上 下
2 / 37
第一章

連れ去られた姫巫女

しおりを挟む
   どうしてこうなったのか、訳が分からなかった。
 
 
 いつものように神殿で儀式をしていただけなのに、いきなり屈強な男が大勢侵略してきて、イレーナは連れ去られた。
 
 
 イフラー国は無事なのかー。国王様はどうされたのかー。お母様とお父様はー。
 
 
「うっ……」


「-目覚めたか」


「っつ……!?」


 ふいに聞こえてきた低音にびくっと身を竦ませた。
 
 
 ぼやけた視界に、イレーナの傍らで胡坐をかき酒を飲んでいる男の人が映る。
 
 
 小さな小窓に照らされた三日月の光に負けないくらいキラキラと輝く金色の髪に、鋭い眼光を放つ金色の瞳。
 
 
 逞しい体躯をした男性をイレーナは物珍しいような眼差しでまじまじと凝視した。
 
 
(男の人はみな、こんな風に美しいのかしら)   
 
 
 イレーナが今までみた男性は、みな白髪の老人だった。それ以外に治療に来ていた中には若い男性もいたが病気ということもあってやつれていたことが多かった。
 
 
 だから健全な成人男性をみたのは、これがはじめてだった。
 
 
 まるで夢幻でも見ているかのような錯覚に陥る。
 
 
 いや、夢幻のままでいてほしかった。
 
 
「どうした? 俺に惚れたか?」


 ニヤリと可笑しそうに笑いかけられて、ようやく我に返ったイレーナは慌てて顔をそらす。
 
 
「俺の国までまだしばらくかかる。もう少し寝ていろ」


「ここはー?」


 男性のあまりに優しい言いぐさに、イレーナは思わず問いただした。
 
 
「海の上ー。船の中だ。俺の国は海の向こう岸にある」


 やはりここはもうイフラー国ではないことが分かってしまい、胸が締め付けられた。


   イレーナは冷たい床に寝かされたわけでもなく、船の上のはずなのに立派な寝所があって、ふかふかのベッドの上で寝かされていた。

 
   もっと手酷い扱いを受けると思っていた。
 
 
   その部屋にはイレーナと男性以外誰もいなかった。


    いつでもイレーナを殺そうと思えば殺せる状況だが、とりあえず今のところはその危機はなさそうだ。


    色々と聞き出したいことはあったけれど、
慣れない外での空気に疲労して、イレーナはそのまま深い眠りに落ちたのだった。   
 
 
 イレーナを連れた一行は船を港に停泊させ、ザフラ国へと降り立った。
 
 
 大国ザフラは海に面する国で、貿易も盛んだ。港にはいくつも船が停泊していて、人々も活発に行き来している。
 
 
 イレーナが乗っていた船も大きく立派なものだった。
 
 
 初めてみる外の景色に、何度も目を瞬き見入る。
 
 
「どうだ? 我が国が気に入ったか?」


 誇らしげに笑いかけられて、イレーナはぱっと視線を逸らした。
 

 物珍しさに心を奪われてはならない。

   
    イレーナは隣を歩く男性に目を向けた。


   イレーナを担いで強引にさらったくせに、とても捕虜のような扱いではなかった。


    あの神殿で見せた猛々しい迫力が嘘のように、柔らかな相貌を見せている。
 
 
 両手首を薄いロープで後ろに縛られているが、痛みはなく縛り方も緩くて形式的にやっているだけのように思えた。
 
 
 すぐに抜け出せそうだが、イレーナには逃げるという意識がなかった。
 
 
 逃げたところでどうせすぐに捕まることくらいは、分かる。
 
 
 きっとこの男性もそれを汲んでいるのだろう。
 
 
「今から玉座の間に来てもらう。話しはそれからだ」


 拒否は許さないーという威圧感に身構える。やはりこちらの方が素なのだと思った。

    イレーナは黙って従い、男の住処である王宮に連れていかれたー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悩んでいる娘を励ましたら、チアリーダーたちに愛されはじめた

上谷レイジ
恋愛
「他人は他人、自分は自分」を信条として生きている清水優汰は、幼なじみに振り回される日々を過ごしていた。 そんな時、クラスメートの頼みでチアリーディング部の高橋奈津美を励ましたことがきっかけとなり、優汰の毎日は今まで縁がなかったチアリーダーたちに愛される日々へと変わっていく。 ※執筆協力、独自設定考案など:九戸政景様  高橋奈津美のキャラクターデザイン原案:アカツキ様(twitterID:aktk511) ※小説家になろう、ノベルアップ+、ハーメルン、カクヨムでも公開しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

処理中です...