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五章
サジャミールとリリアルーラ
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リリアルーラはサジャミールに二つの質問をした。
サジャミールが横抱きにして歩いている間中、人払いをしてあると言っても小さな声で抗議を続けていたのに、青の間に入り「何か質問は?」と尋ねたら、不満そうにしながらもおずおずと尋ねてきたのが可愛らしかった。
ひとつは「どうしてサジャミールだけがターバンを巻いているのか」、もうひとつは「どうしてサジャミールの髪は金色なのか」だった。
少し、笑ってしまった。そんなことはシャファーフォンの人間なら誰でも知っている。イルマに聞いても答えてくれるだろう。だが、それだけリリアルーラがサジャミールを知らないという証でもあり、ほんの少しだけ傷ついてしまいもする。
しかし、そんなことはおくびにも出さずに答えた。
ターバンを巻いているのは、それがシャファ族の正装だから。髪が金色なのは、彼の母親が砂漠の出身ではないから。
リリアルーラは、母が砂漠の出身ではないと聞いた瞬間、得心がいったように頷いた。
「きっとお母様もきれいな金の髪をお持ちだったんですね。じゃあ、その瞳も、お母様譲りですか?」
あまりの無邪気さに、愛おしさが弾けそうになった。彼女は更に追い打ちを掛けてくる。
「ターバンを巻くと髪が見えなくなって残念ですが、とてもお似合いです。巻いていない時は、少し残念に思いました」
リリアルーラの清らかさは、サジャミールには眩しすぎる。あまりに眩しすぎて、毒のように思えてしまう。彼女は知らない。彼の答えが、嘘ではないにしても、すべてではないことを。言葉の裏を読むなんて、考えもしないのだ。
確かにターバンはシャファ族の正装で、国王として身につけているのだろうと皆も思っている。だが、彼の父はカフィエと呼ばれる頭巾――布を被って済ませていた。王宮を守る兵士たちが身につけているそれだ。ターバンは巻くのが面倒だし、暑い。別にカフィエでも、国王としての体面は保てる。それでもサジャミールがターバンを巻く理由はたったひとつ。昔、「とっても素敵」と褒められたから。
母親が砂漠の出身でないことも嘘ではない。父の愛妾の一人だった母は、シャファ族ではない部族の集落で、孤児として育てられていた。その部族の者が途絶えた今、母の生まれが定かではないことを知る者はほとんどいない。
「サジャミール様?」
回廊を歩いている時は見るだにぷんぷん怒っていたくせに、黙り込んだサジャミールを覗き込んで来る瞳にはかすかな心配が宿っていた。清らかな、愛らしい、リリアルーラ。自分のような男が触れて良い存在ではないと知っている。それでもどうしても、手を伸ばさずにはいられない。
たとえ神の怒りに触れようとも、愛してしまう。リリアルーラこそが、サジャミールの運命だ。
気がつけば、細い腰に手を回し口づけの雨を降らせていた。
最初こそリリアルーラは抵抗し何やら言い募っていたが、そんなのはほんの数分だった。
今や彼女はそれ自体が寝台であるかの如く柔らかな、王のために設えられた休息の床に身体を委ねている。可愛らしくも荒い呼吸を繰り返し、てらてらと濡れ光る赤い唇でサジャミールを誘っている。
彼女の兄である神聖なる蛇は、リリアルーラはサジャミールを自分の運命ではないと判断したと話していたが、サジャミールにはとてもそうは思えない。
謁見の際に触れた時から、それは確信している。この腕にかき抱いた瞬間、リリアルーラはサジャミールを許した。今、この瞬間と同じように。
「リリアルーラ、昨夜のことを覚えていますか?」
サジャミールが横抱きにして歩いている間中、人払いをしてあると言っても小さな声で抗議を続けていたのに、青の間に入り「何か質問は?」と尋ねたら、不満そうにしながらもおずおずと尋ねてきたのが可愛らしかった。
ひとつは「どうしてサジャミールだけがターバンを巻いているのか」、もうひとつは「どうしてサジャミールの髪は金色なのか」だった。
少し、笑ってしまった。そんなことはシャファーフォンの人間なら誰でも知っている。イルマに聞いても答えてくれるだろう。だが、それだけリリアルーラがサジャミールを知らないという証でもあり、ほんの少しだけ傷ついてしまいもする。
しかし、そんなことはおくびにも出さずに答えた。
ターバンを巻いているのは、それがシャファ族の正装だから。髪が金色なのは、彼の母親が砂漠の出身ではないから。
リリアルーラは、母が砂漠の出身ではないと聞いた瞬間、得心がいったように頷いた。
「きっとお母様もきれいな金の髪をお持ちだったんですね。じゃあ、その瞳も、お母様譲りですか?」
あまりの無邪気さに、愛おしさが弾けそうになった。彼女は更に追い打ちを掛けてくる。
「ターバンを巻くと髪が見えなくなって残念ですが、とてもお似合いです。巻いていない時は、少し残念に思いました」
リリアルーラの清らかさは、サジャミールには眩しすぎる。あまりに眩しすぎて、毒のように思えてしまう。彼女は知らない。彼の答えが、嘘ではないにしても、すべてではないことを。言葉の裏を読むなんて、考えもしないのだ。
確かにターバンはシャファ族の正装で、国王として身につけているのだろうと皆も思っている。だが、彼の父はカフィエと呼ばれる頭巾――布を被って済ませていた。王宮を守る兵士たちが身につけているそれだ。ターバンは巻くのが面倒だし、暑い。別にカフィエでも、国王としての体面は保てる。それでもサジャミールがターバンを巻く理由はたったひとつ。昔、「とっても素敵」と褒められたから。
母親が砂漠の出身でないことも嘘ではない。父の愛妾の一人だった母は、シャファ族ではない部族の集落で、孤児として育てられていた。その部族の者が途絶えた今、母の生まれが定かではないことを知る者はほとんどいない。
「サジャミール様?」
回廊を歩いている時は見るだにぷんぷん怒っていたくせに、黙り込んだサジャミールを覗き込んで来る瞳にはかすかな心配が宿っていた。清らかな、愛らしい、リリアルーラ。自分のような男が触れて良い存在ではないと知っている。それでもどうしても、手を伸ばさずにはいられない。
たとえ神の怒りに触れようとも、愛してしまう。リリアルーラこそが、サジャミールの運命だ。
気がつけば、細い腰に手を回し口づけの雨を降らせていた。
最初こそリリアルーラは抵抗し何やら言い募っていたが、そんなのはほんの数分だった。
今や彼女はそれ自体が寝台であるかの如く柔らかな、王のために設えられた休息の床に身体を委ねている。可愛らしくも荒い呼吸を繰り返し、てらてらと濡れ光る赤い唇でサジャミールを誘っている。
彼女の兄である神聖なる蛇は、リリアルーラはサジャミールを自分の運命ではないと判断したと話していたが、サジャミールにはとてもそうは思えない。
謁見の際に触れた時から、それは確信している。この腕にかき抱いた瞬間、リリアルーラはサジャミールを許した。今、この瞬間と同じように。
「リリアルーラ、昨夜のことを覚えていますか?」
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