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「高橋、最近おかしくない?」
「!?」
急に一花の顔が視界に現れて声も出せなくなる。
休憩室で園田と話しているところを後ろから覗き込まれた様だ。
数日前に汐ちゃんの前で一花を好きだと認めて以降、汐ちゃんにも一花にも真面に接せられずに避けまくっていた。
それなのにいつの間にかぴったりと背後を取られ、咄嗟に対応出来なかった。
俺は気持ちを自覚した途端に一花が可愛く見えて怖くなった。
中性的で凛々しい顔も、慎ましやかな胸も、低くて落ち着いてる声も、正義感が強くて優等生なところも。
元々人としては好意的に見ていたが、何もかもが好みじゃないし、今までは1度も可愛く思ったことなんてなかった筈なのに。
「あ、一花さんお疲れっす。」
何の事情も知らない園田が普通に挨拶をした。
一花は一瞬だけそちらの方を向き、笑顔で「お疲れ様。」と返す。
そのまま園田と談笑していてくれれば良かったのに、再度無邪気に俺の顔を覗き込んできた。
全くの無警戒。
無防備過ぎるだろ。
彼女がこれではと、海が少し気の毒になる。
「ねぇ、高橋、疲れてるの?」
「顔がちけぇ。」
心配そうなその顔を、手でグイッと押しやる。
ふにゃっとした頬の感触が手の平に伝わり、この色気のない接触ですらドキリと心臓が主張する。
「はぁ?いつも近いのはそっちでしょ?なんなの?」
一花の文句は最もだ。
よくもあんなに嫌がる一花にちょっかいかけまくれていたなと自分でも思う。
顔にあった俺の手を掴んで握りしめたまま、一花は隣の椅子に座り、前かがみで上目使いに見上げてきた。
「これでも心配してるんですけどー?アンタって余計なこと言うくせに肝心なことは言わなそうだしね…。」
透き通った瞳で純粋に心配してくれている。
そんな何の疑いもなく見つめてくるなよ。
そしてお願いだから手を離してくれ。
また勃っちゃいそうなんだけど。
「何もねぇよ。」
そう言って顔を逸らすのが精一杯。
お前にはわからねぇだろうが、俺は必死に欲求と戦っているんだぞ。
今までは無自覚に触れていたが、自覚して以降は自制している。
何にも知らない一花は、お構い無しに無防備な姿で近付いてくるし、俺を心配する顔は可愛いしで、さっきから頭がおかしくなりそうだ。
「困ったことがあったら相談するよ。ホントに今は何もねぇから。」
「ふーん。なら良いけどさー。」
納得いかない様子を出しつつも、一花は俺の手を離し姿勢を戻した。
ふー。
やっと距離ができ、緊張状態から解放され自然とため息が出る。
「あー!今ため息ついた!嫌な感じ!ね!」
一花が笑いながら、園田に同意を求める。
「高橋さん、確かに今のは嫌な感じっす!」
園田は何の遠慮もなく俺を批難した。
「お前なー。」
コイツが巻き込まれたことにより、いつもの空気が戻り、俺もいつも通り振る舞える。
「あっさり一花側に付きやがったな。」
「すみません、高橋さん。俺、取り敢えず女性の味方になるって決めてるんで!」
ドヤ顔で言い切る園田。
三人で声を出して笑った。
フッと視線を感じ、入口近くのテーブルを見る。
途端にビクッと身体が跳ねた。
汐ちゃんが意味ありげな厭らしい顔で、こちらを見て笑っている。
何なんだ?
ゾクゾクと背中を何かが這い上がる感覚がした。
金縛りにあったように身体が固まり、目が離せなくなる。
暫く見詰め合っていると、形の綺麗な汐ちゃんの唇が、ゆっくりと開いていき、無声で何か言う様に動いた。
か・わ・い・い
理解した瞬間鳥肌が立つ。
一花に対して狼狽えている俺の姿を見て、汐ちゃんは小馬鹿にしているのだ。
なんて性格のアレな子なんだ。
だけど不思議と不快ではない。
嫌悪もない。
ただただ動揺して心臓が鳴る。
『今まで散々ちょっかいをかけていた女を好きだと自覚した途端に顔も真面に見れなくなって、それを年下の女の子に勘づかれ、人知れず嘲笑われている状況。』
とんでもなく恥ずかしく、とんでもなく無様な状態なはずなのに。
童顔で可愛らしい笑顔の中に、どこか色気を含んでいて、絶対に敵わない雰囲気を出している汐ちゃんに引き込まれ、少し興奮している俺がいる。
そんな自分に驚く。
この数日で俺の性癖どうなっちゃったのよ。
「高橋?急に黙ってどうしたの?てか、顔あっか!」
「マジだ。高橋さん具合悪いっすか?」
一花と園田が俺の顔を見て再度心配をしはじめる。
「いや、もう、ホント、大丈夫じゃないんだけど、心配要らないんで、ホント放っておいて下さい。」
「何で敬語…?」
熱い顔を両手で隠し、指の隙間から汐ちゃんを盗み見る。
盗み見た筈なのに、完全にお見通しな様子で、汐ちゃんはまた無声で俺を罵ってきた。
ば・か
「うわ!耳まで真っ赤!ねぇ、今日はもう帰ったら?店長に言っておくよ?」
一花が俺の背中を擦りながら20cmくらいの距離で覗き込んでくる。
頼むから止めてくれ。
めちゃくちゃ良い匂いがするじゃねぇか。
邪なことばっかり考えている俺に優しくしないでくれ。
そんな俺を見て汐ちゃんは心底愉しそうに笑っている。
混乱が限界に達した。
俺はまた勃起していた。
「!?」
急に一花の顔が視界に現れて声も出せなくなる。
休憩室で園田と話しているところを後ろから覗き込まれた様だ。
数日前に汐ちゃんの前で一花を好きだと認めて以降、汐ちゃんにも一花にも真面に接せられずに避けまくっていた。
それなのにいつの間にかぴったりと背後を取られ、咄嗟に対応出来なかった。
俺は気持ちを自覚した途端に一花が可愛く見えて怖くなった。
中性的で凛々しい顔も、慎ましやかな胸も、低くて落ち着いてる声も、正義感が強くて優等生なところも。
元々人としては好意的に見ていたが、何もかもが好みじゃないし、今までは1度も可愛く思ったことなんてなかった筈なのに。
「あ、一花さんお疲れっす。」
何の事情も知らない園田が普通に挨拶をした。
一花は一瞬だけそちらの方を向き、笑顔で「お疲れ様。」と返す。
そのまま園田と談笑していてくれれば良かったのに、再度無邪気に俺の顔を覗き込んできた。
全くの無警戒。
無防備過ぎるだろ。
彼女がこれではと、海が少し気の毒になる。
「ねぇ、高橋、疲れてるの?」
「顔がちけぇ。」
心配そうなその顔を、手でグイッと押しやる。
ふにゃっとした頬の感触が手の平に伝わり、この色気のない接触ですらドキリと心臓が主張する。
「はぁ?いつも近いのはそっちでしょ?なんなの?」
一花の文句は最もだ。
よくもあんなに嫌がる一花にちょっかいかけまくれていたなと自分でも思う。
顔にあった俺の手を掴んで握りしめたまま、一花は隣の椅子に座り、前かがみで上目使いに見上げてきた。
「これでも心配してるんですけどー?アンタって余計なこと言うくせに肝心なことは言わなそうだしね…。」
透き通った瞳で純粋に心配してくれている。
そんな何の疑いもなく見つめてくるなよ。
そしてお願いだから手を離してくれ。
また勃っちゃいそうなんだけど。
「何もねぇよ。」
そう言って顔を逸らすのが精一杯。
お前にはわからねぇだろうが、俺は必死に欲求と戦っているんだぞ。
今までは無自覚に触れていたが、自覚して以降は自制している。
何にも知らない一花は、お構い無しに無防備な姿で近付いてくるし、俺を心配する顔は可愛いしで、さっきから頭がおかしくなりそうだ。
「困ったことがあったら相談するよ。ホントに今は何もねぇから。」
「ふーん。なら良いけどさー。」
納得いかない様子を出しつつも、一花は俺の手を離し姿勢を戻した。
ふー。
やっと距離ができ、緊張状態から解放され自然とため息が出る。
「あー!今ため息ついた!嫌な感じ!ね!」
一花が笑いながら、園田に同意を求める。
「高橋さん、確かに今のは嫌な感じっす!」
園田は何の遠慮もなく俺を批難した。
「お前なー。」
コイツが巻き込まれたことにより、いつもの空気が戻り、俺もいつも通り振る舞える。
「あっさり一花側に付きやがったな。」
「すみません、高橋さん。俺、取り敢えず女性の味方になるって決めてるんで!」
ドヤ顔で言い切る園田。
三人で声を出して笑った。
フッと視線を感じ、入口近くのテーブルを見る。
途端にビクッと身体が跳ねた。
汐ちゃんが意味ありげな厭らしい顔で、こちらを見て笑っている。
何なんだ?
ゾクゾクと背中を何かが這い上がる感覚がした。
金縛りにあったように身体が固まり、目が離せなくなる。
暫く見詰め合っていると、形の綺麗な汐ちゃんの唇が、ゆっくりと開いていき、無声で何か言う様に動いた。
か・わ・い・い
理解した瞬間鳥肌が立つ。
一花に対して狼狽えている俺の姿を見て、汐ちゃんは小馬鹿にしているのだ。
なんて性格のアレな子なんだ。
だけど不思議と不快ではない。
嫌悪もない。
ただただ動揺して心臓が鳴る。
『今まで散々ちょっかいをかけていた女を好きだと自覚した途端に顔も真面に見れなくなって、それを年下の女の子に勘づかれ、人知れず嘲笑われている状況。』
とんでもなく恥ずかしく、とんでもなく無様な状態なはずなのに。
童顔で可愛らしい笑顔の中に、どこか色気を含んでいて、絶対に敵わない雰囲気を出している汐ちゃんに引き込まれ、少し興奮している俺がいる。
そんな自分に驚く。
この数日で俺の性癖どうなっちゃったのよ。
「高橋?急に黙ってどうしたの?てか、顔あっか!」
「マジだ。高橋さん具合悪いっすか?」
一花と園田が俺の顔を見て再度心配をしはじめる。
「いや、もう、ホント、大丈夫じゃないんだけど、心配要らないんで、ホント放っておいて下さい。」
「何で敬語…?」
熱い顔を両手で隠し、指の隙間から汐ちゃんを盗み見る。
盗み見た筈なのに、完全にお見通しな様子で、汐ちゃんはまた無声で俺を罵ってきた。
ば・か
「うわ!耳まで真っ赤!ねぇ、今日はもう帰ったら?店長に言っておくよ?」
一花が俺の背中を擦りながら20cmくらいの距離で覗き込んでくる。
頼むから止めてくれ。
めちゃくちゃ良い匂いがするじゃねぇか。
邪なことばっかり考えている俺に優しくしないでくれ。
そんな俺を見て汐ちゃんは心底愉しそうに笑っている。
混乱が限界に達した。
俺はまた勃起していた。
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