約者はこの目の前の悪役令息、ルーファス・キンケイドだ。この国では余計な後継者争いをしないため、第三王子以降は男性と結婚することになっている。

 僕と同学年の王子は第三王子で前世でやったゲームの中での僕の推しだった。その記憶によると他にも攻略対象者はいるが、どうせなら前世の推しである王子と恋仲……、自分を好きになって欲しいと思っている。

 だからこそ、前世を思い出した後、必死で勉強してこの学園に通えるよう頑張ったのだ。
 入学が決まった後、始まるはずの学園生活と王子との恋に僕は胸膨らませていた。

 入学式からが勝負だと、僕はシナリオ通りに遅刻しそうになって王子の前を走り抜けた。
 単純な方法だが、周りにいないタイプの人間を演じれば「おもしれー女」括りで気に止めて貰える。何度もそれを繰り返し、その他大勢から個人を認識して貰えるようにするのだ。

 僕が頑張っている間、ルーファスが何をしていたかと言うと、何もせずぼんやりと僕の行動を見つめているだけだった。悪役令息がヒロイン(♂)に虐めをすると、王子やその幼なじみたちが庇ってくれて、仲が進展するのがこのBLゲームの醍醐味だ。

 先程王子にぶつかりそうになって止められたのが、初めての妨害らしい妨害だ。
 それなのにルーファスは僕の言葉を繰り返すばかりで、焦燥感なんて微塵も感じない。僕なんて相手にならないと言わんばかりだ。

「うかうかしてると、僕があんたの代わりに王子の婚約者になってやるからな! それなのに、あんたは僕を排除もせずただぼーっと見てるだけなんて、あんた真面目に悪役令息やる気あんの!?」

 思わず興奮してまい、余計なことも言っているが止まらなかった。

「悪役令息……とは?」

 また言葉を繰り返され、地団駄を踏んでしまう。

「だーかーらー! あんたは悪役令息なんだから、僕が婚約者の王子に近づくのを止めさせるために教科書破いて近づくなって警告したり、ボディータッチしようとした僕に俺の婚約者に触れるなって頬叩いたり、気安く話しかけるのを見たら下賎な口を開くなって遮ったり、……それから権力を使って暴漢に僕を襲わせたり、その、色々やることあるだろ!……いたっ」

 興奮に振り回した手を、側に立っている木の幹にぶつけてしまい痛みに思わず呻く。
 でも僕は間違ったことは言っていないはずだ。
 防御魔術で怪我しないように助けたり、明日には触れられるように許可申請するんじゃなくて、もっと他にやることがあったはずだ。

「それは器物破損や、暴行、倫理観の劣る行為だな。権力とは上の者が弱者を虐げる為に使うものではない。……大丈夫か?」

 ルーファスはそう言いながら、僕の打ちつけた手を取って問題がないか見てくれる。赤くなった手を痛ましげに見ると、優しくそっと撫でてくれた。

「く、……正論すぎて何も言い返せない。それから手、離してよ!」

 敵であるべきルーファスに、こんな風に触れられるとなんだかよくわからない感情が浮かぶ。それを振り払うように手を取り戻した。

「みだりに触れて、すまない」

 素直に謝るルーファスに何か言い返さなければと思うが、何も思い浮かばないでいると話を続けられた。

「それから先程の話だが、サッシャ・ガードナーは勉強が好きだろう。もう卒業された先輩に譲ってもらった教科書を大事に使用していると聞いている。そんな大切な物を破ることなど、出来るはずがない。知識欲があり、わからないことがあれば教員に質問に行くことも。ボディータッチというが、王子の側を飛んでいた虫を払って服の端に触れそうになっていたことも見ていたからわかっている。
ローラントに話しかけるななど、将来臣籍降下されるローラントが困らないように、民の生活についてわかりやすく説明していたのを、俺は知っている」
「待って! 本当に待って! な、なんで……っ」

 そんな事を知っているのだろうか。
 ルーファスは僕に興味がないと思っていたのに、物凄く詳しい。よく観察していたみたいに僕のこれまでの行動をスラスラと説明されて恥ずかしくなる。どうして? と思っているとその理由がすぐにわかる。

「ローラントは王族だ。これまでもローラントの側近くに寄ってこようとする者は大勢いたから、その相手は詳細に調査機関が調べる」
「そ、そーなんだ」

 僕のことも詳細に調べあげられている、ということだ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

処理中です...