タルパと夜に泣く。

seitennosei

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タルパと夜に泣く。

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されるがまま舌を絡ませていると大きな手で頭を支えられ逃げ場を失ってしまった。
繊細に指が動き、耳の後ろから頭皮、うなじとジワジワ刺激され吐息が漏れてしまう。
もう片手で腰を支えられ、スリっと擽られると肩が上がる。
呼吸をするのがやっとで私は涙目になりながら大志の胸を押し返した。
「今更抵抗すんなよ。…エロい顔しやがって。マジで初めてじゃないんだな。」
怒りを孕んだ瞳。
「お前は何も知らない真っさらなんだと思ってたのによ。…男なんて知りませんって態度して騙しやがって。慎重になってたのが馬鹿らしいわ。」
こんなに至近距離で大志と見つめ合うのは初めてで。
普段のお調子者な雰囲気とは全く違う雄の顔。
いつものノリだったら本当に嫌になれば否せるだろうけれど、これはもう逃げられられないのだろう。
そう思ったら急に少し怖くなった。
また口を付けようと近付く顔。
胸を抑えていた手の力を強めて阻止する。
「大志…本当に私の事好きなの?」
「そうだよ。」
そう言って強引に口を寄せるのを再度押し留め。
「じゃあやっぱここまでにしよう?私は違うから。」
「お互いの気持ちが全く一緒じゃねえと出来ねえの?アイツともシてんだろ?お互いの気持ちはっきりしてねぇ癖に。」
そう言われてしまうと次に口を寄せられた時はもう拒めなくて。
また呼吸も儘ならない程に唇を奪われながら私は一ヶ月程前にした清太郎との会話を思い出す。

その時、畳に横たわる清太郎は隣に寝転ぶアナに問い掛けた。
「なぁ。ウサギがオオカミと偶然出会したらウサギは普通はどうすると思う?」
それはあまりにも脈略がなくて。
それと同時に引っ掛け問題を疑う程に簡単過ぎる。
『普通』と強調されていなかったらもっと答える事を躊躇ったと思う。
「…えっと…逃げる?」
「そう。そうなんだよ。食われたくなければ逃げるよな。普通は。」
「うん。…で?」
質問の意図を知りたくて続きを促しているのに、清太郎は腕で上体を起こし仰向けに寝転んでいる私を見下ろし更に問いを続けた。
「アナがオオカミだとしてさ。目の前で美味しそうなウサギが『食べないで』って言って逃げたら後を追うだろ?」
「うん。」
「じゃあそのウサギが『貴方は私なんて食べないでしょ?大丈夫私は分かっています。』って顔でどんどん近寄って来たとしたら。どうする?」
何の話だろう。
童話か何かだろうか。
そう思って私はワクワクとしていた。
「ふふふっ、なにそれ。そのウサギ危機感無さすぎない?でも…そんなに無防備だと逆にあっけに取られて食べられないかもね。何かの罠かとも思うし。」
「なー。そうなんだよなー。」
ケラケラと笑う私に合わせて清太郎も笑顔を見せている。
楽しいけれど、やっぱり何の話なのかは分からないままで。
痺れを切らした私は再度突っ込んだ。
「で?結局なんの話なの?」
「町田手毬の事だよ。」
「え?」
開いた口が閉じなくなった。
自分がアナである事も忘れ間抜けな声まで漏らして。
まさか私の話だったなんて思いもしなかったから…。
「町田手毬の男に対する接し方って正にそんな感じなんだよな。女として見られたくない癖に『女として見るな』って距離をとるんじゃなくて『女として見てないでしょう?大丈夫分かってる』って感じで男に接するんだよ。いやいや、こっちからすると全くもって大丈夫じゃないんだよなーって感じなんだけどさ。」
「へー、そう…なんだ。」
そう返すのが精一杯だった。
私って周囲の男性からそう見られていたんだ。
その時は驚きつつも指摘通りに客観的な自分を受け入れた…つもりでいた。
そう、全てはつもりだったのだと今思い知った。
大志に怒りにも似た強い想いをぶつけられながら、結局私は何も分かっていなかったのだと今正に突き付けられている。

グッと腰を寄せられ密着する身体。
脚の間に膝を割り入れられた。
続けて洋服と下着を隔てて敏感な部分を太腿で押し擦り上げられる。
「んっ。んーん!」
急な刺激に驚き胸を押して抗議するも全く意に返した様子もなく口内は侵され続けて。
少し強く暴れ離れようとすると壁に挟まれたままズルズルと滑り、畳に座り込んでしまった。
それでも逃がしてもらえず口も頭も腰も捕まっていて。
気付けば畳の上に完全に押し倒されていた。
大志の求め方は強引でめちゃくちゃなのに、的確にこちらを悦ばせる場所を押さえていて。
伊達に女を途切れさせずにここまできていないなと感心してしまう。
私だって違う人物の仮面を被っていたとしてもそれなりに場数を踏んできたのに。
今まで経験した誰よりも大志の刺激は絶妙で、身体がジクジクと女だということを思い出し始める。
ああ。
私もやっぱり女なんだ。
じんわりと下半身が濡れている感覚がする。
そうだったんだ。
私は私のままでも女になれるんだ。
ぼんやりとそんな事を思っているといつの間にか長いキスは終わり、流れるように首筋に口が触れてきた。
ちゅっ、ちゅっと態とらしく音をたて触れるだけのキスを何度も首に落とす大志。
唇と鼻先でさわさわと擽りながらシャツワンピの前を開いていく。
その手を静止するも振り切られ、開いたところから強引に滑り込み脇腹を撫で私の身を捩らせた。
「なあ、いつからアイツとヤってんだよ?触られ慣れてんのは誰に仕込まれた?」
「さわらっ…慣れてない!」
「慣れてんだろ!男はそういうの分かんだよ!」
「ちがっ…やだ。」
「やじゃねえだろ!」
語気の強さとは対照的に繊細な手つき。
柔らかく背中まで撫でられ力が抜けてしまう。
「こんなとこで悦くなんねんだよ。慣れてない女は。」
そのまま脇、首、鎖骨と滑っていく手。
その全て気持ち良くて身体の奥からどんどんと女が引き出されていく。
だけどまだ完全には落ちきれなくて。
自棄的に大志を受け入れた癖に、腹を括り切れていない部分が待たをかける。
「大志、やっぱりちょっとまっ…」
「手毬。」

ドクンッ

一瞬何が起きたのか分からなかった。
耳元で名を囁かれた瞬間、心臓が異常な鼓動を打ち始めた。
グッと息も詰まる。
反応出来ずにいる私の様子に気付かない大志の舌が耳をなぞっていく。
そしてまた呼ばれる。
「手毬…。」
ゾクッと全身に立ち上がる鳥肌。
違う。
違う。
違う。
私は手毬じゃない。
咄嗟にそう思ってしまった。
けれど声にならない。
さっきまで翻弄されるままに流されてきた身体は急に強ばり全てを拒絶し始める。
胸が痛くて、どれだけ肺に酸素を送っても息苦しくて。
「はっ、はっ…」
浅く何度も短く吸うとヒュッヒュッと喉が鳴った。
血の気が引いていく。
すっと全身の熱が冷め指の先から徐々に何も感じなくなった。
「手毬?」
「はっ…ちっ、ちがっ…」
「おい!手毬!」
違う。
私は手毬じゃない。
手毬なわけがない。
好きな男と上手くいかないからって旧知の友人に甘え女を暴かれている。
そんなのが手毬のわけがないんだ。
勿論頭では自分が町田手毬であり、自分の意思で大志に甘えたと理解している。
それでも心が着いて来ないのだ。
こんなズルくて弱い女が手毬なわけがない。
「ごめっ…さい…、わたっ、はぁっ、ちがうっ…ちがっ…」
突然様子の可笑しくなった私を心配そうに覗き込む大志。
その腕にしがみつき私は必死に訴えた。
「てまり、じゃな…」
「手毬!」
視界が歪む。
熱の引いている頬に暖かく流れる物を感じて自分が泣いている事に気が付いた。
不安そうに何度も手毬の名を呼ぶ大志の口を震える手で塞ぎ訴え続ける。
「はっ…てまりっ、じゃなっ…てまりじゃない…」
私の手を振り払う事なく大志は頷いてくれた。
きっと意味なんて分かっていないだろうに。
こくこくと何度も頷いてみせると今度は子供をあやす様に抱きしめてくれる。
「大丈夫。大丈夫だから。な。」
先程まで強引に私の女を引き出してきた手とは思えない。
優しい力加減で何度も頭を撫でながら「大丈夫だ…。」と言い聞かせてくれていた。
きっと私なんかより大志の方が傷付いているだろうに。
最近は拗れていて可笑しな空気になる事も多かったけれど、これ程までに気の合う友人は他に居ない。
大志との仲もここまでだろうか。
私は自棄を起こした数分前の自分を呪った。
どちらにせよ今までの関係が全て大志の閉じ込めた気持ちの上に成り立っていたというのなら、初めから私たちは友人ではなかったのかもしれないけれど…。
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