【完結】中学生の時に火葬場で見初めてきた人外イケメンが、三年後に現れて私を地獄に連れて行くそうなのですが、家事育児が忙しいのでお断りします。

今田ナイ

文字の大きさ
上 下
10 / 19
Ⅲ:十二月第三週:シノニオイ

死神のカードとシノニオイ

しおりを挟む
 
 
 暖房の効いた某ファーストフード店内は、ひといきれと外気温との差でむっとしていた。
 入店早々に美緒から割引券を預かった澄雨が、幹也にお子様セット、自分達用にポテトとコーヒーを購入してトレイに乗せて戻ってくると、女子高校生占い師の美緒はカードを前にして厳しい表情を浮かべて腰を下ろしていた。
 空腹だと言っていたのに、美緒は店内に入るなり四人掛けの席を陣取ってポケットテッシュでテーブルを拭き始めたのだ。そして商売道具のタロットカードを鬼気迫る勢いで並べ出したのである。 

「買ってきたよー。割引券ありがとうー、はい、みーたんは奥に座ってー」

 だが、美緒は返事をすることなく伏せたカードを捲っている。
 普段はゆるふわ系でぽやーっとしている美緒だが、占いをしている時はある種の威厳さえ備わっているように見えるのが不思議だ。

 澄雨は邪魔をしないよう、幹也にナゲットを食べさせつつオマケのオモチャを組み立てる。うっすら曇った窓の向こう、駅前広場の暮れ始めた空を眺めながら、
 ――シノニオイって、言ってたっけ。
 去り際の、赤猫の独り言を思い出していた。そういえば赤猫に初めて出会った時も”匂わない”とか何とか言われた気がする。化粧っ気は無いが、最低限の身だしなみは整えているつもりだ。何かの隠語だろうか、分からない。

 それより問題は、なぜ美緒は赤猫のことに触れないのか、ということだった。

 あの場でなくとも、絶対に興味本位で問い詰めてくると思っていたのだ。追求されても答えようもないが、安心したような物寂しいような複雑な気分である。まるで、美緒には赤猫の姿が見えていないかのようで――一瞬、澄雨は両目を瞬かせる。

 思い起こせば、自分だって赤猫の存在に気付かないことが多いんじゃないか、と。

 なぜかいつも、幹也が手を振って初めて赤猫との会話が始まるのだ。もし幹也がいなかったら自分も美緒のように、赤猫に気付かないのだろうか。もっとも、幹也を連れずにスロープにいくことなどないのだけれど。
 黙々とカードを捲っていた美緒が突然、

「もうっ! 何度やっても駄目っ!」

 そう叫んで、カードが展開されたままのテーブルに突っ伏した。
 澄雨はぬるくなったコーヒーと減ってしまったポテトをおずおずと勧めながら、

「まぁ、そんなに思い詰めなくても」
「まぁ……じゃないよー、私はずうっと、澄雨ちんのことを占ってるのにっ!」
「あ、そうだったんだー」

 緊張感のない澄雨に焦れるように、美緒はタンッとローファーを鳴らしてその場に立ち上がる。

「澄雨ちんの過去にどんなカードが出てもいいの、だって過去の出来事はいまの澄雨ちんを形作った大切な要素なわけだし。未来だってどんなカードが出てもいい、まだ起こってないことだからどうとでもなる。だけど」

 肩で荒く息をしつつ、一気に捲し立てる。

「だけど、問題は『現在』なの。澄雨ちんに付きまとってるカードは、これ!」

 そう言って澄雨の鼻先に突き付けたカードは、ぼろぼろのマントを着た骸骨が鎌を握っている絵柄である。タロットの知識が無い澄雨にも分かる、西洋風の死神だ。

「タチの悪いカードってほかにもあるんだけど、何度やっても死神が出るの」

 私、澄雨ちんのことが心配で――そう力なく呟いた美緒は肩を落として座り込んだ。美緒がカードの意味を説明しないので、澄雨も尋ねなかった。知らなければ影響も受けまい、病は気からというではないか。

「たかが占いだし、気にすることないよ。私、良いことしか信じないし」

 そう言うと、美緒はちょっと悲しそうな顔をした。占い師のプライドを傷付けてしまっただろうか。美緒の気分を変えようと、澄雨はとっさに、

「その……さ、さっきスロープで一緒にいた男の人だけど、美緒はどう思った?」

 オトコという単語を聞いた途端、美緒の目が息を吹き返したように輝き出す。それでこそ、由緒正しい噂話大好き女子高生の姿である。

「澄雨ちんってば、私に内緒で彼氏なんか作っちゃって! しかも男の人って大人ってこと? やるじゃん、今度紹介してよっ! ってか、相性占ってあげようかっ!」
「だから、さっきスロープで私と一緒にいた、派手なスーツの若い男の人で」

 美緒は冷めたポテトを摘みつつ、大きな二重をぱちくりさせながら、

「スロープって、澄雨ちんと幹也君だけでほかに誰もいなかったじゃない?」

 澄雨ちんってば中身がお母さんみたいな癖に油断ならない――という美緒の言葉は、澄雨の耳には入らなかった。やはり、美緒の目には赤猫の姿が映っていなかったのだ。
 澄雨が呆然として窓の向こうの駅前広場に目をやれば、外はもう真っ暗だった。
 
 
しおりを挟む
☆拙作をお読み頂き、誠にありがとうございました。m(_ _)m 第8回キャラ文芸大賞は無事に終了しました。ご愛顧ありがとうごあいました。(-人-)

上記作品の番外編(ミニスカサンタのみ)が入った青春SS短編集です。場所と時期が同じだけで、雰囲気も登場人物まったく異なりますが、もしよかったらのぞいてみてください。ほっこり系です。【青春SS短編集】甘いハナシ【逆ざまぁ?】/オヤジの背中【じんわり】/冬の日のたんぽぽ【切ない】/ミニスカサンタ【ほっこり】【中高生主人公】

動乱によって故国を追われ、飛竜に乗り異界の双竜町へ逃げて来た幼い姫君と王子、そして出会った幼馴染の少年。姫君の心の成長と共にそれぞれの淡い思いが交差する現代ファンタジー(逆異世界転移)です。異界に逃れて十数年、戦が終わったから戻ってこいとか今さら許嫁(王子)に言われても、もうお姫様じゃなくてただの女子高生なんですけど!?第18回恋愛小説大賞にエントリーしています。宜しかったらのぞいてみて下さい。
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

パーフェクトアンドロイド

ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。 だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。 俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。 レアリティ学園の新入生は100名。 そのうちアンドロイドは99名。 つまり俺は、生身の人間だ。 ▶︎credit 表紙イラスト おーい

後拾遺七絃灌頂血脉──秋聲黎明の巻──

国香
キャラ文芸
これは小説ではない。物語である。 平安時代。 雅びで勇ましく、美しくおぞましい物語。 宿命の恋。 陰謀、呪い、戦、愛憎。 幻の楽器・七絃琴(古琴)。 秘曲『広陵散』に誓う復讐。 運命によって、何があっても生きなければならない、それが宿命でもある人々。決して死ぬことが許されない男…… 平安時代の雅と呪、貴族と武士の、楽器をめぐる物語。 ───────────── 『七絃灌頂血脉──琴の琴ものがたり』番外編 麗しい公達・周雅は元服したばかりの十五歳の少年。それでも、すでに琴の名手として名高い。 初めて妹弟子の演奏を耳にしたその日、いつもは鬼のように厳しい師匠が珍しくやさしくて…… 不思議な幻想に誘われる周雅の、雅びで切ない琴の説話。 彼の前に現れた不思議な幻は、楚漢戦争の頃?殷の後継国? 本編『七絃灌頂血脉──琴の琴ものがたり』の名琴・秋声をめぐる過去の物語。

アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1

七日町 糸
キャラ文芸
あの忌まわしい大戦争から遥かな時が過ぎ去ったころ・・・・・・・・・ 世界中では、かつての大戦に加わった軍艦たちを「歴史遺産」として動態復元、復元建造することが盛んになりつつあった。 そして、その艦を用いた海賊の活動も活発になっていくのである。 そんな中、「世界最強」との呼び声も高い提督がいた。 「アドミラル・トーゴーの生まれ変わり」とも言われたその女性提督の名は初霜実。 彼女はいつしか大きな敵に立ち向かうことになるのだった。 アルファポリスには初めて投降する作品です。 更新頻度は遅いですが、宜しくお願い致します。 Twitter等でつぶやく際の推奨ハッシュタグは「#初霜艦隊航海録」です。

【完結】イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります! ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。 稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。 もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作の主人公は「夏子」? 淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。 ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる! 古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。 もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦! アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください! では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!

女子高生占い師の事件簿

凪子
キャラ文芸
佐伯恵果(さえき・けいか)、16歳。 高校生だけど、高校には行っていません。 叔母さんの喫茶店を手伝いながら、占い師をやっています。 これでも、知る人ぞ知る、凄腕(すごうで)の占い師、らしいですよ……? これは、そんな女子高生占い師が見聞きした、さまざまな人たちの記録です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

御伽噺のその先へ

雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。 高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。 彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。 その王子が紗良に告げた。 「ねえ、俺と付き合ってよ」 言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。 王子には、誰にも言えない秘密があった。

処理中です...