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   エリーナがカールのところに嫁いできて一週間が過ぎた。


 いつもカールはエリーナが目覚める前に起き、仕事に向かう。


 カールは自分に合わせることはしなくていい、というけれど妻としてはいかがなものかと思ってしまう。


「エリーナ夫人? ご気分でも悪いのですか?」


「え、いえ。大丈夫ですわ」


 ボーッとしていたエリーナに朝食の片付けをしていたユリアが心配そうに声をけてくる。


 きっとエリーナの体調のことも聞いているのだろう。


 ユリアはエリーナよりも二つ年下で、田舎を出てここで働いていると教えてくれた。


「それでは、何かありましたらおよびくださいね」


「え、ええ。ありがとう」


 一人になるとつい考えてしまう。


 エリーナはひとつ気がかりなことがあった。


 カールが初夜の夜以来、一切触れてこなくなったのだ。


 軽く触れるだけのキスや抱擁はあるけれど、それ以上は触れてこない。


 実はカールとも一緒に寝ていないのだ。


(やっぱり、あきれられたのかしら)


 はじめて初夜を迎えた日ー。


 今になって冷静に考えると、エリーナはとんでもない醜態をさらしたと思う。


 自分の身体があんなふうになって、変な声が漏れてー。


 そこまで想像してエリーナはかっと頬を染めた。


 普通はあそこまでおかしくならないのではないのだろうか。


 エリーナの醜態に幻滅してカールの熱が覚めてしまったのかもしれない。


 ずっと屋敷に引きこもっていたから、同じ年の女の子がどのように恋愛をしていたかなんて知らない。


 姉はいつも楽しそうに恋について話していたけれど、興味のなかったエリーナは真剣に聞いてこなかった。 


(もっと、ちゃんと聞いておけばよかったわ)


 今になってエリーナは後悔していた。


 今夜こそちゃんと謝ろうと、カールが帰宅するのを緊張した面持ちで待っていた。


「エリーナ。ただいま」


 カールが帰宅し、エリーナの頬にキスをしてくる。


「お、お帰りなさいませ。カール様」


 笑顔で返すとカールは優しい笑みをみせ、ぽんと頭を撫でてくれる。


 いつものやりとりだった。


 ホールで食事をすませ、他愛ない世間話をするといつもカールは仕事をするといって部屋を出てしまう。


 エリーナは勇気を振り絞って呼び止めた。


「カ、カール様っ……」 


 カールが足を止めて振り返り、エリーナはカールの瞳をみつめきゅっと拳を握りしめて言った。


「あ、あの。ごめんなさいっ……!!」


「いきなりどうした? エリーナ」


 ぱっと勢いよく頭を下げて謝るエリーナに、カールは驚き動揺する。


「あ、あの。初夜の、ことで……」


「初夜?」


「……私……、とっても、はしたない醜態をさらして……、それで、カール様が、気を悪くされて、その」


 泣くつもりはなかったのに、涙がこぼれた。ここで泣いたらまたカールが困ってしまう。


「っ、ご、ご、めん、なさいっ。もう、あんな風にならないように、頑張ります、からっ、だから、そのっ」


 重い沈黙が流れる。


 いたたまれなくてエリーナはカールの顔を見ることができなかった。


「ご、ごめ、んなさい」


 途中で息苦しくなり呼吸が乱れる。


「エリーナ? 大丈夫か?」


 慌ててカールが背中をさすってくれて、呼吸が落ち着いたのと同時にそのまま抱き締められ、エリーナはどきっとした。


「すまない、エリーナ。もしかして私が君に触れないことを気にしていたのか?」


「は、はい。思い当たることは、その、初夜のときのことしか、なくて」


 カールが深いため息を吐き、まいったなというように頭をかく。


「エリーナ、君は誤解してる。その、反対なんだ。君が思っていることと私の思っていることは」


 どういうことだろうと首を傾げるエリーナの唇にキスを落として、カールは照れくさそうに言った。


「……その、初夜のときの君が、あまりにかわいすぎて、次にしたら君を壊してしまいそうで、なかなか手がだせなかったんだ」


「え……」


 予想外の言葉にエリーナは困惑する。


 カールの熱っぽい視線がエリーナを見据え、頬に大きな手が添えられ再び唇が重なった。 


 

  


 


 





   
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