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第一章
連れ去られた姫巫女
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どうしてこうなったのか、訳が分からなかった。
いつものように神殿で儀式をしていただけなのに、いきなり屈強な男が大勢侵略してきて、イレーナは連れ去られた。
イフラー国は無事なのかー。国王様はどうされたのかー。お母様とお父様はー。
「うっ……」
「-目覚めたか」
「っつ……!?」
ふいに聞こえてきた低音にびくっと身を竦ませた。
ぼやけた視界に、イレーナの傍らで胡坐をかき酒を飲んでいる男の人が映る。
小さな小窓に照らされた三日月の光に負けないくらいキラキラと輝く金色の髪に、鋭い眼光を放つ金色の瞳。
逞しい体躯をした男性をイレーナは物珍しいような眼差しでまじまじと凝視した。
(男の人はみな、こんな風に美しいのかしら)
イレーナが今までみた男性は、みな白髪の老人だった。それ以外に治療に来ていた中には若い男性もいたが病気ということもあってやつれていたことが多かった。
だから健全な成人男性をみたのは、これがはじめてだった。
まるで夢幻でも見ているかのような錯覚に陥る。
いや、夢幻のままでいてほしかった。
「どうした? 俺に惚れたか?」
ニヤリと可笑しそうに笑いかけられて、ようやく我に返ったイレーナは慌てて顔をそらす。
「俺の国までまだしばらくかかる。もう少し寝ていろ」
「ここはー?」
男性のあまりに優しい言いぐさに、イレーナは思わず問いただした。
「海の上ー。船の中だ。俺の国は海の向こう岸にある」
やはりここはもうイフラー国ではないことが分かってしまい、胸が締め付けられた。
イレーナは冷たい床に寝かされたわけでもなく、船の上のはずなのに立派な寝所があって、ふかふかのベッドの上で寝かされていた。
もっと手酷い扱いを受けると思っていた。
その部屋にはイレーナと男性以外誰もいなかった。
いつでもイレーナを殺そうと思えば殺せる状況だが、とりあえず今のところはその危機はなさそうだ。
色々と聞き出したいことはあったけれど、
慣れない外での空気に疲労して、イレーナはそのまま深い眠りに落ちたのだった。
イレーナを連れた一行は船を港に停泊させ、ザフラ国へと降り立った。
大国ザフラは海に面する国で、貿易も盛んだ。港にはいくつも船が停泊していて、人々も活発に行き来している。
イレーナが乗っていた船も大きく立派なものだった。
初めてみる外の景色に、何度も目を瞬き見入る。
「どうだ? 我が国が気に入ったか?」
誇らしげに笑いかけられて、イレーナはぱっと視線を逸らした。
物珍しさに心を奪われてはならない。
イレーナは隣を歩く男性に目を向けた。
イレーナを担いで強引にさらったくせに、とても捕虜のような扱いではなかった。
あの神殿で見せた猛々しい迫力が嘘のように、柔らかな相貌を見せている。
両手首を薄いロープで後ろに縛られているが、痛みはなく縛り方も緩くて形式的にやっているだけのように思えた。
すぐに抜け出せそうだが、イレーナには逃げるという意識がなかった。
逃げたところでどうせすぐに捕まることくらいは、分かる。
きっとこの男性もそれを汲んでいるのだろう。
「今から玉座の間に来てもらう。話しはそれからだ」
拒否は許さないーという威圧感に身構える。やはりこちらの方が素なのだと思った。
イレーナは黙って従い、男の住処である王宮に連れていかれたー。
いつものように神殿で儀式をしていただけなのに、いきなり屈強な男が大勢侵略してきて、イレーナは連れ去られた。
イフラー国は無事なのかー。国王様はどうされたのかー。お母様とお父様はー。
「うっ……」
「-目覚めたか」
「っつ……!?」
ふいに聞こえてきた低音にびくっと身を竦ませた。
ぼやけた視界に、イレーナの傍らで胡坐をかき酒を飲んでいる男の人が映る。
小さな小窓に照らされた三日月の光に負けないくらいキラキラと輝く金色の髪に、鋭い眼光を放つ金色の瞳。
逞しい体躯をした男性をイレーナは物珍しいような眼差しでまじまじと凝視した。
(男の人はみな、こんな風に美しいのかしら)
イレーナが今までみた男性は、みな白髪の老人だった。それ以外に治療に来ていた中には若い男性もいたが病気ということもあってやつれていたことが多かった。
だから健全な成人男性をみたのは、これがはじめてだった。
まるで夢幻でも見ているかのような錯覚に陥る。
いや、夢幻のままでいてほしかった。
「どうした? 俺に惚れたか?」
ニヤリと可笑しそうに笑いかけられて、ようやく我に返ったイレーナは慌てて顔をそらす。
「俺の国までまだしばらくかかる。もう少し寝ていろ」
「ここはー?」
男性のあまりに優しい言いぐさに、イレーナは思わず問いただした。
「海の上ー。船の中だ。俺の国は海の向こう岸にある」
やはりここはもうイフラー国ではないことが分かってしまい、胸が締め付けられた。
イレーナは冷たい床に寝かされたわけでもなく、船の上のはずなのに立派な寝所があって、ふかふかのベッドの上で寝かされていた。
もっと手酷い扱いを受けると思っていた。
その部屋にはイレーナと男性以外誰もいなかった。
いつでもイレーナを殺そうと思えば殺せる状況だが、とりあえず今のところはその危機はなさそうだ。
色々と聞き出したいことはあったけれど、
慣れない外での空気に疲労して、イレーナはそのまま深い眠りに落ちたのだった。
イレーナを連れた一行は船を港に停泊させ、ザフラ国へと降り立った。
大国ザフラは海に面する国で、貿易も盛んだ。港にはいくつも船が停泊していて、人々も活発に行き来している。
イレーナが乗っていた船も大きく立派なものだった。
初めてみる外の景色に、何度も目を瞬き見入る。
「どうだ? 我が国が気に入ったか?」
誇らしげに笑いかけられて、イレーナはぱっと視線を逸らした。
物珍しさに心を奪われてはならない。
イレーナは隣を歩く男性に目を向けた。
イレーナを担いで強引にさらったくせに、とても捕虜のような扱いではなかった。
あの神殿で見せた猛々しい迫力が嘘のように、柔らかな相貌を見せている。
両手首を薄いロープで後ろに縛られているが、痛みはなく縛り方も緩くて形式的にやっているだけのように思えた。
すぐに抜け出せそうだが、イレーナには逃げるという意識がなかった。
逃げたところでどうせすぐに捕まることくらいは、分かる。
きっとこの男性もそれを汲んでいるのだろう。
「今から玉座の間に来てもらう。話しはそれからだ」
拒否は許さないーという威圧感に身構える。やはりこちらの方が素なのだと思った。
イレーナは黙って従い、男の住処である王宮に連れていかれたー。
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