38 / 66
2
しおりを挟む
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。
エリーナは無表情のままテーブルの椅子についている。
目の前には豪華な夕食がいくつか並べられているが、エリーナはどれも手につけていなかった。
いつから食べていないのだろうとふと考え、先日から何も食べていなかったことに気づいたけれど空腹は感じられない。
「食べないの?」
ヴァレリー公爵は気遣いの声をかけながらも自身の食事を平らげていく。
二人きりでいると息が詰まって苦しくなる。
「俺としてはもう少し柔らかい躰つきが好みなんだけどなー。これ以上細くならないでほしいね」
ただでさえエリーナは食が細く、体つきも痩せている。
(このまま食べずにいたらー)
もうカールのところには戻れない。だからと言って、このままヴァレリー公爵と過ごす未来は考えられない。
ふとエリーナは気になっていたことを遠慮がちに聞いた。
「ーカール様のこと、よくご存知のようでしたけれど」
「そりゃ、知らない人の方が珍しいよ。あの男も君と結婚する以前は俺と似たような生活を送っていたからね」
「えー?」
ヴァレリー公爵のことをカールは遊び人だと言っていた。手当たり次第に令嬢に手を出して遊んでいると。
カールもエリーナと結婚する前は色んな令嬢とー?
どくん、と心臓が早鐘を打つ。
「俺よりもひどかったんじゃないかな。相手を本気にさせて振るっていうのを何度も繰り返していた。それでも、あの美貌だから女性は騙されても惹かれるんだ。まったく羨ましいよ」
恨みがましく吐き捨て、ヴァレリー公爵がじっとエリーナを見据えながら思わせぶりに言った。
「今では君に夢中みたいだけれど、過去には何人の女性を相手にしたかー」
エリーナはカールが初めての人だった。
世間知らずに育ってきたとはいえ、さすがにカールもはじめてだとは思っていなかった。
だけどエリーナにしたように、その他大勢の女性にも同じことをしてきたのだと思うと、苦しくなる。
顔も名前も知らない令嬢にエリーナは嫉妬という、はじめての感情を宿した。
「俺が気に入った女性は大抵、フォード公爵に惹かれる。それが悔しくてね。まあ、二股でもいいっていう令嬢はいたけれどね。しばらくは疎遠だったけど、フォード公爵が結婚したと知って君のことを調べたんだ」
ヴァレリー公爵はふっと笑んで、エリーナを見据えた。
「最終的に選んだのは君みたいに純粋な令嬢だった。君に恨みはないけれど、俺はフォード公爵から君を奪おうと計画したんだ」
そして苦しむフォード公爵を見てみたいー。
「きっと君のことは本気だろうからね」
エリーナとカールは神の前で結婚の誓いを交わした夫婦だ。
カールの話は結婚以前のこと。
エリーナは結婚してからずっと愛されていたと自覚している。
それなのにカールに対して、エリーナの方が最大の裏切りをしてしまった。
カールの過去のことに責める権利も何もない。
もう取り返しがつかないのだ。
それでも。
エリーナの心に生まれた嫉妬の渦は消えることはなく、膨れ上がっていく。
あの顔も体も声も全部、エリーナだけに向けてほしい。
「っつ……」
叶わない願いにエリーナは嗚咽を漏らす。
「ーさ、昨夜の続きをしようか?」
ヴァレリー公爵が優越な笑みを浮かべながら言った。
エリーナは無表情のままテーブルの椅子についている。
目の前には豪華な夕食がいくつか並べられているが、エリーナはどれも手につけていなかった。
いつから食べていないのだろうとふと考え、先日から何も食べていなかったことに気づいたけれど空腹は感じられない。
「食べないの?」
ヴァレリー公爵は気遣いの声をかけながらも自身の食事を平らげていく。
二人きりでいると息が詰まって苦しくなる。
「俺としてはもう少し柔らかい躰つきが好みなんだけどなー。これ以上細くならないでほしいね」
ただでさえエリーナは食が細く、体つきも痩せている。
(このまま食べずにいたらー)
もうカールのところには戻れない。だからと言って、このままヴァレリー公爵と過ごす未来は考えられない。
ふとエリーナは気になっていたことを遠慮がちに聞いた。
「ーカール様のこと、よくご存知のようでしたけれど」
「そりゃ、知らない人の方が珍しいよ。あの男も君と結婚する以前は俺と似たような生活を送っていたからね」
「えー?」
ヴァレリー公爵のことをカールは遊び人だと言っていた。手当たり次第に令嬢に手を出して遊んでいると。
カールもエリーナと結婚する前は色んな令嬢とー?
どくん、と心臓が早鐘を打つ。
「俺よりもひどかったんじゃないかな。相手を本気にさせて振るっていうのを何度も繰り返していた。それでも、あの美貌だから女性は騙されても惹かれるんだ。まったく羨ましいよ」
恨みがましく吐き捨て、ヴァレリー公爵がじっとエリーナを見据えながら思わせぶりに言った。
「今では君に夢中みたいだけれど、過去には何人の女性を相手にしたかー」
エリーナはカールが初めての人だった。
世間知らずに育ってきたとはいえ、さすがにカールもはじめてだとは思っていなかった。
だけどエリーナにしたように、その他大勢の女性にも同じことをしてきたのだと思うと、苦しくなる。
顔も名前も知らない令嬢にエリーナは嫉妬という、はじめての感情を宿した。
「俺が気に入った女性は大抵、フォード公爵に惹かれる。それが悔しくてね。まあ、二股でもいいっていう令嬢はいたけれどね。しばらくは疎遠だったけど、フォード公爵が結婚したと知って君のことを調べたんだ」
ヴァレリー公爵はふっと笑んで、エリーナを見据えた。
「最終的に選んだのは君みたいに純粋な令嬢だった。君に恨みはないけれど、俺はフォード公爵から君を奪おうと計画したんだ」
そして苦しむフォード公爵を見てみたいー。
「きっと君のことは本気だろうからね」
エリーナとカールは神の前で結婚の誓いを交わした夫婦だ。
カールの話は結婚以前のこと。
エリーナは結婚してからずっと愛されていたと自覚している。
それなのにカールに対して、エリーナの方が最大の裏切りをしてしまった。
カールの過去のことに責める権利も何もない。
もう取り返しがつかないのだ。
それでも。
エリーナの心に生まれた嫉妬の渦は消えることはなく、膨れ上がっていく。
あの顔も体も声も全部、エリーナだけに向けてほしい。
「っつ……」
叶わない願いにエリーナは嗚咽を漏らす。
「ーさ、昨夜の続きをしようか?」
ヴァレリー公爵が優越な笑みを浮かべながら言った。
4
お気に入りに追加
4,119
あなたにおすすめの小説
【完結】堅物騎士様は若奥様に溺愛中!
くみ
恋愛
堅物騎士団長と、箱入り娘として育った第三王女の望まない結婚。
リーズ国の第三王女、ティアナは16歳になったら父である王、ダリス・カステロの決めた婚約相手と結婚することになっていた。
そんな父が選んだ婚約者は王位騎士団長のエイリス・モーガンだった。
堅物で鷹のように獰猛な性格と噂の男だ。
ティアナはそんなに強くてすごい男の人と一緒になれるか、不安になる。
その不安をエイリスは、望まない結婚をさせられたのだと勘違いする。
エイリスは義務だから仕方ないと、ティアナを慰める。
この結婚を義務だとエイリスは割り切っているようでー?
我慢できない王弟殿下の悦楽授業。
玉菜
恋愛
侯爵令嬢で王太子妃候補筆頭、アデリーゼ・バルドウィンには魔力がない。しかしそれはこの世界では個性のようなものであり、その立場を揺るがすものでもない。それよりも、目の前に迫る閨教育の方が問題だった。
王室から遣わされた教師はなんと、王弟殿下のレオナルド・フェラー公爵だったのである。妙齢ながら未婚で、夜の騎士などとの噂も実しやかに流されている。その彼の別邸で、濃密な10日間の閨教育が始まろうとしていた。
※「Lesson」:※ ←R回です。苦手な方及び18歳以下の方はご遠慮ください
【R18】囚われの姫巫女ですが、なぜか国王に寵愛されています
くみ
恋愛
R18作品です。
18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
治癒の力をもつ姫巫女イレーナは母国であるイフラー国の神殿で、祈りを捧げていた。
だがある日、大国ザフラが進攻してきて神殿を破り祈りをしていたイレーナを国王・オーランがさらっていく。
イレーナは敵国の元で力を使うよう命じられるのと同時に、オーランの慰みものとして囲われ昼夜問わず身体を求められる。
敵国の王に凌辱される日々が続いたが、あることがきっかけでオーランと心を引き寄せ合い?
元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています
一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、
現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。
当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、
彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、
それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、
数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。
そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、
初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
清廉潔白な神官長様は、昼も夜もけだもの。
束原ミヤコ
恋愛
ルナリア・クリーチェは、没落に片足突っ込んだ伯爵家の長女である。
伯爵家の弟妹たちのために最後のチャンスで参加した、皇帝陛下の花嫁選びに失敗するも、
皇帝陛下直々に、結婚相手を選んで貰えることになった。
ルナリアの結婚相手はレーヴェ・フィオレイス神官長。
レーヴェを一目見て恋に落ちたルナリアだけれど、フィオレイス家にはある秘密があった。
優しくて麗しくて非の打ち所のない美丈夫だけれど、レーヴェは性欲が強く、立場上押さえ込まなければいけなかったそれを、ルナリアに全てぶつける必要があるのだという。
それから、興奮すると、血に混じっている九つの尻尾のある獣の神の力があふれだして、耳と尻尾がはえるのだという。
耳と尻尾がはえてくる変態にひたすら色んな意味で可愛がられるルナリアの話です。
悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~
一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、
十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。
ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は
その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。
幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、
目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。
彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。
訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、
やがて彼に対して……?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】
高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。
全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。
断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる