ひとなつの思い出

加地 里緒

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遭遇

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 リュウの家の前に着いたところで、風呂に入れないだろ。と指摘され「うちで入ってけよ。母さん達も久しぶりにナオに会いたいと思うし」というリュウの言葉に甘え、リュウの家でお風呂を借りることになった。
 リュウの家の中から、飼い犬のダイゴが飛び出してきた。玄関横にある犬用の出入口からだ。俺達が子供の頃から飼っているゴールデンレトリバーで、もう人間でいうとおじいちゃんだろう。
「おっダイゴ、久しぶりだな~俺のこと覚えてるか?」
「ダイゴももうおじいちゃんだけど、ナオにすごい懐いてたし覚えてるよ」
 子供の頃、リュウと二人で捨てられて弱っている状態のダイゴを見つけ、リュウの家で飼うことになった。一緒に育ってきた、兄弟みたいなものだ。随分と月日が経ったため、もう以前のような勢いの元気はないが、それでも俺とリュウの周りでワフワフ!と嬉しそうに尻尾を振り回して喜びを表現していた。
 ダイゴが飛び出してきたことで、誰かが来たことに気付いたのか家人——リュウの母親が玄関から顔を覗かせた。
「まあまあまあ!ナオくん?大きくなったねえ~!お母さんから話は聞いてるから、お風呂入ってきなさい!」
 おばさんは快く、突然の訪問にも関わらず風呂に入らせてくれた。「晩御飯も食べてくでしょ?」と誘われたが、コンビニで買ったものを無駄にしてしまうことになるし…と思い、挨拶もほどほどに自宅へ帰ることにした。
「またいつでも来てね。本当に息子が帰ってきたみたいで……嬉しかったわ。会えてよかった!おやすみなさい」
「俺も久しぶりにおばさん達に会えて嬉しかったです。また来ます」
 おばさんもおじさんも、そしてダイゴも、玄関先まできて見送ってくれた。
 近いし、女じゃないんだから送らなくていいって。という俺の主張は無視され、自宅までリュウに送ってもらうことになった。こういうところも昔と変わっていないようだ。流されやすいようでいて、譲れないところは絶対に譲らない——些細なことでも、頑固なところがあるリュウの性格が俺は好きだった。

「本当にウチに泊まんなくていいの?」
「せっかく久しぶりに帰ってきたんだし、懐かしの我が家で寝るよ。暗いけどあとは寝るだけだし」
 家の前まで本当に送ってくれたリュウは、再び泊まらないか聞いてきたが子供の頃から家族ぐるみの付き合いがあるリュウの家とはいえ気が引けた。
 それに、本心から子供時代を過ごした久しぶりの我が家で過ごしたい気持ちがあったからだ。
 そっか。と納得したリュウは、去り際に何か渡してきた。
「なにこれ 御守り?」
「一人で真っ暗な家の中じゃ、オバケ出たら怖いだろ?オレだと思って抱きしめて寝ていいよ」
 悪戯っ子のような表情をしながら言ってきたが、俺は「お前だと思って抱きしめながら寝るのは気持ち悪いだろ」と笑いながら軽く小突いた。それにオバケを怖がっていたのはどちらかというとリュウの方だ。それも子供の時の話になるが。
 俺は昔から自分で見たもの以外は信じないし、同級生の間で怪談が流行っていたときも、よくある怪談を少しアレンジした話とか、祖母から聞いた話を盛って話したりしていたが――自分が話したものも、同級生が話したものも、まったく怖いと感じたことがなかった。リュウは毎回涙を滲ませながら聞いていたが。
 渡された御守りはポケットにしまい、軽く話をしたあと、「また明日来るよ」と言ってリュウは帰っていった。

 俺も家に入り、縁側で月明かりの下——コンビニで買って来た晩飯を食べながら、親へ無事に着いていることと、電気が通っていなくてめちゃくちゃ不便なことをメッセで送った。
 やることもないし、今日はさっさと寝るか……と鞄の中から持ってきた寝巻きを取り出し、着替えようとしたときにさっきリュウから渡された御守りが床に落ちた。
 そして帰り道のリュウの挙動や言動を思い出す。本当に何だったんだろう——
 他愛もない昔話をしたつもりだったのに、突然真剣な顔になって……俺が知らないか忘れているだけで何か他に出来事があったのだろうか。歯磨きをしながら考えたが、まったく思い出せない。
 ——まあ考えてもわからないものはわからないよな。と気持ちを切り替えて、昼間干しておいた布団を居間に敷いて早々に就寝した。移動で疲れていたのか、昼間の掃除で思った以上に体力を使っていたのか、昼寝をしたにも関わらず、いつもよりかなり早い時間なのにすぐに意識が閉じていく。車の音が聞こえず、虫達の囁きのみの夜なんていつぶりだろう。渡された御守りは、一応枕元に置いておいた。

 翌朝、外から差し込む光で目を覚ました。
 普段、休日は昼まで寝るのに比べるとかなり早い時間だ。といっても10時は過ぎているから、寝た時間を考えると睡眠時間は似たようなものか。
午前中とはいえ、夏なのにこの過ごしやすい気温。今住んでいる都会の家では考えられない。
 そよそよと吹いてくる風を心地よく感じながら、まだ半分寝たままの脳を起こそうとボーッと雑草が伸び放題の庭を眺めていた。そういえば、ばあちゃんもよくそこの縁側で日向ぼっこしてたなあ……

 少しするとようやく脳の方も覚醒してきたので座ったまま背伸びをし、キッチンへと向かった。背後でスマホからメッセの通知音が聞こえたが、どうせ親かリュウだろう。
昨日、洗面所までは掃除ができなかったので、水道を使うならキッチンの流しを使うほかない。
 顔を冷たい水で洗い、ようやくはっきりと目が覚めたところで朝食を食べることにした。朝はパン派の俺は、昨日コンビニで買った惣菜パンを食べながら部屋の中をぐるぐると歩いたり立ち止まったりしながら、今日はどうするかな~……と考えていた。
 そういえばさっきメッセが来ていたことを思い出し、スマホを見るとやはりリュウからだった。
『今からいくよ』
 こいつももう起きているみたいだ。とりあえず『了解』という意味のスタンプだけ返した。
 二つ目のパンを口に運んだ時、布団を片すのを忘れていたことを思い出したのでパンを咥えたまま布団の元へ戻った。ベッドじゃないとこういうとき面倒なんだよな。
 寝相は良い方と自負しているのもあり、布団はほとんど乱れていないのでそのまま折り畳んで部屋の隅へ運ぼうとする。
 その時、寝る前に枕元に置いておいた御守りがないことに気付いた。寝ているうちに手で弾いて飛ばしてしまったのだろうか?
 周囲を探すとすぐに見つかったが、御守りは半分に千切れていた。
 御守り……というか布って、こんなに簡単に千切れるものなのか? 布が寿命だったとか? という疑問が頭の中に浮かんだが、昨日の夜渡されたときも寝る前に枕元に置いたときも綺麗な状態で、そこまで古い物という印象は無かった御守りが真っ二つになっているのは現実だ。力任せに無理矢理上下で引っ張ったとしても、こんな風に千切れたりするものなのだろうか……
 パンを口に咥えたまま、両手で千切れた御守りを持って——リュウになんて言おう、大切なものだったら謝っても取り返しつかないよなあ……と考えていると、キッチンの方角からキャハッキャハッという笑い声が聞こえてきた。昨日、風呂場の方から聞こえてきたあの声らしき音と同じだ。
 しかし今のは外から聞こえてきた気がする。キッチンの窓は閉めて寝たので、少し音が遠く感じたが、家のすぐ外から音がしている。
 家の裏は畑になっていたはずだから、もしかしたら食べ物を漁りにきた動物なのかもしれない。どこかから入り込んで、この家を住処にしている可能性もある。
 真偽を確かめようと、俺はキッチンの窓を開けることにした。

——言葉が出てこない。

——なんだろうあれは。

——家から3m程の場所に黒いモヤのような影のようなモノが佇んでいた。
 あんな動物を見たことも聞いたこともない。
 それは人のような形にも見えるが、人にも動物にも当てはまらない、俺の今までの知識や常識から大きく外れた存在であることだけはわかった。
 あまりにも大きすぎる。熊の類いならば、大きいものは立てばそれくらいあるかもしれないが、2mを余裕で越えているソレは、二本足———黒いモヤが途中で枝分かれして、下の方が半分に分かれている———で地に足をつけてこちらを見ていた。
 顔があるのかもわからないが、何故か俺は見られていると感じたし、俺もそいつから目が離せなかった。

キャッキャッキャッキャッキャッキャッキャッキャッキャッキャッ

 謎の黒いモノは笑い声みたいな鳴き声を発した。やはりあの音は、アイツが正体で間違いないようだ。
 そして、昨日の帰り道に田んぼで見かけた黒い煙みたいなのもアイツだったんだと根拠は無いが俺の中で自然と結びついていた。ということは、昨日風呂場の方から聞こえた声もアイツということになる。家の中にいたのか?
 え、俺 もしかしてついてこられてる? それとも別の個体がいる?
 でも昨日見たアレは、暗かったとはいえ、足らしきものは生えていなかったと思う。
 混乱する俺と冷静に考える俺が脳内で考えを巡らせている中、俺は食べかけのパンを食べることを再開していた。
 もちろん、目はアレから離せないままだ。
「ナオ~!起きてる?入るよ~!」
 突然玄関が開く音と幼馴染の大きい声に、アレへと全神経を向けていた俺は驚きすぎて口の中のパンを詰まらせそうになりゴホゴホすることになった。
「返事くらいしてよ。何してんの?」
 ゴホゴホし続ける俺を見て笑いつつ、詰まらせかけたんだなと察したであろうリュウは床に置いてあったペットボトルを渡してくれた。
 ごっごっごっと水を一気に喉へ流し込んだ俺は、勝手に人の家へ上がってきてることへのツッコミよりも今見たことをリュウに共有したい気持ちが勝った。
「今さ、家の裏の畑になんか黒くてすげえデカいナニカが立ってて、こっち見ながら笑ってたんだよ!あれがオバケってやつなのかな」
 早口で少し笑いながら言った。見たときにオバケとは思わなかったが、オバケと言えばリュウは怖がるかな、とか「まだ寝ぼけてるんじゃないの?」と笑い飛ばしてくれると内心少し思ったからだ。
 しかし、リュウの反応は想像してたものとは正反対だった。
 さっきまで微笑んでいた顔が一瞬にして強張り、目を見開きながら俺の言った言葉を咀嚼して、絶望したような真剣なような表情で問いかけてきた。
「今も、それは見えてるの?」
「えっ?あれ、いなくなってる……ついさっきまでそこの畑にいたんだよマジで」
 再びキッチンの窓へ近づき、畑の方を見たら、目を離した数分のうちにあの黒くてデカいナニカは跡形も無く消えていた。声も聞こえてこないから、完全にどこかへ行ってしまったのだろう。
「御守りは?」
「あっ——その、御守りなんだけどさ、枕元に置いて寝たんだけど、起きたら真っ二つに千切れてて……大切な物だったらごめんな。後で何かお詫びに奢るよ」
 そう言いながら、手に持ったままになっていた千切れた御守りを見せると御守りの状態を見て、更に険しい表情になった。これはまじで謝っても許してくれないパターンかな と考えていると、リュウはいきなり腕を掴んできた。
「ッテェ——なに、まじごめんって……本当に起きたらこうなってて……布団から離れたところに飛んでたから寝てるうちに腕が当たって飛ばしちゃったんだろうけど、わざとじゃないのは信じてくれよ」
「そうじゃない、いや、御守りの状態もだけど、この腕の痣なに?昨日こんなの無かったよね?」
 指摘されて気付いた。右腕に覚えのない痣ができている。俺の掌よりも大きい……というか、見ようによっては掴まれた痕のようにも見える。
「なんだこれ。寝てる間にどっかにぶつけたんかな~それにしてもデカい痣だけど……」
 寝相は良い方の俺だが、昨日寝る前まではこんな痣無かったはずなので、出来たとしたら寝ている間だ。御守りも枕元から飛んでいってたし、昨日の俺は寝相が悪かったのかもしれない。
 腕の痣から顔を上げてリュウの方を見ると、さっきよりも表情が暗くなっている。というかめちゃくちゃ深刻そうな顔で、俯きながら やっぱり…… とか どうして? とか どうすれば…… と独り言を言って焦っているように見える。
 普段のリュウとはまったく違う様子に戸惑いつつも、何か声をかけよう、なんて声をかけよう、と俺も悩んでいると、何か決まったのか俯いていた顔をバッとあげたリュウの顔は決心したようなキリッとした表情に変わっていた。
「とりあえず、大学にこういうことに詳しい友達いるから呼んでくる。その間ナオはばあちゃんの……遺品とか、何か持ってて。家から絶対に出るなよ!あと出来れば居間にいて」
 俺を押しのけてキッチンの窓を閉めながら必死な様子で指示を出してきた。その必死な姿を茶化す気になるはずもなく、何か俺の知らないところで大変なことが起こっているのか?と考えていたが、自分の格好を思い出した。寝起きのままだ。
「えっ、人来るの?俺まだ寝巻きのままなんだけど……」
「着替えてもいいけど、ばあちゃんの遺品探すのが先!ばあちゃんが身につけてた物とか、無ければ――ばあちゃんが写ってる写真でもいい。とにかく急いでそれ見つけて、絶対に離すな」
 そう言い残してリュウは走って出て行った。訳が分からないが、とりあえずばあちゃんの物を探そう。
 母さん達が、遺品整理とかしているはずだけど、何かは残っているはず……と昨日掃除しきれなかった部屋を物色し始めるとすぐに見つかった。
 ばあちゃんがよく使っていた膝掛け、クッション、そして数珠。ばあちゃんが笑顔で写っている写真数枚。
 掃除していないのもあって埃っぽいが、今はそんなことを言っていられない状況な気がする。位牌は都会の家に置いてあるが、昔からの仏壇はそのままになっているので、引き出しの中にあった――いつのものかわからない線香も気休めにはなるかなと思い、ばあちゃんの遺影と一緒に持ち出して居間へ戻った。

 線香に、蝋燭が見つからなかったので煙草用に持っていたライターで直接火をつけ、数珠を持ちながら、ばあちゃんの写真達に見守られつつ着替える。
 ——なんて光景だ。
 普段の俺なら笑い出してしまうところだが、リュウの必死な様子と深刻な顔が頭から離れずそんな気分にもならなかった。
 ササッと着替え終わった後は、折り畳んだ布団を背もたれにして埃っぽい膝掛けを羽織り、クッション——流石に少しは埃を払ったがあまり変わらなかった——を抱きしめながら、数珠を腕につけて線香臭い部屋でばあちゃんの写真に囲まれながらリュウが戻るのを待った。
 そういえばリュウは、村を囲んでいるうちの一つの山の上にある大学に進学して、民俗学を学んでる——とか以前聞いたことを思い出した。友達を呼んでくるって言ってたけれど、あそこの大学に進学した同級生は村の中ではリュウ以外いないはずだし村外のやつを連れてくるのか?だとしたら相当待つことになるな……とかいろいろ考えながら、家から出るなという言いつけを守るため居間で煙草を吸って、スマホでゲームをして待つことにした。

 30分くらい経った頃、玄関がガラッと開く音がするとリュウが大学の友人とやらと共にすぐに居間へ入ってきた。思ったよりずいぶん早い帰還だ。
「おまたせナオ。ちゃんと言ったこと守ってるみたいだね。こいつが大学で知り合った友達で、ケイ。写ってる写真送ったことあるから見たことあるかも」
「どーも初めまして!恵と書いてケイって読みます!突然龍巳が来てびっくりしたけど、話はだいたい聞いてます!」
「はじめまして、龍巳の幼馴染の直哉っす。なんか……いきなりすいません」
 なんだか猫っぽい——が第一印象のその男は、リュウと同じ民俗学を学んでいてゼミも同じらしい。所々ピョンッと髪がはねているふわふわしとした夕焼けのような髪色で、優男っぽいが、背は180㎝くらいだろうか。何かスポーツでもやっていたのか、俺よりも筋肉がついている。同い年ということなので、めんどくさい敬語は無しでお互い敬称無しで呼ぶことにした。友達の友達は友達ってやつだ。
 ケイは県外出身で、大学のために村内に下宿しているが夏休みでも地元に帰るのが面倒という理由で残っていたらしい。霊感がある、所謂〝見える人〟と紹介された。
「で、俺なにも説明されないまま放置されてたんだけどどういうこと?」
 とりあえず説明を求めた。俺だけが状況をまるで理解できていない気がする。
「ナオはさ、トネコ様って話、覚えてる?この村の言い伝えみたいなやつ」
「あ~……確か村の繁栄だか厄災から逃れるためだとかに何年かに一度、生贄?になる人が選ばれて何人か行方不明になる話——だっけ?子供の頃に一回あったよな。人が何人も消えてるのに全然騒ぎにならなかった気がするけど……」
 古い記憶を思い出しながら話した。
 確か、小学生の時に村の何人かが突然行方不明になったはずだ。同じ小学校に通っていたやつも行方不明になった気がする。でも、村の人……というか大人たちは全然騒いでいなかったような——子供に不安を与えないために平静を装っていたのだろうか。
「そう、その話。正確には何年か、じゃなくて十年に一回。これは不定期じゃなくて、十年って周期が決まってるんだ。前回起こったのがオレたちが小五のとき、つまり今年は前回から十年後の年なんだよ」
「僕は他県出身だけど、龍巳とかこの村出身の先輩とかにその伝承聞いてまわっててさ。下宿先の人とか、村の人に授業のレポート書くのに調べてて……って理由つけて色々調べてるんだ。今年帰省しなかった理由も本当はこれ。今年、トネコ様による連れ去りが起きるから」
 ケイは、昔からこういった民間伝承みたいな話や土地神にまつわる話が好きで調べているらしい。それで民俗学の授業で一緒になった、村の住人であるリュウと仲良くなったとのことだ。

 リュウとケイが村のトネコ様伝承について調べた結果、いくつかのことがわかったらしい。
 ・十年に一度、必ず数人が生贄となって行方不明になる
 ・人数は決まっていないが毎回少なくても三人、多いときは五人を超える人が犠牲になっている
 ・調べられた限りでも百年以上前から続いている
 ・生贄になった人の遺体は絶対に見つからないため、行方不明扱い
 ・男女問わず子供や若者が選ばれる
 ・選ばれる生贄は村の血筋を引いている者で、村に住んでいる人に限られる
 ・村の大人達は昔から起こる出来事として受け入れていて、厄災などから守ってくれるなら仕方ないと騒ぐこともしない
 つらつらと、ケイが調べてわかったことを教えてくれた。しかし、今の話でどうしても気になった箇所がある。
「話の流れからして、俺が今回生贄に選ばれたってことだと思うんだけど、俺――条件に当てはまって無いよな?」
 村の血筋を引いている若者という点は当てはまっているが、現在俺はこの村に住んでいない。高一のときに引っ越しているからだ。
「そう、そこなんだよ。だから僕も違う何かかと思った。でも、ナオはトネコ様の姿を見てるんだよね?今日が初めて?」
「あの黒いヤツのこと——だよな。声自体は昨日の夕方、リュウが家に来る直前に家の中から聞こえて……その時は動物か何かか空耳かと思ってたんだけど。そのあと、夜になってからコンビニの帰り道でそれっぽいの見たよ。神社の近くで……」
「なんでその時に言わなかったんだよ!??!!?」
 喋っている途中でリュウが食い気味に突然大きな声を出したので驚いた。ケイも驚いているようで、目を丸くしてリュウの方を見ている。
 俺もこんな風に怒鳴ったリュウは初めて見た。
「いや、あの時はただの煙だと思ったんだよ。この時期に変だなとは思ったけどさ」
「つまり、声だけの状態から数時間で形を得て、今日、不完全な形とはいえ二本足で立っていたってことだよね」
 ケイは落ち着いて状況を確認してきた。あぁ、と頷くとケイは事前に聞いていたのであろう御守りの状態と、俺の腕についた痣を確認させて、と言い、見た後から2人は、 進化してる……一日も経っていないのに何故? 原因は? と議論し始めてしまった。また俺だけが置いてきぼりだ。何か話に入れないか、と頭を巡らせ、アッと気付いたことがあった。
 あっ という言葉は口から漏れていたらしく、2人から 何? どうした? という顔で見られている。
「いや、偶然というかほんと偶々だと思うんだけど……最初の声を聞いたのも、今日姿を見たのもリュウからメッセが来た後で、リュウが家に来るまでの短い間だけなんだよな。神社の前のは関係ないけど……」
 どう考えても偶然が重なっただけだろ、と自分で話しながら恥ずかしくなっていき、途中から声も小さくなりながらとりあえず発言してみた。
「えっ——オレ、メッセなんて送ってないけど……」

 は?
 リュウからの予想外の言葉が信じられなかった。冗談を言っている感じではない。じゃあ、あのメッセは何なんだ?
「いやいやいや、これ自分で見てみろよ。お前から来てんだろ。トークルームも前のと繋がってるし」
「まじで送ってない。ちょっと貸して」
 貸して、というか強制的に奪われた感じだが、俺のスマホ画面を見ながら2人はまた議論を再開した。俺は煙草に火をつけて、二人が結論を出すのを待つことにした。
「これ、昨日のは返信してないけど、今日は返信したってことだよね。昨日のメッセ見たタイミングはいつ?」
 しばらく放置されるかと思っていたが、ケイからすぐに話を振られた。
「え……っと、確か昼寝してて、メッセの通知音で目が覚めたんだけどその時はロック画面すら見なくて……出かけようと思ったときにロック画面で時間見るついでにチラッとメッセ内容だけ確認した感じだったはず——その時はリュウからのメッセだって知らなくて、その直後に声が聞こえてきたかな。そんで廊下に出たタイミングでリュウが来て……その時初めてスマホ開いて、リュウからのメッセだったのを知った」
 昨日のことを思い出しながら二人に説明した。俺の発言を聞いた二人は、再び議論に戻るかと思ったが、すぐにケイが今の時点での情報をまとめた憶測になるんだけどと前置きをして語り始めた。

「何が原因でナオがトネコ様の生贄に選ばれた——魅入られたかはわからないままだけど、恐らく、龍巳のフリをしてトネコ様がメッセをナオに送った。それを見たことにより、ナオに認識される=実体化できたってことじゃないかな。そして、今日返信したことによってさらに認識度……ナオとの繋がりが強くなって、進化したって仮設が立てられる」

 要するには、民から忘れられ荒れ放題になった神社や祠に住んでいる神様の力が信仰心が薄れて弱まっていく原理と同じなんだよ、とケイは解説した。確かにそういった話を本かなにかで読んだことがある。
 昔流行った口裂け女や人面犬などの都市伝説の生き物も、人から人へ話が伝わっていくことでただの噂話から実体化へ成り、時間の経過と共に噂話が廃れていき消えていったそうだ。
 人の想いや感情———そういった類のものはすごいエネルギーを持っているらしい。
 そもそもトネコ様伝承は、昔からこの村に語り継がれている話であるためそこらへんの都市伝説の類いより村の中という限定的な空間でのみなら格段に実体化しやすい。
 しかし、≪十年に一度≫や≪村の若者のみが魅入られ、連れ去られる≫という条件がついている。
 そこで村外に住んでいる、本来なら条件外の俺とのつながりを作るためにリュウのフリをしてメッセを送ってきたのではないか——というのがケイが立てた仮設だった。
 トネコ様が送ったメッセージ……言葉を目にすることで、俺とトネコ様につながりができ、既読をつけたことで更につながりが濃くなった。だから家の中では声だけだったモノが、黒いモヤの形で現れた。
 そして、今日返信したことで、つながりが完全になり——進化したのではないか、ということだった。
「じゃあ、もうリュウからのメッセを見ないようにすればこれ以上何も起こらないってこと?」
「いや、もう既に魅入られた状態だし——まだ幼虫みたいなものだけど実体化まで済んでる。メッセを見なくたって、絶対に方法を変えて接触しようとしてくるはず」
「とりあえずオレのアカウントはブロックしときな。そしたら送られてきてもこっちには表示されないだろ」
 確かに——ブロックすれば相手には知られずにメッセージを受け取らないことができる。言われた通りにリュウのアカウントをブロックした。
 でも、リュウのアカウントをブロックしたところでまた違う人に成り代わってメッセージを送ってくるのではないか?村の人にしか成り代われないとしても、連絡先を知っている村の同年代の人は多数いる。
 そう思い、二人に全員ブロックしておいたほうがいいのかな、と尋ねた。
「それは無いと思うけど……でもスマホを介して接触をしてくる可能性はあるから、もう電源切って鞄の奥の方にしまっておきなよ」
「そうだね。可能性は少しでも減らした方がいい。僕もそのために来たんだし、今できることを最大限やってみよ。これ以上犠牲者を増やすのを止めないと」
 言われた通りに電源を切り、祖母の写真に囲まれた笑顔結界(仮)から出て鞄の一番下にスマホをしまおうとごそごそとしていると、ケイも持ってきた荷物の中身をごそごそし始めていた。
「とりあえず、僕が今すぐにできる処置として……ありがちだけど、この家に盛り塩をしようと思う」
 そう言ってケイは、荷物の中から変わった柄の皿複数枚と、塩の入った袋を取り出して立ち上がっていた。
 盛り塩をまさか生で見ることになるとは思わなかったな……と謎の感動をしたが、今はそんな状況ではない。家のあらゆる出入口———窓も含むらしい———に盛り塩をするとのことなので、俺も何か手伝おうとすると止められた。
「ナオはここから動かないで。というか、ばあちゃんの笑顔結界の中に戻って待ってて」
 お前も笑顔結界って命名してたのかよ 幼馴染だからって思考回路似すぎだろ、と思いながらも、何故そこまで祖母に拘るのか疑問で仕方なかった。
「そういえば、なんでそんなにばあちゃんに拘るんだ?長く使った物には神が宿る~とかいうけど、写真は関係ないじゃん」
「忘れたの!?ナオのばあちゃん、すげえ能力?みたいな力持ってて——しょっちゅう村の人に頼られてたじゃん。家によく人が訪ねて来てただろ」
 言われて思い出した。そういえば俺のばあちゃんは何か不思議な力を持っていて……天気予報では一日中快晴の予報なのに「今日は帰りに雨降るから傘持っていきな」と言われ、学校が終わる頃にいきなり土砂降りになって俺だけ濡れずに帰ってこれたり——何か物を無くしたというと、「ソファーの下にあるよ」とか「二日後に見つかるよ」と的中させたりとか……ある日、リュウと二人で遊びに行こうとしていたら「今日は外で遊ばずに家の中で遊びなさい」と言われ、でも天気良いし……とごねていたら「外で遊んでもいいけど、川には絶対に近づいたらダメだからね」と忠告されたので元々川で遊ぶつもりだった俺達は、仕方なく違う場所で遊ぶことにしたら、その日、行く予定だった川で子供が溺れる事故が起きていた。思い出そうとすればまだまだたくさんある。——よく考えたら、同級生に話していたばあちゃんから聞いた怖い話というのも、ばあちゃんが実体験したものを子供なりに怖さを増して話していたのだった。
 何故こんなことを忘れていたのか——写真の中の笑顔の祖母を見ながら、昔のことを思い出す。いつもにこにことしていて、滅多に怒らない穏やかな人だった。口調も柔らかく、誰に対しても優しい……そんな祖母が俺は大好きだった。葬式だって、本当は出たかった。最後の別れをしたかったんだ。
 そういえば、近所に住んでいるリュウのことも自分の孫のように接していたし、リュウも何かあるたびに俺の祖母に頼っていた。
 村の人も、確かに毎日のように誰かしらが祖母を訪ねて来ていた。何度か応対した記憶があるが、来たときは焦っていたり、涙目になっていた人も祖母と話し、帰る際には皆穏やかな顔になっていたり笑顔で帰っていた。
 そんな、いつも穏やかで、あまり感情の起伏がないような祖母が一度だけ、口調が厳しくなったときがあったのをふと思い出した。例の裏山に行ったのがバレた時だ。あの時なんて言っていたかは思い出せないが、あの祖母がそうなったということはかなりいけないことをしてしまったんだろう。
「そういえば、ばあちゃんは不思議な力持ってたな……なんで今まで忘れてたのかわかんないけど……とりあえず俺は大人しくここにいるよ」
 そういって、俺はばあちゃんの笑顔結界の中へ戻った。死後も写っているというだけで何か効果があるのだろうか。だとしたら俺のばあちゃんの力は凄すぎるのではないか? その力が遺伝していれば、今回のようなことも何か自分で対処できたかもしれないのに——と思ったが、無い物ねだりをしても仕方がない。
 息子である父は普通のサラリーマンだし、ばあちゃんみたいな力も持っていない。はずだ。そりゃ俺にだけ隔世遺伝する都合のいい話は無いよな。
 リュウとケイは、玄関やキッチン、掃除ができていない部屋などにも着々と盛り塩を置いて行っているようだった。ここからは見えないので、二人の足音や話し声を煙草を吸いながら聞いていた。
 勿論俺がいる居間には一番に盛り塩を置いていった。リュウは自分の家のように間取りを覚えているようで、家の中を案内しながら玄関の方から先に、家の奥へと順番に置いて行っているようだった。
 古い家というのもあり、家が狭いわけではないが結構会話が聞こえてくる。今は裏口———キッチンの窓から見える畑の方へ出られる———に置いたとこのようだ。

「あとは風呂場かな。あそこにも窓あるから」
「りょーかい。皿も塩も足りて良かったよ」
 やっと盛り塩設置作業も終わるようだ。ところで俺は盛り塩だらけの家で過ごすことになるのだろうか?電気が通っていないから、夜になって真っ暗な中、不注意で崩してしまったり蹴飛ばしてしまったらどうしよう。

 パンッッ

 何かが割れて破裂するような音が突然聞こえてきた。どちらかが皿を落としてしまったのだろうか?待機命令が出されている俺は見に行くこともできず、居間からどうかしたのか?と二人へ呼びかける。
「やばいやばいやばい。これはもう盛り塩ごときでどうにかなる話じゃない。僕だけの力じゃどうにもならなさそうだから、ちょっと知り合いに電話してくる」
 ケイの焦った声が聞こえてきたと思ったら、廊下からばたばたと足音が聞こえ、リュウだけが居間へ戻ってきた。
 なにがやばいのか。ケイは誰かに電話をかけながら、外へ出て行ったようだった。

「今、一通り家の出入口に盛り塩して回ってきたんだけど、最後に――ナオが最初に声が聞こえてきたって言ってた風呂場に盛り塩を置いたんだ。そしたら、置いた瞬間に皿が割れた。盛り塩も四方に吹き飛んで、現状が予想してたよりもやばいことに気付いた。ケイが今、知り合いの霊媒師に連絡して指示を仰いでる」
 リュウは、少し焦った表情ながらも俺にわかりやすいように何が起こったかを説明してくれた。
 盛り塩を載せるための、あの変わった柄の皿は特別製で強力な霊力が込められていて、つまり盛り塩の効果を底上げする機能が備わっているらしい。それが一瞬で割れた。塩も料理用の塩とかではなく、祓うための塩とのことだ。
 それが四方に飛び散ったということで、ケイも流石に動揺しまくっているらしい。出会って一時間も経っていないが、聞こえてきた声はここで話していたときと様子が違うことが明らかだった。
 ばあちゃんの遺品である、肩から羽織っている埃っぽい膝掛けとクッションを強く抱きしめながら、俺はこれからどうなるんだろう…… 確か、水場って霊とかが集まりやすいっていうもんな…… と漠然と考えていた。説明や仮説を聞いても、二人に比べて自身のことなのに危機感があまりなかった。
「昨日の帰り道は気付かなかっただけだけど、今のところオレがいるときにはトネコ様は現れてない。何か意味があるのかもしれないし、無いのかもしれないけど、スマホでの連絡手段がない以上、オレの傍から離れるなよ」
 突然の男らしい言葉に、男同士ながらドキッとした。俺が女だったら惚れていたかもしれない。カッコよすぎる台詞だ。
「わかった。でもどうするんだ?今日もこの家で過ごす?それともリュウの家に泊まるのか?」
「オレの家はダメ。とりあえず今はケイが戻ってくるのを待とう」
 確かに、リュウの家には家族がいる。リュウは一人っ子のため、他には両親しかいないが――若者でない以上条件には当てはまらない筈。でも俺という例外もあるから油断はできない。
 数分後、電話が終わったのかケイが戻ってきた。
「一先ず、俺の下宿先に行こう。今は帰省してるやつばっかりだし、下宿先のおばさん達も泊まるの許してくれると思う。電話して知り合いの霊媒師に状況説明したら、急いでこっちに来てくれることになった。早くても着くのは明日の朝になるけど——俺の部屋ならトネコ様からの接触も堪えられるはず」
 そう言ってケイは荷物をまとめて、また電話をかけ始めていた。電話をするために、先に外へ出て行ったケイをその場で見送る俺とリュウ。
 俺も泊まるとなると、荷物全部まとめなきゃな——この家にもう一度荷物取りに戻るの嫌だし……と思い、あまり散らかしてはいないものの荷物の整理を始めた。念のため、ばあちゃんグッズも持っていこう。流石にクッションと膝掛けを抱えたまま荷物の整理をするのは難しかったので、笑顔結界の中に一先ず置いておいた。

 パンッパンッパンッパンッ

 さっき聞こえた音と同じ、皿が割れて盛り塩が弾ける音がした。聞こえた方向からして、風呂場の近くあたりだろうか?居間においてある盛り塩を確認した。置かれたときと変わっていない。
 しかし、相当やばい状態になってきているのを感じた。荷物をまとめるのを急がなければ——祖母の写真も持っていくことにして、鞄にまとめて突っ込み、クッションと膝掛けは入らないから手で持って行くか、と鞄を肩にかけた。
「思い 出した ?」
「ん?ばあちゃんの話か?ほんと、なんで忘れてたんだろうな~……まあ物には意識が宿るとかいうし、あのばあちゃんなら不思議な力が残留思念?的な感じで宿ってるかもと思ってさ、一応持ってこうと思って」
 後ろからリュウに声をかけられ、鞄に入らなかったクッションと膝掛けに手を伸ばす。
 その時、床に白い砂のようなものが散らばっていることに気付いた。いや、白い砂じゃない。塩だ。

 ——ハッとした。
 リュウだと思ったが、リュウじゃない。声はリュウそのものだったが、何か違う。絶対的に違う。俺の中の第六感がそう告げて、頭の中で警鐘のサイレンが鳴り響いた。
 塩が散らばっているということは、居間に置かれた盛り塩も弾け飛んだということを意味している。
 つまり、リュウだと思った、リュウの声をして話しかけてきたナニカは、俺のすぐ後ろにいるのだ。
「ふふふふふふふふふふ。迎えに 来たよ」
 俺がリュウじゃないと気付いたことに気付いたのかリュウのフリをするのは辞めて、女の声で再び話しかけてきた。
 女の声と言っても、一人の人間が発している感じではなく、一音一音を違う人が話しているのを無理矢理繋げて言葉にした、昔動画サイトで流行った人力ロイドみたいな感じだった。それが益々不気味さを増していて、俺はもう恐怖で全身が充ちていた。冷や汗が身体を伝っているのがわかる。
 必死に全神経を後ろへ集中させて、気配を探る。リュウはいないのか? 消えた? 連れ去られてしまったのか?
 感じたことのない恐怖に身体を支配されながらも、その感情を押し殺しながら恐る恐る振り返る。

 やはり、俺の後ろには黒いアイツ…トネコ様であろうモノが立っていた。
 2m以上はある巨大な身体を屈めて、顔と思われる部位をこちらへ近づけて俺を見ている。
 今朝見たときよりも、姿がくっきりとしていた。というより、俺の目の前で、どんどんと黒いモヤの中で輪郭がくっきりとしていくのがわかった。ケイの立てた推理通りなら、今俺が直接会話したことにより、また進化しているのだろう。
 輪郭がくっきりしてきたことにより、トネコ様の姿形がとても歪なことに気付いた。腕の左右の長さが違ったり、肩の位置がズレていたり——人型ではあるが、人の形ではなかった。
 俺は顔だけをそちらに向けたまま固まっていた。目が離せない。このまま俺も連れ去られてしまうのだろうか。

「な——っにしてんだよ!!!!逃げろ!!!!」
 大声と共に部屋に駆け込んできたリュウが、勢いそのままで右ストレートをトネコ様の顔面に思いっきりキメた。
 トネコ様って物理攻撃効くのかよ——と思ったが、リュウの右ストレートで不意を突かれたからか巨大な身体がよろめいている。
 俺は、リュウが生きていることへの安堵と渾身の右ストレートを見て恐怖が少し薄れたのか身体も動けるようになっていた。伸ばしたままになっていた手でクッションと膝掛けを掴み、すぐに立ち上がって急いで外へ出た。
 
 リュウは?!と思って振り返ると、俺に続いてすぐに出てきた。ここから居間の様子は見えないが、トネコ様はついてきていないようだ。
 いきなり飛び出してきた俺達を見たケイは、まだ誰かと電話していたようだったが 何?何かあったの? という感じでこちらを見ている。

 リュウは自分の分と俺の靴を持ってきてくれていた。逃げることに必死で何も履かずに飛び出してきたことに自分の足元を見て気付く。
「盛り塩が破裂する音がしたから、家の奥ちょっと見に行ってたんだ。ナオは荷物まとめてたしその間に様子見ておこうと思って——その少しの隙に接触してくるなんて思ってなかった」
「俺、リュウが居間にいると思ってたからさ、リュウの声で後ろから話しかけられて、リュウだと思って普通に会話しちゃった……」
 二人で靴を履きながら会話をしていると、俺達の会話が聞こえてきたのか電話をしていたケイが事態を把握して「また後でかけなおします」と言って電話を切り、とりあえず急いで僕の下宿先へ向かおうと提案してきた。
 自転車で来ていると思っていたのに、二人とも徒歩だった。なんでだよ。自転車使えよ。仕方なく、走ってケイの下宿先へ向かうことになった。

 大学生向けの下宿———というか下宿するのなんて他県から来ている大学生くらいだからだ———をやっているところなんて、大学用に一部山を切り開いて作られた、大学に行くためだけの道への入り口あたりしかないだろう。ここからはコンビニよりも遠い。と言っても狭い村内なので、15分もあれば着くだろう。問題はそこまでずっと走っていられるか、トネコ様に追いつかれないかだ。

 数日分の着替えが入った鞄を持ちながら走り続けるのは、予想以上にキツかった。キャリーケースにしなくて正解だったな、とか最低限の着替えしか持ってこなくて良かった とか思いながら、後ろを時々確認しつつ走る。アイツはついてきていないみたいだ。
 走りながらリュウは、ケイが出て行ってから家の中で起こったことを伝えていた。ケイは、うん うん と相槌を打ちながら何かを考えているようだ。
 コンビニが見えてきたあたりで、急激な吐き気が襲って来た。
「ちょ、ごめ 気持ち悪い」
 そう言って立ち止まった俺は、激しい吐き気から立っていられなくなり地面に両手と両膝をつき四つん這いの状態で勢いよく吐いた。

 ビチャビチャビチャカシャン

 胃の中で消化された吐瀉物が地面に落ちる音の中で、固形の物が一緒に落ちる音がした。
 半分に割れた皿の破片だった。15cm程はある皿の破片が、俺の中から出てきたのだ。その皿の破片をよく見ると、見覚えのある特徴的な絵柄が描かれていることに気付いた。
「これ、僕が持ってきた皿じゃないか——」
 傍でしゃがんで俺の吐瀉物の中の皿の破片を見たケイが、同じことに気付いた。俺は、四つん這いになったまま吐瀉物の前でリュウに背中をさすられていた。
 何故俺の中から皿の破片が?ケイとリュウが盛り塩を家の中に置いて回っている間、俺は居間で待っていたし、わざわざ割れた皿を飲み込む理由がない。そもそもそんなことをした覚えも時間もなかった。
「とりあえず、なんでナオの中から皿の破片が出てきたかは後で考えよう。ナオ、もう動ける?」
「あ、あぁ うん。もう吐き気は治まってる。走れるよ」
 リュウがずっとさすっていてくれたのもあったからか、吐いたからかはわからないが、あれだけ酷かった吐き気は治まっていた。口の中が破片で切れていないのを確認して、吐瀉物の味でいっぱいの口の中を、持っていた水で濯ぎ、再びケイの下宿先へ向かって走り出す。

「ここだよ、僕の下宿先。家主のおばさん達に何も言ってないけど、他に残ってる下宿生いないし大丈夫だと思う」
 やっと着いたケイの下宿先は、案の定大学への道に程近い場所にあった。「ただいまー」と言って玄関の戸をケイが開けると、「おかえりなさーい」と家の中から人の声が聞こえてきた。
「泊めることになるしさ、一応おばさんに説明してくるよ。あっ、この家の中は多分大丈夫。僕が下宿するってなったときに、一通り強めの結界張ってあるから」
 そう言って、ケイは家の中へと入っていった。俺とリュウは玄関の戸を閉めて、その場で待った。上がっていい物なのかどうかわかりかねたからだ。
 ここから見る限りでは、一般的な民家だ。田舎によくある、昭和に建てられた感じの家。外から見た限りでも、俺やリュウの家と差異はほとんどなかった。
 狭い村の中でも、大学付近の方には用があまり無かったため、住んでいたときもほとんどこちらの方へ来たことはなかったが一般の人が余っている部屋を大学生のために開放している——といったところだろうか。
 ケイが言っていた結界というのも気になったが、それらしきものは何も見当たらなかった。
 ケイと家主の話し声が、会話の内容までは聞き取れないが聞こえてくる中、俺とリュウは会話もしないでボーッと家の中を観察していた。程なくして、ケイと家主のおばさんがこちらへ戻ってきた。
「まあ~!もしかして直哉くん?大きくなったわねえ~!恵くんが連れてきたっていうから誰かと思ったわよ~!帰省ついでに恵くんの大学の研究、手伝ってくれるんですって?二人とも真面目ねえ~!龍巳くんの紹介で知り合ったの?直哉くん帰ってくるの久しぶりだものねえ~!」
 おばさん特有のマシンガントークに気圧される。あっはい、そうです、と曖昧に返事をしていると、ケイが慣れた感じで話の流れを変えてくれて、今は他に誰も残ってないから、ゆっくりしてって!とマシンガントークが終わった。
「おばさんの許可も出たし、僕の部屋あっちだから。ついてきて」
 予想以上に歓迎された。大学の研究を手伝うという理由で説明したんだな。
 というか、家主のおばさんは知っている人だった。まあ狭い村だし、まったく見たことがない人の方が少ない。大人達は交流も盛んなため、村の子供は誰々さんの子、といった感じで全員把握しているぐらいだと思う。特に俺は、ばあちゃんが有名だったこともあり、昔は村内を歩いていると知らない大人からよく話しかけられたものだ。
 ケイの部屋に着き、荷物を置いて座ると今までずっと張っていた緊張感みたいなものが一気に抜けた感じがした。リュウも同様のようで、表情が少し和らいでいるように見える。
 そこにケイが飲み物とお菓子を持ってきて、机を囲んで現状確認兼作戦会議を始めることになった。

 まずは、トネコ様の今わかっている情報と状況を再確認しよう、と紙を取り出してケイは現状を書き出した。俺は食べたものを全て吐いてしまったのもあり、お腹がすいていたためお菓子をつまみはじめた。
「僕がいない間に、トネコ様が家の中に現れたんだよね?どんな感じだった?」
 ケイからの質問に、一つ一つ丁寧に思い出して答えていった。俺にも紙を渡されて、どんな見た目だったか描くように促され、絵心がない俺は精一杯描いた。最初に見た煙のような姿、今朝見た足が生えた姿、そして——俺の目の前でどんどんと輪郭がくっきりしていった姿。描きながら、改めてその時の説明をした。

「うん……まあ予想通りだとは思うけど、ナオが直接会話したことによって進化——姿が変わったんだと思う。置いておいた盛り塩が破裂したのはトネコ様が通るときに破裂したんだろうね。で、ナオの中から出てきた皿の謎だけど、割れた皿が何らかの力でナオの中に移動した……何か意味があるのか、無いのかも僕にはわからない。明日来る知り合いに聞いたらわかるかもしれないけど——」
 ケイは、僕は見えるだけ・憑かれやすいってだけで祓う力はないんだよね――と言った。
 そもそも、明日来る知り合いというのも、昔から土地神や伝承について各地を調べまわっている際に強力なモノに憑かれてしまい、たまたま出会ったその人に祓ってもらったのがきっかけで今も縁が繋がっているらしい。
 憑かれやすい体質だが、この土地の伝承——トネコ様は村人の血筋の者しか連れ去らないという限定的条件があるため、自分の安全は保障されていると思い、そのためだけに村内に下宿しているとのことだ。

「でも、この家には強い結界が張ってあるってさっき言ってたよな。トネコ様が怖くないならなんでわざわざ?てか、それっぽいの全然見当たらなかったけど……」
「トネコ様だけが脅威じゃないんだよ。まあナオにとっての今の一番の脅威はトネコ様なんだけど……」
 と前置きをして、ケイは説明をし始めた。
 所謂、見える人にだけ見えるものは結構そこら中にいるらしい。良いモノ・悪いモノ限らず。この家には、その悪いモノが入れないようにしてある。あからさまな御札みたいなのを貼りまくったら他の人にもおばさんにも怒られるから、専門家以外の人が見てもわからないような強力な結界を、何日もかけて構築した。
 特にケイの部屋は家の中でも一番強力。トネコ様も絶対に入ってこられないと思う、と。
 そもそもこの村には、トネコ様の力が強力すぎることもあり悪霊含め人に害を為すモノはほぼいないとも言っていた。毒ををもって毒を制すということだろうか。
 祓う力がない、といったケイだったが、その知り合い霊媒師に手伝ってもらったり教えてもらったりすることで結界は作れるらしい。
 盛り塩は、その中でも一番簡単でお手軽に作れる結界だったんだけどトネコ様を甘く見すぎてたと謝ってきた。ついでに、ケイが言うには盛り塩よりもばあちゃんの笑顔結界の方が効果あるとのことだ。
「そういえば、トネコ様が俺の後ろに現れたのはあそこから出て、ばあちゃんの写真全部、鞄にしまったときだった——」
「うん。龍巳もいない、邪魔な結界もなくなったそのタイミングを見計らったんだろうね。予想以上に頭が回るみたいだよ、トネコ様」
 俺の祖母は、自分が思っていた以上にすごい力の持ち主だったらしい。だった、というか死後もその力を、写っているだけの写真ですら発揮しているのだから頭が上がらない。とりあえず鞄の中からばあちゃんの写真出して手元に置いておこう。
「ケイの部屋が一番強力な結界が張ってあるってことは、もうここに籠城すればいいんじゃない?」
「確かにそれが確実な気がしてきた……トイレは流石に我慢できないけど——」

 バンッ!

 安全な場所ということで、やっと心が和らいできて笑顔も出るようになってきた矢先に窓ガラスに突然何かか思い切りぶつかる音がした。

 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!

 手だ。黒い手が両手で窓ガラスを叩いている。ここは2階だ。普通ならあり得ない。すぐにトネコ様がついてきたんだとわかった。
「大丈夫。絶対に入れないし、外からはこちらの姿も視認できないはずだよ。つながりだけを辿って、ここを突き止めたものの入れなくて怒ってるんだ」
 ケイは落ち着いた表情と声で、今にも死にそうな顔をして窓の方を見る俺の肩をポンポンと叩きながら言った。入れるのならわざわざ窓を叩かずに既に部屋の中に現れていると。あちらからは視認できないという言葉にもすごく安心した。
「でも、今トネコ様がどういう状態まで進化——姿が進行しているのか知っておきたい。怖いと思うけど、ナオ……窓の外覗いて確かめてくれないかな」
 なんてことを言いだすんだこいつは。
 優しくされたと思ったら突然突き落とされた。上げて落とす作戦か?霊感強いならお前が自分で見ればいいだろ。

 多分俺の考えは全て顔に出ていたんだと思う。慌ててケイが言葉を続けてきた。
「あっ、あのね。僕は霊感が強いっていうか、見える人ではあるんだけど、トネコ様は別なんだよ。今も音は聞こえるけど、窓の外を叩く手がぼんやりとしか見えないんだ。多分、霊感がすごい強いわけじゃないのもあると思うけど……僕が村の血筋じゃないからだと思う」
「オレも一緒に見るからさ、ナオも見よう。あちら側からこっちは視認できないんだし、見られているってトネコ様が感じなければこれ以上進化したり力を増すこともないだろ?オレも村の血筋だから姿は見える」
 二人に説得されて、未だにバンバン叩かれている窓の外を三人で見ることになった。
 三人でゆっくりと窓に近づき、目で示し合わせて恐る恐る下を覗く。

 ——いた。

 先ほど家の中で見た姿よりも更に輪郭がくっきりしていて、黒いモヤのようなものもほぼ纏っていないように見える。
「いるね」
「あぁ……さっきよりも身体の輪郭がはっきりし——」

 バンッ!!

 喋っている途中で窓が叩かれたことに驚いて言葉が止まった。
 しかし、叩かれたことで指も五本にしっかりと分かれていることが確認できた。
「僕にはやっぱりぼんやりとしか見えないんだけど、もうほとんど実体化が済んでるって考えてもいい感じなのかな」
 はっきりと見えないケイは、俺達から見えるトネコ様の状態を聞いて状況を把握することに努めていた。
 リュウが、さっき俺が描いたトネコ様のイラストの横に今のトネコ様を窓から観察しながら描いていった。俺より上手いのが悔しい。リュウが描いているのを横目に見ながら、窓の外も見ているとトネコ様が顔を上げてこちらを見た。
 顔?顔だと思う。肩の位置がズレていたり、左右の腕の長さや太さが違っていたりはするが、首があって、その上にあるあれは頭部だろう。それを持ち上げて、こちらへ向けている。
 全身黒い身体で、顔もなにもないじゃないかと思っていたが目と口と思われる部分が真っ赤だった。目も左右の大きさが違っている。クレヨンでぐるぐると丸を描こうとしたらあんな感じになると言ったら伝わるだろうか。
 そして、上下が所々繋がっているが異様なほどに裂けた赤い口が開いた。
「ねえ そこに いるんで しょう?」
 話しかけてきた。しかし、窓際にいるというのに疑問形ということは本当に視認できないらしい。
「今、しゃべったよね?」
「うん……しかも、家で聞いたときより喋り方が普通になってる——」
 ケイはやはり声も聞こえなかったみたいだが、隣で絵を描いていたリュウにも聞こえたらしい。
「喋り方が普通になってるって?どう変化してるの?」
「なんていうか……家で聞いたときは一音一音を違う音声から拾ってきて繋ぎ合わせたみたいなチグハグな声だったんだけど——今聞こえた声は一人の人が喋ったって感じ……って言って伝わるかな」
 家でトネコ様のあの声を聞いたのは俺だけだ。なんて伝えればいいんだろう。ケイは人力ロイドなんて知らないだろうし——と伝え方を考えている時に、今の声をどこかで聞いたことがあることに気付いた。
「描けた。こんな感じ。さっき喋ったときに顔も見えたから、それも描いておいた」
「じゃあもうカーテン閉めちゃおっか。こっちの姿も声も見えないし聞こえないけど、しばらくは諦めないで、窓を叩き続けるだろうし……手だけでも見えたら嫌でしょ?——でもそのうちどこか行くと思うよ」
 絵が描けたといったリュウを見て、ケイはカーテンを閉めた。窓から離れる二人について、俺も机へ戻る。
 リュウが描いた絵は、忠実にトネコ様を描いていた。これで姿がはっきりと見えないケイにもわかりやすい。こんなのが2m以上もあって、突然背後に現れたのか~と普段からそういったモノが見えるケイにすら同情された。

 俺は、さっきからどこであの声を聞いたのかずっと考えていた。
 引っ越した後の都会でではない。もっと昔、この村に住んでいる頃。中学に上がる前だと思う。でもどこで?
 考えに耽っている俺に気付いたのか、トネコ様の描かれた紙から顔を上げてケイが何か気付いたことでもあった?と尋ねてきた。
「いや……まだ思い出してるところなんだけど——今さっき聞こえたトネコ様の声、昔聞いたことあるんだよな。でもそれがどこで、いつ聞いたのかが思い出せなくって……」
「聞いたことがあるってことは、過去にもトネコ様に会ったことがあるってこと?!」
「いや、あんなデカい黒い塊にあった覚えは無い。会ってたら絶対忘れないだろ。もっと違う誰か……なんだろう……」

 必死に記憶を手繰り寄せて、先ほど聞いた声と照らし合わせようとする。同級生?違う。村の誰か?いや、それも違う。俺が子供の頃にトネコ様の連れ去りがあった際に連れ去られて行方不明となった子が下級生にいたが、その子の声でもない。そもそもその子は男の子だった。
「あっ 思い出した。裏山に忍び込んだとき。そこで会った女の子の声に似てるんだ」
「小五のときの話?山の中で迷子になったのは覚えてるけど……女の子なんて会ったっけ?」
「そうそう。覚えてないのか?途中で会っただろ」
 リュウは女の子のことを覚えていないみたいだ。
「裏山って、あの神社がある山だよね?僕も引っ越してきたときに、絶対にあそこには近づくなって念入りに言われたけど、小学生であそこに入ったって……悪ガキだったんだね~」
「地元だからこそだよ。大人達が特に理由も言わずに入るな入るなって言われたら気になるだろ?それで、やめようよ~っていうリュウを無理矢理連れて入っていったんだよ。で、途中で休憩してたら迷子になった。どんどん日が沈んでいく山の中で、二人でどうしよう~ってなってたときに——そう、ちょっと拓けたところに出たんだ。小さい……百葉箱くらいの祠があって、そこで、女の子に会ったんだ。浴衣みたいな……着物みたいな服着てたその子の声がさっきのトネコ様の声に似てた」
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