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    あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。


    エリーナは無表情のままテーブルの椅子についている。


    目の前には豪華な夕食がいくつか並べられているが、エリーナはどれも手につけていなかった。


    いつから食べていないのだろうとふと考え、先日から何も食べていなかったことに気づいたけれど空腹は感じられない。


「食べないの?」


    ヴァレリー公爵は気遣いの声をかけながらも自身の食事を平らげていく。


    二人きりでいると息が詰まって苦しくなる。


「俺としてはもう少し柔らかい躰つきが好みなんだけどなー。これ以上細くならないでほしいね」


    ただでさえエリーナは食が細く、体つきも痩せている。


 (このまま食べずにいたらー)


    もうカールのところには戻れない。だからと言って、このままヴァレリー公爵と過ごす未来は考えられない。


    ふとエリーナは気になっていたことを遠慮がちに聞いた。


「ーカール様のこと、よくご存知のようでしたけれど」


「そりゃ、知らない人の方が珍しいよ。あの男も君と結婚する以前は俺と似たような生活を送っていたからね」


「えー?」


    ヴァレリー公爵のことをカールは遊び人だと言っていた。手当たり次第に令嬢に手を出して遊んでいると。


    カールもエリーナと結婚する前は色んな令嬢とー?


    どくん、と心臓が早鐘を打つ。


「俺よりもひどかったんじゃないかな。相手を本気にさせて振るっていうのを何度も繰り返していた。それでも、あの美貌だから女性は騙されても惹かれるんだ。まったく羨ましいよ」


    恨みがましく吐き捨て、ヴァレリー公爵がじっとエリーナを見据えながら思わせぶりに言った。


「今では君に夢中みたいだけれど、過去には何人の女性を相手にしたかー」


    エリーナはカールが初めての人だった。


    世間知らずに育ってきたとはいえ、さすがにカールもはじめてだとは思っていなかった。


    だけどエリーナにしたように、その他大勢の女性にも同じことをしてきたのだと思うと、苦しくなる。


    顔も名前も知らない令嬢にエリーナは嫉妬という、はじめての感情を宿した。


「俺が気に入った女性は大抵、フォード公爵に惹かれる。それが悔しくてね。まあ、二股でもいいっていう令嬢はいたけれどね。しばらくは疎遠だったけど、フォード公爵が結婚したと知って君のことを調べたんだ」


    ヴァレリー公爵はふっと笑んで、エリーナを見据えた。


「最終的に選んだのは君みたいに純粋な令嬢だった。君に恨みはないけれど、俺はフォード公爵から君を奪おうと計画したんだ」


    そして苦しむフォード公爵を見てみたいー。


「きっと君のことは本気だろうからね」


    エリーナとカールは神の前で結婚の誓いを交わした夫婦だ。


    カールの話は結婚以前のこと。


    エリーナは結婚してからずっと愛されていたと自覚している。


    それなのにカールに対して、エリーナの方が最大の裏切りをしてしまった。


    カールの過去のことに責める権利も何もない。


    もう取り返しがつかないのだ。


    それでも。


    エリーナの心に生まれた嫉妬の渦は消えることはなく、膨れ上がっていく。


    あの顔も体も声も全部、エリーナだけに向けてほしい。


 「っつ……」


    叶わない願いにエリーナは嗚咽を漏らす。


「ーさ、昨夜の続きをしようか?」


     ヴァレリー公爵が優越な笑みを浮かべながら言った。


     


   

    

    

            
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