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タルパと夜に泣く。
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約50cm四方の封をしていないダンボール箱が4つ。
その中には大量の小包。
殆どが一辺10cm程度のサイズで、中身は全てハンドメイドのアクセサリーだ。
ドライフラワーや小さな天然石をレジンに封入したボタニカル系の小物や、プラ板にイラストを描いてビーズを散りばめた個性的なオリジナルアクセサリー達。
それらを通販アプリで出品したりファッションビル内の雑貨屋に委託して販売している。
長く続けてきたお陰で最近は軌道に乗り、これで生活出来る位にまで知名度も上がってきた。
フリーの素人が販売を生業に出来るなんて良い時代になったものだ。
毎年確定申告の時期は面倒過ぎて憂鬱にもなるけれど、それ以外は今のところ不自由もなく暮らせている。
「今日はまた大量っすね。繁盛してるじゃないですか。」
小包に貼られた伝票を一つ一つ端末で読み込んでいきながら一条くんは笑顔を見せた。
「また来月彼女のプレゼントに手毬さんの作品買って良いっすか?」
無邪気な振る舞い。
まるで子供の様だ。
「全然良いよ!いつもありがとう。サービスするからね。」
「あざーっす!じゃあ今回もリクエストして良いですか?」
一条くんは茶色くて長めの髪を左右の耳に掛けそれが顔に掛からない様キャップで抑えている。
耳には夥しい数のピアスの穴が空いていて一見はチャラい。
それでも一度話してみれば彼の真面目さは誰にでも伝わる。
真っ直ぐに相手の目を見て対応する姿勢。
常に笑顔で周囲を気遣う優しさ。
分け隔てなく誰にでも懐くけれど、他人とは程良い距離感を保ち恋人をとても大切にしている。
私は結婚の予定もましてや子供を持つ予定もないけれど、もし将来子供が出来たら一条くんのような人間に育って欲しいなんて思う。
「全部で46個口ですね。お荷物お預かりします。…じゃあ、そんな感じでプレゼントの方もよろしくお願いします。」
「うん。リクエストの通り作ってみる。荷物もお願いね。」
ペコッと頭を下げ集荷を済ませる背中を見送った。
商品が運び出され少しスッキリとした店内に静寂が戻る。
先程の一条くんからのリクエスト。
それは彼女の誕生日花であるマリーゴールドを使ってアクセサリーを制作して欲しいとの事だった。
マリーゴールドはキク科でポテッと丸いシルエットの花だ。
種類は色々あるけれど濃いオレンジ色の物が代表的で、春から秋にかけて長く花をつける比較的扱い易い植物な為入手も難しくなくリクエストとしては有難い。
ただ植物の加工に関して私は素人でレジン封入に適した状態を保つのは容易くない。
押し花にして乾燥剤に埋めれば私でも出来ない事はないけれど、マリーゴールドのまるっとした可愛らしいフォルムを残した作品にするならばしっかりと立体のままドライフラワーにしてくれる所から購入した方が良い物が作れる。
丁度大量に商品発送をしたばかりだし、オーダーメイド商品の締切にも余裕がある。
今日はもう店を閉めてドライフラワーについての相談に出掛ける事にしよう。
私は生花からドライフラワーまで扱っている専門店の知人に連絡を入れすぐに約束を取り付けた。
そうと決まれば早速店を施錠し「お休み」の札を提げ自宅へと急ぐ。
商店街のある大通りから自宅に続く小道。
愛車目指して足早に進むとお向かいの佐竹のオジサンとオバサンが畑から手を挙げ挨拶をしてきた。
こちらも笑顔で手を振り返す。
今日は天気が良い。
帰りは遠回りして道の駅でも行こうかな?なんて考えながら家の前に差し掛かった時。
玄関横の敷地に停めてある愛車の前に人影がある事に気が付いた。
一体誰だろう?
立ち止まり様子を窺う。
最初に目に飛び込んできたのはボサボサの頭に無精髭。
続けてヨレヨレのTシャツに薄汚れた短パンだ。
サンダルを履く脚はガリガリで酷く不健康な…。
「…清太郎。」
思わず口から零れる。
そこに居たのは紛れも無く清太郎だった。
昨夜の泣き縋って来た姿がフラッシュバックする。
まさかあんな精神状態の人間が外に出て来るなんて思わなかった。
当の本人はこちらの存在など全く感知せず、相変わらず私の車を無遠慮にまじまじと観察し続けている。
怪しすぎるだろう。
その挙動は不審者を通り越してまるで妖怪だ。
目撃したのが私で良かったと心底思う。
この狭いコミュニティーでご近所に挨拶もなく住み着き始めただけでも非常識なのに。
白昼堂々と奇行をしていてはすぐに噂の的だ。
さてこれはどうしたものか。
目的の車にへばり付かれていては無視も出来ない。
それにこのまま放っておいて佐竹の家の人や、ご近所さんに見付かったら絶対に面倒な事になるし…。
仕方がない。
「あの…。うちの車に何か?」
恐る恐る声を掛ける。
すると清太郎は弾かれた様に顔を上げた。
その距離約5メートル程。
真ん丸な目をしたままこちらを見て固まっている。
まるで悪戯現場を見られた猫みたいで笑いそうになった。
でも昨日…この人とセックスしたんだよな。
ふと湧いた邪念。
騒ぎ出した心臓を抑え私は白々しくも話を続ける。
「あの…。源造さんのお孫さんですよね?もう住んでいらっしゃるんですか?」
「…はい。…一昨日から…。」
「そうでしたか。」
何も知らない隣人の体を装いつつも心の中では軽蔑する。
この人、名乗りもしない。
人の良い源造さんや郁恵さんと本当に血縁があるのかを疑いたくなるレベルだ。
「私は隣に住んでいる町田手毬と言います。これからよろしくお願いしますね。」
「はあ…。」
はあ…。ってお前。
当然にイラッとしたが顔には出さない。
それが常識のある大人だからだ。
私は非常識な清太郎に当て付けるかのように努めて常識的に振る舞う。
「車気になりますか?ここに住むならあった方が便利ですよ。」
「…そっすね…。」
「あ、でもご近所の皆さん親切なので用事のついでに車出してくれますよ。私も言ってくれれば何でもお手伝いしますし。その為にはご近所に形だけでもご挨拶…」
「あのぉ!」
ビクッと強ばる身体。
そこに追い討ちをかけるように苛立った声を吐き捨てられる。
「馴れ合いとかいいんで。…放っておいてもらえますかね。」
「…え、でも…」
「ご近所付き合いとかめんどくせえんですよ。くだらねぇ。」
まさかここまで拒絶されるなんて。
唖然として何も言えない。
大人になって初めて他人からぶつけられるあからさまな敵意。
その後更に耳に飛び込んできたのは私にとっては信じられない呟きで。
「…ったく…一人になりたくてこっち来たのによ…。」
それが駄目押しとなった。
「だったら無人島でも行けば?」
今度は清太郎が言葉を無くし私を見てきた。
ああ、とうとう言ってしまった。
だけど自分でも驚く程腹が立っていて止まらない。
「田舎のご近所付き合い舐めないで下さいよ!ここで放っておいてもらおうなんて無理ですからね!都心の集合住宅の方が余っ程無孤独になれますよ。」
完全に立場は逆転していた。
唖然とした顔の清太郎を置き去りにそのまま私はキレ散らかす。
「挨拶もしない。勝手に人の車覗く…。貴方本当にダメな大人ですね。それにね。ここの人達は優しくてお節介なんです。必要以上の干渉を受けたくないならまずその見た目を何とかして下さい!」
「は?」
「汚ったない格好で怪しい行動して…。放っておいて欲しいなら目立つ行動を謹んで下さいって事ですけど?その如何にも『訳ありです』みたいな辛気臭い顔と汚い格好を早くどうにかして下さいね!」
「なっ…あああアンタ本当に失礼だな!」
真っ赤な顔を震わせて怒りを露わにした清太郎。
私だって心の片隅には流石に言い過ぎだとブレーキをかける自分も居る。
だけど言わずにはいられない。
何故なら夜に一人で泣いている清太郎を私は知っているから。
アナなんて居もしない存在に縋るくらいなら、しっかりと生きて正常な人付き合いをすればいいのに。
そう思うと悔しくて言葉が次から次へと飛び出してきた。
「大体何なんですか?世捨て人気取って一人になりたいなんて聞こえよがしに言ってみたり。そんなのここでは『助けて』って言ってるのと同義です。寂しい癖に!」
「おい!アンタいい加減に…」
「わ、私の!」
「あぁ?」
「私の隣に住んでおいて孤独死出来るなんて思わないで下さいね!」
突如訪れる静寂。
直前まで言い返そうとしていた清太郎も今は口を開いたままポカンとしている。
どうしよう。
勢い付いて謎の宣言をしてしまった。
こんなの貴方が嫌がっても関わり続けますと言っているようなものだ。
恥ずかしい。
怒りの感情は萎んで消えた。
今はただ一刻も早くここから逃げたい。
「と、とぉにかく!車使うので退いて下さい!」
「あ、ああ…。」
言われるがまま清太郎は数歩下る。
その隙に私はバタバタと車に乗り込んだ。
我に帰られて何か言われる前に立ち去りたい。
光の速さでシートベルトをすると急いでエンジンをかける。
が、肝心な事を伝えていない。
ウインドウを下げ顔を出す。
「あの…。私の事嫌いでも結構ですから、本当に助けが必要な時は言って下さい。看病でも運転でも話し相手でも何でも。…では。」
それだけ早口に吐き捨て私はアクセルを踏んだ。
清太郎は最後まで頷かなかった。
その代わり私の言葉を拒否もしなかった。
バックミラーにはこちらを見送り立ち尽くす清太郎が大通りに出るまでずっと映っていて。
私はどうしてあんなに必死になったのだろうと自問自答する。
その答えは簡単で。
清太郎と普通に仲良くなりたいだけなんだ。
源造さんのように家族ごっこをする程親しくはなれなくても。
寂しい時や困った時に持ちつ持たれつ助け合えるくらいには町田手毬としても仲良くなりたい。
ただそれだけだ。
それだけなのに。
「失敗した…。」
音楽をかける余裕なんてなかった静かな車内。
私の独り言が虚しく響いた。
その中には大量の小包。
殆どが一辺10cm程度のサイズで、中身は全てハンドメイドのアクセサリーだ。
ドライフラワーや小さな天然石をレジンに封入したボタニカル系の小物や、プラ板にイラストを描いてビーズを散りばめた個性的なオリジナルアクセサリー達。
それらを通販アプリで出品したりファッションビル内の雑貨屋に委託して販売している。
長く続けてきたお陰で最近は軌道に乗り、これで生活出来る位にまで知名度も上がってきた。
フリーの素人が販売を生業に出来るなんて良い時代になったものだ。
毎年確定申告の時期は面倒過ぎて憂鬱にもなるけれど、それ以外は今のところ不自由もなく暮らせている。
「今日はまた大量っすね。繁盛してるじゃないですか。」
小包に貼られた伝票を一つ一つ端末で読み込んでいきながら一条くんは笑顔を見せた。
「また来月彼女のプレゼントに手毬さんの作品買って良いっすか?」
無邪気な振る舞い。
まるで子供の様だ。
「全然良いよ!いつもありがとう。サービスするからね。」
「あざーっす!じゃあ今回もリクエストして良いですか?」
一条くんは茶色くて長めの髪を左右の耳に掛けそれが顔に掛からない様キャップで抑えている。
耳には夥しい数のピアスの穴が空いていて一見はチャラい。
それでも一度話してみれば彼の真面目さは誰にでも伝わる。
真っ直ぐに相手の目を見て対応する姿勢。
常に笑顔で周囲を気遣う優しさ。
分け隔てなく誰にでも懐くけれど、他人とは程良い距離感を保ち恋人をとても大切にしている。
私は結婚の予定もましてや子供を持つ予定もないけれど、もし将来子供が出来たら一条くんのような人間に育って欲しいなんて思う。
「全部で46個口ですね。お荷物お預かりします。…じゃあ、そんな感じでプレゼントの方もよろしくお願いします。」
「うん。リクエストの通り作ってみる。荷物もお願いね。」
ペコッと頭を下げ集荷を済ませる背中を見送った。
商品が運び出され少しスッキリとした店内に静寂が戻る。
先程の一条くんからのリクエスト。
それは彼女の誕生日花であるマリーゴールドを使ってアクセサリーを制作して欲しいとの事だった。
マリーゴールドはキク科でポテッと丸いシルエットの花だ。
種類は色々あるけれど濃いオレンジ色の物が代表的で、春から秋にかけて長く花をつける比較的扱い易い植物な為入手も難しくなくリクエストとしては有難い。
ただ植物の加工に関して私は素人でレジン封入に適した状態を保つのは容易くない。
押し花にして乾燥剤に埋めれば私でも出来ない事はないけれど、マリーゴールドのまるっとした可愛らしいフォルムを残した作品にするならばしっかりと立体のままドライフラワーにしてくれる所から購入した方が良い物が作れる。
丁度大量に商品発送をしたばかりだし、オーダーメイド商品の締切にも余裕がある。
今日はもう店を閉めてドライフラワーについての相談に出掛ける事にしよう。
私は生花からドライフラワーまで扱っている専門店の知人に連絡を入れすぐに約束を取り付けた。
そうと決まれば早速店を施錠し「お休み」の札を提げ自宅へと急ぐ。
商店街のある大通りから自宅に続く小道。
愛車目指して足早に進むとお向かいの佐竹のオジサンとオバサンが畑から手を挙げ挨拶をしてきた。
こちらも笑顔で手を振り返す。
今日は天気が良い。
帰りは遠回りして道の駅でも行こうかな?なんて考えながら家の前に差し掛かった時。
玄関横の敷地に停めてある愛車の前に人影がある事に気が付いた。
一体誰だろう?
立ち止まり様子を窺う。
最初に目に飛び込んできたのはボサボサの頭に無精髭。
続けてヨレヨレのTシャツに薄汚れた短パンだ。
サンダルを履く脚はガリガリで酷く不健康な…。
「…清太郎。」
思わず口から零れる。
そこに居たのは紛れも無く清太郎だった。
昨夜の泣き縋って来た姿がフラッシュバックする。
まさかあんな精神状態の人間が外に出て来るなんて思わなかった。
当の本人はこちらの存在など全く感知せず、相変わらず私の車を無遠慮にまじまじと観察し続けている。
怪しすぎるだろう。
その挙動は不審者を通り越してまるで妖怪だ。
目撃したのが私で良かったと心底思う。
この狭いコミュニティーでご近所に挨拶もなく住み着き始めただけでも非常識なのに。
白昼堂々と奇行をしていてはすぐに噂の的だ。
さてこれはどうしたものか。
目的の車にへばり付かれていては無視も出来ない。
それにこのまま放っておいて佐竹の家の人や、ご近所さんに見付かったら絶対に面倒な事になるし…。
仕方がない。
「あの…。うちの車に何か?」
恐る恐る声を掛ける。
すると清太郎は弾かれた様に顔を上げた。
その距離約5メートル程。
真ん丸な目をしたままこちらを見て固まっている。
まるで悪戯現場を見られた猫みたいで笑いそうになった。
でも昨日…この人とセックスしたんだよな。
ふと湧いた邪念。
騒ぎ出した心臓を抑え私は白々しくも話を続ける。
「あの…。源造さんのお孫さんですよね?もう住んでいらっしゃるんですか?」
「…はい。…一昨日から…。」
「そうでしたか。」
何も知らない隣人の体を装いつつも心の中では軽蔑する。
この人、名乗りもしない。
人の良い源造さんや郁恵さんと本当に血縁があるのかを疑いたくなるレベルだ。
「私は隣に住んでいる町田手毬と言います。これからよろしくお願いしますね。」
「はあ…。」
はあ…。ってお前。
当然にイラッとしたが顔には出さない。
それが常識のある大人だからだ。
私は非常識な清太郎に当て付けるかのように努めて常識的に振る舞う。
「車気になりますか?ここに住むならあった方が便利ですよ。」
「…そっすね…。」
「あ、でもご近所の皆さん親切なので用事のついでに車出してくれますよ。私も言ってくれれば何でもお手伝いしますし。その為にはご近所に形だけでもご挨拶…」
「あのぉ!」
ビクッと強ばる身体。
そこに追い討ちをかけるように苛立った声を吐き捨てられる。
「馴れ合いとかいいんで。…放っておいてもらえますかね。」
「…え、でも…」
「ご近所付き合いとかめんどくせえんですよ。くだらねぇ。」
まさかここまで拒絶されるなんて。
唖然として何も言えない。
大人になって初めて他人からぶつけられるあからさまな敵意。
その後更に耳に飛び込んできたのは私にとっては信じられない呟きで。
「…ったく…一人になりたくてこっち来たのによ…。」
それが駄目押しとなった。
「だったら無人島でも行けば?」
今度は清太郎が言葉を無くし私を見てきた。
ああ、とうとう言ってしまった。
だけど自分でも驚く程腹が立っていて止まらない。
「田舎のご近所付き合い舐めないで下さいよ!ここで放っておいてもらおうなんて無理ですからね!都心の集合住宅の方が余っ程無孤独になれますよ。」
完全に立場は逆転していた。
唖然とした顔の清太郎を置き去りにそのまま私はキレ散らかす。
「挨拶もしない。勝手に人の車覗く…。貴方本当にダメな大人ですね。それにね。ここの人達は優しくてお節介なんです。必要以上の干渉を受けたくないならまずその見た目を何とかして下さい!」
「は?」
「汚ったない格好で怪しい行動して…。放っておいて欲しいなら目立つ行動を謹んで下さいって事ですけど?その如何にも『訳ありです』みたいな辛気臭い顔と汚い格好を早くどうにかして下さいね!」
「なっ…あああアンタ本当に失礼だな!」
真っ赤な顔を震わせて怒りを露わにした清太郎。
私だって心の片隅には流石に言い過ぎだとブレーキをかける自分も居る。
だけど言わずにはいられない。
何故なら夜に一人で泣いている清太郎を私は知っているから。
アナなんて居もしない存在に縋るくらいなら、しっかりと生きて正常な人付き合いをすればいいのに。
そう思うと悔しくて言葉が次から次へと飛び出してきた。
「大体何なんですか?世捨て人気取って一人になりたいなんて聞こえよがしに言ってみたり。そんなのここでは『助けて』って言ってるのと同義です。寂しい癖に!」
「おい!アンタいい加減に…」
「わ、私の!」
「あぁ?」
「私の隣に住んでおいて孤独死出来るなんて思わないで下さいね!」
突如訪れる静寂。
直前まで言い返そうとしていた清太郎も今は口を開いたままポカンとしている。
どうしよう。
勢い付いて謎の宣言をしてしまった。
こんなの貴方が嫌がっても関わり続けますと言っているようなものだ。
恥ずかしい。
怒りの感情は萎んで消えた。
今はただ一刻も早くここから逃げたい。
「と、とぉにかく!車使うので退いて下さい!」
「あ、ああ…。」
言われるがまま清太郎は数歩下る。
その隙に私はバタバタと車に乗り込んだ。
我に帰られて何か言われる前に立ち去りたい。
光の速さでシートベルトをすると急いでエンジンをかける。
が、肝心な事を伝えていない。
ウインドウを下げ顔を出す。
「あの…。私の事嫌いでも結構ですから、本当に助けが必要な時は言って下さい。看病でも運転でも話し相手でも何でも。…では。」
それだけ早口に吐き捨て私はアクセルを踏んだ。
清太郎は最後まで頷かなかった。
その代わり私の言葉を拒否もしなかった。
バックミラーにはこちらを見送り立ち尽くす清太郎が大通りに出るまでずっと映っていて。
私はどうしてあんなに必死になったのだろうと自問自答する。
その答えは簡単で。
清太郎と普通に仲良くなりたいだけなんだ。
源造さんのように家族ごっこをする程親しくはなれなくても。
寂しい時や困った時に持ちつ持たれつ助け合えるくらいには町田手毬としても仲良くなりたい。
ただそれだけだ。
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