【R18】囚われの姫巫女ですが、なぜか国王に寵愛されています

くみ

文字の大きさ
上 下
32 / 37
第四章

しおりを挟む
 イレーナはオーランに連れられてある寝室に連れてこられた。
 
 そこには一人、年老いた老婆がいてベッドに横たわっている。
 
 見たところ随分と衰弱しているようだった。
 
「イレーナ、頼む」

「はい」

 イレーナは緊張の面持ちで頷いた。オーランとユーグはそっとイレーナから離れて見守る。
 
 あの夜から一週間以上たっているけれど、イレーナの模様は一度も浮かんでいない。
 
 模様が消えてから初めてイレーナは姫巫女の力を使うことになる。
 
 オーランにあらかじめこのお婆さんは老衰で、死の間際だと伝えられた。
 
 だからたとえ治癒の力が効かなくても気にすることはない、と。
 
 オーランなりに気遣ってくれたのだろう。
 
 若くて重篤の人を治癒の力で治せなかった場合、傷つくからと。
 
 オーランの優しさを身に染みて、それでもこの治癒の力で少しでもお婆さんの寿命が伸びればと思った。
 
 けれど。
 
 どんなに祈ってもいつもならすぐに光るのに、イレーナの身体は変化がないままだった。
 
 何度も何度も、意識を集中させて試みるけれど結果は変わらない。
 
 まだ続けようとするイレーナの肩を後ろからポンとオーランが叩いた。
 
「もういい。もう十分だ」

「ー……ごめん、なさい」

 頭の中では理解していたつもりだけれど、実際に目の当たりにするとやはり想像以上に衝撃があった。
 
 涙を見せるイレーナをオーランが優しく抱き寄せて肩を貸してくれる。
 
 イレーナを気遣いつつユーグが控えめにオーランに問いかけた。
 
「陛下。このことは議会で報告致しますかー? それとも」

「報告せざるを得んだろう。万が一何かあった時に事後報告になるよりは混乱は避けられる」

 ユーグは肩を落としてそうですね、と頷いた。
 
「イレーナ。お前は部屋で休め。いいか? このことは絶対に気に病むな」

「はい」

 気に病むなと言われても心は沈んでしまう。
 
「あの、私ここにいてもいい?」

 イレーナの申し出にオーランは驚いて、どう判断すればいいのか考え込む。
 
「一人で部屋にいるより、このお婆さんのそばについていたいの。お婆さんも一人では寂しいだろうから」

「ー彼女は先日、夫に先立たれてそれもあって倒れたのだろう。気の済むまでそばに居てやるといい」

 オーランの許しを得てイレーナはそばにあった椅子に腰掛けた。
 
「いいんですか?」

「構わん。外に兵をつけてくれ」

 二人のやり取りを背中で聞き流しつつ、眠っているお婆さんを見つめた。
 
 一人になりたくないと思ったのは本当だけれど、それ以外に何処かこの女性が懐かしく感じた。
 
(何処かで会ったことあるのかしら?)

 この国に来て知り合った人は数少ないから忘れることはない。
 
 なんだか気になってそばを離れることができなかった。
 
「治してあげれなくてごめんなさいー」

 イレーナがおばあさんに語りかけると声が返ってきた。
 
「気に病まないでください、姫巫女様」

「っつ。お婆さん?」

 イレーナはびっくりして思わず声を上げた。老婆は皺だらけの瞳をうっすらと開けて微笑んでいる。
 
「私は生い先短い身。陛下に言われてあなたの手助けになれば、と申し出たのです」

 弱々しい声だけれど言葉ははっきりとしていた。
 
「姫巫女様。私は姫巫女様の御国の出身なんですよ」

「えっ」

 イレーナはまたも驚いてすっとんきょうな声を出してしまった。固まっているイレーナにお婆さんは優しく話す。
 
「と言っても、私は五十年前に夫のいるこの国に嫁いできましたから、あなたがいた頃のことは、存じ上げませんがー」

 それでも姫巫女の伝承は古くから伝わっていて研究もされていた。
 
「数年前国に帰った時、神殿であなたを見かけました。女神のように美しくて、眩しかったわ」

「そんなー」

 褒められてイレーナは恥ずかしくなって俯く。
 
「神父とも親しくて聞いたことがあります。姫巫女の力は、恋をすると消えて無くなってしまう。姫巫女が外に出れば、恋を知ってしまう、だから神殿に閉じ込めているとー」

 それはあんまりだとお婆さんは神父に詰め寄ったらしい。恋も知らずに神殿で一生を過ごすなんて悲しすぎると。
 
「私なりに、調べました。恋をすれば、模様は消えるという伝承は確かにありました。
けれど、いずれまた模様は浮かび上がるーとも」

「ほ、本当ですか!?」

 イレーナは前のめりになって聞き返すけれど、お婆さんはどことなく暗い表情をしていて不安を覚える。
 
「定かなことではありません。可能性がある、というだけでずっと消えたままかもしれないとも」

 申し訳ありません、と謝られてイレーナは慌てて頭を振った。
 
「い、いえ。気にしないでください」

「ですが姫巫女様。恋をなさったのですね。私は、孫のことのように嬉しく思います」

 老婆ににっこりと優しく言われて、イレーナは心の緊張が解け思いを口にした。
 
「ごめんなさい。お婆さんの故郷を奪われてしまってー。そして、私は国を奪った男を愛して、しまってー。ごめんなさい」

 お婆さんにも家族が、愛している人がいたのに私のせいでーと肩を震わせて泣くイレーナに、お婆さんはゆっくりと起き上がりぽん、と優しく肩に手を置いた。
 
「あなたは何も悪くないわ。陛下はとっても良い方よ。私が、姫巫女様のご出身の国のものだと知って、こうして時間を作って下さったの。姫巫女様の力になってくれと、頼まれました」

「オーランが?」

 驚いて目を見開くイレーナに、老婆は優しく頷いてそっと手を握ってくる。
 
「姫巫女様。どうか自分の気持ちを大事になさって、ください。故郷のことをずっと、思っていれば、それだけで、亡くなったものは報われます」

「っ、お婆さんー」

 イレーナは家族というものを知らない。生まれてすぐに神殿に預けられたから。
 
 お婆さんの手は皺だらけだったけれど、暖かかった。
 
 初めて会った人なのに、イレーナはすっと心が落ち着いていくのを感じた。
 
「幸せになってくださいね、姫巫女様」

 温かい言葉にイレーナの気持ちは和らいでいった。
 
 
 


 
 

 

 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

優しい紳士はもう牙を隠さない

なかな悠桃
恋愛
密かに想いを寄せていた同僚の先輩にある出来事がきっかけで襲われてしまうヒロインの話です。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

実はわたし、お姫様でした!~平民王女ライラの婿選び~

鈴宮(すずみや)
恋愛
王都の隣町で宝石商の娘として暮らしていたライラ。実はライラは、若くして亡くなったこの国の王太子、クラウスの実の娘だった。 クラウスが亡くなったことをキッカケに、次期王位後継者として強引に城へ引き取られることになったライラ。平民出身の彼女にとって王宮暮らしは窮屈だし、礼儀作法を身に着けるのも後継者教育も苦労の連続。おまけにクラウスの妃であるゼルリダは、継子であるライラに冷たく当たる。 そんな中、ライラは次期王配に相応しい人物を婿に選ぶよう、祖父である国王から厳命を受ける。けれど、王配候補の貴族たちも一筋縄ではいかない癖のある人物ばかり。 果たしてライラは、素敵なお婿さんをゲットできるのか? ※不定期、のんびり更新を予定しています。

ちょいぽちゃ令嬢は溺愛王子から逃げたい

なかな悠桃
恋愛
ふくよかな体型を気にするイルナは王子から与えられるスイーツに頭を悩ませていた。彼に黙ってダイエットを開始しようとするも・・・。 ※誤字脱字等ご了承ください

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

処理中です...