28 / 37
第三章
7
しおりを挟む
イレーナをすぐに医師に診せると、医師は診察をした後厳しい顔つきで言った。
「身体に異常は見られません。恐らく何か猛毒を飲まされたものとー」
「治す方法はないのか!?」
「ー解毒剤がすぐにできればいいのですが、それまで彼女の生命力が持つかどうかー」
言葉にはしないが恐らくこのままでは命に関わるということだろう。
医師を責める事もできず、やり場のない怒りに翻弄される。
イレーナは身体を震わせて苦痛に耐えている。
「イレーナー」
オーランはイレーナの手をぎゅっと握った。
姫巫女の力があれば治せるのにと矛盾なことを考えてしまう。
姫巫女はイレーナだ。イレーナ自身が病に冒されればこの力など意味はない。
イレーナの模様の跡は消えていた。
「ーこの模様が消えたとき、彼女自身に何か異変は起きるのか?」
オーランは診察道具を片付けていた医師にダメもとで尋ねる。
「申し訳ありません。姫巫女様のことは私も分かりかねます」
「そうだろうな。すまない」
想像していた答えが返ってきて小さくため息を吐いたが、医師が何かを思い出したように口にした。
「ただー姫巫女様の御国で診察をこしていた医師から聞いた話ですがーこの姫巫女の証は恋をすると消えて効力を失うーと」
医師の言葉にオーランは耳を疑った。
驚きに目を見張るオーランに医師は心配そうな目を向ける。
「陛下? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ない。姫巫女は俺が見ている。何かあればまた頼む」
「かしこまりました。陛下もどうか体をご自愛ください」
オーランの医師でもある彼に苦言されて苦笑が溢れた。
「新薬の開発に金が足りなければいつでも申し出よ。毒薬の研究に金は惜しみ出さん」
「ありがとうございます」
医師は深々と頭を下げて寝室を後にする。
イレーナは今オーランの寝室で眠っていた。
イレーナの自室に残しておくことはできずに、ここで面倒を見るつもりだった。
「ー恋をすると模様が消える?」
眠っているイレーナに視線を向けて医師の言葉を繰り返す。
もしそれが事実ならイレーナは誰かに恋をしていることになる。
そしてその相手はー。
そこまで考えてオーランは顔を顰めた。
こんな時に何を考えているんだ、と自分を叱咤する。
問題は山積みだ。
そもそもイレーナが回復をしないと確かめようもない事実だ。
それまでイレーナのことは気になりつつも、男二人の素性を調べた。
イレーナを幽閉した男二人はやはり南国、ケーロビアの人間だった。
城で働き城下町で暮らしながら頃合いを見計らっていたらしい。
イレーナを標的にしたのは邪魔だったから。
姫巫女がいればいくら毒を撒き散らしたところですぐに回復されてしまう。
イレーナを危険な目に遭わせてしまった。
当初はただ姫巫女として囲うだけだった。抱いたのも単なる戒めだった。
それ以外の感情は持たないし見せない。
あくまで主従関係のような間柄を築くつもりだったが、どこで道を間違えたのかー。
「二度とお前を危険な目には遭わせないーだから、目を覚ましてくれ」
オーランは必死に祈った。
イレーナのことをとりあえずは侍女に任せ、オーランはイレーナを浚った男二人に尋問した。
殺しはせずに毒の解毒剤の作り方を吐かせる。
最初は決して口にはしなかったが、死ぬ一歩手前まできてようやく吐いた。
すぐに解毒剤を作らせるよう命じて、オーランは最後に聞いた。
「誰に命じられて姫巫女を狙ったー?」
「へっ、それは口が裂けても、いえねーよ」
「そうか」
ならば死ねとオーランは剣を振り上げて男二人の首をはねた。
「やはり吐きませんでしたね」
「まあ検討はついているさ」
「よかったですね。解毒剤がわかってーこれで姫巫女様は助かります」
ユーグにしては珍しく優しい言葉だった。
「珍しいな。お前が姫巫女を気使うなど。お前は姫巫女のことが嫌いだろう?」
指摘されてユーグは思わず小さく笑んだ。
「私はただ陛下を苦しめる存在がどんなものであれ許せないだけです。今陛下を苦しめているのが姫巫女ならば、姫巫女の回復を願うだけです」
徹底した忠誠心にオーランはふっと小さく笑みをこぼした。
すぐに解毒剤を作らせて、完成までに二日かかった。
イレーナの意識は朦朧としていて、医師にも今夜が山場かも知れないと言われたがなんとか間に合ったことにほっと安堵する。
オーランは錠剤を口に含んでイレーナに飲ませた。
飲み込むのも苦労しているようだったが、なんとか飲み込んでくれたことを確認して安堵する。
オーランは一晩中イレーナが目を覚ますまでそばについていた。
「身体に異常は見られません。恐らく何か猛毒を飲まされたものとー」
「治す方法はないのか!?」
「ー解毒剤がすぐにできればいいのですが、それまで彼女の生命力が持つかどうかー」
言葉にはしないが恐らくこのままでは命に関わるということだろう。
医師を責める事もできず、やり場のない怒りに翻弄される。
イレーナは身体を震わせて苦痛に耐えている。
「イレーナー」
オーランはイレーナの手をぎゅっと握った。
姫巫女の力があれば治せるのにと矛盾なことを考えてしまう。
姫巫女はイレーナだ。イレーナ自身が病に冒されればこの力など意味はない。
イレーナの模様の跡は消えていた。
「ーこの模様が消えたとき、彼女自身に何か異変は起きるのか?」
オーランは診察道具を片付けていた医師にダメもとで尋ねる。
「申し訳ありません。姫巫女様のことは私も分かりかねます」
「そうだろうな。すまない」
想像していた答えが返ってきて小さくため息を吐いたが、医師が何かを思い出したように口にした。
「ただー姫巫女様の御国で診察をこしていた医師から聞いた話ですがーこの姫巫女の証は恋をすると消えて効力を失うーと」
医師の言葉にオーランは耳を疑った。
驚きに目を見張るオーランに医師は心配そうな目を向ける。
「陛下? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ない。姫巫女は俺が見ている。何かあればまた頼む」
「かしこまりました。陛下もどうか体をご自愛ください」
オーランの医師でもある彼に苦言されて苦笑が溢れた。
「新薬の開発に金が足りなければいつでも申し出よ。毒薬の研究に金は惜しみ出さん」
「ありがとうございます」
医師は深々と頭を下げて寝室を後にする。
イレーナは今オーランの寝室で眠っていた。
イレーナの自室に残しておくことはできずに、ここで面倒を見るつもりだった。
「ー恋をすると模様が消える?」
眠っているイレーナに視線を向けて医師の言葉を繰り返す。
もしそれが事実ならイレーナは誰かに恋をしていることになる。
そしてその相手はー。
そこまで考えてオーランは顔を顰めた。
こんな時に何を考えているんだ、と自分を叱咤する。
問題は山積みだ。
そもそもイレーナが回復をしないと確かめようもない事実だ。
それまでイレーナのことは気になりつつも、男二人の素性を調べた。
イレーナを幽閉した男二人はやはり南国、ケーロビアの人間だった。
城で働き城下町で暮らしながら頃合いを見計らっていたらしい。
イレーナを標的にしたのは邪魔だったから。
姫巫女がいればいくら毒を撒き散らしたところですぐに回復されてしまう。
イレーナを危険な目に遭わせてしまった。
当初はただ姫巫女として囲うだけだった。抱いたのも単なる戒めだった。
それ以外の感情は持たないし見せない。
あくまで主従関係のような間柄を築くつもりだったが、どこで道を間違えたのかー。
「二度とお前を危険な目には遭わせないーだから、目を覚ましてくれ」
オーランは必死に祈った。
イレーナのことをとりあえずは侍女に任せ、オーランはイレーナを浚った男二人に尋問した。
殺しはせずに毒の解毒剤の作り方を吐かせる。
最初は決して口にはしなかったが、死ぬ一歩手前まできてようやく吐いた。
すぐに解毒剤を作らせるよう命じて、オーランは最後に聞いた。
「誰に命じられて姫巫女を狙ったー?」
「へっ、それは口が裂けても、いえねーよ」
「そうか」
ならば死ねとオーランは剣を振り上げて男二人の首をはねた。
「やはり吐きませんでしたね」
「まあ検討はついているさ」
「よかったですね。解毒剤がわかってーこれで姫巫女様は助かります」
ユーグにしては珍しく優しい言葉だった。
「珍しいな。お前が姫巫女を気使うなど。お前は姫巫女のことが嫌いだろう?」
指摘されてユーグは思わず小さく笑んだ。
「私はただ陛下を苦しめる存在がどんなものであれ許せないだけです。今陛下を苦しめているのが姫巫女ならば、姫巫女の回復を願うだけです」
徹底した忠誠心にオーランはふっと小さく笑みをこぼした。
すぐに解毒剤を作らせて、完成までに二日かかった。
イレーナの意識は朦朧としていて、医師にも今夜が山場かも知れないと言われたがなんとか間に合ったことにほっと安堵する。
オーランは錠剤を口に含んでイレーナに飲ませた。
飲み込むのも苦労しているようだったが、なんとか飲み込んでくれたことを確認して安堵する。
オーランは一晩中イレーナが目を覚ますまでそばについていた。
0
お気に入りに追加
1,210
あなたにおすすめの小説
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました
春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる