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柳田鏡也は一つ年上の幼馴染である。鏡也はいつも幼馴染である黒瀬とばかり遊んでいた。理由は二つある。一つは彼の性格が高圧的で物言いがきついことだ。決して性格が悪いわけではなかった。しかし同じ年頃の子供からは「偉そう」と評価されてしまっていた。もう一つは彼の家庭環境である。彼が自由に遊べる時間はとにかく少なかった。教育ママと呼ぶのが一番分かりやすいだろう。彼の母はそもそも家によその子をあげることを拒否していた。許されていたのは親同士付き合いのある黒瀬とその妹だけであった。黒瀬はこの家で彼女がヒステリックに叫ぶ声を何度も聞いた。平手を打つような乾いた音も、重たいものがぶつかる音も何度も聞いた。黒瀬の記憶にある彼はいつも泣いていた。彼を慰めながら手当てをするのが黒瀬の役割だった。
外で見る彼は凛と澄ました顔をしていて、きれいな黒髪と細身の眼鏡はいかにも真面目で高潔な印象を携えていた。しかし人目のつかない場所では青あざや傷を晒して黒瀬に泣きついていた。その違いに憐れみ以外の感情を覚えだしたのがいつだったか、黒瀬はもう覚えていない。辛い目にあっていることに対する憐れみと、弱さを自分にだけ曝け出してくれる喜びと、きれいな彼についている傷に対する興奮の三つが常に黒瀬の中で渦巻いていた。それでも彼に対して『いい幼馴染』であろうと黒瀬は努力していた。後者二つは出さないように、見せないように努めていたがやはりどこかタガが外れてきていたのだろう。小学校高学年に差し掛かるころ、黒瀬は手当の際にわざと傷を触ることが増えた。痛みに顔をしかめる様子を何度も見た。それが爆発したのは黒瀬が中学一年生のときだった。それは最悪にも、高校受験を見据えた彼の母が過去一番圧力をかけているときであった。
絶対的な味方だと思っていた黒瀬からの暴力に彼の精神は酷く傷ついたらしい。あれ以来、彼は黒瀬とまともに口を聞いてくれない。家庭でも紆余曲折があったようだ。彼は黒瀬と家から逃げ出すように関西にある寮生の高校へ進学した。そこでスポーツに興じ、また同い年の男子生徒と交流を深めて見た目が大きく変化した彼を黒瀬は認識できなくなった。高三の夏休みに帰ってきたときも、数ヶ月前に黒瀬が帰省したときも。そして彼がロテュスへやってきたときも。代わりに黒瀬は他へ求めた。彼の代わりになる人を。
外で見る彼は凛と澄ました顔をしていて、きれいな黒髪と細身の眼鏡はいかにも真面目で高潔な印象を携えていた。しかし人目のつかない場所では青あざや傷を晒して黒瀬に泣きついていた。その違いに憐れみ以外の感情を覚えだしたのがいつだったか、黒瀬はもう覚えていない。辛い目にあっていることに対する憐れみと、弱さを自分にだけ曝け出してくれる喜びと、きれいな彼についている傷に対する興奮の三つが常に黒瀬の中で渦巻いていた。それでも彼に対して『いい幼馴染』であろうと黒瀬は努力していた。後者二つは出さないように、見せないように努めていたがやはりどこかタガが外れてきていたのだろう。小学校高学年に差し掛かるころ、黒瀬は手当の際にわざと傷を触ることが増えた。痛みに顔をしかめる様子を何度も見た。それが爆発したのは黒瀬が中学一年生のときだった。それは最悪にも、高校受験を見据えた彼の母が過去一番圧力をかけているときであった。
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