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第一章
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イレーナは治療を終えるとその場で崩れるように倒れた。
やはり外での世界でこの力を使うことは、体に負担がかかるらしい。
一日休めば体調は回復した。すぐに重症者の治療を再開しようと思ったが、オーランに止められた。
「無理することはない。しばらくは休養していろ」
「でももう一人の方も早くしないと」
「それはそうだが」
思案するオーランにイレーナは思わず苦笑してしまう。
「あなたって変わってるわね。私を無理矢理攫ったのに私のことを気を遣ったりして」
「ー無理させてお前の力が失われたら困る。お前にはまだまだこの国のために働いてもらうつもりだからな」
オーランの顔が至近距離に迫り、イレーナは思わず一歩引く。
不遜に笑ったオーランはイレーナをベッドに寝かせ、部屋を後にした。
「本当に、分からない人……」
傲慢なくせにふとした時に優しさを見せたり、調子が狂う。
イレーナの体調の変化を観察しながら、二日置きに重症の騎士を治療することになって今日も騎士宿舎で治療を終えた。
執務があるオーランと途中で別れて自室に戻ろうとした時、大臣のシルヴァンに声を掛けられる。
「姫巫女様、お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
警戒心を露わにして挨拶を返すと、シルヴァンは皮肉めいた笑みを浮かべながら嫌味ったらしく言ってのける。
「随分と国王様に可愛がられていますな。一体どんな手を使われたのか」
イレーナの身体を上から下まで眺めみて、ふっと不遜に笑った。
「あまり気を許さないほうがいいですよ。あの男はあんたが思っているよりも残忍なお方だ。あんたのことを道具としか思っていない」
イレーナのことを道具としてしか見ていないことなど分かっているし、気を許したつもりもない。
「そんなこと、わかっているわ」
「わかっていらっしゃるなら結構ですが、姫巫女としてもっと力を振るってもらわないとな。あのお方には敵が多くおられる。この国もいつまた戦に巻き込まれることやら。私はまだ命が惜しいんでね」
頼みますよ、とイレーナに念を押してシルヴァンは去っていった。
シルヴァンはオーランとは違った傲慢さで接してくる。
きっとイレーナのこともよく思っていないのだろう。
イレーナは嘆息して暗い気持ちで自室に戻った。
「視察?」
「ああ。街にでて市民の様子を視察する。お前も体調が良ければ来るといい」
翌日、街へ出かけるというオーランに一緒に来ないかと誘われた。
イレーナはオーランとユーグ、そして五人の傭兵を連れ立って街に出た。
国王であるオーランが乗る馬車は金の装飾がされた派手なものだ。
この馬車が通ると国王が乗っている、と市民に分かるようになっている。
宮殿の外に出たのは最初この国に連れてこられた時以来だった。
街は相変わらず活気にあふれている。
国王の馬車が通れば市民は頭を下げて敬意を示すという光景が、あちこちでみられた。
「降りよう」
馬車を路肩に止めてオーランが降り、イレーナの手をとって馬車から降ろされた。
「国王様、万歳!! 姫巫女様、万歳!!」
「え……?」
オーランを歓迎するならまだしも、イレーナにまで熱い視線を送られて戸惑っているとオーランが可笑しそうに笑んだ。
「姫巫女は今じゃ、この国の女神様として崇められているからな」
「う、うそ」
街の市民が好機な目でイレーナを見つめている。
「あれが噂の姫巫女様だよ、噂通り若くて美人だわ」
「いやあの細っこい体に本当にその不思議な力ってのはあるのかね?」
「これ、失礼なこというもんじゃないよ!!」
こんなに大勢の人に注目を浴びたことなどないイレーナは、緊張のあまり顔が真っ赤になる。
「しばらく自由に街を散策させてもらうぞ」
市民に手を振りながらオーランは街中を散策した。
やはり外での世界でこの力を使うことは、体に負担がかかるらしい。
一日休めば体調は回復した。すぐに重症者の治療を再開しようと思ったが、オーランに止められた。
「無理することはない。しばらくは休養していろ」
「でももう一人の方も早くしないと」
「それはそうだが」
思案するオーランにイレーナは思わず苦笑してしまう。
「あなたって変わってるわね。私を無理矢理攫ったのに私のことを気を遣ったりして」
「ー無理させてお前の力が失われたら困る。お前にはまだまだこの国のために働いてもらうつもりだからな」
オーランの顔が至近距離に迫り、イレーナは思わず一歩引く。
不遜に笑ったオーランはイレーナをベッドに寝かせ、部屋を後にした。
「本当に、分からない人……」
傲慢なくせにふとした時に優しさを見せたり、調子が狂う。
イレーナの体調の変化を観察しながら、二日置きに重症の騎士を治療することになって今日も騎士宿舎で治療を終えた。
執務があるオーランと途中で別れて自室に戻ろうとした時、大臣のシルヴァンに声を掛けられる。
「姫巫女様、お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
警戒心を露わにして挨拶を返すと、シルヴァンは皮肉めいた笑みを浮かべながら嫌味ったらしく言ってのける。
「随分と国王様に可愛がられていますな。一体どんな手を使われたのか」
イレーナの身体を上から下まで眺めみて、ふっと不遜に笑った。
「あまり気を許さないほうがいいですよ。あの男はあんたが思っているよりも残忍なお方だ。あんたのことを道具としか思っていない」
イレーナのことを道具としてしか見ていないことなど分かっているし、気を許したつもりもない。
「そんなこと、わかっているわ」
「わかっていらっしゃるなら結構ですが、姫巫女としてもっと力を振るってもらわないとな。あのお方には敵が多くおられる。この国もいつまた戦に巻き込まれることやら。私はまだ命が惜しいんでね」
頼みますよ、とイレーナに念を押してシルヴァンは去っていった。
シルヴァンはオーランとは違った傲慢さで接してくる。
きっとイレーナのこともよく思っていないのだろう。
イレーナは嘆息して暗い気持ちで自室に戻った。
「視察?」
「ああ。街にでて市民の様子を視察する。お前も体調が良ければ来るといい」
翌日、街へ出かけるというオーランに一緒に来ないかと誘われた。
イレーナはオーランとユーグ、そして五人の傭兵を連れ立って街に出た。
国王であるオーランが乗る馬車は金の装飾がされた派手なものだ。
この馬車が通ると国王が乗っている、と市民に分かるようになっている。
宮殿の外に出たのは最初この国に連れてこられた時以来だった。
街は相変わらず活気にあふれている。
国王の馬車が通れば市民は頭を下げて敬意を示すという光景が、あちこちでみられた。
「降りよう」
馬車を路肩に止めてオーランが降り、イレーナの手をとって馬車から降ろされた。
「国王様、万歳!! 姫巫女様、万歳!!」
「え……?」
オーランを歓迎するならまだしも、イレーナにまで熱い視線を送られて戸惑っているとオーランが可笑しそうに笑んだ。
「姫巫女は今じゃ、この国の女神様として崇められているからな」
「う、うそ」
街の市民が好機な目でイレーナを見つめている。
「あれが噂の姫巫女様だよ、噂通り若くて美人だわ」
「いやあの細っこい体に本当にその不思議な力ってのはあるのかね?」
「これ、失礼なこというもんじゃないよ!!」
こんなに大勢の人に注目を浴びたことなどないイレーナは、緊張のあまり顔が真っ赤になる。
「しばらく自由に街を散策させてもらうぞ」
市民に手を振りながらオーランは街中を散策した。
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