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胸騒ぎ 1

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    エリーナが寝込んでから三日間。カールはずっとエリーナのそばにいた。


    仕事はいいのかと聞いても大丈夫、という返答しか返ってこない。


(ずっと一緒にいられるのは嬉しいけれどー)


    やはりカールの表情はどこか上の空だ。


    何を隠しているのだろうか。


    体調が回復しても、カールは何をするにもエリーナをそばに置いた。


「エリーナ。ネーディブ男爵様がお見えだ」


「えっ」


    エリーナがぱっと顔を輝かせる。


「エリーナ! 元気にしていたか?」


「お父様っ」


    エリーナはぎゅっとカフラに抱きついた。まさか訪ねてくるとは思っていなくて、嬉しくて顔が綻ぶ。


「びっくりしたわ。突然なんですもの」


「ん? フォード公爵様から聞いてなかったのか?」


「すみません。エリーナを驚かせようとずっと黙っていたんです」


    エリーナは嬉しさのあまり涙が溢れた。久しぶりの再会だけでも嬉しいのに、カールのサプライズでさらに喜びもひとしおだ。


「ありがとうございます、カール様」


「長旅でお疲れでしょう。ダイニングでゆっくりとくつろいでいってください」


    エリーナの頭にぽんと手を乗せながらカールが言うと、カフラは満面の笑みを浮かべた。


「エリーナ。お前は本当にいい旦那様をもったなー。父さんは嬉しいよ」


「ちょ、な、何も泣かなくても……。お母様は? 一緒じゃないの?」


    今度はエリーナがカフラを慰め、セリーナがいないことを聞くとカフラが顔を曇らせる。


「実はね、母さんが体調を崩していてー」


「お母様がっ……!?」


    セリーナはいつも元気だった。病弱なエリーナと違い今まで一度も病気をしたこがない。


    動揺して頭が真っ白になるエリーナを落ち着かせようと、カールが背中を撫でてくれる。


「そんなに心配するほどのことでもないよ。しばらくは安静が必要だが。馬車の長旅はさすがに体に応えるだろうから、今回は私一人できたんだ。母さんもお前に会いたがっていたから残念だけれどね」


「そ、そう……」


    とりあえず切羽詰まった状況ではないことにほっと息をつく。


    セリーナはエリーナが体調を崩す度に、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。


    いつも元気な母が寝床についていると思うと、どうしようもない不安が襲ってくる。


「エリーナが幸せそうで安心したよ。これもフォード公爵様のおかげですね」


「いえ、私の方がエリーナに幸福を貰っていますよ。私にはもったいないくらいの妻です」


「カ、カール様ったら」


    エリーナは恥ずかしくなり頬を赤く染める。カフラは嬉しそうに何度も頷き、カールは楽しげな笑みを浮かべていた。


    セリーナのことは気になったけれど、カフラが来てくれたことだけでも嬉しくてエリーナは楽しい夜を過ごすことができた。


    次の日の朝早く、カフラは帰っていった。


「母さんの事は何も心配しなくていい。エリーナも体調には十分気をつけて」


「ええ。お父様も、無理なさらないでね?」


    馬車が見えなくなるまで見送っていたエリーナに、カールが優しく聞いてくる。


「寂しいかい?」


「いえ。ありがとうございます。父を招待してくださって」


「私にとっても家族だからね。お母様もきっとすぐに良くなってまた来られるようになるよ」


    カールの優しい笑みを見ると緊張が緩んで、エリーナは笑顔を浮かべて頷いた。


    きっと大丈夫ー。


    自分に言い聞かせるけれど、なぜか胸騒ぎがする。


    不安を感じながらもエリーナは平静を保ち、心を落ち着かせたのだった。    


    

    


    




   
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