[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜

くみ

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「しばらくぶりですね、フォード公爵様」


 「ええ。あなたがわざわざ私の屋敷に来るとは」


    お互いに笑顔だがどこか空気が淀んでいる。


「仕事の方は順調なようですね、ヴァレリー公爵様」


「おかげさまで」


    ニッコリと微笑むこの男はリュカ・ヴァレリーといって、フォード公爵家に次いで広い領土を持つ公爵家だ。


    まだ若いが資産があり、綺麗な顔立ちをした青年で独身貴族の中ではライ以上に人気だ。


「それで? わざわざ遠く離れた我が屋敷までどういったご用件で?」


「仕事の相談というのは口実でして。フォード公爵様がご結婚されたというのにお祝いがまだでしたでしょう? ぜひ婚約祝いをと思いまして」


「それはわざわざ、ありがとうございます」


    表面は笑顔で取り繕っているが、カールは内心呆れていた。


    ヴァレリー公爵の女癖の悪さは最悪だ。


    手当たり次第令嬢に手を出すのはライと変わらないが、この男は年上の未亡人にまで手を出したり結婚をしていようがかまわず手を出したりしてくる。


    令嬢は遊び相手だと分かっていても、この男の美貌に惚れ込むのだとライが言っていた。


    カールはといえば、今まで女性に対して興味がなかったが、エリーナというかけがえのない妻を手に入れた今、この男は要注意人物としてリストアップされている。


(まさか堂々と屋敷に出向いてくるとはな)


    お披露目パーティーではもちろん、この男は招待しなかった。できるだけ避けていたのだが。


    ふとカールは思い立ち呼び鈴を鳴らして外の扉に控えていた執事を呼んだ。


「エリーナに来るように伝えてくれ」


「畏まりました」


   執事が頭を下げ部屋を出て行く。


「おや、夫人に会わせて頂けるのですか?」


「ええ。せっかくお祝いに来てくださったのに、顔を出さないのは失礼かと思い直しまして」


 「それは楽しみです。来た甲斐がありました」


    ニッコリと柔和に微笑むヴァレリーに、カールもまた意味深に微笑んだ。


 「失礼致します」


    エリーナが会釈をして部屋に入ってきて、カールは満面の笑みを浮かべて手招きした。


「エリーナ、すまないね。こちらへ」


    エリーナは少し緊張をしていた。挨拶程度の会話なら誰とでも出来るようになったが、ほとんど初対面の相手と話すにはまだ極度の緊張があるらしい。


「エ、エリーナ・フォードと申します。よ、よろしくお願い致します」


    顔を真っ赤にして話すエリーナに、目の前のヴァレリーはことさら甘ったるい微笑を浮かべた。


「リュカ・ヴァレリーと申します。この度はご結婚おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」


 「フォード公爵様とは仕事の方面で大変お世話になっていましてね。ご結婚したと聞いた時は我が事のように喜びましたよ」


    カールは白々しいと思いつつ、エリーナに言った。


「一緒に乾杯でもしようと思ってね」


「あ、でしたら私がグラス注ぎますね」


    ヴァレリーが持ってきたという高級なブランデーの瓶を持とうとして、カールがとめた。


「重いから私が持つよ」 


「これくらい平気ですよ?」


 「いいから」


    カールはヴァレリーのグラスに注ぐと、ヴァレリーもカールのグラスに注いだ。


「夫人も飲まれますか?」


「いや、妻は酒に弱くてね。すまないが果実のジュースにしてもらうよ」


   乾杯をして口を潤すと、ヴァレリーが感心したように口にする。


「はー。本当に仲睦まじいですね。羨ましい限りですよ」


    参ったなというように頭を掻くヴァレリーに、カールは恥ずかしげもなく言った。


「ええ。できれば一日中側に置いておきたいくらいです。妻は私の姿が見えないと子供のように泣いてしまうほど寂しがりやでしてね」


「カ、カール様っ」


    頬を真っ赤に染めるエリーナにカールは腰を引き寄せて甘く囁いた。


「本当のことでしょう? 何も恥ずかしがることはない」


「も、もうっ、カール様ったら……」


    こんな風に照れる姿もできればヴァレリーに見せたくないが、ここは仕方がない。


    こういう男には隠し立てするよりも堂々と晒した方が得策だ。


「フォード公爵様は幸せですね。こんな素敵な奥様と巡り会えて」


「ええ。ヴァレリー公爵様もそろそろ身を固めてはいかがですか? 縁談などは引く手数多でしょう」


「いえ。私のところに来るのなんて、金目当てがほとんどですよ。奥様のように純粋な方でしたらすぐにでも引き受けますがね」


    ヴァレリーが愁いを帯びた顔つきでエリーナを見据え、エリーナはその視線には気付かずに微笑んでいる。


    カールとヴァレリーの間に漂っている燻んだ空気もエリーナは気付かなかった。




    


    


    


    

    


    




    
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