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エリーナは緊張した面持ちで座っていた。
エリーナの隣はカールではなく、ヴァレリー公爵が我が物顔で座している。
「飲んだら? 美味しいよ」
特製だという紅茶をヴァレリー公爵はのんびりとした動作で口に含む。
喉がカラカラに乾いていたが、手が出せなかった。
エリーナの目の前に座るカールは、厳しい表情でヴァレリー公爵を見据えている。
「どういうつもりでこんなことをした?」
「どういうつもりって? ただエリーナ夫人が気に入ったから俺のものにしたかっただけ」
あっさりと軽い口調で答えたヴァレリー公爵に対して、カールの表情にますます怒気が帯びる。
ヴァレリー公爵がいきなりエリーナの左肩に手をのせてきて、エリーナは身を竦ませた。
まるでカールのことを挑発してるかのような態度だ。
エリーナはいたたまれなくなって俯いてしまう。
「ようやく俺は君に勝てた気がするよ」
意味深な物言いをし、ヴァレリー公爵は二ヤリと口角を上げた。
「さんざん俺好みの令嬢を奪っておきながら、最後に選んだのがまさかこういうタイプだったとはね」
「ーヴァレリー公爵。それ以上口にするな」
「焦った顔をしても見目麗しいね」
腕を組み、長椅子に凭れ掛かったヴァレリー公爵は優越感に浸っている。
カールもヴァレリー公爵と同じで色々な令嬢に手を出してきた。
ショックを受けたけれど今のエリーナに責める権利はない。
苦しそうに顔を歪ませるカールに、ヴァレリー公爵はさらに追い打ちをかけるようなことをする。
唐突にエリーナの顎をとり、ヴァレリー公爵の方に向き合わされる。
何かを企んでいるような視線がかち合ってエリーナは息をのんだ。
カールが目の前にいるのに、何をする気なのかー。
顔を強張らせるエリーナを、ヴァレリー公爵は微笑を浮かべながら見据える。
「まあ、でも。フォード公爵がエリーナ夫人に夢中になるのもわかるな。滑らかな肌に、ふっくらとした唇」
口にしながら右手で頬をさすり、人差し指でエリーナの唇をそっと撫でた。
「っつ……」
「俺のキスとフォード公爵のキス、どっちが気持ちよかった? 君、キスだけでとろとろになってたよね」
顔が至近距離に迫る。
震える唇を開かせて、キスさせられそうになる。
「っ、やっ……」
身を引いてヴァレリー公爵から逃れようとすると、さらに腰を強くひかれた。
「ほら、フォード公爵をみなよ。あんな余裕のない顔、見たことないだろう?」
「や、いやっ……」
頭を振ってやめてと懇願する。怖くてカールの顔を見ることができなかった。
「―ヴァレリー公爵」
「っつー……」
今までに聞いたことのないカールの怒りをにじませた声に、エリーナは肝を冷やす。
カールが椅子から立ち上がり、ヴァレリー公爵のむなぐらをつかんだ。
「きさまっ……」
カールは勢いよくヴァレリー公爵の左頬を拳で殴った。
「っく……」
「あ、あ……」
声を上げることもできずにエリーナは身を固くする。カールの眼差しはただヴァレリー公爵だけを睨み上げていた。
ふいにカールに悲しみとも怒りともつかない感情で見詰められ、エリーナは蒼ざめた。
こんな表情をさせてしまったことに、ひどく後悔する。
ヴァレリー公爵を椅子から立ち上がらせてさらに殴りかかろうとするカールに、エリーナは胸が痛んだ。
「やめてくださいっ!!」
気が付けば声を張り上げて、二人の間に割って入った。
「―っ!!」
すんでのところでカールの拳がぴたりと止まる。
「―」
張り詰めた空気の中、カールが信じられないというような面持ちでエリーナを凝視していた。
エリーナの隣はカールではなく、ヴァレリー公爵が我が物顔で座している。
「飲んだら? 美味しいよ」
特製だという紅茶をヴァレリー公爵はのんびりとした動作で口に含む。
喉がカラカラに乾いていたが、手が出せなかった。
エリーナの目の前に座るカールは、厳しい表情でヴァレリー公爵を見据えている。
「どういうつもりでこんなことをした?」
「どういうつもりって? ただエリーナ夫人が気に入ったから俺のものにしたかっただけ」
あっさりと軽い口調で答えたヴァレリー公爵に対して、カールの表情にますます怒気が帯びる。
ヴァレリー公爵がいきなりエリーナの左肩に手をのせてきて、エリーナは身を竦ませた。
まるでカールのことを挑発してるかのような態度だ。
エリーナはいたたまれなくなって俯いてしまう。
「ようやく俺は君に勝てた気がするよ」
意味深な物言いをし、ヴァレリー公爵は二ヤリと口角を上げた。
「さんざん俺好みの令嬢を奪っておきながら、最後に選んだのがまさかこういうタイプだったとはね」
「ーヴァレリー公爵。それ以上口にするな」
「焦った顔をしても見目麗しいね」
腕を組み、長椅子に凭れ掛かったヴァレリー公爵は優越感に浸っている。
カールもヴァレリー公爵と同じで色々な令嬢に手を出してきた。
ショックを受けたけれど今のエリーナに責める権利はない。
苦しそうに顔を歪ませるカールに、ヴァレリー公爵はさらに追い打ちをかけるようなことをする。
唐突にエリーナの顎をとり、ヴァレリー公爵の方に向き合わされる。
何かを企んでいるような視線がかち合ってエリーナは息をのんだ。
カールが目の前にいるのに、何をする気なのかー。
顔を強張らせるエリーナを、ヴァレリー公爵は微笑を浮かべながら見据える。
「まあ、でも。フォード公爵がエリーナ夫人に夢中になるのもわかるな。滑らかな肌に、ふっくらとした唇」
口にしながら右手で頬をさすり、人差し指でエリーナの唇をそっと撫でた。
「っつ……」
「俺のキスとフォード公爵のキス、どっちが気持ちよかった? 君、キスだけでとろとろになってたよね」
顔が至近距離に迫る。
震える唇を開かせて、キスさせられそうになる。
「っ、やっ……」
身を引いてヴァレリー公爵から逃れようとすると、さらに腰を強くひかれた。
「ほら、フォード公爵をみなよ。あんな余裕のない顔、見たことないだろう?」
「や、いやっ……」
頭を振ってやめてと懇願する。怖くてカールの顔を見ることができなかった。
「―ヴァレリー公爵」
「っつー……」
今までに聞いたことのないカールの怒りをにじませた声に、エリーナは肝を冷やす。
カールが椅子から立ち上がり、ヴァレリー公爵のむなぐらをつかんだ。
「きさまっ……」
カールは勢いよくヴァレリー公爵の左頬を拳で殴った。
「っく……」
「あ、あ……」
声を上げることもできずにエリーナは身を固くする。カールの眼差しはただヴァレリー公爵だけを睨み上げていた。
ふいにカールに悲しみとも怒りともつかない感情で見詰められ、エリーナは蒼ざめた。
こんな表情をさせてしまったことに、ひどく後悔する。
ヴァレリー公爵を椅子から立ち上がらせてさらに殴りかかろうとするカールに、エリーナは胸が痛んだ。
「やめてくださいっ!!」
気が付けば声を張り上げて、二人の間に割って入った。
「―っ!!」
すんでのところでカールの拳がぴたりと止まる。
「―」
張り詰めた空気の中、カールが信じられないというような面持ちでエリーナを凝視していた。
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