3 / 66
2
しおりを挟む
フォード公爵は姉が言っていた通り、いや、それ以上に美貌の公爵だった。
白色のブラウスに白と金色の刺繍で施されたベストを身に着け、黒色のジェストコール、下衣には黒色のキュロットを穿いた衣装で現れたフォード公爵のあまりの美しさに、挨拶をするのも忘れるほど魅入ってしまう。
背筋はすっと伸びていてその手足は長く、湖のように透き通った綺麗な青い瞳には意思の強そうな力強い光が宿っている。
陶器のようにすべらかな肌に肉厚的で艶のある魅力的な唇。
完璧に整えられた端正な顔立ちは男らしさもあり、それでいてどこか甘美的な艶があった。
明るめのベージュ色をした髪はみるからにさらさらしていそうで、ぼーっと見つめているとフォード公爵が控えめに声をだした。
「私の顔に何かついていますか?」
見詰めていた唇が動いて、その声もちょうどいい低音にどこか甘さを帯びていて耳にしっくりとなじむ。
フォード公爵の戸惑いの言葉に真っ先に反応したのはカフラだった。
男性であるはずのカフラまでも見惚れるほどということだろう。
「も、申し訳ありません!! 本来でしたらこちらから出向かなければならないのに、わざわざ起こしいただき誠にありがとうございます」
「いえ、お嬢さんは身体が弱いと聞いているので長旅は応えるでしょう」
フォード公爵の視線がエリーナを見据え、ふっと優雅に微笑む。
あまりに美しい仕草にエリーナはまたもぽーっと見惚れた。
「はじめまして、お嬢さん。カール・フォード公爵と申します」
「は、はじめましてっ! あ、あ、あのっ、エ、エリーナ・ネーディブでございますっ」
控えめに会釈をするつもりが、勢いよく頭を下げてしまう。緊張のあまり声は裏返りどもってしまった。貴族令嬢らしからぬ挨拶をしてしまい、あたふたするエリーナにフォード公爵は気分を害することなく笑顔で手を差し伸べてくる。
握手を求められ遠慮がちにそっと手を差し出した。
フォード公爵の手は骨ばってごつごつしていて温かみがあった。
エリーナは冷え性で一年中冷たく、真冬などは特に辛い。
(あったかい……)
思わずうっとりとその手のぬくもりを感じていると、フォード公爵が甘い声音で口にした。
「細く綺麗な指ですね。私好みだ」
「えっ……」
青い瞳がじっとエリーナを見つめる。男の人に見つめられたことがないエリーナはそれだけで身体が火照ってしまい、今までの緊張もあって目まいがしそうになった。
くらりと身体が傾き倒れるーと思った刹那。
がっしりとした腕に支えられ厚い胸板に抱きこまれた。
「おっと、大丈夫ですか?」
「っつ……」
しっかりと背中を支えられ、まるで抱きしめられているかのような恰好にエリーナの思考は崩壊寸前だった。
すぐ近くで規則正しい鼓動が脈打つのが聞こえる。
初対面の人にいきなりこんなに密着して。ああ、それよりもこの方は公爵様だ。
恥ずかしすぎて泣きそうになってきた。
どうすることもできず、がちがちに固まってしまう。
見上げるとフォード公爵の美貌の顔が至近距離にあって、じっと熱い視線をエリーナに注いでいる。
目力のある瞳だと思った。
その瞳に見つめられるとそらせなくなる。極度の緊張で潤んだ瞳で見つめ返していると、艶々な唇が楽しそうに弧を描いて言った。
「こんな熱烈な歓迎を受けるとは思わなかったな」
どこか冗談めかしておどけたふうに言われ、エリーナはみるみる顔を真っ赤にした。
(もう、だめ……)
これ以上は心臓がとまってしまいそうだ。
エリーナはそのままフォード公爵の腕の中で気を失ってしまったのだったー。
白色のブラウスに白と金色の刺繍で施されたベストを身に着け、黒色のジェストコール、下衣には黒色のキュロットを穿いた衣装で現れたフォード公爵のあまりの美しさに、挨拶をするのも忘れるほど魅入ってしまう。
背筋はすっと伸びていてその手足は長く、湖のように透き通った綺麗な青い瞳には意思の強そうな力強い光が宿っている。
陶器のようにすべらかな肌に肉厚的で艶のある魅力的な唇。
完璧に整えられた端正な顔立ちは男らしさもあり、それでいてどこか甘美的な艶があった。
明るめのベージュ色をした髪はみるからにさらさらしていそうで、ぼーっと見つめているとフォード公爵が控えめに声をだした。
「私の顔に何かついていますか?」
見詰めていた唇が動いて、その声もちょうどいい低音にどこか甘さを帯びていて耳にしっくりとなじむ。
フォード公爵の戸惑いの言葉に真っ先に反応したのはカフラだった。
男性であるはずのカフラまでも見惚れるほどということだろう。
「も、申し訳ありません!! 本来でしたらこちらから出向かなければならないのに、わざわざ起こしいただき誠にありがとうございます」
「いえ、お嬢さんは身体が弱いと聞いているので長旅は応えるでしょう」
フォード公爵の視線がエリーナを見据え、ふっと優雅に微笑む。
あまりに美しい仕草にエリーナはまたもぽーっと見惚れた。
「はじめまして、お嬢さん。カール・フォード公爵と申します」
「は、はじめましてっ! あ、あ、あのっ、エ、エリーナ・ネーディブでございますっ」
控えめに会釈をするつもりが、勢いよく頭を下げてしまう。緊張のあまり声は裏返りどもってしまった。貴族令嬢らしからぬ挨拶をしてしまい、あたふたするエリーナにフォード公爵は気分を害することなく笑顔で手を差し伸べてくる。
握手を求められ遠慮がちにそっと手を差し出した。
フォード公爵の手は骨ばってごつごつしていて温かみがあった。
エリーナは冷え性で一年中冷たく、真冬などは特に辛い。
(あったかい……)
思わずうっとりとその手のぬくもりを感じていると、フォード公爵が甘い声音で口にした。
「細く綺麗な指ですね。私好みだ」
「えっ……」
青い瞳がじっとエリーナを見つめる。男の人に見つめられたことがないエリーナはそれだけで身体が火照ってしまい、今までの緊張もあって目まいがしそうになった。
くらりと身体が傾き倒れるーと思った刹那。
がっしりとした腕に支えられ厚い胸板に抱きこまれた。
「おっと、大丈夫ですか?」
「っつ……」
しっかりと背中を支えられ、まるで抱きしめられているかのような恰好にエリーナの思考は崩壊寸前だった。
すぐ近くで規則正しい鼓動が脈打つのが聞こえる。
初対面の人にいきなりこんなに密着して。ああ、それよりもこの方は公爵様だ。
恥ずかしすぎて泣きそうになってきた。
どうすることもできず、がちがちに固まってしまう。
見上げるとフォード公爵の美貌の顔が至近距離にあって、じっと熱い視線をエリーナに注いでいる。
目力のある瞳だと思った。
その瞳に見つめられるとそらせなくなる。極度の緊張で潤んだ瞳で見つめ返していると、艶々な唇が楽しそうに弧を描いて言った。
「こんな熱烈な歓迎を受けるとは思わなかったな」
どこか冗談めかしておどけたふうに言われ、エリーナはみるみる顔を真っ赤にした。
(もう、だめ……)
これ以上は心臓がとまってしまいそうだ。
エリーナはそのままフォード公爵の腕の中で気を失ってしまったのだったー。
26
お気に入りに追加
4,119
あなたにおすすめの小説
【完結】堅物騎士様は若奥様に溺愛中!
くみ
恋愛
堅物騎士団長と、箱入り娘として育った第三王女の望まない結婚。
リーズ国の第三王女、ティアナは16歳になったら父である王、ダリス・カステロの決めた婚約相手と結婚することになっていた。
そんな父が選んだ婚約者は王位騎士団長のエイリス・モーガンだった。
堅物で鷹のように獰猛な性格と噂の男だ。
ティアナはそんなに強くてすごい男の人と一緒になれるか、不安になる。
その不安をエイリスは、望まない結婚をさせられたのだと勘違いする。
エイリスは義務だから仕方ないと、ティアナを慰める。
この結婚を義務だとエイリスは割り切っているようでー?
我慢できない王弟殿下の悦楽授業。
玉菜
恋愛
侯爵令嬢で王太子妃候補筆頭、アデリーゼ・バルドウィンには魔力がない。しかしそれはこの世界では個性のようなものであり、その立場を揺るがすものでもない。それよりも、目の前に迫る閨教育の方が問題だった。
王室から遣わされた教師はなんと、王弟殿下のレオナルド・フェラー公爵だったのである。妙齢ながら未婚で、夜の騎士などとの噂も実しやかに流されている。その彼の別邸で、濃密な10日間の閨教育が始まろうとしていた。
※「Lesson」:※ ←R回です。苦手な方及び18歳以下の方はご遠慮ください
【R18】囚われの姫巫女ですが、なぜか国王に寵愛されています
くみ
恋愛
R18作品です。
18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
治癒の力をもつ姫巫女イレーナは母国であるイフラー国の神殿で、祈りを捧げていた。
だがある日、大国ザフラが進攻してきて神殿を破り祈りをしていたイレーナを国王・オーランがさらっていく。
イレーナは敵国の元で力を使うよう命じられるのと同時に、オーランの慰みものとして囲われ昼夜問わず身体を求められる。
敵国の王に凌辱される日々が続いたが、あることがきっかけでオーランと心を引き寄せ合い?
元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています
一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、
現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。
当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、
彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、
それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、
数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。
そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、
初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
清廉潔白な神官長様は、昼も夜もけだもの。
束原ミヤコ
恋愛
ルナリア・クリーチェは、没落に片足突っ込んだ伯爵家の長女である。
伯爵家の弟妹たちのために最後のチャンスで参加した、皇帝陛下の花嫁選びに失敗するも、
皇帝陛下直々に、結婚相手を選んで貰えることになった。
ルナリアの結婚相手はレーヴェ・フィオレイス神官長。
レーヴェを一目見て恋に落ちたルナリアだけれど、フィオレイス家にはある秘密があった。
優しくて麗しくて非の打ち所のない美丈夫だけれど、レーヴェは性欲が強く、立場上押さえ込まなければいけなかったそれを、ルナリアに全てぶつける必要があるのだという。
それから、興奮すると、血に混じっている九つの尻尾のある獣の神の力があふれだして、耳と尻尾がはえるのだという。
耳と尻尾がはえてくる変態にひたすら色んな意味で可愛がられるルナリアの話です。
悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~
一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、
十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。
ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は
その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。
幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、
目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。
彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。
訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、
やがて彼に対して……?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】
高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。
全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。
断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる