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第三章

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 イレーナが目を覚ますとオーランがベッドの側の椅子に腰掛けて眠っていた。
 
 自分が今どういう状況なのか理解ができずにぼーっとしていると、オーランの瞼がピクリと動いて身じろぎし目を覚ました。
 
「オーラン、私ー」

「イレーナ!!」

 目を覚ましたイレーナに、オーランは驚きに目を見開きいつもの冷静さを失って、飛びつきそうな勢いで椅子から立ち上がった。
 
「目を覚ましたか? 気分はどうだ?」

「少しだるいけど平気よ。オーラン私どうなったのー?」

「毒を飲まされて意識を失っていたんだ。気がついて本当によかった」

 オーランは心底ほっとしたように肩を落とした。

 朧げながら段々と意識が覚醒してきて、あの時のことを思い出す。
 
「ごめんなさい、私ー」

「お前は何も悪くない。悪いのは俺だ。お前を危険な目に遭わせてしまった。すまなかった」

 オーランに頭を下げて謝られてイレーナはびっくりする。
 
「オ、オーラン。やだ、頭上げてよ」

 動揺するイレーナにオーランはさらに信じられないことを口にした。
 
「俺はーお前を愛している」

 真っ直ぐに瞳を見つめられながら言われて心臓が跳ねる。
 
 あまりにも衝撃的すぎてポカンと口を開けて情けない顔つきになり、無意識に布団をぎゅっと掴んだ。
 
「な、なに言ってー」

 震える声でようやく言葉を返すと、オーランは苦笑いを零す。
 
「信じられないだろう? 俺もなぜこうなったのか分からんがー気がついたらお前を姫巫女としてではなく一人の女として、イレーナとして見ていた」

 心臓がきゅっとなって呆然とするイレーナに、オーランは気まずげに視線を下に下ろした。
 
「いきなりこんな話をしてすまなかった。すぐに医師に知らせてくるからそれまで休んでいろ」

 唐突に話を終わらせて椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとするオーランをイレーナは引き止めた。
 
「ま、まって!!」

「ーイレーナ?」

 オーランのガウンの裾をぎゅっと握って引き留める。このまま離れたらもっと距離が開いてしまいそうで怖かった。
 
「わ、私も、オーランが好きー」

 勢い任せにイレーナは思いを告げた。オーランの反応を見るのが怖くてベッドのシーツをじっと見つめる。ガウンを握っている手は緊張で震えていた。
 
 オーランはそっとその手を離し、俯いているイレーナの頭の上に大きな手をポンと置く。
 
 イレーナの髪を優しく撫でながら目を伏せ、苦しそうに話す。
 
「俺はお前を手に入れるためだけにお前の故郷を侵略し、お前を神殿から連れ去った男だぞ」

 そう。オーランはひどい男だ。
 
「ええ。そうよ。そのことはこの先も忘れないし、忘れろと言われても無理だわ。心の奥はずっと憎んでいる。私の大切な人や場所を奪ったのだからー」

 自分でもものすごく矛盾していると思う。そんなひどい男を愛してしまった。
 
「それでも私はあなたのことがー」

 そこまで言いかけてイレーナは息が詰まった。
 
 いきなりオーランに抱きしめられていたから。
 
「俺の側にいてくれないかー? 姫巫女としてではなくイレーナとして」

 オーランの声は震えていた。いつもどんな時でも傲慢で、気丈に振る舞っているオーランしか見たことがなかったから胸が一杯になる。
 
「い、いいの? そばにいても」

「ああ。お前をどんなものからも守ると誓う」

 想いが堪えきれずに涙するイレーナをオーランはもう一度優しく抱きしめてくれる。
 
 イレーナは目を閉じてオーランの暖かい温もりを感じた。
 
 本当のオーランを垣間見た気がした。
 
 しばらくお互いの体温を感じながら抱き合い、オーランはそっと優しくイレーナから離れた。
 
「医師に診せる。まだしばらくは安静にしていた方がいいだろう」

 少し名残惜しかったけれど確かにまだ体はだるいままだった。
 
 もの寂しげな想いが顔に出ていたのかオーランはふっと小さく笑んで、耳元で甘く囁いた。
 
「完治したらたっぷりと甘やかせてやるから、早く元気になれ」

 顔を赤くしながら頷くとオーランも満足げに頷いて、部屋を出ていく。
 
 ただでさえ熱くなっている身体がさらに火照った。


 

 


 
  

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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