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サーラは久しぶりに心が穏やかになった。
「家のために好きでもない男の人と結婚する。それが公爵家に生まれた女性の
勤めー」
独り言のように呟いたサーラの言葉に、ジルは黙ったまま耳を傾けてくれて
いる。
ソファにもたれかかって酒を一口飲み、息を吐く。
少し苦いけれど、今の鬱屈した気持ちを晴らすにはちょうどいい。
ジルが黙って聞いてくれるのをいいことに、サーラはたまった鬱憤を吐露し
た。
「お兄様は愛している人と一緒になって、あんなに幸せそうで……。私だって
あんな風に愛されたり愛したりしたいのに」
どうして年も離れた叔父さんに近い男と結婚をしなければならないのか。
頭では理解しているつもりでも、気持ちが素直になれない。
「私もリアお姉様みたいに素敵な恋をしてみたいって思うのは、わがままなの
かな?」
なんだか悲しくなってきて、サーラの瞳から涙が零れた。
「ーサーラちゃん?」
「あれ? やだ。ごめんなさい」
意味も分からずに零れ出る涙を必死に拭おうとする。
人前で泣いたことなんてないのに、どうして今涙が零れるのだろうか。
「いいよ。ここには俺しかいないから。気が済むまで泣いて」
「ジル様……」
にっこりと優しく微笑まれてドキッとする。
「ジル様、やっぱりリアお姉様に似てますね。すごく優しい」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいな」
ジルはどこか儚げに微笑をみせた。男の人なのにすごく綺麗な肌をしてい
て、繊細で。グリードとは全く違う。
「この広いお屋敷に一人で寂しくないんですか?」
「……そうだね。寂しいかな? 俺はリアさえいればそれでいいと思ってい
た。まさかこんなに早く嫁ぐとは思っていなかったからなー。しかも相手はグ
リードとかさ」
今まで楽しかった日常にぽっかりと穴があいたようだ、とジルは悲しそうな
瞳をする。
なんだか切なくなって、サーラは思わずジルの頭を撫でた。
「サーラちゃん?」
突然のことにジルはびっくりして目を丸くする。
「ご、ごめんなさい。つい……」
手を引っ込めて気まずさから視線を逸らす。
少し気まずい空気が流れて、二人とも沈黙をしてしまった。
「ーあれ? 二人ともまだ起きてたの?」
「リアー」
「お姉様……」
二人同時に声を上げて、自然とジルの側から離れた。
「リアこそどうしたんだ?」
「喉渇いちゃって。水差しにお水汲もうと思って」
リアの肌は少し上気している。情事の後のような色気が彼女からあふれ出て
いた。
「そうか。早く戻らないとグリードが心配するんじゃないか?」
「まさか」
ほんの少し側を離れたくらいでそれはない、とリアは否定する。
「いや、グリードならありえる」
「ええ。お兄様なら十分考えられるわ」
二人にそんなことを言われて、リアはきょとんとする。
「ーリア。何してる?」
「あ……」
噂をすればなんとやらで、グリードが顔を出した。
「ごめんなさい。喉が渇いて。起こしちゃった?」
「ああ。隣にリアがいないから心配になった。激しく抱いたから気分でも悪く
なったのかとー」
「ちょ、ちょっとグリード様っ」
リアを抱こうとするグリードを必死で止めようとする。
「どうした? 何か不満なことでもあるのか?」
リアに反抗されてグリードは少しムスッとした表情になった。
「ち、違うの。そうではなくて……」
「ん?」
リアの視線の先をグリードが追うと、呆れ顔のジルと頬を真っ赤に染めたサ
ーラがいることにようやく気づいた。
「なんだお前ら。なんでこんなところにいる?」
邪魔されたのが癪にさわったのか腰に手を当てて、不満げに二人を見下ろ
す。
「別に。俺らはただここで晩酌してただけだよ。人のいるところでイチャつく
のやめてもらえるかな?」
「ーすまない。お前らのことが目にみえていなかった」
堂々とそんなことを言い切って、リアの手から水差しを取り上げ部屋に戻っ
ていく。
「行こう。身体が冷えているから暖めなおさないとな」
「もう、グリード様ったら……」
二人はまたすぐに自分たちの世界に入り込んで、部屋に戻っていく。
残された二人はしばらく気まずい空気を漂わせた。
「家のために好きでもない男の人と結婚する。それが公爵家に生まれた女性の
勤めー」
独り言のように呟いたサーラの言葉に、ジルは黙ったまま耳を傾けてくれて
いる。
ソファにもたれかかって酒を一口飲み、息を吐く。
少し苦いけれど、今の鬱屈した気持ちを晴らすにはちょうどいい。
ジルが黙って聞いてくれるのをいいことに、サーラはたまった鬱憤を吐露し
た。
「お兄様は愛している人と一緒になって、あんなに幸せそうで……。私だって
あんな風に愛されたり愛したりしたいのに」
どうして年も離れた叔父さんに近い男と結婚をしなければならないのか。
頭では理解しているつもりでも、気持ちが素直になれない。
「私もリアお姉様みたいに素敵な恋をしてみたいって思うのは、わがままなの
かな?」
なんだか悲しくなってきて、サーラの瞳から涙が零れた。
「ーサーラちゃん?」
「あれ? やだ。ごめんなさい」
意味も分からずに零れ出る涙を必死に拭おうとする。
人前で泣いたことなんてないのに、どうして今涙が零れるのだろうか。
「いいよ。ここには俺しかいないから。気が済むまで泣いて」
「ジル様……」
にっこりと優しく微笑まれてドキッとする。
「ジル様、やっぱりリアお姉様に似てますね。すごく優しい」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいな」
ジルはどこか儚げに微笑をみせた。男の人なのにすごく綺麗な肌をしてい
て、繊細で。グリードとは全く違う。
「この広いお屋敷に一人で寂しくないんですか?」
「……そうだね。寂しいかな? 俺はリアさえいればそれでいいと思ってい
た。まさかこんなに早く嫁ぐとは思っていなかったからなー。しかも相手はグ
リードとかさ」
今まで楽しかった日常にぽっかりと穴があいたようだ、とジルは悲しそうな
瞳をする。
なんだか切なくなって、サーラは思わずジルの頭を撫でた。
「サーラちゃん?」
突然のことにジルはびっくりして目を丸くする。
「ご、ごめんなさい。つい……」
手を引っ込めて気まずさから視線を逸らす。
少し気まずい空気が流れて、二人とも沈黙をしてしまった。
「ーあれ? 二人ともまだ起きてたの?」
「リアー」
「お姉様……」
二人同時に声を上げて、自然とジルの側から離れた。
「リアこそどうしたんだ?」
「喉渇いちゃって。水差しにお水汲もうと思って」
リアの肌は少し上気している。情事の後のような色気が彼女からあふれ出て
いた。
「そうか。早く戻らないとグリードが心配するんじゃないか?」
「まさか」
ほんの少し側を離れたくらいでそれはない、とリアは否定する。
「いや、グリードならありえる」
「ええ。お兄様なら十分考えられるわ」
二人にそんなことを言われて、リアはきょとんとする。
「ーリア。何してる?」
「あ……」
噂をすればなんとやらで、グリードが顔を出した。
「ごめんなさい。喉が渇いて。起こしちゃった?」
「ああ。隣にリアがいないから心配になった。激しく抱いたから気分でも悪く
なったのかとー」
「ちょ、ちょっとグリード様っ」
リアを抱こうとするグリードを必死で止めようとする。
「どうした? 何か不満なことでもあるのか?」
リアに反抗されてグリードは少しムスッとした表情になった。
「ち、違うの。そうではなくて……」
「ん?」
リアの視線の先をグリードが追うと、呆れ顔のジルと頬を真っ赤に染めたサ
ーラがいることにようやく気づいた。
「なんだお前ら。なんでこんなところにいる?」
邪魔されたのが癪にさわったのか腰に手を当てて、不満げに二人を見下ろ
す。
「別に。俺らはただここで晩酌してただけだよ。人のいるところでイチャつく
のやめてもらえるかな?」
「ーすまない。お前らのことが目にみえていなかった」
堂々とそんなことを言い切って、リアの手から水差しを取り上げ部屋に戻っ
ていく。
「行こう。身体が冷えているから暖めなおさないとな」
「もう、グリード様ったら……」
二人はまたすぐに自分たちの世界に入り込んで、部屋に戻っていく。
残された二人はしばらく気まずい空気を漂わせた。
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