58 / 66
作戦決行の夜 1
しおりを挟む
エリーナは緊張でどうにかなりそうだった。
いよいよ今夜、計画を実行する。
事前の計画通り、カールをエリーナの寝室に誘いださなければならない。
「怒っているのかい?」
「え……」
いつも通りカールの自室で朝食の給仕をしていると、申し訳なさそうにカールに声をかけられてエリーナは過剰に反応してしまった。
持っていたカップを床に落としてしまい、派手な音を立てて割れてしまう。
「も、申し訳ありませんっ」
床に散らばった破片を慌てて拾おうとすると、カールが動転して勢いよくベッドから起き上がった。
「触れるなっ! 怪我をするぞ」
「あっ……」
エリーナの右手の人差し指から赤い血がつう、と流れる。
「大丈夫か!?」
手首をつかまれ心配そうに流れる血を眺め、そして戸惑いもなく舌で血を舐めた。
「っつ……」
赤い舌が指を這うように舐める。
それだけで身体が粟立って、捉まれた手首がひどく熱かった。
「―……」
真剣な面持ちで処置してくれるカールを潤んだ瞳で見つめると、カールが息をのみ熱いまなざしで見つめ返してきた。
一瞬、時が止まったかのように二人は見つめあう。
カールが記憶をなくしてからも何度かこうして視線が交差することがあった。
その度に切なくて、苦しくて。
カールも苦しんでいるのが分かるから、よけいに辛かった。
「早く消毒をしてきたほうがいい。ここはいいから」
「申し訳ありません。すぐに戻ります」
手早く消毒をすませて再び戻ると、割れた破片は綺麗に片付けられていて、真剣な面持ちをしたカールに問い詰められる。
「何かあったのか? どうも君の様子がおかしい」
今、誘い出すチャンスだ。エリーナは緊張で口がひどく乾くのを感じながら言葉にした。
「実は旦那様にご相談がありまして」
「相談? 何か悩み事でもあるのかい?」
「誰にも言えないんです。もしかしたらこの屋敷を離れなければならないかもしれなくて」
「なに―?」
ピクリとカールは眉根を寄せ、動揺を露に問いだしてくる。
「どういうことだ? 何があった?」
「だ、旦那様……」
強い力で肩を掴まれてエリーナはびくっと身をすくませる。こんなに動揺するとは思わなくて戸惑うエリーナに、カールは咳払いをして落ち着いた態度で言った。
「あ、す、すまない。私でよければ相談にのろう」
「本当ですか?」
「ああ。何を悩んでいるのか聞かせてくれ」
エリーナは気まずそうに俯き、ここではちょっとと言葉を濁す。
「今夜、私の部屋に来てください」
「えっ……」
エリーナの大胆なお願いにカールは驚き、困り果てた表情をみせ言いあぐねる。
「だが、それは」
「すみません。旦那様にだけお話したいことなんです。図々しいことは承知の上です。でも、頼れるのは旦那様しかいなくて」
きゅっとカールの上着の裾を握り、潤んだ瞳で見上げる。
弱っているところをみせるとより効果的だとライに言われ、エリーナは必死で演技をした。
カールを騙しているようで心苦しいけれど、ここまで来たらもう後には引けない。
エリーナの必死さが伝わったのか、カールも意を決したように頷いて承諾してくれた。
「分かった。今夜、君の部屋で話を聞こう」
「ありがとうございます」
なんとか誘い出すことに成功してエリーナは安堵の息を吐いた。
いよいよ今夜、計画を実行する。
事前の計画通り、カールをエリーナの寝室に誘いださなければならない。
「怒っているのかい?」
「え……」
いつも通りカールの自室で朝食の給仕をしていると、申し訳なさそうにカールに声をかけられてエリーナは過剰に反応してしまった。
持っていたカップを床に落としてしまい、派手な音を立てて割れてしまう。
「も、申し訳ありませんっ」
床に散らばった破片を慌てて拾おうとすると、カールが動転して勢いよくベッドから起き上がった。
「触れるなっ! 怪我をするぞ」
「あっ……」
エリーナの右手の人差し指から赤い血がつう、と流れる。
「大丈夫か!?」
手首をつかまれ心配そうに流れる血を眺め、そして戸惑いもなく舌で血を舐めた。
「っつ……」
赤い舌が指を這うように舐める。
それだけで身体が粟立って、捉まれた手首がひどく熱かった。
「―……」
真剣な面持ちで処置してくれるカールを潤んだ瞳で見つめると、カールが息をのみ熱いまなざしで見つめ返してきた。
一瞬、時が止まったかのように二人は見つめあう。
カールが記憶をなくしてからも何度かこうして視線が交差することがあった。
その度に切なくて、苦しくて。
カールも苦しんでいるのが分かるから、よけいに辛かった。
「早く消毒をしてきたほうがいい。ここはいいから」
「申し訳ありません。すぐに戻ります」
手早く消毒をすませて再び戻ると、割れた破片は綺麗に片付けられていて、真剣な面持ちをしたカールに問い詰められる。
「何かあったのか? どうも君の様子がおかしい」
今、誘い出すチャンスだ。エリーナは緊張で口がひどく乾くのを感じながら言葉にした。
「実は旦那様にご相談がありまして」
「相談? 何か悩み事でもあるのかい?」
「誰にも言えないんです。もしかしたらこの屋敷を離れなければならないかもしれなくて」
「なに―?」
ピクリとカールは眉根を寄せ、動揺を露に問いだしてくる。
「どういうことだ? 何があった?」
「だ、旦那様……」
強い力で肩を掴まれてエリーナはびくっと身をすくませる。こんなに動揺するとは思わなくて戸惑うエリーナに、カールは咳払いをして落ち着いた態度で言った。
「あ、す、すまない。私でよければ相談にのろう」
「本当ですか?」
「ああ。何を悩んでいるのか聞かせてくれ」
エリーナは気まずそうに俯き、ここではちょっとと言葉を濁す。
「今夜、私の部屋に来てください」
「えっ……」
エリーナの大胆なお願いにカールは驚き、困り果てた表情をみせ言いあぐねる。
「だが、それは」
「すみません。旦那様にだけお話したいことなんです。図々しいことは承知の上です。でも、頼れるのは旦那様しかいなくて」
きゅっとカールの上着の裾を握り、潤んだ瞳で見上げる。
弱っているところをみせるとより効果的だとライに言われ、エリーナは必死で演技をした。
カールを騙しているようで心苦しいけれど、ここまで来たらもう後には引けない。
エリーナの必死さが伝わったのか、カールも意を決したように頷いて承諾してくれた。
「分かった。今夜、君の部屋で話を聞こう」
「ありがとうございます」
なんとか誘い出すことに成功してエリーナは安堵の息を吐いた。
6
お気に入りに追加
4,121
あなたにおすすめの小説
【完結】堅物騎士様は若奥様に溺愛中!
くみ
恋愛
堅物騎士団長と、箱入り娘として育った第三王女の望まない結婚。
リーズ国の第三王女、ティアナは16歳になったら父である王、ダリス・カステロの決めた婚約相手と結婚することになっていた。
そんな父が選んだ婚約者は王位騎士団長のエイリス・モーガンだった。
堅物で鷹のように獰猛な性格と噂の男だ。
ティアナはそんなに強くてすごい男の人と一緒になれるか、不安になる。
その不安をエイリスは、望まない結婚をさせられたのだと勘違いする。
エイリスは義務だから仕方ないと、ティアナを慰める。
この結婚を義務だとエイリスは割り切っているようでー?
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています
一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、
現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。
当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、
彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、
それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、
数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。
そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、
初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】囚われの姫巫女ですが、なぜか国王に寵愛されています
くみ
恋愛
R18作品です。
18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
治癒の力をもつ姫巫女イレーナは母国であるイフラー国の神殿で、祈りを捧げていた。
だがある日、大国ザフラが進攻してきて神殿を破り祈りをしていたイレーナを国王・オーランがさらっていく。
イレーナは敵国の元で力を使うよう命じられるのと同時に、オーランの慰みものとして囲われ昼夜問わず身体を求められる。
敵国の王に凌辱される日々が続いたが、あることがきっかけでオーランと心を引き寄せ合い?
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない
扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!?
セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。
姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。
だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。
――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。
そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。
その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。
ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。
そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。
しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!?
おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ!
◇hotランキング 3位ありがとうございます!
――
◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ
イケボな宰相と逃げる女騎士
ほのじー
恋愛
イケボな宰相×腰がくだけないよう踏ん張る女騎士
【Hotランキング2位ありがとうございます!!】
生真面目なジュリアは王妃の女騎士となり、二年が経った。22歳となり行き遅れとなった彼女はもう結婚も諦め一生王妃に仕えると心で誓っていた。
真面目で仕事中感情を乱さない彼女にも苦手な人物がいる。それは誰もが恐れる“氷の宰相”サイラスだ。なぜなら彼の中性的な声が腰にくるからで・・・
サイラス:「ジュリア殿、この書類間違ってませんかね」
ジュリア:「っ・・・もう一度確認しておきます!失礼します!!」
ーバタンー
ジュリア:「はぅぅ・・」(耳元で話しかけないでー!!)
※本編はR15程度です。番外編にてR18表現が入ってきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる