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実行 1
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カールはメリサを誰もいない部屋に呼び寄せた。
「話ってなんでしょうか? 公爵様」
メリサは真っ直ぐにカールを見据えている。カールを前にしても動じることなく堂々とした佇まいだ。
「君は以前、ヴァレリー公爵の元で働いていたそうだね?」
「ええ。一年ほどですが。それがどうかしましたか?」
ニッコリと微笑むメリサにカールは静かな口調で問いただした。
「君がヴァレリー公爵に頼まれて、エリーナに何かしようとしているのは分かっている」
「あら……」
くすりとメリサは楽しげに笑い、カールに一歩詰め寄る。
「大事なエリーナ夫人が何かされるのではないかって、気にしてらっしゃるの?」
メリサは妖艶な雰囲気を醸し出し、上目遣いにカールを見詰めてくる。
(なるほど。ただの女じゃないってことか)
一瞬にして雰囲気を変えるメリサを、カールは冷めた眼差しで見下ろし事務的に告げた。
「お前には今日限りで侍女を辞めてもらう」
「まあ、残念ですわ。やっとお仕事にも慣れてエリーナ夫人とも仲良くしていただけたところだったのに」
肩を竦めて残念そうにしてみせるが、少しも悔しさをにじませていない。
「君がエリーナに何かをしたら、私は君をどうにかしてしまうかもしれない」
「公爵様は本当にエリーナ夫人を愛してらっしゃるのね。とてもヴァレリー公爵様の入る隙などないのに……」
呆れたように肩を竦めたメリサが、ちらりと意味ありげにカールを見遣り微笑を零した。
「公爵様は何か誤解をしていらっしゃるわ」
「誤解?」
メリサの言葉にカールはピクリと眉根を寄せる。
「確かに私はヴァレリー公爵様からの命令でこの屋敷に潜入しました。なかなか屋敷からお出にならない夫人の気を引いて外に連れ出すようにと」
カールはやはりな、と嘆息した。
「エリーナ夫人のお付きから外されてしまったのは残念でしたけれど、まさかこうも早くにチャンスが来るなんて思ってもいなかったですわ」
艶然と笑うメリサに、カールは嫌な予感がした。
「……君は……」
「公爵様にはコトが終わるまで眠っていただきます」
「っつ……」
メリサが自分の口元に胸元のポケットから出した白い錠剤を含み、カールに抱きついた。
「は、なれろっ!!」
突き放そうとしたが、その前に強引にキスをされてカールは瞠目する。
「っ……」
エリーナのものとは違う唇に、カールは吐き気がしそうになった。
口の中に錠剤を放り込まれる。
「んっ、ふっ……」
メリサは濃厚なキスをしながら、カールが錠剤を飲み込むのを確認していた。
ごくりと喉仏を通って胃の中に流し込まれ、メリサは満足したように笑いちゅっとカールの舌先を吸った。
カールは体の力が抜けてその場に崩れ落ちる。
「く、そっ……」
「あなたには同情するわ。よりにもよってヴァレリー公爵様にあんな可愛い夫人が狙われるなんて」
駄目だ。絶対に渡さない。
ぐっと拳を握りしめてメリサに殴りかかろうとするけれど、体がゆうことを聞かなかった。
「この睡眠薬は強力なの。丸一日ぐっすりと眠ることができるわ。ああ、屋敷の皆さんには公爵様はご気分が優れないので部屋で寝ていますって伝えておくわ。夫人も寝込んでいることにしといてあげるから安心してくださいね」
メリサの姿がぼやける。朦朧とする意識の中で頭に思い浮かんだのはエリーナの顔だった。
「おやすみなさい、公爵様」
ふっと鼻で笑いひらひらと手を振りながら、メリサは部屋を出て行った。
「話ってなんでしょうか? 公爵様」
メリサは真っ直ぐにカールを見据えている。カールを前にしても動じることなく堂々とした佇まいだ。
「君は以前、ヴァレリー公爵の元で働いていたそうだね?」
「ええ。一年ほどですが。それがどうかしましたか?」
ニッコリと微笑むメリサにカールは静かな口調で問いただした。
「君がヴァレリー公爵に頼まれて、エリーナに何かしようとしているのは分かっている」
「あら……」
くすりとメリサは楽しげに笑い、カールに一歩詰め寄る。
「大事なエリーナ夫人が何かされるのではないかって、気にしてらっしゃるの?」
メリサは妖艶な雰囲気を醸し出し、上目遣いにカールを見詰めてくる。
(なるほど。ただの女じゃないってことか)
一瞬にして雰囲気を変えるメリサを、カールは冷めた眼差しで見下ろし事務的に告げた。
「お前には今日限りで侍女を辞めてもらう」
「まあ、残念ですわ。やっとお仕事にも慣れてエリーナ夫人とも仲良くしていただけたところだったのに」
肩を竦めて残念そうにしてみせるが、少しも悔しさをにじませていない。
「君がエリーナに何かをしたら、私は君をどうにかしてしまうかもしれない」
「公爵様は本当にエリーナ夫人を愛してらっしゃるのね。とてもヴァレリー公爵様の入る隙などないのに……」
呆れたように肩を竦めたメリサが、ちらりと意味ありげにカールを見遣り微笑を零した。
「公爵様は何か誤解をしていらっしゃるわ」
「誤解?」
メリサの言葉にカールはピクリと眉根を寄せる。
「確かに私はヴァレリー公爵様からの命令でこの屋敷に潜入しました。なかなか屋敷からお出にならない夫人の気を引いて外に連れ出すようにと」
カールはやはりな、と嘆息した。
「エリーナ夫人のお付きから外されてしまったのは残念でしたけれど、まさかこうも早くにチャンスが来るなんて思ってもいなかったですわ」
艶然と笑うメリサに、カールは嫌な予感がした。
「……君は……」
「公爵様にはコトが終わるまで眠っていただきます」
「っつ……」
メリサが自分の口元に胸元のポケットから出した白い錠剤を含み、カールに抱きついた。
「は、なれろっ!!」
突き放そうとしたが、その前に強引にキスをされてカールは瞠目する。
「っ……」
エリーナのものとは違う唇に、カールは吐き気がしそうになった。
口の中に錠剤を放り込まれる。
「んっ、ふっ……」
メリサは濃厚なキスをしながら、カールが錠剤を飲み込むのを確認していた。
ごくりと喉仏を通って胃の中に流し込まれ、メリサは満足したように笑いちゅっとカールの舌先を吸った。
カールは体の力が抜けてその場に崩れ落ちる。
「く、そっ……」
「あなたには同情するわ。よりにもよってヴァレリー公爵様にあんな可愛い夫人が狙われるなんて」
駄目だ。絶対に渡さない。
ぐっと拳を握りしめてメリサに殴りかかろうとするけれど、体がゆうことを聞かなかった。
「この睡眠薬は強力なの。丸一日ぐっすりと眠ることができるわ。ああ、屋敷の皆さんには公爵様はご気分が優れないので部屋で寝ていますって伝えておくわ。夫人も寝込んでいることにしといてあげるから安心してくださいね」
メリサの姿がぼやける。朦朧とする意識の中で頭に思い浮かんだのはエリーナの顔だった。
「おやすみなさい、公爵様」
ふっと鼻で笑いひらひらと手を振りながら、メリサは部屋を出て行った。
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