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 何だか妙な沈黙が二人を包んでいた。


 兄の溺愛っぷりは知っていたけれど、間近で二人のやりとりを見てしまい、
ドキドキがとまらない。


「兄妹がいる前でよくやるよね、見境ないって言うか」


 ただジルの呟きはどこか寂しそうだった。


 兄とは違った意味で溺愛していたらしいジルにとっては、複雑な心境なのだ
ろう。


 ジルはサーラと距離を詰めた。


「な、なに?」


「まだ飲み足りない。付き合ってくれる?」


「も、もちろんです! 朝まででも付き合います!!」


 真顔で何を言うかと思えばそんなことか、とサーラは少し落胆してしまっ
た。


 別に何か期待していたわけではないけれどー。


 少し恥ずかしくなってサーラは一気に酒を煽った。


「まだ、酔えないなー」


「そうれすか? わたしはなんだか気持ちいいです」


 あれからどれくらい飲んでいただろうか。さらに空になった瓶が増えて、床
にも散乱している。


「ねえ。もっと気持ちよくなりたくない?」


「ん~。なりたいれす。ぜんぶ、忘れるくらい……」


 この先のことなんて全部忘れて、今の余韻に浸りたい。


 ジルの肩にこつん、と頭をのせてお酒を呑んでいると不意にジルの手が伸び
てきた。


「髪、サラサラだね」


 そっと長い髪を撫でられてサーラはドキッとした。


「あ、あのージル、様……」


 一気に酔いが覚めてしまう。


「キス、してもいい?」


 サーラの答えを待つ事なく、ジルは不意打ちにキスをしてきた。


 ビックリして思わず肩が跳ねる。


 はじめてのキスはただ触れるだけのキス。


 子供にするようなキスだった。


 大人のキスがどういうものかは経験したことがないから分からないけれど、
知識としては知っている。


「やっぱりはじめてだった?」


 サーラは恥ずかしげにコクリと頷く。


「ごめんね」


「ーなんで謝るんですか?」


「なんか、すごくイケナイことをしてるみたいな気になってきた」


 キスした事を後悔してるかのような口ぶりに、サーラは少しムッとした。


「これくらいのことで動揺するほど子供じゃありません!!」

 
 驚いたけれど、もっとしてほしいという欲求が湧いてくる。


「へぇー。もっと気持ちよくなるキスの仕方、知ってる?」


 ふっと、ジルは笑う。明らかにサーラをからかって楽しんでいるようにみえ
た。


「し、知りません」


「教えてあげようか?」


「えー……」


 ジルの手が耳の後ろに触れてきてドキッとする。


「んっ……!?」


 いきなりジルの舌が歯列を割って侵入してきて、サーラは目を見開いた。
 

「目、閉じて?」


 艶たっぷりの甘い声音で言われて肌がぞくりと粟立った。


 言われたとおりぎゅっと瞼を閉じる。


 ジルの舌が口内を蹂躙する。舌の横から下を行き来し、舌先を吸われる。


「んっ」


 これが大人のキスー?


 いつ呼吸をすればいいのか分からず、そのうちに苦しくなってくる。


「はっ。あ」


 ちゅ、と最後に音を立てて唇は離れた。


「はあ、はあ……」


「苦しかった? 大丈夫?」


 酸欠を起こしかけたとは恥ずかしくて言えず、サーラは頷くことで返事を返
した。


「……やば。酔いが回ってきたかも」


「え?」


 ジルが頭を抱えて項垂れて、辛そうな表情をする。


「だ、大丈夫ですか?」


「もっと、していい?」


 気分でも悪くなったのかと心配したけれど、どうやら違うらしい。


 目を細めて妖艶な笑みをみせたジルに、妙な気持ちになってしまう。


 サーラも身体が熱くなってきて、お酒とは違う酔いに当てられてしまい、静
かに頷いた。



 


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