ドラゴン観察日記

早瀬 竜子

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よっぽどの馬鹿?

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 竜術士になるための条件は、竜に好かれること、竜と心を通わせることができること、竜術を覚えられる頭があること、の三つ。

 私は、竜には好かれているみたいだけど、その他は自信がないのに竜術士になれるのだろうか。

 その疑問をぶつけると、グレイス様が答えてくれた。

「心を通わせるのは、竜の気持ちがだいたい分かれば何とかなる。竜術は、よっぽどの馬鹿でなければ大丈夫だろう」

 よっぽどの馬鹿だったらどうしよう……。
 竜術を覚えられない=よっぽどの馬鹿。
 自分の頭が良いのか悪いのか分からない私にとっては、かなりのプレッシャーだった。

「竜術に関しては、馬鹿かどうかより、師匠の教え方がいいか悪いかの問題じゃないのか?」

 ライドさんがそう言って、私にかかったプレッシャーを和らげてくれた。

 そっか。師匠が良ければいいんだ。

 ちょっとだけ安心して、私はまたグレイス様に訊いてみた。

「私が竜術士になるには、誰に弟子入りすればいいんですか?」
「私だ」
「……グレイス様が師匠になってくれるんですか?」
「……不満か?」
「いいえ! 不満なんて、とんでもない!」

 慌てて否定しながら、私は、グレイス様は教え方が下手そうだな、と不安な気持ちで考えていた。



 竜の群れの中から出て、待っていたラファンの所まで戻ると、私はグレイス様に十五歳まで待たずに弟子にしてほしいと言った。
 グレイス様はすぐに了承してくれた。
 それから私は、気になっていたことを訊いた。

 キューちゃんが大きくならないことについては、あっさり解決した。

「竜は長命な生き物だから、幼少期も長いのだろう」

 グレイス様がそう言ったので安心した。育て方の問題ではなかったようだ。
 しかし、それならなぜ自分が王都に呼ばれたのか気になった。
 それについては、ライドさんが答えてくれた。

「キュアーのことを報告したら、王様が興味を持っちゃってね」

 それでキューちゃんと私を呼ぶことになったそうだ。

 王様に会うと聞いて、私はパニックになった。

 ええーっ! 王様と何話したらいいの!? 服は!? 王様に会えるような服、持ってないのに!!

 慌てまくる私に、ライドさんが言った。

「大丈夫だよ。陛下に会う時は私達も一緒にいるし、受け答えは私達がするから。君はキュアーのことだけちゃんとしててくれればいいから」

 あ、なんだ。私はキューちゃんのついでか。

 途端に今まで慌てていたのが恥ずかしくなった。
 叫んだりしなくて良かった~。
 声に出して言ってたら、今頃恥ずかしくて帰りたくなっていたはずだ。

 王様の前ではキューちゃんが飛び回ったりしないように、しっかり押さえておこう。
 私はそう決意した。

「陛下に会わせるために呼んだというのもあるが、私は君とキュアーをここに連れて来たかった」

 グレイス様がそう言った。

 私は、竜達のいる湖を見た。
 きっと、この景色と仲間の竜達を見せたかったのだろう。

「キューちゃん、仲間と一緒に暮らしたい?」

 そう訊くと、キューちゃんは私にぐりぐりと頭を擦り付けてきた。
 まるで、私と一緒のほうがいいと言っているようで嬉しくなった。

「キューちゃん、私と暮らすほうがいい?」
「キュ」

 キューちゃんがそう答えてくれた。たぶん、肯定の意味だと思う。

 キューちゃんと離れなくていいんだ。
 仲間の所へ行きたいんじゃないかと、不安だった気持ちが落ち着いた。
 これから、キューちゃんと一緒に王都で頑張っていこうと思った。


 帰りもまたひと騒動あった。
 竜達が引きとめるように皆で鳴くのだ。

「こりゃ、ずいぶんと好かれたな」

 ライドさんが苦笑している。
 グレイス様は、竜達を宥めるように話しかけていた。

「リゼとキュアーは、また連れて来る」

 そう何度も言い聞かせ、ようやく城に帰ることができたのだった。
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