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第三章

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 イレーナをすぐに医師に診せると、医師は診察をした後厳しい顔つきで言った。
 
「身体に異常は見られません。恐らく何か猛毒を飲まされたものとー」

「治す方法はないのか!?」

「ー解毒剤がすぐにできればいいのですが、それまで彼女の生命力が持つかどうかー」

 言葉にはしないが恐らくこのままでは命に関わるということだろう。
 
 医師を責める事もできず、やり場のない怒りに翻弄される。
 
 イレーナは身体を震わせて苦痛に耐えている。
 
「イレーナー」

 オーランはイレーナの手をぎゅっと握った。
 
 姫巫女の力があれば治せるのにと矛盾なことを考えてしまう。
 
 姫巫女はイレーナだ。イレーナ自身が病に冒されればこの力など意味はない。
 
 イレーナの模様の跡は消えていた。
 
「ーこの模様が消えたとき、彼女自身に何か異変は起きるのか?」

 オーランは診察道具を片付けていた医師にダメもとで尋ねる。
 
「申し訳ありません。姫巫女様のことは私も分かりかねます」

「そうだろうな。すまない」

 想像していた答えが返ってきて小さくため息を吐いたが、医師が何かを思い出したように口にした。

「ただー姫巫女様の御国で診察をこしていた医師から聞いた話ですがーこの姫巫女の証は恋をすると消えて効力を失うーと」

 医師の言葉にオーランは耳を疑った。
 
 驚きに目を見張るオーランに医師は心配そうな目を向ける。
 
「陛下? 大丈夫ですか?」

「あ、ああ。問題ない。姫巫女は俺が見ている。何かあればまた頼む」

「かしこまりました。陛下もどうか体をご自愛ください」

 オーランの医師でもある彼に苦言されて苦笑が溢れた。
 
「新薬の開発に金が足りなければいつでも申し出よ。毒薬の研究に金は惜しみ出さん」

「ありがとうございます」

 医師は深々と頭を下げて寝室を後にする。
 
 イレーナは今オーランの寝室で眠っていた。
 
 イレーナの自室に残しておくことはできずに、ここで面倒を見るつもりだった。
 
「ー恋をすると模様が消える?」

 眠っているイレーナに視線を向けて医師の言葉を繰り返す。
 
 もしそれが事実ならイレーナは誰かに恋をしていることになる。
 
 そしてその相手はー。
 
 そこまで考えてオーランは顔を顰めた。
 
 こんな時に何を考えているんだ、と自分を叱咤する。
 
 問題は山積みだ。
 
 そもそもイレーナが回復をしないと確かめようもない事実だ。
 
 それまでイレーナのことは気になりつつも、男二人の素性を調べた。
 
 イレーナを幽閉した男二人はやはり南国、ケーロビアの人間だった。
 
 城で働き城下町で暮らしながら頃合いを見計らっていたらしい。
 
 イレーナを標的にしたのは邪魔だったから。
 
 姫巫女がいればいくら毒を撒き散らしたところですぐに回復されてしまう。
 
 イレーナを危険な目に遭わせてしまった。
 
 当初はただ姫巫女として囲うだけだった。抱いたのも単なる戒めだった。
 
 それ以外の感情は持たないし見せない。
 
 あくまで主従関係のような間柄を築くつもりだったが、どこで道を間違えたのかー。
 
「二度とお前を危険な目には遭わせないーだから、目を覚ましてくれ」

 オーランは必死に祈った。
 
 イレーナのことをとりあえずは侍女に任せ、オーランはイレーナを浚った男二人に尋問した。
 
 殺しはせずに毒の解毒剤の作り方を吐かせる。
 
 最初は決して口にはしなかったが、死ぬ一歩手前まできてようやく吐いた。
 
 すぐに解毒剤を作らせるよう命じて、オーランは最後に聞いた。
 
「誰に命じられて姫巫女を狙ったー?」

「へっ、それは口が裂けても、いえねーよ」

「そうか」

 ならば死ねとオーランは剣を振り上げて男二人の首をはねた。
 
「やはり吐きませんでしたね」

「まあ検討はついているさ」

「よかったですね。解毒剤がわかってーこれで姫巫女様は助かります」

 ユーグにしては珍しく優しい言葉だった。
 
「珍しいな。お前が姫巫女を気使うなど。お前は姫巫女のことが嫌いだろう?」

 指摘されてユーグは思わず小さく笑んだ。
 
「私はただ陛下を苦しめる存在がどんなものであれ許せないだけです。今陛下を苦しめているのが姫巫女ならば、姫巫女の回復を願うだけです」

 徹底した忠誠心にオーランはふっと小さく笑みをこぼした。

 すぐに解毒剤を作らせて、完成までに二日かかった。
  
 イレーナの意識は朦朧としていて、医師にも今夜が山場かも知れないと言われたがなんとか間に合ったことにほっと安堵する。
 
 オーランは錠剤を口に含んでイレーナに飲ませた。
 
 飲み込むのも苦労しているようだったが、なんとか飲み込んでくれたことを確認して安堵する。
 
 オーランは一晩中イレーナが目を覚ますまでそばについていた。
 
 
 




 
















 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
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