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「なぜ、その男をかばう?」


 冷たい視線がエリーナに突き刺さる。


「かばってなど、いません」


 怖気づきながらも答えると、カールは苦虫を噛み潰したような顔でエリーナを見返す。


「―カール様。私はもうカール様の妻としてふさわしくありません。私なんかのためにこんなことをする必要はないんです」


 エリーナは震える声で今の思いを伝えた。


「私とはもう一緒にいられないということか?」


 改めてカールから突き付けられると、胸が痛んだ。


「―はい……。私は……カール様を裏切りました。もう、カール様に愛されてもらえる資格はありません」


 泣きそうになるのを必死で堪える。ここで泣いたりしてはカールを困惑させるだけだ。


「それは、この男に何かされたからーそう言っているのか?」


「それだけでは、ありません。カール様の忠告を無視して、私は自分勝手な行動をしてしまいました。メリサのことも、カール様の言うことを聞かずに、彼女の言うことを信じてしまいました」


 全て自分が招いた結果だ。


「どうか、私のことを罵ってください」


 お願いします、と頭を下げるエリーナに、カールが静かに呟いた。


「君は意外に頑固なところがあるな。そして一度思い込んだらそのまま突っ走る」


 的を得た指摘をされ、エリーナの心にぐさりと刺さる。


「健気で可愛いね。ますます君のことを気に入ったな」


 その場にふさわしくないあっけらかんとした声がやけに響いた。


 カールの鋭い視線の先で、ヴァレリー公爵がにこやかに微笑んでいる。


「―これほど、誰かを憎いと思ったのははじめてだ」


「そう? 奇遇だね。俺もだよ」


 拳を握りしめてカールは満面に笑むヴァレリー公爵を睨んだ。


 そして何かを思いついたかのように、カールがふっ、と微笑を浮かべる。


「エリーナ。君は私に罵ってほしいと言ったな?」


 ひやりとするほど底冷えする声音で言われて、エリーナは身構えた。


「は、はい……」


 怖くてついに、エリーナの瞳からは我慢していた涙が一筋線を引く。


 泣く資格はない。


 エリーナは唇をかみしめて涙を止めようとする。


「まったく、君はどれだけ私の心をかき乱せば気が済むんだ?」


 すっとカールが一歩前に出る。


 顎を取られ真摯な瞳がエリーナを映す。


「私がどれだけ怒っていると思っているのかー。一度その身をもって味わってもらわないとな」


 ぐっと腰を引き寄せられてエリーナは戸惑った。


「な、なにをー」


「ヴァレリー公爵」


 エリーナの抗議を遮り、カールは静かに成り行きを見守っていたヴァレリー公爵を正視する。


「なに?」


「そこでみていろ。エリーナがどれだけ私に虜かー」


「はー?」


 カールの突拍子もない発言に、エリーナだけでなくヴァレリー公爵も面食らった顔をした。


「カ、カール様!?」


 何を言い出すのだろう。目を見開いて茫然とカールを見詰める。


 カールが艶然と微笑んだ。


「エリーナには今からたっぷりと仕置きをしてあげるよ。覚悟しなさい」


 ぞくっとするほどの色香を放ちながら耳元で囁かれ、エリーナは言いようのない不安感に襲われた。


  





 


 


 

 


 
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