タルパと夜に泣く。

seitennosei

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タルパと夜に泣く。

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「俺との事ちゃんと考えてるか?」
ああ、例え酷く大志を傷付ける事になるとしても、素直な想いを吐かなければならないと覚悟を持った筈なのに。
「…。」
結局は言葉を無くしたままただフルフルと首を横に振るしか出来なかった。
しっかりと思っている事を口にしないと。
そう思えば思う程に言葉は出てこない。
大志が残念そうに呟く。
「そうか…。」
私は喉を絞って声を押し出した。
「ごめん、私…」
「分かってる。考えてないんじゃなくて考えられなかったんだろ?」
困ったような弱い笑顔をくれる大志。
全てお見通しな上、それを許されたような空気にますます居た堪れなくなってしまう。
「清太郎の事もちゃんとしようとしたんだよな?俺の事も考えようとしたんだろ?だけど出来なかったんだよな?」
「大志…」
「俺が気持ち伝えた後さ。何かあったんだろ?清太郎と。それでわけ分かんなくなっちゃったんだろうなって分かってるよ。お前可笑しかったもんな、あれからずっと。」
本当は優しくして貰える立場にない。
罵倒されても罵られても可笑しくない曖昧な態度をとっていた。
それでも大志は私を責めない。
だからこそ余計に胸が痛む。
「お前、最近ずっと心ここに在らずって感じでヤバいぞ?」
「…うん。」
「手毬。お前、出来る事全部やり切ったか?」
それはさっきも答えた筈だ。
向き合おうとする前に逃げられたのだと。
痛い所を再度突かれ自分の立場も忘れて若干苛立つ。
「だから、やり切る前に逃げられたって…」
「いや、お前はやり切ってないよ。」
被せて断言されてしまった。
はくっと空を食み閉じられない口。
声も出せない私を置き去りに大志は続ける。
「やろうとする前に出来ない理由探して止めたんだろ?本当にやり切るっていうのは結果が明白だろうがどう考えてもダメだろうが出来ない理由があろうが、それでも本当にやり切る事なんだぞ?」
「言ってる意味が分かんない!」
「俺はやり切った!」
強く言い切られまた私は固まった。
大志は聞き分けの悪い子供を諭すように真っ直ぐと目でも訴えかけてくる。
「ちゃんと聞けよ。俺はやり切ったから言えるんだ。駄々こねて聞き流すな。今の俺の言葉は軽くない筈だ。」
「大志…。」
「俺はさ。お前に気持ち伝えてから今日まで少しでも時間作れたら必ず逢いに来て。その度に絶対に好きだって言葉にしてた。結局困った顔させたり上の空で聞いて貰えてなかったりで良い反応が戻ってくることは一回もなかったけどな。それでも俺は全力で手毬が好きだって伝え続けた。手毬は清太郎にそれしてないだろ?」
「わかんない…」
「分かってんだろ?ホントは。俺だって怖かったよ?困った顔見る度に俺の気持ちは困らせるだけなのかもしれないって不安になったし。どれだけ言っても届かない時はホントに歯痒かったし。ここに向かって来る車の中で引き返そうって思った日も何度もあった。どうせ叶わないし届かないなら意味ないしって虚しくなる事だって何回もあった。」
「…。」
「でも今は良かったと思ってんだよ。これだけやってダメなら仕方ないって思えるようになってきたんだよ。きっと一回でも引き返していたら俺はあの日引き返したからダメだったのかもしれないって一生悔やんだと思う。どうせ喜ばれないならって、好きって言うのを一回でもサボったら、その一回が足りないかったから手毬に振り向いて貰えないのかもって…、足りない分を補いたくなって中身の薄い好きを何度も連呼しちゃってたと思うんだ。」
真剣な大志の言葉にキュッと喉が詰まる。
胸を打つってこういう事なんだ。
気持ちを伝えてくれてから今日までの大志との日々が今急に全て蘇った。
上の空で酷くいい加減な態度の私に根気よく語り掛けてくれていた姿。
数日おきに必ず現れ、強引に励ます明るい声。
清太郎の事に直接言及はしなくとも、ぼんやりと今を生きる事を放棄していた私を現実世界に引っ張り上げようとしてくれていた。
今やっと大志の言葉が私の胸に届いている。
「俺にとっては全部大事だったんだよ。手毬にとっては迷惑だったかもしれないけどな。気持ちを伝え続ける事も頻繁に逢いに来る事もさ。全部やらなきゃ前に進めない必要な儀式だったんだなって思うよ。だから今なら言い切れるんだよ。俺はやり切ったって。」
「大志…わたし…」
「手毬はやり切ってないんだろ?」
コクコクと頷く。
それは今問い掛けてくれている言葉に対してだけでなく。
大志がずっと私の為に言っていてくれた言葉やしてくれた行動に対して。
遅くなってしまったけれど全部届いているって伝えたくて何度も頷いた。
「相手の気持ちとか自信のなさとかが邪魔して色々飲み込んだんだろ?」
「うん。」
「全くよー。せっかく隣に住んでたのに何してたんだよ?聞いてくれないとか拒絶されてるとか自分が悪いから要求できないとかやらない理由探して結局何もしなかったんだろ?」
図星で耳が痛い。
けれど今は素直に聞ける。
全ての言葉がストンと胸に落ちてきた。
「逃げられたって腕引っ張って叫べば良かったんだ。ポストが溢れる程手紙ぶち込めば良かったんだ。どれだけ迷惑な顔されたって会いに行けば良かったんだ。」
「うん。…そうだね。」
「俺は高一で手毬と出会ってから十年以上お前が好きで…。高一って15だぞ?もう人生の半分以上俺はお前が好きで…。お前が好きなのはもう俺の中では当たり前で。それを覆すのは本当に大変な事だから…。」
ここでふいっと大志は視線を外す。
そしてハッと苦く笑うとまた私を見た。
「でもな。その気持ちに整理着くにはこの一ヶ月半は十分だった。」
「…。」
「お前は?」
「…私?」
「俺が全力で藻掻いてやり切って。そんで気持ちに整理つけてた間。手毬は何かを頑張ってたか?」
首を横に振る。
私は清太郎が欲しくて必死で。
失うかもってなってからは特にそうだったけれど。
ただ必死に藻掻くだけで現状を好転させる為に頑張った事なんてひとつも無かった。
「頑張って…なかった。」
「うん…、そうか。じゃあ、やる事は決まったな。」
「やる事?」
「おう。」
これまでの真面目な空気を壊すように大志は悪戯っぽく歯を見せて笑うと声高に言った。
「清太郎を探すぞ。」
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