休憩室の真ん中

seitennosei

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俺も一花も、次の海の言葉を黙って待つ。
「汐が高橋くんをどう思っているのか知らないけど、高橋くんに対して他の人にしない様な甘え方をしてたのは客観的に見て事実だし、告白前に抱きついちゃうのは良くなかったかもしれないけど、気持ちが盛り上がってしまったのは高橋くんだけの問題じゃないと思うけどな。」
俺はフォローされ嬉しい反面、一花の手前大っぴらにホッとはできないので、神妙な顔をして更に話の続きを待った。
一花も海の話には大人しく耳を傾けている。
「もっと言えば、元カレの件だって汐がきちっと別れられなかったのも良くないよ。嫌がらせ自体は元カレが全面的に悪いけど、男女間の別れにおいてどちらか一方が悪いなんてことはない。今回は身の危険がある可能性も出てきたから協力しているけど、基本的に妹の色恋にどうこう口出す気も、高橋くんを責める気もない。」
海はシビアな目線で正論を言う。
一花は、少し寂しそうに、それでも納得はしている様で「そっか…。」と呟いた。
「大体ね、首突っ込んで一花さんまで危険な目に遭うかもしれない方が俺は嫌なの。高橋くんが汐を好きでいてくれて、守ってくれるって言うなら、そっちの方が俺にとっては有難いの。だから俺は高橋くんを応援するよ。」
海にしては珍しく少し強い口調で一花に意見している。
それでも言葉の端々から愛が滲み出ているのが伝わってくるから、関係ない俺まで恥ずかしくなった。
「…はい。わかりました…。」
いじけ半分、照れ半分の複雑な表情で一花は頷いていた。
この2人って本当にお互いを尊重し合っていて、補い合っているんだな。
俺も汐ちゃんとそうなりたかった。
汐ちゃんの強がって甘えられないところに対して、俺が多少強引にでも手を差し伸べて支えたい。
格好つけで、直ぐにマウントをとってしまう俺が、そのクソみたいなプライドを捨て、情けない姿を見せることが出来た唯一の女の子だ。
俺があんな行動に出なければ、もっと上手く伝えていたら、海と一花の様に凸凹がしっくり嵌る関係になれたかもしれないのにな。
今更後悔してもどうしようもないが…。
「海も一花もありがとな。一花だって俺を応援してくれてんだもんな。」
海に叱られ、しょげている一花に礼を言う。
「うん。応援してるよ。海くんと付き合う前の自分と今の高橋を重ねて熱が入っちゃったんだ。キツいこと言ってごめん。あとお尻叩いてごめん。」
一花は冗談を混じえつつ謝罪してきた。
「いや、海はフォローしてくれたけど、やっぱどう考えてもいきなり抱きついちゃったのは俺が悪ぃしな。一花の反応は最もだ。だけどケツはもう叩かないでくれると有難い。」
俺も最後は冗談で返した。

「しかし、高橋くんの好きな子って汐だったのかぁ…。…じゃあ夢の子のことはもう良いの?」
ヤベェ、しまった。
海には夢の話を相談してたんだった。
それが妹だと知ったら流石の海も怒るだろうか。
反応が怖くて俯きながら呟く。
「えーっと…。夢の子の方が汐ちゃんです…。」
話し終えても海から何の反応も返ってこない。
恐る恐る顔を上げ様子を窺うと、正に苦虫を噛み潰したような苦々しい顔で海は何かに耐えていた。
「え?怖い怖い。何の顔?それ、どういう感情?」
隣の一花が顔を覗き込んで心配している。
顔をクシャクシャにして、小刻みにプルプル震えながら必死に感情の処理をしている海。
そりゃあ、友人の毎日のように見ている淫夢に出てきていたのが妹でしたってなれば、おかしな反応にもなるよな。
「なぁ、一花。話聞いてもケツ叩かないでね?」
「は?」
「俺、汐ちゃんを好きだって自覚する前からしょっちゅう汐ちゃんの夢見ててさ、汐ちゃんだってことは伏せたままそれを海に相談してたんだよ。海は自分の妹のことだとは知らないまま、夢の内容まで聞いてくれてたから、それが妹だってわかって今複雑なんだと思う…。」
「は?アンタ一体、汐ちゃんでどんな夢見てたのさ?」
折角和解したのに、鬼の形相で再度睨まれる。
俺は反射的にケツに手を当て、守りの体制に入る。
「内容は言えない!でも、夢だから!な!俺だって見たくてみたんじゃねぇし!」
「はー?開き直り?あー、やだやだ。見たくて見たんじゃないって言うけど、夢って願望でしょ?イヤらしい。最低。」
ぐうの音も出なくて黙り込む。
すると、いつの間にか復活した海が、普段出さない様な大声を出した。
「夢や妄想なら何したって良いじゃん!」
俺と一花はビクッと身体を跳ねた。
目がギラついていて、普段の海じゃない。
完全に変態モードに入っている。
このモードに入った海は最強になる。
「え?…なんで海くんが怒ってんの?」
驚きから身を引き気味の一花にズイッと顔を近付ける海。
「本物の一花さんには優しくするから、妄想でめちゃくちゃに虐めたっていいでしょ?」
雄の顔をし、逃げ腰な一花の腰を抱き寄せながら、強い眼力で見詰めている。
誰もお前のこと責めてねぇよ。
言ってることめちゃくちゃだぞ。
「は、はい。…わかりました。」
一花も一花で、海の勢いに気圧され、よくわかってなさそうなのにコクコクと首を縦に振っている。
ねぇ、俺今何を見せられいるの?
俺の話を聞いて貰っていたはずが、気付いたら特殊なタイプのイチャつきを見せ付けられる事態になろうとは…。

他人には一切自己主張をしなかった海が、一花の影響でここまで我を出せる様になったんだ。
「一生一人だ。」って言い切っていた海が、こんなに幸せそうに一花を求めている。
一花がどんな魔法を使ったのかわからないが、俺だって一回拒絶されたくらいで、その理由も聞けていないまま汐ちゃんを諦める訳にはいかない。
肝心なことを伝えないで暴挙に出たことは反省しなくてはならないが、本当に俺のことが嫌いなのでなければ、出来る限り守りたい。
2人のアホみたいに幸せそうな姿を見て、その想いは強くなった。
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