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四章
夜更けの攻防(敗北)
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「んーっ!」
焦った呻きを舌と共に吸われ、肺に溜まっていた息を鼻から吐き出す。そのまま大きく息を吸い込んだが、何故か頭の靄は晴れない。
「リリアルーラ、上手ですね。そうやって、鼻で息をして」
口を離し、サジャミールが低く甘い声で囁く。何を言ってるの、とリリアルーラは言い返そうとしたが、その時にはもう唇を塞がれていた。ためらいなく入り込んできた舌に驚き奥まで舌を退くと、歯の裏側から下顎にかけてをくちくち細かく舐られる。リリアルーラはむずむずと奇妙な、しかし不快ではない刺激をやり過ごそうとしたが、縮こまらせている舌が痛くて、下顎に溜まる唾液が苦しくて、ほんの少しだけ力を抜いた。途端、待っていたとばかりに溜まった唾液ごと舌を掬われ、じゅるじゅると啜られてしまう。
リリアルーラの身体が大きくびくついた。舌と舌が触れ合った途端、得も言われぬ甘美な衝撃が身体を貫いたのだ。
「ん、ん、ん」
勝手に声が漏れる。どうしてこんな声が出るのかわからない。どうしてビクビク身体が跳ねるほど気持ちが良いのかわからない。それにどうしてサジャミールの舌はこんなに甘いのだろう。リリアルーラと同じ酒を口にしているはずなのに。
はすはすとはしたなくも荒い呼吸を繰り返していることにも気づかず、絡みついてくる舌にリリアルーラは翻弄される。いつか自分の運命に出会えたら愛を込めた口づけを交わすのだろうとは思っていたが、想像ではただ唇同士を合わせるだけのものだった。啜られた唾液を戻されては舌にこすりつけられるような、途方もなく淫らなものであるはずがなかった。
かき回される唾液がべちゃべちゃと音を立て、広がる甘みが霞んだ頭をより朦朧とさせていく。耳を舐められていた時より淫靡な音に、リリアルーラはぎゅうと目を閉じた。眦を涙が落ちていく。呼吸はできているのに、苦しい。頭が、身体が、じんじんと熱く疼いている。謁見の時と同じだ。
だが、自身の想いと状況を自覚している分、失神するほど錯乱していたあの時より苦しい気がする。こんなにも淫らな口づけを恥ずかしいと思いながら、それを凌駕する歓喜に包まれてしまう自分が苦しい。サジャミールに翻弄されてばかりの自分が苦しい。砂漠の獅子が伝えようとする愛は、ものを知らない小鳥にはあまりにも乱暴すぎる。
不意に唇が離れ、リリアルーラは薄く目を開けた。困惑しているのはリリアルーラなのに、何故かサジャミールは傷ついたような顔をしている。
「何故、泣くのです……あなたは昼間も泣いていましたね。私が怖い?」
長い指先で涙を拭われ問われても、リリアルーラは返す言葉を見つけられなかった。もう、何もかもがわからなくなってきている。飽和した思考と感情に疲弊しきっているのだ。だが、サジャミールの眉が更に下がったのを見て、小さく首を振った。
「こわいんじゃない、わからないの」
「リリアルーラ」
感にたえないという様子で、サジャミールが頬をすり寄せてきた。拭われなかった涙が彼の頬に染みこんでいく。そのまま彼は上半身をすりつけるようにぐいぐいと押しつけ、リリアルーラの背中を支えた手にも力を入れる。
「あなたは罪深いほど可愛らしい。止まらなくなってしまいそうです」
「なに、が?」
「あなたを愛することが」
噛みつくように口づけられ、リリアルーラは大きく目を見開いた。だからどうして、愛が口づけに繋がるのだ。しかし抵抗しようという気力は、淫らすぎる口づけに溶かされてしまう。奔放に動き回っているようでひどく繊細な舌使いに、身体がぐにゃぐにゃと解けていく。意識も覚束なくなってきた。リリアルーラはサジャミールの思うがまま、口腔の隅々までを味わわれる。
「ん、ふぅ……」
上顎を優しく撫でられ、リリアルーラは肩をビクつかせ甘く啼いた。喉奥から可愛らしい喘ぎを繰り返しては、こくりこくりと唾液を飲み干す。
「リリアルーラ、気持ちいい?」
「きもち、い、です……」
うっとりと答えた声にも潤んだ碧の瞳にも、淫悦への喜びが滲んでいる。しかし半分意識を喪失したようなリリアルーラに、それを自覚できるだけの理性は残っていない。体力もとっくに限界だ。夜明け前に目覚めてから、長く大変な一日を過ごした。その上サジャミールに翻弄され、酒精の強い酒を立て続けに口にもした。いくら酒に強いとは言え、身体は眠りに傾いている。
「ああ、可愛らしいな、リリアルーラ。もっともっとあなたを気持ち良くしてあげたい。……ですがもう、限界のようですね。私もこれ以上は我慢できそうにありません」
冷静なようでいて欲情しきったサジャミールの声も、リリアルーラには遠い。何を言われているのかも定かではなく、蕩けきった瞳はただ、目の前のサジャミールを映しているだけだ。
「明日、この続きをしても構いませんか? 大丈夫ですよ、あなたを傷つけることは絶対にいたしません。あなたが望まないこともしないと誓います」
リリアルーラにはサジャミールの言葉が理解できなかった。ただ、「大丈夫ですよ」だけははっきり聞こえたから、サジャミールが大丈夫というなら大丈夫なのだろうと単純に思う。
普段の彼女なら、大丈夫であるはずがないと断定するだろうに。
「は、い……」
「ありがとう、リリアルーラ。私の運命」
私の運命と呼ばれ、本能からの喜びがリリアルーラを満たした。あどけない笑みをうっとりと浮かべる。
「ではこれは、約束の代わりに」
サジャミールの口づけを受け止めながら、リリアルーラは眠りへと落ちていった。カチャリと小さな音も、彼女には聞こえていなかった。
焦った呻きを舌と共に吸われ、肺に溜まっていた息を鼻から吐き出す。そのまま大きく息を吸い込んだが、何故か頭の靄は晴れない。
「リリアルーラ、上手ですね。そうやって、鼻で息をして」
口を離し、サジャミールが低く甘い声で囁く。何を言ってるの、とリリアルーラは言い返そうとしたが、その時にはもう唇を塞がれていた。ためらいなく入り込んできた舌に驚き奥まで舌を退くと、歯の裏側から下顎にかけてをくちくち細かく舐られる。リリアルーラはむずむずと奇妙な、しかし不快ではない刺激をやり過ごそうとしたが、縮こまらせている舌が痛くて、下顎に溜まる唾液が苦しくて、ほんの少しだけ力を抜いた。途端、待っていたとばかりに溜まった唾液ごと舌を掬われ、じゅるじゅると啜られてしまう。
リリアルーラの身体が大きくびくついた。舌と舌が触れ合った途端、得も言われぬ甘美な衝撃が身体を貫いたのだ。
「ん、ん、ん」
勝手に声が漏れる。どうしてこんな声が出るのかわからない。どうしてビクビク身体が跳ねるほど気持ちが良いのかわからない。それにどうしてサジャミールの舌はこんなに甘いのだろう。リリアルーラと同じ酒を口にしているはずなのに。
はすはすとはしたなくも荒い呼吸を繰り返していることにも気づかず、絡みついてくる舌にリリアルーラは翻弄される。いつか自分の運命に出会えたら愛を込めた口づけを交わすのだろうとは思っていたが、想像ではただ唇同士を合わせるだけのものだった。啜られた唾液を戻されては舌にこすりつけられるような、途方もなく淫らなものであるはずがなかった。
かき回される唾液がべちゃべちゃと音を立て、広がる甘みが霞んだ頭をより朦朧とさせていく。耳を舐められていた時より淫靡な音に、リリアルーラはぎゅうと目を閉じた。眦を涙が落ちていく。呼吸はできているのに、苦しい。頭が、身体が、じんじんと熱く疼いている。謁見の時と同じだ。
だが、自身の想いと状況を自覚している分、失神するほど錯乱していたあの時より苦しい気がする。こんなにも淫らな口づけを恥ずかしいと思いながら、それを凌駕する歓喜に包まれてしまう自分が苦しい。サジャミールに翻弄されてばかりの自分が苦しい。砂漠の獅子が伝えようとする愛は、ものを知らない小鳥にはあまりにも乱暴すぎる。
不意に唇が離れ、リリアルーラは薄く目を開けた。困惑しているのはリリアルーラなのに、何故かサジャミールは傷ついたような顔をしている。
「何故、泣くのです……あなたは昼間も泣いていましたね。私が怖い?」
長い指先で涙を拭われ問われても、リリアルーラは返す言葉を見つけられなかった。もう、何もかもがわからなくなってきている。飽和した思考と感情に疲弊しきっているのだ。だが、サジャミールの眉が更に下がったのを見て、小さく首を振った。
「こわいんじゃない、わからないの」
「リリアルーラ」
感にたえないという様子で、サジャミールが頬をすり寄せてきた。拭われなかった涙が彼の頬に染みこんでいく。そのまま彼は上半身をすりつけるようにぐいぐいと押しつけ、リリアルーラの背中を支えた手にも力を入れる。
「あなたは罪深いほど可愛らしい。止まらなくなってしまいそうです」
「なに、が?」
「あなたを愛することが」
噛みつくように口づけられ、リリアルーラは大きく目を見開いた。だからどうして、愛が口づけに繋がるのだ。しかし抵抗しようという気力は、淫らすぎる口づけに溶かされてしまう。奔放に動き回っているようでひどく繊細な舌使いに、身体がぐにゃぐにゃと解けていく。意識も覚束なくなってきた。リリアルーラはサジャミールの思うがまま、口腔の隅々までを味わわれる。
「ん、ふぅ……」
上顎を優しく撫でられ、リリアルーラは肩をビクつかせ甘く啼いた。喉奥から可愛らしい喘ぎを繰り返しては、こくりこくりと唾液を飲み干す。
「リリアルーラ、気持ちいい?」
「きもち、い、です……」
うっとりと答えた声にも潤んだ碧の瞳にも、淫悦への喜びが滲んでいる。しかし半分意識を喪失したようなリリアルーラに、それを自覚できるだけの理性は残っていない。体力もとっくに限界だ。夜明け前に目覚めてから、長く大変な一日を過ごした。その上サジャミールに翻弄され、酒精の強い酒を立て続けに口にもした。いくら酒に強いとは言え、身体は眠りに傾いている。
「ああ、可愛らしいな、リリアルーラ。もっともっとあなたを気持ち良くしてあげたい。……ですがもう、限界のようですね。私もこれ以上は我慢できそうにありません」
冷静なようでいて欲情しきったサジャミールの声も、リリアルーラには遠い。何を言われているのかも定かではなく、蕩けきった瞳はただ、目の前のサジャミールを映しているだけだ。
「明日、この続きをしても構いませんか? 大丈夫ですよ、あなたを傷つけることは絶対にいたしません。あなたが望まないこともしないと誓います」
リリアルーラにはサジャミールの言葉が理解できなかった。ただ、「大丈夫ですよ」だけははっきり聞こえたから、サジャミールが大丈夫というなら大丈夫なのだろうと単純に思う。
普段の彼女なら、大丈夫であるはずがないと断定するだろうに。
「は、い……」
「ありがとう、リリアルーラ。私の運命」
私の運命と呼ばれ、本能からの喜びがリリアルーラを満たした。あどけない笑みをうっとりと浮かべる。
「ではこれは、約束の代わりに」
サジャミールの口づけを受け止めながら、リリアルーラは眠りへと落ちていった。カチャリと小さな音も、彼女には聞こえていなかった。
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