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第三章

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 イレーナが目を覚ますとそこは薄暗い部屋だった。
 
 床は石で敷き詰められ壁は煉瓦でできているが所々にひび割れていて、冷たく寒い。
 
 窓もなく明かりは一切入ってこない。
 
 身体を起こそうとするけれど、力が入らなかった。
 
「お目覚めかい? 姫巫女様」

「あなたはー?」

 二人の見知らぬ男がニヤニヤしながらイレーナを見下ろしていた。
 
「悪く思わないでくれよ。あんたに生きていられちゃ、俺らの計画もうまくいかないんでね」

 男が屈んでいきなりイレーナのネックラインを下げた。
 
「やっ!」

「へー。これが噂の姫巫女の証ってやつか。綺麗な色してるな」

 露わになった乳房の上に浮かぶ模様を見つめ、男は下品な笑いを浮かべる。
 
「や、離して!!」

「いい身体だ。このまま何もしないでいるのは勿体無いな」

 男がごくりと唾を飲む。

「おい。無駄なことはやめろ」

「でもよ。姫巫女の貴重な身体だぜ? どうせあの傲慢な皇帝陛下と毎晩楽しんでるんだろう? なあ?」

 へへ、と卑しげな笑みを浮かべる男に、もう一人壁際に立っていた男が仕方がないなと肩をすくめた。
 
「確かに。普通の人間の女とは違うかもしれないな。最後に気持ちいいことするか?」

「いや、やめてっ!」

 イレーナは必死に抵抗した。両腕と両足は何か紐のようなもので縛られていて身動きが取れないから、なんとか声を張り上げて助けを求める。
 
「だ、誰か! 助けてください!! オーラン!!」

「残念だったな。ここは立ち入り禁止区域で誰も近寄らない場所だ。もちろん皇帝陛下などこんなところには来ない」

 男に乳房を鷲つかみにされて、ゾッとした。力任せに両方の乳房を揉まれて痛みに眉根を寄せる。
 
「おい。先にあれを飲ませろ。万が一奴らがくるかもしれんからな。お楽しみはそのあとだ」

「そ、そうだったな」

 男は鼻息荒く名残惜しげに乳房から手を離し、パンツのポケットから白い錠剤を一つ取り出した。
 
「な、なに」

「気持ち良くなる薬だよ」

 怪しげな錠剤を男はイレーナの顎を持ち上げて強引に口に入れた。
 
「っ」

 吐き出そうとするイレーナの唇を男に塞がれる。
 
 キスをされてイレーナは吐き気がした。
 
(オーラン……)

 イレーナはその錠剤を飲み込んでしまった。
 
 力を無くしたイレーナに男は舌を舐めてもう一度乳房に手を伸ばした。
 
「俺も混ぜろ」

「へへ、たまんねえな」

 男がドレスを引き裂く。コルセットの紐に手をかけたその時だった。
 
 勢いよく扉が開かれる。
 
 錆びていた扉はすぐに開いて床に激しい音を立てて倒れた。
 
「っつー」

 イレーナは息を呑んで目の前に佇むオーランを見やった。
 
 鋭い眼光で見下ろすオーランには怒りしかない。
 
 久しぶりに激しいオーランを見た気がした。
 
 オーランが手に持っていた剣に力を込めると、二人の男は怖気ついてイレーナから即座に離れた。
 
「ひっー」

「死ぬ覚悟はできているんだろうな」

 オーランが剣を振りかざそうとした時、ユーグの切羽詰まった声が響く。
 
「いけません! 陛下、どうか怒りをお鎮めください。この男どもの身辺を調べないとー」

 その後でも遅くないとオーランを宥め、拳を震わせながら剣を下ろした。
 
「連れて行け」

 ユーグに命じ、そばに控えていた兵士とともに二人の男を拘束し、連れて行く。
 
 その場には二人だけが残った。
 
「オ、オーラン、ごめん、なさい。私ー」

「話は後だ」

 乱れたドレスにオーランは苦しげな色を見せ、自分が羽織っていたガウンを着せてくれる。
 
 縛られていた四肢も外してくれて、ようやく緊張の糸が切れた。
 
 乱れた髪をそっと撫で口づけをしてくる。
 
「オーラン、私、変なのー」

「イレーナ?」

 オーランはイレーナの異変に気づく。
 
 呼吸が荒く身体が熱くて苦しい。
 
 吐く息も荒くて目を開けていられない。
 
 怖くて思わずオーランに縋りついた。
 
「イレーナ!!」

 オーランはイレーナのおでこに手を当てる。
 イレーナは驚くほど熱かった。苦しげに肩で呼吸して目も虚になる。
 
 身体は熱いのに悪寒がして震えが止まらなかった。
 
「っつ、何を、何を飲まされた!?」

「わ、わか、んない、でも、白い、錠剤、をー」

 オーランに力強く抱きしめられて、イレーナも腕を伸ばそうとするけれどもう力は入らずに気を失ってしまった。

 
 

 

 

 
 
 
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