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エピローグ:カリカリを捧げよ

事の顛末

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 それから数日後の、いわし雲が浮かぶ晴天の下。
 某地方都市の分譲マンション一階の専用庭にて、季節外れの麦わら帽子を被り、額に汗して鎌を振るう司とその母親の姿があった。
 あの、不動産屋倒産で放置された造成済みの宅地に生える雑草群のようだった庭は、いまは見違えるように綺麗に刈り取られていた。

 半日掛かりで刈り取った雑草は、四十五リットルゴミ袋で実に八袋分である。
 これがお金になればとねぇよく似た顔立ちの母親が笑ったが、司の顔は激しい打ち合いをしたボクサーのように腫れ上がっていた。
 司は生まれて初めて、という理由で皮膚科に行った。

 身に付けている長袖Tシャツとジーンズの下はボコボコと膨れ上がり、顔にいたっては学校を休むほどの――痒みはともかく見た目が――酷いありさまだった。
 ごく短時間で大量の蚊に刺された為、蚊の唾液にアレルギー反応を起こしてしまったらしい。病院では塗り薬と抗生剤を処方された。とにかく、痒くても掻かないことが重要だった。地黒とはいえ、乙女の柔肌に痕を残したくないのなら。

 あの晩、近所のスーパーのレジパートを終えた母親が帰ってくると、家の中はもぬけのからだった。だが、庭から聞こえてくる微かな猫の鳴き声に気付き、それで初めて窓の外を覗いてみる気になったそうだ。

 そこで、蚊に刺され放題で倒れていた司を発見したという寸法である。

 ほどなく意識を取り戻した司だったが、どう考えても信じて貰えないだろうと思われたので一部を端折って――高科親子と一緒に庭で迷い猫を探したことのみを、母親に語ってみた。ひとりで黙っていたら、正気を失いそうだったのだ。
 すると何とも気まずそうな顔をした母親に、あの高科親子が一週間ほど前に他界していることを知らされた。
 不思議なこともあるものねぇとしみじみ呟いてから、

「ほら、雪子ちゃんとは中学の時に仲が良かったから、アンタがショックを受けるんじゃないかと思ってね。回覧板で知ってはいたんだけど、黙っていたのよ」

 田舎の結婚式から戻る途中の高速道路で、高科親子の乗った車は玉突き衝突に巻き込まれたのだ。ぶつけられた拍子に中央分離帯を越えて対向車線に飛び出した車は、大型トラックと正面衝突して大破したという。三人とも即死だった。
 葬儀自体も遠方の田舎で行われ、高校が異なる司には知るすべがなかった。

 また、置き去りにされた子猫――コユキの方だが、数日後に親族の求めで管理人が部屋を開けた際に逃げ出したそうだ。コユキの餌を平気で三日抜く高科親子である。長期外出時にペットホテルへ預ける等の、ごく普通の段取りを怠っていたことも想像に難くない。あの晩、庭に現れた高科親子は、文字通りのだ。

 しかし、生きる意欲に富んだあの白いヤツはすばしっこくて捕まらず、たまたま居合わせたヘタレな自分が代わりに連れ去られるところだったに違いなかった。
 
 
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