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日に日に増していくエリーナへの依存。
仕事をしている時もエリーナのことが気になって仕方がなかった。
エリーナとあの小屋で過ごすようになってから一月近くが経っていた。
さすがにエリーナも屋敷に戻った方がいいのではと、心配されたがその度に抱いてごまかした。
エリーナの静養のためのつもりだったが、二人きりの空間がこれほど幸福なものだと知り、手放せなくなっていた。
エリーナの視界に入るのはカールだけという、優越感。
身の回りの世話をする侍女もカールが屋敷で一番信頼できるマリエットに頼んだ。
口が固く主人の命令に忠実なマリエットだ。小屋での行為も見て見ぬ振りをしている。
それ以外の人の出入りが一切ない、あの小さな小屋は二人だけのもの。
さすがに仕事まで放棄できずに、仕事の間は離れることになるがそれすらも寂しいと思うようになった。
一人で何をしているのか、ヴァレリー公爵とのことを思い出して泣いていないだろうかと頭から離れない。
屋敷には必ず顔を出すようにしている。エリーナがいないことと夜には留守にする主人のことを不思議に思っているようだが、執事にだけ静養のために小屋にいると伝えてあった。
「フォード公爵様、お顔の色が優れませんがどこか気分でも?」
「そうか? 夜はエリーナの看病をしているからそのせいかもしれないな」
「公爵様も休息をとらないと、共倒れになってしまいます」
心配そうな表情をする執事に、カールは苦笑しつつも答えた。
「大丈夫だ。それよりも急ぎの仕事があれば回してくれ」
「かしこまりました」
執事が退出したのを見遣り、カールは静かにため息を吐いた。
確かにこのところ睡眠は足りていないかもしれない。
昼間は仕事をし、夜はエリーナと行為に耽っている。
自分自身では特に気にしていなったが、知らぬうちに疲れが出ていたのだろう。
「ひどい顔だな」
「ライ。いきなりなんだ?」
来客の予定はなかったはずだが、いきなりノックもなしに現れたライに訝しげな顔をする。
「執事が快く入れてくれたよ。お前のことをひどく心配してたぞ」
「大げさだな。少し寝不足なだけだ」
「まあ、それだけなら心配しないけどね。エリーナ夫人はどうした?」
厳しい顔つきで問われたが、カールは何気無しに答えた。
「体調が悪くて静養している」
「静養じゃなくて監禁だろ」
ライの容赦ない言葉にカールは眉根を吊り上げて反論する。
「何が言いたい?」
「このまま一生あの子を小屋に閉じ込めておくつもりか?」
真っ直ぐにカールの心を暴くかのように見据えられ、思わず返答に詰まった。
答えずに書類に目を向けていると、ライはさらに追求してきた。
「このままではお前にもあの子にもよくない。早く屋敷に戻れ」
「しばらくしたら戻るさ。エリーナもヴァレリー公爵とのことがあって精神的にも参っている。静かな場所で静養させるのが一番だ」
そう。これはエリーナのためにしていることだ。
ライはカールの主張を納得いかないと否定した。
「カール。俺は心配なんだよ。お前達がこのまま二人の世界に閉じこもってしまうんじゃないかって」
いつになく食いつくライにカールはふっとほくそ笑む。
「お前がそんなに私のことを心配してくれるとは思わなかったな」
「カール……お前は気づいてないだけなんだ。ヴァレリー公爵のことでショックを受けて」
「私は大丈夫だ。落ち着いたら屋敷に戻る」
ライはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、これ以上小言を言われる前にカールは話を終わらせた。
(二人の世界、か)
本当にそんな世界があれば行ってみたいと思う。
エリーナと二人きりで誰にも邪魔されずに一緒にいられたら、どんなに幸せだろうか。
仕事をしている時もエリーナのことが気になって仕方がなかった。
エリーナとあの小屋で過ごすようになってから一月近くが経っていた。
さすがにエリーナも屋敷に戻った方がいいのではと、心配されたがその度に抱いてごまかした。
エリーナの静養のためのつもりだったが、二人きりの空間がこれほど幸福なものだと知り、手放せなくなっていた。
エリーナの視界に入るのはカールだけという、優越感。
身の回りの世話をする侍女もカールが屋敷で一番信頼できるマリエットに頼んだ。
口が固く主人の命令に忠実なマリエットだ。小屋での行為も見て見ぬ振りをしている。
それ以外の人の出入りが一切ない、あの小さな小屋は二人だけのもの。
さすがに仕事まで放棄できずに、仕事の間は離れることになるがそれすらも寂しいと思うようになった。
一人で何をしているのか、ヴァレリー公爵とのことを思い出して泣いていないだろうかと頭から離れない。
屋敷には必ず顔を出すようにしている。エリーナがいないことと夜には留守にする主人のことを不思議に思っているようだが、執事にだけ静養のために小屋にいると伝えてあった。
「フォード公爵様、お顔の色が優れませんがどこか気分でも?」
「そうか? 夜はエリーナの看病をしているからそのせいかもしれないな」
「公爵様も休息をとらないと、共倒れになってしまいます」
心配そうな表情をする執事に、カールは苦笑しつつも答えた。
「大丈夫だ。それよりも急ぎの仕事があれば回してくれ」
「かしこまりました」
執事が退出したのを見遣り、カールは静かにため息を吐いた。
確かにこのところ睡眠は足りていないかもしれない。
昼間は仕事をし、夜はエリーナと行為に耽っている。
自分自身では特に気にしていなったが、知らぬうちに疲れが出ていたのだろう。
「ひどい顔だな」
「ライ。いきなりなんだ?」
来客の予定はなかったはずだが、いきなりノックもなしに現れたライに訝しげな顔をする。
「執事が快く入れてくれたよ。お前のことをひどく心配してたぞ」
「大げさだな。少し寝不足なだけだ」
「まあ、それだけなら心配しないけどね。エリーナ夫人はどうした?」
厳しい顔つきで問われたが、カールは何気無しに答えた。
「体調が悪くて静養している」
「静養じゃなくて監禁だろ」
ライの容赦ない言葉にカールは眉根を吊り上げて反論する。
「何が言いたい?」
「このまま一生あの子を小屋に閉じ込めておくつもりか?」
真っ直ぐにカールの心を暴くかのように見据えられ、思わず返答に詰まった。
答えずに書類に目を向けていると、ライはさらに追求してきた。
「このままではお前にもあの子にもよくない。早く屋敷に戻れ」
「しばらくしたら戻るさ。エリーナもヴァレリー公爵とのことがあって精神的にも参っている。静かな場所で静養させるのが一番だ」
そう。これはエリーナのためにしていることだ。
ライはカールの主張を納得いかないと否定した。
「カール。俺は心配なんだよ。お前達がこのまま二人の世界に閉じこもってしまうんじゃないかって」
いつになく食いつくライにカールはふっとほくそ笑む。
「お前がそんなに私のことを心配してくれるとは思わなかったな」
「カール……お前は気づいてないだけなんだ。ヴァレリー公爵のことでショックを受けて」
「私は大丈夫だ。落ち着いたら屋敷に戻る」
ライはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、これ以上小言を言われる前にカールは話を終わらせた。
(二人の世界、か)
本当にそんな世界があれば行ってみたいと思う。
エリーナと二人きりで誰にも邪魔されずに一緒にいられたら、どんなに幸せだろうか。
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