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タルパと夜に泣く。
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膝に伸し掛る重み。
腰に回された腕。
畳に座る私の太腿に顔を埋め清太郎は喚き散らしている。
「くそー!なんなんだアイツ!!」
うつ伏せに投げ出した身体。
ときたま苛立たしげに膝から下をバタバタと動かし「あ”ーー!」と喚く姿。
それはまるで学校であった嫌な出来事を母親に縋り付き愚痴る子供のようだ。
「アイツだってただの友達だろ!牽制しやがって!」
30分程前にアナとして訪ねて以降、昼間の大志の態度について延々と悪態を聞かされている。
予想はしていたけれどまさかここまで駄々を捏ねられるとは思わなかった。
私は何とか良い方に話を進めるべく発想の転換を試みる。
「でも町田手毬は全く男として見てない感じだったんでしょう?その男の事。」
「あー、うん。そうだけど…それはちょっと可哀想でもあるけどな…、アイツは絶対好きなんだろうし。」
「へー…。」
やはり清太郎は誤解している。
私は勿論、大志だって私にそんな感情持っていないだろう。
あの態度は親しい友人が自分よりもよく知らない他人を優先した事による嫉妬心であって、私と大志の間に特別な感情なんてお互いにない。
先程の私は何とかその誤解を訂正したい一心で約束の18時に町田手毬として来訪し精一杯の説明を試みたけれど、全て苦笑いで流され、結局は勘違いを正せないまま今のこの状況を迎えてしまった。
そして結局、アナとしてここに居る私にだってもうこれ以上何も仕様がないのだ。
少しトーンダウンした清太郎を見る。
「学生時代からずっと一緒で…町田手毬を好きになる気持ちは分かるよ。離れて暮らしててたまにしか会えなくて、急に隣に知らない男が現れたら不安なのも分かる。」
「清太郎…。」
「だけどさ!だからと言ってだ!初対面の人間にあんなあからさまな態度どうなんだよ!常識がなさ過ぎだ!」
少し落ち着いてきていたのに急に思い出したように声を荒らげ出した。
初対面の態度だとか常識だとか。
お前が言うかとツッコミたいけれどそこはグッと堪える。
「でもさ、清太郎偉いじゃん。そんな相手に大人の対応したんでしょ?」
「…うん。」
「めちゃくちゃ偉いよ!」
そう言って膝の上にある頭をウリウリと撫で回し褒めちぎると、清太郎は満更でもない感じで「まあな。」と呟いた。
だけど。
「町田手毬を困らせたくないからな。」
そう続けられ一気に気分が悪くなる。
また町田手毬ってそればっかり…。
昨夜から私は自身とアナの境界が曖昧になりつつあって。
清太郎の口から出てくる町田手毬の話を手放しで喜べないでいる。
どれだけ特別視していても町田手毬には本音も言えない癖になんて少しだけ滑稽にも思う。
寂しくて温もりを求める時に手を伸ばす相手はアナなのに。
なんて口に出せない不満が募っていく。
それに私は焦ってもいた。
町田手毬としても清太郎を欲している一方で、もしも想いが通じて男女の仲に発展した場合、私は町田手毬のままで男の清太郎を受け入れられるのだろうか?
きっとそれは容易でなくて。
受け入れられないとなった時、その理由を上手に説明出来なければ取り返しがつかない程清太郎との関係は壊れてしまうだろう。
それが何より怖い。
まだ清太郎が町田手毬を拒絶していた頃。
私はどうにかしてその距離を縮めたいと思っていたのに。
先の未来が見えてきた途端、急にこれ以上関係が発展する事が怖くなってしまった。
こんな事は何の解決にもならないと分かっていながらも、私は今何としても町田手毬に向いてしまっている清太郎の目をアナの方に向けたくて。
両手を清太郎の頭に添え、こちらを向かせる。
「今日はしないの?」
「…え?」
甘えるように首を傾げた私を清太郎は戸惑いつつ見上げてきた。
身を起こしたその顔に顔を寄せ、軽く口を付ける。
「ねぇ、清太郎…?」
そのまま額をくっ付け囁いた。
「町田手毬に出来ない事…私にはしても良いんだよ?」
ギュッと唾を飲む音が聞こえてくる。
それが酷く可愛くて私は微笑んだ。
愛おしそうに目を細めそれに応える清太郎。
熱い両手をTシャツの裾から差し込み私の背中に這わせてきた。
「はっ…ぁ。」
吐息を漏らし背を反らすと伸びた首筋に舌が這う。
ゾクゾクと快感が押し寄せ、さっきまでの不安が一時的に薄まっていく。
それでも顔を見るときちんと整えられた髪型や髭のない口元が別人みたいに思えて。
私は目を閉じて清太郎の匂いを肺いっぱいに吸い込む。
そうやって清太郎に抱かれている事に集中しないと、またすぐに町田手毬の影がチラついてしまう。
壊れ物を慈しむような優しい手。
強制的に幸せホルモンを引き出され、溢れ疼く幸福感で嫌になった。
もっと乱暴で良いのに。
前みたいに唇が腫れるほどめちゃくちゃなキスをして欲しい。
首筋を舐める時に当たる髭が痛くて。
身を捩って逃げても捕まって硬いモノを押し付けられて。
私に強く腰を打ち付けながら泣いていた顔が忘れられない。
思い遣りの欠片もなく欲望のままに壊されたい。
普通は反対なんだろうな。
大切に繊細に扱われて。
溺れるほどの幸福感に嫌悪するなんて有り得ないでしょう。
ただ闇雲に壊して欲しいなんて、私はおかしいんだと思う。
好きな男に優しさを貰う事よりも泣いて縋り付いて欲しいなんて。
酷く歪んでいる。
昨日から清太郎は行為中に私を「アナ」と呼ばなくなった。
流石に手毬と呼ぶわけではないけれど、町田手毬に置き換えている事は明白で。
強く求めながら震える声で呼んでくれていた「アナ」は聞けなくなってしまった。
名前を呼んでって言いたいけれど。
それでもし町田手毬の名が出てきたらと思うと要求出来ない。
本当は昼間解く事が出来なかった誤解についてフォローがしたくて訪ねて来たはずなのに。
私はアナとして清太郎を振り向かせる事に躍起になっていて。
もう一層のこと何も分からないところまで狂ってしまいたいと思った。
腰に回された腕。
畳に座る私の太腿に顔を埋め清太郎は喚き散らしている。
「くそー!なんなんだアイツ!!」
うつ伏せに投げ出した身体。
ときたま苛立たしげに膝から下をバタバタと動かし「あ”ーー!」と喚く姿。
それはまるで学校であった嫌な出来事を母親に縋り付き愚痴る子供のようだ。
「アイツだってただの友達だろ!牽制しやがって!」
30分程前にアナとして訪ねて以降、昼間の大志の態度について延々と悪態を聞かされている。
予想はしていたけれどまさかここまで駄々を捏ねられるとは思わなかった。
私は何とか良い方に話を進めるべく発想の転換を試みる。
「でも町田手毬は全く男として見てない感じだったんでしょう?その男の事。」
「あー、うん。そうだけど…それはちょっと可哀想でもあるけどな…、アイツは絶対好きなんだろうし。」
「へー…。」
やはり清太郎は誤解している。
私は勿論、大志だって私にそんな感情持っていないだろう。
あの態度は親しい友人が自分よりもよく知らない他人を優先した事による嫉妬心であって、私と大志の間に特別な感情なんてお互いにない。
先程の私は何とかその誤解を訂正したい一心で約束の18時に町田手毬として来訪し精一杯の説明を試みたけれど、全て苦笑いで流され、結局は勘違いを正せないまま今のこの状況を迎えてしまった。
そして結局、アナとしてここに居る私にだってもうこれ以上何も仕様がないのだ。
少しトーンダウンした清太郎を見る。
「学生時代からずっと一緒で…町田手毬を好きになる気持ちは分かるよ。離れて暮らしててたまにしか会えなくて、急に隣に知らない男が現れたら不安なのも分かる。」
「清太郎…。」
「だけどさ!だからと言ってだ!初対面の人間にあんなあからさまな態度どうなんだよ!常識がなさ過ぎだ!」
少し落ち着いてきていたのに急に思い出したように声を荒らげ出した。
初対面の態度だとか常識だとか。
お前が言うかとツッコミたいけれどそこはグッと堪える。
「でもさ、清太郎偉いじゃん。そんな相手に大人の対応したんでしょ?」
「…うん。」
「めちゃくちゃ偉いよ!」
そう言って膝の上にある頭をウリウリと撫で回し褒めちぎると、清太郎は満更でもない感じで「まあな。」と呟いた。
だけど。
「町田手毬を困らせたくないからな。」
そう続けられ一気に気分が悪くなる。
また町田手毬ってそればっかり…。
昨夜から私は自身とアナの境界が曖昧になりつつあって。
清太郎の口から出てくる町田手毬の話を手放しで喜べないでいる。
どれだけ特別視していても町田手毬には本音も言えない癖になんて少しだけ滑稽にも思う。
寂しくて温もりを求める時に手を伸ばす相手はアナなのに。
なんて口に出せない不満が募っていく。
それに私は焦ってもいた。
町田手毬としても清太郎を欲している一方で、もしも想いが通じて男女の仲に発展した場合、私は町田手毬のままで男の清太郎を受け入れられるのだろうか?
きっとそれは容易でなくて。
受け入れられないとなった時、その理由を上手に説明出来なければ取り返しがつかない程清太郎との関係は壊れてしまうだろう。
それが何より怖い。
まだ清太郎が町田手毬を拒絶していた頃。
私はどうにかしてその距離を縮めたいと思っていたのに。
先の未来が見えてきた途端、急にこれ以上関係が発展する事が怖くなってしまった。
こんな事は何の解決にもならないと分かっていながらも、私は今何としても町田手毬に向いてしまっている清太郎の目をアナの方に向けたくて。
両手を清太郎の頭に添え、こちらを向かせる。
「今日はしないの?」
「…え?」
甘えるように首を傾げた私を清太郎は戸惑いつつ見上げてきた。
身を起こしたその顔に顔を寄せ、軽く口を付ける。
「ねぇ、清太郎…?」
そのまま額をくっ付け囁いた。
「町田手毬に出来ない事…私にはしても良いんだよ?」
ギュッと唾を飲む音が聞こえてくる。
それが酷く可愛くて私は微笑んだ。
愛おしそうに目を細めそれに応える清太郎。
熱い両手をTシャツの裾から差し込み私の背中に這わせてきた。
「はっ…ぁ。」
吐息を漏らし背を反らすと伸びた首筋に舌が這う。
ゾクゾクと快感が押し寄せ、さっきまでの不安が一時的に薄まっていく。
それでも顔を見るときちんと整えられた髪型や髭のない口元が別人みたいに思えて。
私は目を閉じて清太郎の匂いを肺いっぱいに吸い込む。
そうやって清太郎に抱かれている事に集中しないと、またすぐに町田手毬の影がチラついてしまう。
壊れ物を慈しむような優しい手。
強制的に幸せホルモンを引き出され、溢れ疼く幸福感で嫌になった。
もっと乱暴で良いのに。
前みたいに唇が腫れるほどめちゃくちゃなキスをして欲しい。
首筋を舐める時に当たる髭が痛くて。
身を捩って逃げても捕まって硬いモノを押し付けられて。
私に強く腰を打ち付けながら泣いていた顔が忘れられない。
思い遣りの欠片もなく欲望のままに壊されたい。
普通は反対なんだろうな。
大切に繊細に扱われて。
溺れるほどの幸福感に嫌悪するなんて有り得ないでしょう。
ただ闇雲に壊して欲しいなんて、私はおかしいんだと思う。
好きな男に優しさを貰う事よりも泣いて縋り付いて欲しいなんて。
酷く歪んでいる。
昨日から清太郎は行為中に私を「アナ」と呼ばなくなった。
流石に手毬と呼ぶわけではないけれど、町田手毬に置き換えている事は明白で。
強く求めながら震える声で呼んでくれていた「アナ」は聞けなくなってしまった。
名前を呼んでって言いたいけれど。
それでもし町田手毬の名が出てきたらと思うと要求出来ない。
本当は昼間解く事が出来なかった誤解についてフォローがしたくて訪ねて来たはずなのに。
私はアナとして清太郎を振り向かせる事に躍起になっていて。
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