上 下
40 / 66

4

しおりを挟む
    エリーナは緊張した面持ちで座っていた。


    エリーナの隣はカールではなく、ヴァレリー公爵が我が物顔で座している。


「飲んだら? 美味しいよ」


    特製だという紅茶をヴァレリー公爵はのんびりとした動作で口に含む。


    喉がカラカラに乾いていたが、手が出せなかった。


    エリーナの目の前に座るカールは、厳しい表情でヴァレリー公爵を見据えている。


「どういうつもりでこんなことをした?」


 「どういうつもりって? ただエリーナ夫人が気に入ったから俺のものにしたかっただけ」


    あっさりと軽い口調で答えたヴァレリー公爵に対して、カールの表情にますます怒気が帯びる。


    ヴァレリー公爵がいきなりエリーナの左肩に手をのせてきて、エリーナは身を竦ませた。


    まるでカールのことを挑発してるかのような態度だ。


    エリーナはいたたまれなくなって俯いてしまう。

 
「ようやく俺は君に勝てた気がするよ」


 意味深な物言いをし、ヴァレリー公爵は二ヤリと口角を上げた。


「さんざん俺好みの令嬢を奪っておきながら、最後に選んだのがまさかこういうタイプだったとはね」


「ーヴァレリー公爵。それ以上口にするな」


「焦った顔をしても見目麗しいね」


 腕を組み、長椅子に凭れ掛かったヴァレリー公爵は優越感に浸っている。


 カールもヴァレリー公爵と同じで色々な令嬢に手を出してきた。


 ショックを受けたけれど今のエリーナに責める権利はない。


 苦しそうに顔を歪ませるカールに、ヴァレリー公爵はさらに追い打ちをかけるようなことをする。


 唐突にエリーナの顎をとり、ヴァレリー公爵の方に向き合わされる。


 何かを企んでいるような視線がかち合ってエリーナは息をのんだ。


 カールが目の前にいるのに、何をする気なのかー。


 顔を強張らせるエリーナを、ヴァレリー公爵は微笑を浮かべながら見据える。


「まあ、でも。フォード公爵がエリーナ夫人に夢中になるのもわかるな。滑らかな肌に、ふっくらとした唇」


 口にしながら右手で頬をさすり、人差し指でエリーナの唇をそっと撫でた。


「っつ……」


「俺のキスとフォード公爵のキス、どっちが気持ちよかった? 君、キスだけでとろとろになってたよね」


 顔が至近距離に迫る。


 震える唇を開かせて、キスさせられそうになる。


「っ、やっ……」


 身を引いてヴァレリー公爵から逃れようとすると、さらに腰を強くひかれた。


「ほら、フォード公爵をみなよ。あんな余裕のない顔、見たことないだろう?」


「や、いやっ……」


 頭を振ってやめてと懇願する。怖くてカールの顔を見ることができなかった。


「―ヴァレリー公爵」


「っつー……」


 今までに聞いたことのないカールの怒りをにじませた声に、エリーナは肝を冷やす。


 カールが椅子から立ち上がり、ヴァレリー公爵のむなぐらをつかんだ。


「きさまっ……」


 カールは勢いよくヴァレリー公爵の左頬を拳で殴った。


「っく……」


「あ、あ……」


 声を上げることもできずにエリーナは身を固くする。カールの眼差しはただヴァレリー公爵だけを睨み上げていた。


 ふいにカールに悲しみとも怒りともつかない感情で見詰められ、エリーナは蒼ざめた。


 こんな表情をさせてしまったことに、ひどく後悔する。


 ヴァレリー公爵を椅子から立ち上がらせてさらに殴りかかろうとするカールに、エリーナは胸が痛んだ。


「やめてくださいっ!!」


 気が付けば声を張り上げて、二人の間に割って入った。


「―っ!!」


 すんでのところでカールの拳がぴたりと止まる。


「―」


 張り詰めた空気の中、カールが信じられないというような面持ちでエリーナを凝視していた。


 

 





 


 





 














    


    





    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています

一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、 現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。 当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、 彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、 それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、 数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。 そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、 初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】囚われの姫巫女ですが、なぜか国王に寵愛されています

くみ
恋愛
R18作品です。 18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 治癒の力をもつ姫巫女イレーナは母国であるイフラー国の神殿で、祈りを捧げていた。 だがある日、大国ザフラが進攻してきて神殿を破り祈りをしていたイレーナを国王・オーランがさらっていく。 イレーナは敵国の元で力を使うよう命じられるのと同時に、オーランの慰みものとして囲われ昼夜問わず身体を求められる。 敵国の王に凌辱される日々が続いたが、あることがきっかけでオーランと心を引き寄せ合い?

ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない

扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!? セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。 姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。 だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。 ――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。 そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。 その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。 ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。 そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。 しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!? おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ! ◇hotランキング 3位ありがとうございます! ―― ◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ

【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

水樹風
恋愛
 とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。  十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。  だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。  白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。 「エルシャ、いいかい?」 「はい、レイ様……」  それは堪らなく、甘い夜──。 * 世界観はあくまで創作です。 * 全12話

【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!? ※毎日更新予定です ※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください ※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています

【完結】堅物騎士様は若奥様に溺愛中!

くみ
恋愛
堅物騎士団長と、箱入り娘として育った第三王女の望まない結婚。 リーズ国の第三王女、ティアナは16歳になったら父である王、ダリス・カステロの決めた婚約相手と結婚することになっていた。 そんな父が選んだ婚約者は王位騎士団長のエイリス・モーガンだった。 堅物で鷹のように獰猛な性格と噂の男だ。 ティアナはそんなに強くてすごい男の人と一緒になれるか、不安になる。 その不安をエイリスは、望まない結婚をさせられたのだと勘違いする。 エイリスは義務だから仕方ないと、ティアナを慰める。 この結婚を義務だとエイリスは割り切っているようでー?

処理中です...