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俺の問いに答えが返って来ないまま、またカーテンの中から布擦れの音が聞こえてきた。
無視かよ。
まあ、そうだな。
好きな人くらい自分で把握してろよって話だな。
俺だってまさか自分の好きな人がわかっていないなんていう自覚がなかった。
美玲に本気で無いことは確かだ。
ユナちゃんは滅茶苦茶タイプで、出来ることならばお近付きになりたいが、好きな人かって言われたら自信が無い。
だから俺は誰にも本気じゃないんだと自分で思っていた。
汐ちゃんが何で俺の恋愛事情を知っているのか、何処まで事実を把握しているのかわからないが、俺に本当に好きな人がいるように見えているのだとしたら、それが誰なのか知りたい。
汐ちゃんが出てきたら何て切り出そうか考えていると、シャッとカーテンが開いた。
オーバーサイズのパーカーにデニムのタイトなミニスカート。
スラッとした細い生足と、半端丈のソックスにハイカットのスニーカーが映えている。
ポニーテールを低い位置に結び直し、キャップの後ろの穴から通しているのが可愛い。
海の妹の癖にオシャレだな。
一瞬にして品定めしている自分にうんざりする。
俺を嫌っている女の子だぞ。
そんな子にまで可愛いとか思ってしまう俺に、本当にちゃんと好きな人なんていると思うか?
「本気で言ってます?」
「え?」
心の声を読まれたかと思って焦る。
いやらしい目で見ていたとバレたか?
「自分の好きな人が誰かって、本気で言ってます?」
「ああ…。」
良かった、そのことか。
「本気で言ってるよ。」
汐ちゃんはハーッとため息を吐いてから、やれやれといった感じに呟いた。
「一花さんですよ。」
「は?」
予想外の言葉に固まる。
「え…?もしかして、自覚ないんですか?」
汐ちゃんは、嫌悪感丸出しだった顔から呆れ顔に変えて喋りだした。
「私、高橋さんのことは兄や一花さんから話を聞いていて、ここに入る前から知っていました。」
汐ちゃんは脱いだユニフォームを持ったまま、俺の向かいの席に腰を降ろした。
「兄も一花さんも鈍くて完全に高橋さんを信用していますが、兄より先に一花さんにプレゼント用意して、兄に橋渡しさせたりとか、私はその時からおかしな人がいるなって思っていました。」
「ああ、あの時の時計のことか…。」
自分の気持ちを振り返る。
確かに俺は海と一花の間に自分の存在を少しでも刻もうとしていた。
だけど二人に別れて欲しいとか、一花をどうこうしたいとかは全く思っていない。
「私は兄に聞いたんです。その人一花さんのこと好きなんじゃないの?って。兄も最初はそう思っていたみたいですけどね。一花さんに絡むし泣かせるし。でも今は自分たちを応援してくれているから誤解だったんだと思うって。なんか素敵な彼女もいるみたいだしって。兄は世間知らずだから騙されているんだと思っていました。」
海もそう思う程に、俺って一花を好きなように見えるのか。
「まさか高橋さん自身も騙されているなんて思いませんでしたけど。」
「どういう…意味?」
ここにきて大体汐ちゃんから突き付けられるだろう結論はわかってきているが、認めるのが怖い。
「高橋さんは一花さんが好きってことです。」
衝撃的だった。
わかっていても凄い衝撃だった。
俺って一花が好きなんだ…。
絶対に無いと思っていた。
だって一花は男より格好よくて、世話焼きの俺なんて必要ないくらい強くて、デカくて痩せていて、色気もなくて。
俺の好みと正反対だ。
可愛いなんて一回も思ったことがない。
キスしたいとかヤリたいとか想像したこともなかった。
それでも好きなのか…。
「いや…、ちょっとよくわかんない…。けど違くねぇか?全然触りたいとか思わねぇし。恋愛の好きって感じじゃ…」
「高橋さんは彼女さんの鼻水舐められますか?」
「!?」
唐突な話題の転換に付いていけない。
「私は元彼の涙も鼻水も舐めたいって思いました。実際にはやってないですけどね!」
「は、はぁ…。」
この子は何を言っているのだろう。
こんなタイミングで性癖のカミングアウトされてもお兄さん困っちゃうよ。
「元彼はジャガイモみたいで、全然格好よくないんです。私は本来、高橋さんみたいな高スペックでスカしたオーソドックスなモテ男がタイプなんですけど。」
褒められているような、貶されているような…。
そして会話の着地点がわからず、混乱が続く。
「でも好きになるって、タイプとかセックスしたいかだけじゃないと思うんです。勿論それも大事だし、あった方が良いとは思いますけど。」
幼い見た目の可愛い子の口から「セックス」という単語が飛び出し、ドギマギする。
「逆に言えば、全くタイプでもない一花さんにそんなに執着するって、好きじゃなきゃなんなんですか?」
再び衝撃が走る。
確かに。
確かにとしか言いようがない。
「あと、高橋さん全然触りたいとか思わねぇとか言ってましたけど、全然触ってますから。擽ったり、肩に手を置いたりとか、ふざけた感じですけど。全然触ってますから。最近は兄に気を遣って控えてるかもですが…。」
何度目かわからない衝撃に襲われる。
本当だ。
触ってる。
俺、一花を触ってる。
動揺し、固まり続ける俺を見て、汐ちゃんは堪えきれない感じで突然吹き出した。
「あはは、本当に自覚無かったんですね。」
いつも俺の前ではムスッとしていた汐ちゃん。
笑顔は接客中か、俺以外の人と談笑している所を遠くから見ただけ。
今はじめて正面から俺に向けて笑っている。
正直めちゃくちゃ可愛い。
でも言ったらまた怒られるんだろうから言わないけど。
「彼女さんの涙舐められます?」
「またそれか?意味わかんねぇよ。」
俺まで笑えてきた。
「良いから。想像してみてください!」
俺は言われた通りに想像してみた。
「うーん。彼女の涙ね…。物理的に舐めれるとは思うけど…。彼女が泣いている状況が嫌だな…。」
さっきまでニコニコだった汐ちゃんがスンッと真顔になる。
「今更彼女大事アピールですか?ずっと笑っていて欲しい的な綺麗事ですか?」
「いや、違くて。」
汐ちゃんとのやり取りが楽しくて、取り繕うのもアホらしくなりぶっちゃける。
「泣かれるとめんどい。」
「ひっど!」
そう口では批難しながらも汐ちゃんは大口を開けて笑った。
「じゃあ、じゃあ、一花さんで考えてみて下さい。」
「え?」
「一花さんの涙、舐められますか?」
途端に顔が熱くなる。
俺は一花が泣いているのはあの一度しか知らない。
だけどその時のことを思い出した。
俺、あの時、ポロポロと綺麗な涙を流す一花のことを眺めながら勃起してたわ。
普段泣かない一花を泣かせてしまった罪悪感と、大変なことを仕出かしてしまった焦りに気を取られていたけど、俺の言動に心揺さぶられ涙を流す一花に欲情していたんだった。
瞬間、ストンと全てが腑に落ちた。
きっと真っ赤になっているであろう顔をテーブルに突っ伏し、汐ちゃんに白状する。
「舐めれると…思う…。つか、舐めたい。」
「やっと認めましたね。」
頭上から勝ち誇ったような汐ちゃんの声がした。
無視かよ。
まあ、そうだな。
好きな人くらい自分で把握してろよって話だな。
俺だってまさか自分の好きな人がわかっていないなんていう自覚がなかった。
美玲に本気で無いことは確かだ。
ユナちゃんは滅茶苦茶タイプで、出来ることならばお近付きになりたいが、好きな人かって言われたら自信が無い。
だから俺は誰にも本気じゃないんだと自分で思っていた。
汐ちゃんが何で俺の恋愛事情を知っているのか、何処まで事実を把握しているのかわからないが、俺に本当に好きな人がいるように見えているのだとしたら、それが誰なのか知りたい。
汐ちゃんが出てきたら何て切り出そうか考えていると、シャッとカーテンが開いた。
オーバーサイズのパーカーにデニムのタイトなミニスカート。
スラッとした細い生足と、半端丈のソックスにハイカットのスニーカーが映えている。
ポニーテールを低い位置に結び直し、キャップの後ろの穴から通しているのが可愛い。
海の妹の癖にオシャレだな。
一瞬にして品定めしている自分にうんざりする。
俺を嫌っている女の子だぞ。
そんな子にまで可愛いとか思ってしまう俺に、本当にちゃんと好きな人なんていると思うか?
「本気で言ってます?」
「え?」
心の声を読まれたかと思って焦る。
いやらしい目で見ていたとバレたか?
「自分の好きな人が誰かって、本気で言ってます?」
「ああ…。」
良かった、そのことか。
「本気で言ってるよ。」
汐ちゃんはハーッとため息を吐いてから、やれやれといった感じに呟いた。
「一花さんですよ。」
「は?」
予想外の言葉に固まる。
「え…?もしかして、自覚ないんですか?」
汐ちゃんは、嫌悪感丸出しだった顔から呆れ顔に変えて喋りだした。
「私、高橋さんのことは兄や一花さんから話を聞いていて、ここに入る前から知っていました。」
汐ちゃんは脱いだユニフォームを持ったまま、俺の向かいの席に腰を降ろした。
「兄も一花さんも鈍くて完全に高橋さんを信用していますが、兄より先に一花さんにプレゼント用意して、兄に橋渡しさせたりとか、私はその時からおかしな人がいるなって思っていました。」
「ああ、あの時の時計のことか…。」
自分の気持ちを振り返る。
確かに俺は海と一花の間に自分の存在を少しでも刻もうとしていた。
だけど二人に別れて欲しいとか、一花をどうこうしたいとかは全く思っていない。
「私は兄に聞いたんです。その人一花さんのこと好きなんじゃないの?って。兄も最初はそう思っていたみたいですけどね。一花さんに絡むし泣かせるし。でも今は自分たちを応援してくれているから誤解だったんだと思うって。なんか素敵な彼女もいるみたいだしって。兄は世間知らずだから騙されているんだと思っていました。」
海もそう思う程に、俺って一花を好きなように見えるのか。
「まさか高橋さん自身も騙されているなんて思いませんでしたけど。」
「どういう…意味?」
ここにきて大体汐ちゃんから突き付けられるだろう結論はわかってきているが、認めるのが怖い。
「高橋さんは一花さんが好きってことです。」
衝撃的だった。
わかっていても凄い衝撃だった。
俺って一花が好きなんだ…。
絶対に無いと思っていた。
だって一花は男より格好よくて、世話焼きの俺なんて必要ないくらい強くて、デカくて痩せていて、色気もなくて。
俺の好みと正反対だ。
可愛いなんて一回も思ったことがない。
キスしたいとかヤリたいとか想像したこともなかった。
それでも好きなのか…。
「いや…、ちょっとよくわかんない…。けど違くねぇか?全然触りたいとか思わねぇし。恋愛の好きって感じじゃ…」
「高橋さんは彼女さんの鼻水舐められますか?」
「!?」
唐突な話題の転換に付いていけない。
「私は元彼の涙も鼻水も舐めたいって思いました。実際にはやってないですけどね!」
「は、はぁ…。」
この子は何を言っているのだろう。
こんなタイミングで性癖のカミングアウトされてもお兄さん困っちゃうよ。
「元彼はジャガイモみたいで、全然格好よくないんです。私は本来、高橋さんみたいな高スペックでスカしたオーソドックスなモテ男がタイプなんですけど。」
褒められているような、貶されているような…。
そして会話の着地点がわからず、混乱が続く。
「でも好きになるって、タイプとかセックスしたいかだけじゃないと思うんです。勿論それも大事だし、あった方が良いとは思いますけど。」
幼い見た目の可愛い子の口から「セックス」という単語が飛び出し、ドギマギする。
「逆に言えば、全くタイプでもない一花さんにそんなに執着するって、好きじゃなきゃなんなんですか?」
再び衝撃が走る。
確かに。
確かにとしか言いようがない。
「あと、高橋さん全然触りたいとか思わねぇとか言ってましたけど、全然触ってますから。擽ったり、肩に手を置いたりとか、ふざけた感じですけど。全然触ってますから。最近は兄に気を遣って控えてるかもですが…。」
何度目かわからない衝撃に襲われる。
本当だ。
触ってる。
俺、一花を触ってる。
動揺し、固まり続ける俺を見て、汐ちゃんは堪えきれない感じで突然吹き出した。
「あはは、本当に自覚無かったんですね。」
いつも俺の前ではムスッとしていた汐ちゃん。
笑顔は接客中か、俺以外の人と談笑している所を遠くから見ただけ。
今はじめて正面から俺に向けて笑っている。
正直めちゃくちゃ可愛い。
でも言ったらまた怒られるんだろうから言わないけど。
「彼女さんの涙舐められます?」
「またそれか?意味わかんねぇよ。」
俺まで笑えてきた。
「良いから。想像してみてください!」
俺は言われた通りに想像してみた。
「うーん。彼女の涙ね…。物理的に舐めれるとは思うけど…。彼女が泣いている状況が嫌だな…。」
さっきまでニコニコだった汐ちゃんがスンッと真顔になる。
「今更彼女大事アピールですか?ずっと笑っていて欲しい的な綺麗事ですか?」
「いや、違くて。」
汐ちゃんとのやり取りが楽しくて、取り繕うのもアホらしくなりぶっちゃける。
「泣かれるとめんどい。」
「ひっど!」
そう口では批難しながらも汐ちゃんは大口を開けて笑った。
「じゃあ、じゃあ、一花さんで考えてみて下さい。」
「え?」
「一花さんの涙、舐められますか?」
途端に顔が熱くなる。
俺は一花が泣いているのはあの一度しか知らない。
だけどその時のことを思い出した。
俺、あの時、ポロポロと綺麗な涙を流す一花のことを眺めながら勃起してたわ。
普段泣かない一花を泣かせてしまった罪悪感と、大変なことを仕出かしてしまった焦りに気を取られていたけど、俺の言動に心揺さぶられ涙を流す一花に欲情していたんだった。
瞬間、ストンと全てが腑に落ちた。
きっと真っ赤になっているであろう顔をテーブルに突っ伏し、汐ちゃんに白状する。
「舐めれると…思う…。つか、舐めたい。」
「やっと認めましたね。」
頭上から勝ち誇ったような汐ちゃんの声がした。
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