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タルパと夜に泣く。
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決心は簡単に揺らいでしまう。
「あーあ、なんて顔してんの。弱気にならないでよー。」
呆れたような優美ちゃんの声。
最もだ。
本当に呆れられて当然だ。
叱られるのを待つ子供の気持ちで優美ちゃんを見る。
だけど意外な事にその表情は優しい。
「そういうとこホント清太郎と似てるね。」
「え?」
「すぐ自分を低く見積もるところ!」
「…。」
「私さ。清太郎と一番相性が良いのは私だと思ってる。」
その瞬間、大志が身を乗り出した。
「は?お前今更何言っ…」
「だって手毬ちゃんと清太郎って似てんだもん。臆病な所と優しい所。私は正反対だから凹凸がピッタリくるんだよ。だから清太郎は本当に居心地が良い。清太郎だって私をそう思ってる筈。」
確かに清太郎もそんな様な事を言っていた。
『優美は案外居心地が悪くない』と。
それに私もそう思う。
優美ちゃんの様な自己主張をしっかりしてくれるタイプは楽なんだ。
「そりゃ、お前がワガママなだけだろ。」
「だから良いんじゃん。譲り合う同士じゃなにも始まらない。私や大志みたいな自己主張する人間もいるから世界は回ってる。」
本当にその通りだ。
私と清太郎が始まらなかったのは正にそういう所が原因だったのだから。
「実際清太郎も最後に会った時言ってたよ。優美は単純で良いなって。腹ん中で思ってる事と行動に矛盾がないって。誰と比べて言ってたんだかってその時は思ったけどさ。それってきっと手毬ちゃんの事でしょう?」
私は言い返せずに下を向いてしまう。
見かねて大志が優美ちゃんの腕を掴んで止めた。
「お前、ホントいい加減に…」
「だけどね!」
全てを遮る大声。
ただそれは一瞬の事で、以降はトーンを戻して優美ちゃんは静かに語り出す。
「清太郎は楽で付き合いの長い私を選ばなかったよ?どれだけ強引に戻ろうって誘っても今までなら簡単に頷いてた筈なのに、ここに来てからは絶対に首を縦に振らなかった。どれだけ家の中に上げてくれても、簡単にエッチしてもね。本当の意味で私を受け入れる事はしなくなった。」
「…。」
「それでも私はまだ何とかなるって思ってたから何度もここに来た。だって清太郎が今まで付き合ってきた子全部見てきたけど、どの子も真面目で空気読んでて、私みたいに清太郎を引っ張って楽しませられる様な子じゃなかったし、私だけタイプが違ったから私が特別なんだろうって思ってたし。清太郎って押しに弱くてさ。今は何処に居るのか分からなくても、見付け出して『好き好き』言えばどうせまた簡単に折れるしって思ってたよ。さっきまで…。」
黙って聞いている私と大志。
その二人からの視線を感じながらも優美ちゃんはゆっくりとした動きで座り直すと冷めたお茶を飲む。
そして一呼吸置きまた口を開いた。
「近所のオバサン達から手毬ちゃんの事聞かされて、大志と知り合ってからは大志からも手毬ちゃんの話を聞いて。ああ、清太郎の好きそうな女だなーって思った。だから全然脅威じゃないわーって胡座かいてた。どうせ今までと同じでしょうって。でも今日手毬ちゃんに会って一目で、あー、これは敵わないわってなった。今までのアレは清太郎が好きなタイプなんじゃなくて清太郎は手毬ちゃんを求めてたんだなーって。」
「手毬を?」
「うん。」
大志の問いに頷いた後、こちらを見て優美ちゃんが笑う。
「手毬ちゃん、子供の頃に清太郎と何かあったでしょう?」
子供の頃…。
上手く思い出せない。
ただ清太郎の口振りでも感じられた通り、子供の頃に何度か会ってるのは事実だ。
「私はあんまり覚えてないんどけど…。多分子供の時に何かあったんだと思う。」
「そっか…。その頃の話を清太郎とした事は?」
「…ない。」
「そう…。」
そこから全員が考え込んでしまった。
ここに来て初めて、清太郎についての記憶だけが薄い子供時代の自身に思考を巡らせている。
私はそれ程記憶力が悪い方ではない。
特に現在、田舎で平和にこれと言った事件もなく暮らしている分、幼少期の思い出深いエピソードはふとした拍子に蘇る事が多く、そうでなくても人から言われればそれを切っ掛けに必ず思い出している。
どうしてこれ程までに清太郎の事だけが思い出せないのだろう?
「思い出してあげて欲しいな…。清太郎にとっては大事な事みたいだから。」
「…うん。」
「私ね。本当に手毬ちゃんと会うまでは正直手伝う気なんてなかった。」
「おい、…話違うじゃねぇかよ。」
「あはっ、ごめんね大志。私、協力するって言ったけど、本当はギリギリまで邪魔する気満々だった。でもさ。負け戦はしない主義なんだよね。」
「負け戦?」
「手毬ちゃんって、仕事もスペックも知らないで清太郎の事好きって言っててさ。手毬ちゃんも清太郎みたいに気ばっか遣って損する子でさ。清太郎と似てるから、やっぱり相性で言ったら私の方が良いと思うよ?でも清太郎が求めてるのって相性の良い人間じゃないんだろうね。清太郎はさ、自分の性質を理解してくれて、それで清太郎もその人を理解して。なんかそういう同じ所に居る人と暖め合いたかったのかな?ってホントについさっき分かった。そしたらもう私に出る幕なくない?」
だからってどうして協力してくれるのだろう。
負けを認めたにしても私に親切にする義理はない筈だ。
「私切り替え早いの。もう清太郎に未練はないよ?でも幼馴染なのは変わらないから。そういう情はあるよ?これからも。」
「優美ちゃん…。」
「清太郎と向き合ってよ。もっと私も大志も本当に出る幕ないくらい二人で向き合ってよ。その姿見ないと私達スッキリ出来ないよ。」
大志を見ると大きく頷いている。
優美ちゃんも頷いて私を見ていた。
「私も大志も自分の為に手伝ってるんだから、手毬ちゃんは後ろめたく思わないで清太郎と向き合って欲しい。」
「分かった。ありがとう。」
「うん。皆でスッキリしよう。」
こうして優美ちゃんには高学歴スナイパーズのメンバーに接触を試みてもらい、大志にはそのサポートをしてもらう事になった。
私は当事者なのに出来る事が少なくて…。
まずは清太郎と向き合う日に備え、自身と向き合う事に決めた。
今まで目を背けていた事にでも取り組もう。
そうだ。
祖父の作品でも読んでみよう。
「あーあ、なんて顔してんの。弱気にならないでよー。」
呆れたような優美ちゃんの声。
最もだ。
本当に呆れられて当然だ。
叱られるのを待つ子供の気持ちで優美ちゃんを見る。
だけど意外な事にその表情は優しい。
「そういうとこホント清太郎と似てるね。」
「え?」
「すぐ自分を低く見積もるところ!」
「…。」
「私さ。清太郎と一番相性が良いのは私だと思ってる。」
その瞬間、大志が身を乗り出した。
「は?お前今更何言っ…」
「だって手毬ちゃんと清太郎って似てんだもん。臆病な所と優しい所。私は正反対だから凹凸がピッタリくるんだよ。だから清太郎は本当に居心地が良い。清太郎だって私をそう思ってる筈。」
確かに清太郎もそんな様な事を言っていた。
『優美は案外居心地が悪くない』と。
それに私もそう思う。
優美ちゃんの様な自己主張をしっかりしてくれるタイプは楽なんだ。
「そりゃ、お前がワガママなだけだろ。」
「だから良いんじゃん。譲り合う同士じゃなにも始まらない。私や大志みたいな自己主張する人間もいるから世界は回ってる。」
本当にその通りだ。
私と清太郎が始まらなかったのは正にそういう所が原因だったのだから。
「実際清太郎も最後に会った時言ってたよ。優美は単純で良いなって。腹ん中で思ってる事と行動に矛盾がないって。誰と比べて言ってたんだかってその時は思ったけどさ。それってきっと手毬ちゃんの事でしょう?」
私は言い返せずに下を向いてしまう。
見かねて大志が優美ちゃんの腕を掴んで止めた。
「お前、ホントいい加減に…」
「だけどね!」
全てを遮る大声。
ただそれは一瞬の事で、以降はトーンを戻して優美ちゃんは静かに語り出す。
「清太郎は楽で付き合いの長い私を選ばなかったよ?どれだけ強引に戻ろうって誘っても今までなら簡単に頷いてた筈なのに、ここに来てからは絶対に首を縦に振らなかった。どれだけ家の中に上げてくれても、簡単にエッチしてもね。本当の意味で私を受け入れる事はしなくなった。」
「…。」
「それでも私はまだ何とかなるって思ってたから何度もここに来た。だって清太郎が今まで付き合ってきた子全部見てきたけど、どの子も真面目で空気読んでて、私みたいに清太郎を引っ張って楽しませられる様な子じゃなかったし、私だけタイプが違ったから私が特別なんだろうって思ってたし。清太郎って押しに弱くてさ。今は何処に居るのか分からなくても、見付け出して『好き好き』言えばどうせまた簡単に折れるしって思ってたよ。さっきまで…。」
黙って聞いている私と大志。
その二人からの視線を感じながらも優美ちゃんはゆっくりとした動きで座り直すと冷めたお茶を飲む。
そして一呼吸置きまた口を開いた。
「近所のオバサン達から手毬ちゃんの事聞かされて、大志と知り合ってからは大志からも手毬ちゃんの話を聞いて。ああ、清太郎の好きそうな女だなーって思った。だから全然脅威じゃないわーって胡座かいてた。どうせ今までと同じでしょうって。でも今日手毬ちゃんに会って一目で、あー、これは敵わないわってなった。今までのアレは清太郎が好きなタイプなんじゃなくて清太郎は手毬ちゃんを求めてたんだなーって。」
「手毬を?」
「うん。」
大志の問いに頷いた後、こちらを見て優美ちゃんが笑う。
「手毬ちゃん、子供の頃に清太郎と何かあったでしょう?」
子供の頃…。
上手く思い出せない。
ただ清太郎の口振りでも感じられた通り、子供の頃に何度か会ってるのは事実だ。
「私はあんまり覚えてないんどけど…。多分子供の時に何かあったんだと思う。」
「そっか…。その頃の話を清太郎とした事は?」
「…ない。」
「そう…。」
そこから全員が考え込んでしまった。
ここに来て初めて、清太郎についての記憶だけが薄い子供時代の自身に思考を巡らせている。
私はそれ程記憶力が悪い方ではない。
特に現在、田舎で平和にこれと言った事件もなく暮らしている分、幼少期の思い出深いエピソードはふとした拍子に蘇る事が多く、そうでなくても人から言われればそれを切っ掛けに必ず思い出している。
どうしてこれ程までに清太郎の事だけが思い出せないのだろう?
「思い出してあげて欲しいな…。清太郎にとっては大事な事みたいだから。」
「…うん。」
「私ね。本当に手毬ちゃんと会うまでは正直手伝う気なんてなかった。」
「おい、…話違うじゃねぇかよ。」
「あはっ、ごめんね大志。私、協力するって言ったけど、本当はギリギリまで邪魔する気満々だった。でもさ。負け戦はしない主義なんだよね。」
「負け戦?」
「手毬ちゃんって、仕事もスペックも知らないで清太郎の事好きって言っててさ。手毬ちゃんも清太郎みたいに気ばっか遣って損する子でさ。清太郎と似てるから、やっぱり相性で言ったら私の方が良いと思うよ?でも清太郎が求めてるのって相性の良い人間じゃないんだろうね。清太郎はさ、自分の性質を理解してくれて、それで清太郎もその人を理解して。なんかそういう同じ所に居る人と暖め合いたかったのかな?ってホントについさっき分かった。そしたらもう私に出る幕なくない?」
だからってどうして協力してくれるのだろう。
負けを認めたにしても私に親切にする義理はない筈だ。
「私切り替え早いの。もう清太郎に未練はないよ?でも幼馴染なのは変わらないから。そういう情はあるよ?これからも。」
「優美ちゃん…。」
「清太郎と向き合ってよ。もっと私も大志も本当に出る幕ないくらい二人で向き合ってよ。その姿見ないと私達スッキリ出来ないよ。」
大志を見ると大きく頷いている。
優美ちゃんも頷いて私を見ていた。
「私も大志も自分の為に手伝ってるんだから、手毬ちゃんは後ろめたく思わないで清太郎と向き合って欲しい。」
「分かった。ありがとう。」
「うん。皆でスッキリしよう。」
こうして優美ちゃんには高学歴スナイパーズのメンバーに接触を試みてもらい、大志にはそのサポートをしてもらう事になった。
私は当事者なのに出来る事が少なくて…。
まずは清太郎と向き合う日に備え、自身と向き合う事に決めた。
今まで目を背けていた事にでも取り組もう。
そうだ。
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