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第二章
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イレーナはすぐにオーランの寝室を訪ねた。
「オーラン。大丈夫?」
「ふっ、お前に心配されるのは悪くないな」
軽装に着替えベッドに横になっていたが、軽口を言うくらい元気で少しほっ
とした。
「イレーナ様。陛下はお疲れになっております。あなたが来ては休まらない」
ユーグに苦言されて、イレーナは少しムッとしながらも退出した。
「ーイレーナ。アイザックの相手をしてやってくれるか? 退屈してるだろう
からな」
「分かりました」
ぺこりと頭を下げて部屋を後にすると、廊下でアイザックが一人立ってい
た。
「アイザック王子。あ、陛下ならまだ起きてらっしゃいますよ」
「いや、君を待ってたんだ。僕が見舞いに来ても嬉しくもなんともないだ
ろ?」
軽やかに笑ってアイザックは歩き出し、イレーナも後ろをついて歩く。
「あの、陛下とは長いお付き合いなんですか?」
「そうだね、幼少の頃から国同士の交流があったからな。今じゃ一番の友好国
だよ」
中庭にでてベンチに腰掛ける。
少し疲れた体に夜風が気持ちよかった。
「あいつはすごいな。こんな大きな国のトップに立って市民の生活をしっかり
と守ってる。性格はあんななのにな」
小さく笑ってアイザックは空を見上げた。
「アイザック王子はー陛下のことをどこまでご存じなんですか?」
アイザックならオーランのことを全て知っているように思えた。
あんな風に気軽に誰かと話すのを見たのは初めてだったから。
「君はーどこまで知ってるの?」
意味深に質問を返されて、イレーナは何も知らないと頭を振った。
「残念ながら僕も詳しいことは知らない。何か抱えていることはずっと気づい
ているけどね。あいつは誰にも心を開かないからな。孤独な男だ」
アイザックは困ったやつだと嘆息した。
「君ならオーランが閉ざしている心頭の鍵を、開けることができるかもしれな
い」
「ーそんな……。私はただの生贄です。あの男に国を滅ぼされて私は家族も失
い、帰る国もないんです」
「今もあいつを恨んでるの?」
イレーナは答えに詰まる。
「分かりませんー。憎い気持ちはもちろん今もあるけれど、それ以上にー」
オーランのことが気になって仕方がない。オーランが何かを抱えているのな
ら助けになりたいとすら思うようになった。
こんな気持ちを持つことは母国に対して裏切ることになる。
「障害ある方が恋って燃えるの知ってる?」
「恋って……」
「お互いに気づいていないか。淡いねぇ」
羨ましいと笑うアイザックに、イレーナは口籠もる。
「他のことは何も考えずに、アイツのことだけを考えてみたら? 考えるだけ
なら自由だろ?」
さてと、とアイザックは立ち上がって背伸びをした。
「そろそろ戻るかな。今夜は楽しかったよ」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
笑顔で手を振るアイザックに会釈をし、イレーナはベンチに腰掛ける。
もう少し夜風に当たりたかったのもあるけれど、アイザックに言われた通り
素直になって考えてみたかった。
オーランのことを。
「オーラン。大丈夫?」
「ふっ、お前に心配されるのは悪くないな」
軽装に着替えベッドに横になっていたが、軽口を言うくらい元気で少しほっ
とした。
「イレーナ様。陛下はお疲れになっております。あなたが来ては休まらない」
ユーグに苦言されて、イレーナは少しムッとしながらも退出した。
「ーイレーナ。アイザックの相手をしてやってくれるか? 退屈してるだろう
からな」
「分かりました」
ぺこりと頭を下げて部屋を後にすると、廊下でアイザックが一人立ってい
た。
「アイザック王子。あ、陛下ならまだ起きてらっしゃいますよ」
「いや、君を待ってたんだ。僕が見舞いに来ても嬉しくもなんともないだ
ろ?」
軽やかに笑ってアイザックは歩き出し、イレーナも後ろをついて歩く。
「あの、陛下とは長いお付き合いなんですか?」
「そうだね、幼少の頃から国同士の交流があったからな。今じゃ一番の友好国
だよ」
中庭にでてベンチに腰掛ける。
少し疲れた体に夜風が気持ちよかった。
「あいつはすごいな。こんな大きな国のトップに立って市民の生活をしっかり
と守ってる。性格はあんななのにな」
小さく笑ってアイザックは空を見上げた。
「アイザック王子はー陛下のことをどこまでご存じなんですか?」
アイザックならオーランのことを全て知っているように思えた。
あんな風に気軽に誰かと話すのを見たのは初めてだったから。
「君はーどこまで知ってるの?」
意味深に質問を返されて、イレーナは何も知らないと頭を振った。
「残念ながら僕も詳しいことは知らない。何か抱えていることはずっと気づい
ているけどね。あいつは誰にも心を開かないからな。孤独な男だ」
アイザックは困ったやつだと嘆息した。
「君ならオーランが閉ざしている心頭の鍵を、開けることができるかもしれな
い」
「ーそんな……。私はただの生贄です。あの男に国を滅ぼされて私は家族も失
い、帰る国もないんです」
「今もあいつを恨んでるの?」
イレーナは答えに詰まる。
「分かりませんー。憎い気持ちはもちろん今もあるけれど、それ以上にー」
オーランのことが気になって仕方がない。オーランが何かを抱えているのな
ら助けになりたいとすら思うようになった。
こんな気持ちを持つことは母国に対して裏切ることになる。
「障害ある方が恋って燃えるの知ってる?」
「恋って……」
「お互いに気づいていないか。淡いねぇ」
羨ましいと笑うアイザックに、イレーナは口籠もる。
「他のことは何も考えずに、アイツのことだけを考えてみたら? 考えるだけ
なら自由だろ?」
さてと、とアイザックは立ち上がって背伸びをした。
「そろそろ戻るかな。今夜は楽しかったよ」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
笑顔で手を振るアイザックに会釈をし、イレーナはベンチに腰掛ける。
もう少し夜風に当たりたかったのもあるけれど、アイザックに言われた通り
素直になって考えてみたかった。
オーランのことを。
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