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    マルセルは商人として色々な貴族の屋敷に出入りしていて、貴族の内情に精通している。


    話好きで噂好きで軽いという少し面倒な相手だが、たまにこちらにとっていい情報を流してくれることもあり、付き合いを切るには惜しい相手だ。


    カールはマルセルを屋敷に招き入れた。その間もエリーナとメリサが二人きりにならないように手を回してある。


    メリサには他の仕事を頼んで、エリーナのことはユリアに面倒を見てもらっていた。


    マルセルと向かい合うなり、カールは一息つく間も与えず矢継ぎ早に聞く。


「で? どういうことか詳しく話してもらおうか」


    差し出された紅茶を飲もうとして、口調に怒気が混じったカールの迫力にマルセルは固まった。


「フォード公爵様……、顔、怖いですよ? 綺麗な顔が台無しじやないですかー」


    マルセルが場の空気を和らげようと笑いながら冗談を言ってみせるが、さらに表情を険しくさせて睨みあげる。


「わ、分かりましたよ。その新しい侍女っていうのはヴァレリー公爵様のお気に入りだったんですよ」


「お気に入りー?」


    ピクリと眉根を寄せるカールに、マルセルは怖気づきながら話した。


「私もよくヴァレリー公爵様のところに行くんですけどね、一年くらいヴァレリー公爵様のお付きの侍女として働いてましたよ。あの方が一人の女性をそばに置くなんて珍しいなーと思って気になっていたんです」


    ますます懸念が広がり、カールは黙り込んでマルセルの話を聞いた。


「で、この間ヴァレリー公爵様のところに行ったらその侍女がいなくて、噂でフォード公爵様のところに行ったと聞きまして」


    偶然にしては出来すぎだ。ヴァレリー公爵は無類の女好きで、エリーナに対してもあの男のことだから何か仕掛けるかもしれないとは思っていたが、まさか侍女を使うとはー。


「ただ侍女が辞めて、新しい仕事先がフォード公爵様のところだったっていうだけかもしれないんですけどね。ヴァレリー公爵様も何を考えているか分からない怖い方ですから……っと、喋りすぎました」


    ははっ、と笑って見せるマルセルのことはもう眼中になかった。


    メリサがどんなことを仕掛けようとしているか分からないが、エリーナにもし何かあったらと思うとどうしよもない焦りが込み上げてくる。


    すぐにでもメリサに話を聞こうと立ち上がると、いきなり血相を変えたユリアがノックもなしに部屋に入ってきた。


「お話中すみませんっ」


「どうかしたのかい?」


    ユリアがここまで焦るのはめずらしい。まさかエリーナに何かあったのかと嫌な予感が頭を過ぎった。


「庭を散歩していたら、熱を出して倒れたんです。すみません、夫人の体調に気づけずに。今、自室に運びましたがーひどく苦しんでいて」


「……わかった。すぐに行く」


    マルセルには申し訳ないがそそくさと退散し、エリーナの自室に駆け足で向かった。


   医師を呼びすぐに手当てをしてもらうと、ただの風邪だと診断されてとりあえずホッとした。


    薬と注射でエリーナの呼吸は落ち着きを取り戻し、申し訳なさそうに口にする。


「すみません、また、心配をかけて……」


「いや。このところ元気だったから、心配しただけだよ。しばらくはゆっくり寝ていなさい。今夜はそばにいてあげるから」


    エリーナは安心して微笑み、すぐに寝息を立てた。


    エリーナの寝顔を見詰めながらカールは心に誓った。


    誰であろうとエリーナに指一本触れさせはしない。


    どんなことがあろうと、エリーナを守り抜くーと。    


    
    




    
    

     


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