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後悔 1
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エリーナが目を覚ましたとき、部屋には誰もいなかった。
いつのまにか気を失っていたらしい。
朦朧とする意識の中、かすかにカールの声が聞こえた気がしたと思ったけれどやはり空耳だったらしい。
「っ……」
カールの顔が脳裏に浮かぶ。カールに対して最大の裏切りをした。
記憶にないけれど、あのまま本当にヴァレリー公爵に最後までされてしまったのだろうか。
「ごめん、なさい、カール、様……」
顔を両手で覆い、子供のように泣きじゃくっていると扉が開いてヴァレリー公爵が中に入ってきた。
「やあ、お目覚めかな? 気分はどう?」
顔を背けたままのエリーナに、ヴァレリー公爵が肩を竦めながらベッドに近づいてくる。
「昨夜は激しくしすぎた。君があまりにも可愛かったからつい」
ーやはり最後までヴァレリー公爵にされてしまった。
その事実が胸に突き刺さり、エリーナは嗚咽を漏らす。
「ゆっくり休んでな」
返事のないエリーナの髪を撫で、背を向けたヴァレリー公爵が小さな声で呟いた。
「……さすがに、気を失っている女性をヤルほど酔狂ではないよ」
「え……」
小さくて聞き取れなかった。何と言ったのかもう一度教えて欲しくて体を起こすと、ヴァレリー公爵が愉快そうに笑みを浮かべる。
「いい眺めだね」
「っつ……」
エリーナは何も身につけていなかった。みっともない姿を晒してしまい、慌ててシーツで体を隠す。
ふっ、とヴァレリー公爵は笑って部屋を出て行った。
呆然としたまま扉を見つめていると、すぐに扉が開いて無表情のメリサがシーツを手にしながら入ってくる。
「っメリサ……」
エリーナは警戒心を露わにしてメリサを見つめる。
「ご気分がよければ湯浴みを。用意できてます」
カールの屋敷にいた時と変わらないやりとりを淡々とこなすメリサに、エリーナは震える声で問いただした。
「メリサ、どういうこと? どうして、こんなこと……」
「ー私はもともとヴァレリー公爵様のところにお仕えしていました」
メリサは話しながらもシーツの取り替えをテキパキとこなす。
「フォード公爵様のところへは目的があってメイドとして雇い入れてもらったんです。あなたを攫うために」
「そ、んな……」
ショックを受けて蒼白するエリーナに、メリサは冷めた眼差しを向けてくる。
「あなたは簡単に人を信用しすぎですよ。これに懲りてもう少し人を疑うことを覚えてください」
「お、お母様が亡くなったって話は? 私のことを心配してくれたのも、嘘、なの……?」
あのときのメリサは本当に辛そうだった。あんなことを嘘で言えるはずがない。
「ー嘘よ。あなたの状況に合わせた作り話。ヴァレリー公爵様から聞いたかもしれないけれど、あなたのお母様が危篤だっていうのもね。不安を煽らせてあなたを誘導するのが私の役目だったの」
くすりと笑うメリサに、エリーナは悲しげに目を伏せる。
「いつでもフォード公爵様が助けてくれると思ったっら大間違いよ。あの人はーそうね。そろそろ目が覚めて今の状況に憤っているところかしらね?」
「カ、カール様にも、何かしたの?」
「別に。ただ睡眠薬を飲ませただけよ」
カールにまで迷惑をかけてしまったことに、エリーナは本当に浅はかだったと思い知る。
「ーごめん、なさい……っ、カール様……」
「ー私もあなたみたいにお淑やかな女性だったらー」
「ーえ?」
「湯浴みの準備を」
慌てて口を紡いだメリサは、気まずそうにエリーナから視線を逸らした。
いつのまにか気を失っていたらしい。
朦朧とする意識の中、かすかにカールの声が聞こえた気がしたと思ったけれどやはり空耳だったらしい。
「っ……」
カールの顔が脳裏に浮かぶ。カールに対して最大の裏切りをした。
記憶にないけれど、あのまま本当にヴァレリー公爵に最後までされてしまったのだろうか。
「ごめん、なさい、カール、様……」
顔を両手で覆い、子供のように泣きじゃくっていると扉が開いてヴァレリー公爵が中に入ってきた。
「やあ、お目覚めかな? 気分はどう?」
顔を背けたままのエリーナに、ヴァレリー公爵が肩を竦めながらベッドに近づいてくる。
「昨夜は激しくしすぎた。君があまりにも可愛かったからつい」
ーやはり最後までヴァレリー公爵にされてしまった。
その事実が胸に突き刺さり、エリーナは嗚咽を漏らす。
「ゆっくり休んでな」
返事のないエリーナの髪を撫で、背を向けたヴァレリー公爵が小さな声で呟いた。
「……さすがに、気を失っている女性をヤルほど酔狂ではないよ」
「え……」
小さくて聞き取れなかった。何と言ったのかもう一度教えて欲しくて体を起こすと、ヴァレリー公爵が愉快そうに笑みを浮かべる。
「いい眺めだね」
「っつ……」
エリーナは何も身につけていなかった。みっともない姿を晒してしまい、慌ててシーツで体を隠す。
ふっ、とヴァレリー公爵は笑って部屋を出て行った。
呆然としたまま扉を見つめていると、すぐに扉が開いて無表情のメリサがシーツを手にしながら入ってくる。
「っメリサ……」
エリーナは警戒心を露わにしてメリサを見つめる。
「ご気分がよければ湯浴みを。用意できてます」
カールの屋敷にいた時と変わらないやりとりを淡々とこなすメリサに、エリーナは震える声で問いただした。
「メリサ、どういうこと? どうして、こんなこと……」
「ー私はもともとヴァレリー公爵様のところにお仕えしていました」
メリサは話しながらもシーツの取り替えをテキパキとこなす。
「フォード公爵様のところへは目的があってメイドとして雇い入れてもらったんです。あなたを攫うために」
「そ、んな……」
ショックを受けて蒼白するエリーナに、メリサは冷めた眼差しを向けてくる。
「あなたは簡単に人を信用しすぎですよ。これに懲りてもう少し人を疑うことを覚えてください」
「お、お母様が亡くなったって話は? 私のことを心配してくれたのも、嘘、なの……?」
あのときのメリサは本当に辛そうだった。あんなことを嘘で言えるはずがない。
「ー嘘よ。あなたの状況に合わせた作り話。ヴァレリー公爵様から聞いたかもしれないけれど、あなたのお母様が危篤だっていうのもね。不安を煽らせてあなたを誘導するのが私の役目だったの」
くすりと笑うメリサに、エリーナは悲しげに目を伏せる。
「いつでもフォード公爵様が助けてくれると思ったっら大間違いよ。あの人はーそうね。そろそろ目が覚めて今の状況に憤っているところかしらね?」
「カ、カール様にも、何かしたの?」
「別に。ただ睡眠薬を飲ませただけよ」
カールにまで迷惑をかけてしまったことに、エリーナは本当に浅はかだったと思い知る。
「ーごめん、なさい……っ、カール様……」
「ー私もあなたみたいにお淑やかな女性だったらー」
「ーえ?」
「湯浴みの準備を」
慌てて口を紡いだメリサは、気まずそうにエリーナから視線を逸らした。
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