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第三章
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オーランはどうしてあんなことをしたのだろう。
そっと模様に目を向けるとはっきりとした幾何学模様が見えて安堵する。
今まで気にも止めていなかったけれど、今は一日に何回も確認してしまう。
今日はまだ一度も消えかけていない。
オーランは模様の異変に気づいたのだろうか。
もしこの模様がなくなって姫巫女としての効力を失ったらー必要ないものと判断されれば、オーランのそばに居られなくなるかもしれない。
最悪殺されることもーとそこまで考えてゾッとする。
イレーナは何度も模様を確かめた。そのことに気を取られているうちにいつの間にか遠くまで来てしまっていたらしい。
「ーあら? ここはどこかしら」
みたことがない廊下に出てしまう。
広い城の中、イレーナが一人で行ける場所は限られていた。
オーランに迷子になるからあまり出歩くなと苦言されたことがあったけれど、まさか本当に城の中で迷子になってしまったのだろうか。
城の中心部とは違い寒くて薄暗く、人は誰もいない。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
もしかしたら今は使われてない建物に来てしまったのだろうか。
来た道に戻ろうと足を翻したとき、いきなり後ろから拘束される。
「きゃっー……!?」
声を上げた途端、口元をハンカチで塞がれてしまった。
鼻にかかったツンとした匂いに眩暈がして、イレーナはその場に崩れ落ちた。
「悪く思うなよ、姫巫女様」
聞いたことのない男の人の声だった。誰か確認しようとしてもそれ以上意識を保っていることができずに、気を失ってしまう。
(オーランー)
気を失う時に頭に浮かんだのはオーランの顔だった。
※
その日夜が更けた頃、オーランは出先から戻ってくると侍女が震えながら報告があると言ってきた。
嫌な予感を覚えながらも侍女の話を聞いて愕然とする。
「なんだとー?」
「も、申し訳ありません! こ、ここのところ姫巫女様は一人になりたいと城の中を散策する時間が増えて。いつもは半刻ほどすればお戻りになるのですが、まだお戻りになっていなくてー。侍女が総出で探していますがどこにもー」
震えながら説明する侍女に苛立ち、声を荒げる。
「城の隅々まで探せ! ユーグ、兵も動員して立入禁止区域も探させろ」
「はっ!!」
オーランは拳を握りしめて怒りを露わにする。
こんなことは初めてだった。
(どこだー、どこにいるー?)
手始めに東屋に行ってみたがいなかった。
一人で城の外に出ることはない。逃走したとも考えにくい。
「くっー」
オーランは胸の痛みを覚えてその場に膝をついた。
「こんな、時にー」
激しい痛みと多汗に苦しむ。
一刻も早くイレーナを見つけなければ。
もし何者かに拉致をされて幽閉されているとすればー。
最悪のことが頭をよぎる。
「陛下!! 大丈夫ですか?」
ちょうどユーグが通りかかって肩をかりて立たせてもらう。
「陛下、少しお休みください。ただでさえここのところの激務でろくに休息も取っていないでしょう」
「何、を、こんな時に悠長に休んでなどいられるか」
オーランは気を奮い立たせながらイレーナを探そうとする。
何か言いたげなユーグにオーランは本音を漏らした。
「お前は失望するかもしれんな。俺がー姫巫女を略奪しておきながらー」
イレーナを愛してしまったー。
その言葉は言えずに飲み込んだが、きっとユーグはもう感付いているだろう。
ユーグは何か思いついたように視線をある建物に向ける。
「ー陛下。南東の建物に地下倉庫がありましたよね」
「南東ー。ああ、あそこはずいぶん長い事誰も立ち入っていないはずだが」
建物自体が古くひび割れもあるため、その建物一帯を立ち入り禁止にしている場所だ。
オーランとユーグは顔を見合わせて、うまく歩けないオーランを支えながらも急いでその場に向かった。
そっと模様に目を向けるとはっきりとした幾何学模様が見えて安堵する。
今まで気にも止めていなかったけれど、今は一日に何回も確認してしまう。
今日はまだ一度も消えかけていない。
オーランは模様の異変に気づいたのだろうか。
もしこの模様がなくなって姫巫女としての効力を失ったらー必要ないものと判断されれば、オーランのそばに居られなくなるかもしれない。
最悪殺されることもーとそこまで考えてゾッとする。
イレーナは何度も模様を確かめた。そのことに気を取られているうちにいつの間にか遠くまで来てしまっていたらしい。
「ーあら? ここはどこかしら」
みたことがない廊下に出てしまう。
広い城の中、イレーナが一人で行ける場所は限られていた。
オーランに迷子になるからあまり出歩くなと苦言されたことがあったけれど、まさか本当に城の中で迷子になってしまったのだろうか。
城の中心部とは違い寒くて薄暗く、人は誰もいない。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
もしかしたら今は使われてない建物に来てしまったのだろうか。
来た道に戻ろうと足を翻したとき、いきなり後ろから拘束される。
「きゃっー……!?」
声を上げた途端、口元をハンカチで塞がれてしまった。
鼻にかかったツンとした匂いに眩暈がして、イレーナはその場に崩れ落ちた。
「悪く思うなよ、姫巫女様」
聞いたことのない男の人の声だった。誰か確認しようとしてもそれ以上意識を保っていることができずに、気を失ってしまう。
(オーランー)
気を失う時に頭に浮かんだのはオーランの顔だった。
※
その日夜が更けた頃、オーランは出先から戻ってくると侍女が震えながら報告があると言ってきた。
嫌な予感を覚えながらも侍女の話を聞いて愕然とする。
「なんだとー?」
「も、申し訳ありません! こ、ここのところ姫巫女様は一人になりたいと城の中を散策する時間が増えて。いつもは半刻ほどすればお戻りになるのですが、まだお戻りになっていなくてー。侍女が総出で探していますがどこにもー」
震えながら説明する侍女に苛立ち、声を荒げる。
「城の隅々まで探せ! ユーグ、兵も動員して立入禁止区域も探させろ」
「はっ!!」
オーランは拳を握りしめて怒りを露わにする。
こんなことは初めてだった。
(どこだー、どこにいるー?)
手始めに東屋に行ってみたがいなかった。
一人で城の外に出ることはない。逃走したとも考えにくい。
「くっー」
オーランは胸の痛みを覚えてその場に膝をついた。
「こんな、時にー」
激しい痛みと多汗に苦しむ。
一刻も早くイレーナを見つけなければ。
もし何者かに拉致をされて幽閉されているとすればー。
最悪のことが頭をよぎる。
「陛下!! 大丈夫ですか?」
ちょうどユーグが通りかかって肩をかりて立たせてもらう。
「陛下、少しお休みください。ただでさえここのところの激務でろくに休息も取っていないでしょう」
「何、を、こんな時に悠長に休んでなどいられるか」
オーランは気を奮い立たせながらイレーナを探そうとする。
何か言いたげなユーグにオーランは本音を漏らした。
「お前は失望するかもしれんな。俺がー姫巫女を略奪しておきながらー」
イレーナを愛してしまったー。
その言葉は言えずに飲み込んだが、きっとユーグはもう感付いているだろう。
ユーグは何か思いついたように視線をある建物に向ける。
「ー陛下。南東の建物に地下倉庫がありましたよね」
「南東ー。ああ、あそこはずいぶん長い事誰も立ち入っていないはずだが」
建物自体が古くひび割れもあるため、その建物一帯を立ち入り禁止にしている場所だ。
オーランとユーグは顔を見合わせて、うまく歩けないオーランを支えながらも急いでその場に向かった。
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